※この作品はR-18です。

魂の座 四部 苺の季節   作:伊駒辰葉

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変なところで切ってしまいましたが……。
ここにはエロシーンはありませんw


温泉宿でくつろぎたかっただけなのに 2

「あの、食事、すまれました?」

「あ、ええ。もう食べ終わりましたけど」

 

 そう答えてから立城はテーブルから湯飲みを取り上げて温かい茶を啜った。本当は徳利に半分ほど酒が残っているが、別にその程度なら問題ないだろう。そう判断して立城は席を立った。

 

「じっ、実は、ですね」

 

 それじゃあ、と会釈をした立城を慌てて呼び止めて弘一が言う。そういえば用件を聞いていなかったな。のんびりと思いながら立城は何でしょう、と問いかけた。落ち着かない様子で弘一が周囲に視線を彷徨わせる。立城はしばし待ってから苦笑して息を吐いた。

 

「良かったらお茶でもいかがですか? お話はそちらで伺います」

「あっ! それなら是非、俺の部屋へどうぞ!」

 

 待ってましたとばかりに弘一が言う。どうやらそれが言いたかったらしい。立城はくすくすと笑って判りました、と頷いた。

 

 廊下を行きながら弘一は緊張した面持ちで話した。どうやら弘一は冬山の絵を描くためにこの宿に長期滞在しているらしい。その話を聞いた立城は感心して頷いた。立城も絵を見るのは好きだ。が、残念ながら描く方は試したことがない。龍神は音楽の才は秀でているから、もしかしたら絵も描いてみればかなり満足のいくものが出来るのかも知れない。そんなことを考えながら立城は弘一の話に素直に頷いた。

 

「そ、それで、あの、実は神崎さんの絵を」

「え? わたし、ですか?」

 

 唐突に言われ、驚きに目を見張って立城は言葉を返した。部屋の鍵を開けながら弘一が恥ずかしそうに頭をかく。立城は言われるままに弘一の部屋に入った。そこは立城の借りた部屋より一回り小さかったが、中の様子は同じように整えられていた。立城は案内されるままに部屋の奥に進んだ。

 

 窓の外に雪がちらついている。わあ、と感嘆の声を漏らして立城は窓に駆け寄った。広々とした窓の外は暗い。その暗さを背景に降る雪は真っ白で、まるで黒地に白い模様を点々と散らしたように見える。しかも風がないため、雪はゆっくりと地面に向かって落ちているのだ。

 

「やっぱりこういう景色っていいですよね」

 

 そう言いながら立城は振り返った。テーブルの傍に座っていた弘一が引っくり返った声で返事して慌てたように立ち上がる。立城はそれを見て小さく笑った。弘一の部屋は畳張りの和室で、部屋にはテーブルと座椅子の他にイーゼルや画材が隅に置かれている。イーゼルに乗ったキャンバスには薄く何かが描かれている。興味を覚えて立城はそれに近付いた。

 

 鉛筆で描かれたその絵を見つめて立城は息を飲んだ。一体、いつの間に見ていたのだろう。粗くはあるが、そのキャンバスには立城の姿が描かれていた。まだ下絵の段階なのか、色は全く塗られていない。浴衣を着た立城がぼんやりと窓の外を見つめている。そんな様が描かれている。

 

「あっ! あの、それ、まだ途中で」

 

 焦った声を上げて弘一がキャンバスに駆け寄る。立城とキャンバスの間に割り込んだ弘一が真っ赤な顔をして乾いた声で笑う。立城は目の前に立った弘一を見つめ、にっこりと微笑んだ。

 

「お上手だと思いますよ。それ、わたしですか?」

「あ、えっと……は、はい」

 

 消え入りそうな声で弘一が答える。立城は微笑みを浮かべて軽く会釈をした。

 

「ありがとうございます。とても嬉しいです」

「え、あの」

 

 困惑したように声を漏らして弘一がおどおどと立城を見る。その視線がいつの間にか顔より少し下の方を向いていることに気付きつつも立城は何も言わなかった。

 

「怒らないんですか?」

「どうしてです?」

 

 そう言って立城は静かにその場を離れた。テーブルの傍に腰を下ろして長い髪を背中に払う。座った拍子に分かれてしまった浴衣の裾をごめんなさい、と直しながら立城は弘一を見上げた。

 

「お茶、いれましょうか」

 

 何かを言いたそうにしている弘一に立城はそう言って微笑んだ。戸惑ったように立城をしばし見つめてから弘一がはい、と小声で返事する。ポットの湯を急須に注ぎ、茶を二つの湯のみに注ぎ分ける。隣に腰を下ろした弘一の前に立城はどうぞ、と片方の湯飲みを出した。

 

「……神崎さんはどうしてこの宿に?」

 

 ふと、弘一が訊ねる。さて、どうしようかな。そう思いながら立城は苦笑を浮かべた。

 

「ちょっと訳ありで」

 

 言葉を濁して立城は茶を啜った。すると弘一の表情が何故か明るくなる。かなり判り易いな。そう内心で呟きながら立城は何食わぬ顔でどうしたんですか、と逆に問い掛けた。すると焦ったように弘一が何でもないと首を振る。

 

 無言で茶を飲んでから立城はおもむろに立ち上がった。

 

「それじゃ、わたしはそろそろ部屋に戻りますね。お仕事、頑張ってください」

「えっ!?」

 

 驚いたように声を上げて慌てて弘一が立ち上がる。その勢いのままに弘一が立城の手をつかむ。立城は目を丸くしてつかまれた手と弘一の顔とを見比べた。




そういえばこのキャラはこの先出てきませんね……。
いつかどっかで出てきそうですが……w
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