「あの?」
「俺、あなたがここに来てから、ずっと気になってて!」
早口でまくし立てたかと思うと、弘一はいきなり立城の手を引いた。よろけた立城の身体が弘一に向かって傾く。その機を逃さず、弘一が立城を強く抱きしめる。立城は口許に微かに笑みを浮かべ、黙って弘一の胸に頭を預けた。耳をあてがうと弘一の鼓動がよく聞こえる。相当に緊張しているのだろう。弘一の胸は早鐘を打っている。そのことを確認してから立城はするりと手を伸ばした。そっと弘一の背に手を回す。すると弘一はびくん、と身体を竦めて立城の肩をつかみ、少しだけ身を離した。
「あっ、あの、神崎さん! いっ、嫌がらないって事はいいんですよね!?」
他の部屋の客に聞こえるのではないかという声で弘一が言う。すっかり舞い上がっているらしく、弘一は耳まで真っ赤になっている。立城は首を傾げ、小さく笑ってから頷いた。
「はい。もし良かったらわたしを慰めてください」
「はいっ!」
立城の声に叫び返して弘一が身を屈める。驚きに目を丸くする立城を弘一は軽々と抱え上げて歩き出した。足で隣の間に続く襖を開けようとする。が、どうも焦っていて上手くいかないらしい。立城は懸命な顔をしている弘一の代わりに襖を静かに開けた。
暗い寝室に敷かれた布団には何故か枕が二個並べられている。それを見た立城はおやおや、と内心で呟いた。最初から弘一は立城を抱く気でいたらしい。なるほどね、と立城は思いながら目を細めた。それなら利害は完全に一致している。
静かに布団に横たえられる。その後、弘一は立城に圧し掛かった。貪るように口づけられる。立城は口づけに応えながら目を閉じた。まださほど経験がないのか、弘一の口づけは妙に荒い。出来るだけ不自然にならないよう、弘一の歯を避けて立城は口の中に入ってきた舌を舌で撫でた。夢中で立城に口づけながら、弘一が手を伸ばす。はだけた浴衣の胸元に触れられ、立城はぴくりと眉を寄せた。自然と甘い吐息が漏れる。
「あっ……んふっ」
口づけの合間に漏らした声に気を良くしたのか、弘一が一気に立城の浴衣をはだける。露にされた立城の乳房を弘一がやんわりとつかむ。
「凄い……。気持ちいいんですね?」
嬉しそうに弘一が言う。立城は触られるたびに走る快感に震えながら、懸命に言葉を紡いだ。
「あ、の、いま、敏感に、なってるから」
それだけを言って立城は小さな悲鳴を上げて仰け反った。弘一が指先で乳首を捏ねたのだ。立城の反応が思った以上だったらしく、弘一が生唾を飲む。立て続けに乳首を愛撫されて立城は掠れた声を上げて力なく首を振った。
「くふっ、あっ……ああっ!」
「す、凄く色っぽいですっ」
熱のこもった声で言って弘一が立城の胸に顔を伏せる。乳房をつかまれ、乳首を舐められた瞬間、立城は声を上げて腰をひくつかせた。これまで我慢してきた分、強い快楽が次々にこみ上げてくる。立城はうっとりとした面持ちで天井を見つめ、甘い息を吐いた。
ほら。相手が水輝でなくても大丈夫。知らない人でもちゃんと気持ちいいもの。そう思いながら立城は胸に伏せた弘一の頭を優しく撫でた。両手に弘一の頭を包むように支え、立城は襲ってくる快楽に意識を集中した。
弘一が夢中で立城の乳首を吸う。左右の乳首を吸われるたび、立城は甘い声を漏らした。次第に物足りないものがこみ上げてくる。立城は無意識のうちに腿をすり合わせはじめた。
「あっ、あふっ! くっ……ううんっ!」
「もしかしてここに欲しいんですか?」
ひとしきり立城の乳首を咥えた後、弘一がすり合わせていた立城の腿を手で撫でる。その手が腿の内側に滑った瞬間、立城は仰け反って泣いているような声を上げた。弘一が昂奮に目をぎらつかせて立城の浴衣の裾を大きく分ける。
「あ。下着、つけてなかったんですか」
驚いたように言ってから弘一がごくん、と唾を飲む。立城は潤んだ目で弘一を見つめ、お願い、と囁いた。すると弘一ががくがくと頷いて立城の左右の腿を両手にすくい上げる。立城の腿が左右に大きく開く。晒された股間に弘一が顔を寄せた瞬間。
「え?」
弘一が仰天した声を上げる。立城は舌打ちをして素早く身体を起こし、弘一の目の前に指を閃かせた。一瞬後、弘一の身体が揺らぎ、布団に沈む。弘一が寝息を立て始めたことを確認してから立城は大きくため息を吐いた。立城のクリトリスに弘一が舌を触れさせようとした瞬間から静かな弦楽器のメロディが響いているのだ。
「……もう。無視しようかな」
苛立ちをこめて呟いてから立城は額を押さえた。この呼び出し音が優一郎からの通信の合図だということはわかっている。でも何もこのタイミングでかけてこなくてもいいのに。立城は心の中でひとしきり文句を言ってから諦めのため息を吐いた。
指定された通り、クリトリスを指につまんで回す。
「……なに?」
通信が開いた瞬間、立城は機嫌悪く低い声でそう言った。
『母上。緊急事態が発生しました。今すぐに戻ってください』
緊張した優一郎の声が聞こえてくる。立城はしばし黙ってからため息混じりに告げた。
「桜からは何も聞いていないけれど?」
乱れた浴衣を整えながら立城は棘のある声を返した。弘一には申し訳ないが、このまま眠ってもらおう。風邪をひかないよう、弘一に静かに布団をかけて立城は立ち上がった。
『あの? 全くご存知無いのですか?』
訝りのこもった優一郎の声に立城は眉を寄せた。自分の飲んだ分の湯飲みを洗面台で綺麗に洗い流し、元通りの位置に置く。それから立城は優一郎にしばし待つように告げ、急いで自分の部屋に戻った。ドアに鍵をかけてから深々と息を吐く。
「何を知らないのかって?」
優一郎が切迫している風なのは判る。が、桜からは何の報せもない。ということは、力を使うような事態が発生している訳ではない。それ以外の事態にしても、よほどの大事なら桜が先に報せにくるはずだ。
『マスコミで母上が婚約したと報道されているんです。善後策を協議したいので、至急お戻りいただけますか?』
「何で僕が!」
立城は珍しく声を荒らげて言い返した。そんなことをした覚えはさらさらない。立城は勢いよく優一郎に言いながら乱暴に畳に腰を下ろした。
「誰なの、そんな事を吹聴してるのは!」
『だから、お戻りください。詳しいお話は帰ってからいたします』
それとも命にしないと駄目ですか? 優一郎が緊張のこもった声でそう続ける。立城は歯軋りをしてテーブルを叩いた。
「僕にだって都合がある! こんなところからいきなり夜中に姿を消したら、誰だって怪しむだろう!?」
何でこんなところに来てまでそんな下らない話を聞かされなければならないんだ。弘一との性行為を邪魔されたこともあり、立城は怒りに任せてそう怒鳴った。
『マスターとして命じます。僕の元へ戻ってください』
「……どうしても僕に命令したい訳か」
怒りに任せて立城は低い声で言った。静かに額に指をあてがう。立城は怒りを込めて力を放った。一気に解放された力が紫の光となって部屋の中を駆ける。それと同時に通信に雑音が混ざり始める。立城は歯を食いしばって器の内側にしまいこまれていた力を燃焼させた。
意識が徐々に薄れていく。立城は全身で息をしながらかたく閉じていた目を開けた。いつの間にか優一郎の声は消えている。ぶかぶかになった浴衣を纏ったまま、立城は震える指をもう一度、額に押し付けた。このままでは駄目だ。少年の姿のまま朝を迎えたら、きっと宿の者に怪しまれる。
「じょ、せいに、ならな……きゃ」
小さな手が額から滑り落ちる。意識をなくした立城の身体が傾ぐ。立城はそのまま畳に倒れこんだ。
立城がとうとうブチギレました。