「もしかして、その翼ずっと消えないとか思ってた?」
隣の席でにこやかな笑みを浮かべていた優一郎がそう言う。多輝は瞬きを何度か繰り返してから力いっぱい頷いた。
「んなわけねえだろ、阿呆。まあ……苺の場合はちょっと細工してるから判らなくても仕方ないんだがな」
そう言いながら水輝が身軽にスツールを降りる。カウンターを回って水輝は多輝の正面に近づいた。スプーンを握ったまま固まっていた多輝を、水輝が頭からつま先まで眺め回す。
「細工……ですか?」
優一郎が呟くように告げる。多輝の目の前で腰を少し屈め、肘杖をついていた水輝が横目に優一郎を見る。
「何だ。気に入らないか?」
そう言った水輝の口許には薄い嗤いが浮かんでいる。多輝は慌てて水輝と優一郎とを見比べた。
「出し方のほうは、もう僕も完全に覚えてるから」
しまうほうが難しいんだよね。これ。そう続けて呟きながら優一郎が口許に手をあてがう。考え込むような顔をした優一郎を見ていた水輝が小さく笑う。
「なあ、これって例のアニメだよな?」
そう言う水輝の顔はかなり嬉しそうだ。多輝は嫌な予感を覚えて慌てて手にしていたスプーンを置き、水輝の右手から皿をひったくった。お、と小さな声を上げる水輝を無視して皿を手に流しに向かう。多輝は言われる前にさっさと残っていたチキンライスを皿に盛り付け、カウンターに戻った。水輝に無言で皿を突き出す。悪いな、と笑った水輝が多輝から皿を取り上げて席に戻る。多輝はそこでほっと息をついた。
「似合ってますよね? 本人も実は気に入ってるみたいで」
チキンライスを食べ始めた水輝に優一郎が話を振る。多輝は慌てて首を横に振った。
「気に入ってねえ! 気に入ってるのはあの女だ!」
「ほほー。最近、古いのが流行りなのか? あれ、もう何十年も前のアニメだろ」
不思議と食べる速度の割には水輝の食べ方はとても行儀いい。皿とスプーンが触れ合う音を一切立てず、滑らかな動きで水輝がチキンライスを口に運ぶ。多輝は思わず水輝の食べ方に感心してから慌てて頭を振った。
「そうなんですか。僕はビデオディスクで見たから、いつ放映されたのかとかは知りませんでしたけど」
「けっこう流行ったんだぜ。グッズとかもかなり出回ってな」
それからしばし、優一郎と水輝はそのアニメーションの話で盛り上がった。どうやらこの流れならとばっちりは受けずに済みそうだ。多輝はほっと胸をなで下ろして残っていたオムライスを食べ始めた。黙々と食べていた由梨佳が静かに席を立つ。空になった食器を流しに持って行ってから由梨佳は今度は茶の準備をし始めた。
「それから、紫さんの件ですけど」
「あ、ああ」
唐突に話を切り替えた優一郎に水輝が面食らった顔で応える。由梨佳が静かに全員分の紅茶を運んでくる。それぞれの前にティカップを据えてから由梨佳は空になった食器を片付け始めた。多輝はちらちらと横に座る二人を伺いながらティカップを引き寄せた。
「あいつならもう少ししたら戻ると思うぞ。新幹線使うだろうし、今日の夕方には着くだろ」
何となく浮かない顔で水輝が告げる。多輝はおや、と水輝に目を向けた。水輝は熱い茶が苦手なのか、カップに息を吹きかけている。
「多輝、それで翼は消してもらうの?」
「うわっ」
急に話を振られて多輝は慌てた声を上げた。優一郎はいつの間にか多輝をじっと見つめている。多輝は無意識に赤くなって目を逸らした。
「そっ、それは、あの」
多輝は困惑した声を漏らして俯いた。確かにこの翼があると外に出ることもかなわない。鈍感な人間の目には映らないだろうが、外に出ればそういう人間ばかりではない。きっと多輝のことを怪しむ者も出てくるだろう。
「あー、確かになあ。そのかっこじゃ外に出るのは無理だな」
水輝がのんびりと言って紅茶を啜る。
「僕は、堂々としてれば、勝手に誤解してくれると思うけどね」
くすくすと笑いながら優一郎が言う。多輝は思わず顔をしかめて頭を上げた。ため息をついて肩を落とす。
「どっちにしろ、おれには消せないし」
かと言ってこいつに頼るのも嫌だ。多輝は言葉にはせず思いを込めて水輝を横目に睨んだ。すると水輝が小さく笑ってカップを置いてスツールを滑り降りる。再び多輝の前に回った水輝は肘杖をついてにやにやと笑った。
「随分と凝り性なんだな。こんなもんまで作るとは」
言うが早いか、水輝は多輝の胸に手を伸ばした。あ、と小さな声を上げた多輝のワンピースの襟元を水輝が指で探る。その指が細いチェーンをつかんでワンピースの下から引っ張り出す。水輝は多輝の胸元から現れたアクセサリーを見つめて口許を歪めた。それは梨恵が作った衣装の一部だ。多輝は言われるままに身につけたが、それが何を示すのかを全く知らない。
「へー……。材質はプラスチックと……何だ? まめだなあ……金属とかも加工したのか」
感心したように水輝が言う。ネックレスのヘッドをまじまじと見る水輝が自然と多輝に近付く。多輝は頬を引きつらせて焦って優一郎を見た。
「どうしたの?」
優一郎がにっこりと笑って首を傾げる。いや、あの。うろたえながら言って多輝は正面にいる水輝にちらりと目をやった。水輝は手の上にネックレスのヘッドを乗せて何事かを呟いている。チェーンの長さがさほどないため、そうなるとどうしても水輝は多輝に近付く格好になる。多輝は自分でも気付かないうちに真っ赤になっていた。
更に某アニメな感じになってきます。
二次……なのかな、これw