※この作品はR-18です。

魂の座 四部 苺の季節   作:伊駒辰葉

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この話で二章は終わりです。
エロシーンはありません。


水輝と渚の姉弟喧嘩 1

 だから、と頭をかきむしって水輝は声を張り上げた。

 

「やらなきゃやばいんだろうが!」

「嫌だって言ってるでしょ!?」

 

 あれから二時間。水輝はずっと渚と押し問答を続けていた。マスター登録とやらをした今なら、渚は命令すれば従うしかないらしい。が、それを避けようとする水輝は渚と真っ向から言い合いをする羽目に陥っていた。

 

 短くなった煙草を握り潰す。水輝は一瞬で燃えかすになった吸殻を暖炉に放り込んでまた怒鳴った。

 

「いいかげんにしろよ、この強情女!」

「強情でけっこうよ! 無理やり命令したら一生、恨んでやるわ!」

 

 水輝から少し離れた場所に立ち、渚が負けじと怒鳴り返す。時折、奈月が不安そうに部屋をこっそり覗きに来るのだが、その度に慌てたように姿を消す。どうも二人が口喧嘩をしているのは奈月にはとても辛いらしい。そのことは理解していたが、水輝は更に渚を怒鳴りつけた。

 

「あー、そうかよ! やっぱりお前、あの時のこと恨んでるんだろ!?」

 

 勢いに任せて言ってから水輝はしまった、と口を押さえた。渚が怒りに目を吊り上げて肩を震わせる。悪い、と言いかけて水輝は口を引き結んだ。

 

「……最低ね」

「どっちがだ」

 

 低い声で言った渚に水輝は冷ややかに答えた。ただでさえ疲れているのに渚と口論までする羽目に陥ったことを、水輝はとても悔やんでいた。もっと上手い言い回しが出来れば渚もここまで意固地に嫌がらなかったのだろう。が、水輝も疲れ果てていてそんな余裕はなかったのだ。

 

 水輝はため息を吐いて床に直に座り込んだ。渚も疲れたように息を吐いて手近にあったベッドに腰掛ける。

 

「あの……喧嘩はやめてください!」

 

 涙ながらに訴えながら奈月が部屋のドアを大きく開いて飛び込んでくる。水輝は疲れた笑いを浮かべて奈月に軽く手を振った。

 

「してないしてない。いまは休憩中だ」

「さすがに喉がかれたわ。水輝は紅茶でいいのね? 奈月さ……奈月は?」

 

 まだ言い馴れないらしい。渚が一度言い直す。歩き出した渚を見つめていた奈月が涙を拭きながら告げる。

 

「わたしも紅茶でお願いします」

 

 ほっとしたように奈月が胸に手をあてがう。判ったわ、と声を残して渚が部屋から出て行く。それを見送ってから水輝はばつの悪さに顔をしかめた。

 

「何でこうなっちまうのかなあ」

 

 そう呟いて水輝はため息を吐いた。

 

 指輪を買いに行ったあの日、周囲の状況は一変した。学がマスメディアに情報を垂れ流したらしく、その日の夜にはもう騒ぎは収集のつかないところまで大きくなってしまっていた。今は不在だと何度言ってもマスメディアの連中はしつこく屋敷に電話をかけてくる。かと思うと立城がいつも懇意にしているらしい爺様連中が訪ねてきたりもする。そしてどういう訳か、それを機にしたかのように渚の態度が豹変してしまったのだ。

 

 水輝は頭をかきながら天井に向かって息を吐いた。癖で胸ポケットを探る。だがさっきのが最後の一本だったらしい。煙草の箱は空っぽになっている。水輝はため息を吐いて箱を丸め、背後の暖炉に放り込んだ。

 

 とりあえず電話線はひっこ抜いた。屋敷の門には頑丈に鍵をかけ、誰も入れないようにしている。ついでに塀にも力を施しておいたから、落書きしよう等というばか者が例えいても、回れ右して帰りたくなるようにはなっている。テレビは最初からつけていないから、煩い連中の声も今はない。水輝は深々とため息を吐いてうなだれた。

 

「そんなにおれに抱かれるのが嫌かね」

 

 何気なく呟いてから水輝は顔を上げた。疲れた身体を引きずるように起こしてソファに向かう。そんな水輝に奈月は静かについて歩いた。ソファに身を投げ出して背もたれに深く寄りかかり、天井を仰ぐ。そこで水輝は再度、大きく息を吐いた。

 

「水輝さん……。あの……渚さんはもう限界だと思います」

 

 戸惑いつつの奈月の言葉に水輝はため息と共に応えた。

 

「知ってる。壊れる寸前ってところなんだろ?」

 

 だが今の渚が水輝に抱かれることを嫌がっているのも事実だ。本来なら嫌がる女性を抱くのは願い下げだ。が、そんなことを言っている場合ではない。だから水輝も出来るだけ渚が不快に思わないよう、先に抱くことについての同意を求めたのだ。例え心から同意をしていなくとも、偽りでも了承の意を口に出来るなら問題ないだろうと判断したのだ。

 

 が、渚はそれでも頑として水輝に抱かれるのは嫌だと言う。

 

「……おれにどうしろって言うんだ」

 

 うんざりしながら水輝はうなだれた。結局、水輝は渚の反論にむきになって言い返し、喧嘩をしてしまう。その繰り返しなのだ。

 

「優一郎さんに、仲裁をお願いするのはどうでしょうか?」

 

 困惑気味に言いながら奈月が静かに水輝の隣に腰を下ろす。水輝は疲れた笑いを浮かべて首を横に振った。

 

「あいつはあいつで忙しいだろ。これ以上の手間はかけさせたくない」

 

 扉が静かに開く。渚は三人分のティセットを乗せたトレイを手に部屋に戻ってきた。ゆっくりと歩いてソファに近付いてくる。水輝は片手を伸ばしてトレイから先にカップを取り上げた。テーブルにトレイを乗せたところで渚がティポットから水輝のカップに紅茶を注ぐ。




修正は追いつきましたでしょうか……(汗)
この辺りまでアップしときます。
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