が、某アレな感じのシーンです。
「苺! 立ってこれを取れ!」
鋭い声が飛んでくる。多輝は慌てて顔を上げて頬を引きつらせた。いつの間にか水輝の手の先で浮かんでいた光が見慣れないピンク色のものに変わっている。見間違いでなければそれは杖なのでないだろうか。しかも絵に描いたような魔法少女の持つ杖に見える。
「待て。何でおれが」
「やかましい!」
戸惑って声を返した多輝に水輝が怒鳴りつける。多輝は声に圧されて慌てて立ち上がった。風に必死で逆らって水輝の傍に近付く。ピンクの杖がゆっくりと降りてくる。多輝は腕を伸ばしてその杖を取った。
手の中で杖が姿を変える。驚きに息を飲む多輝の手の中で杖は再び小さなアクセサリの形に変わった。それと同時に宙に浮かんでいたカードが消える。息を飲んだ多輝は次に、焦った声を上げてその場にへたり込んだ。着ていた服が全て消えてしまったのだ。
「うわわわわわわわわわ!」
「ま、こんなもんかな。ほら。翼、消えたろ?」
呑気に言って水輝がぽんぽんと多輝の頭を叩く。多輝は腕を交差させて懸命に胸を隠しながら水輝を睨みつけた。
「多輝」
後ろから優しく呼びかけられ、多輝は弾かれたように振り返った。優一郎が白衣を脱いで裸の多輝の身体にそっとかける。多輝は慌てて白衣の前を手で寄せてもう一度、水輝を睨みつけた。
「今さら女の裸みたからって欲情したりはしねえよ。それより、使い方説明するから立て」
平然とした顔で水輝が言う。多輝は顔をめいっぱいしかめて水輝と優一郎とを見比べた。
「きちんと聞くんだ」
真面目な顔で優一郎が促す。多輝は渋々と腰を上げて手早く白衣の袖に腕を通し、ボタンを留めた。水輝が多輝の横に並んで両腕を掲げる。
「真似しろ」
「あ、ああ」
言われるままに多輝は水輝を真似て両手を前に出した。すると手の中に納まっていた小さなアクセサリが浮く。
「それは封印の鍵だ。後で鎖はつけてやるから、女の時は首からぶら下げてろ」
「お、おう」
優一郎に言われた通り、多輝は水輝に言われるままに頷いた。
「カードは二十枚。それぞれの力については後で優一郎に説明をしておくが、今はとりあえず白銀のカードを」
そこまで言われて多輝は思い切り顔をしかめた。水輝は知らないのかも知れないが、それは人の名前と同じだ。
「あ、あのさ」
「何だ」
多輝が言葉を挟んだことが気に入らなかったのか、水輝が仏頂面で答える。多輝は恐る恐る優一郎を見た。だが優一郎は無言で腕組みして水輝に顎をしゃくる。どうやら言う通りにしろという意味らしい。仕方なく多輝は何でもない、と呟いた。
「白銀ってカードが中にあるから、それをイメージしろ」
「お、おう」
白銀。多輝は出来るだけあの白銀のことは考えないようにしつつ、漢字だけを頭の中に思い描いた。大体、カードをイメージしろと言われてもそう簡単に出来る筈がない。そもそもまるで意味が判らないのだ。多輝はだがそんな不満を口にはせず、おとなしく水輝の言うことに従った。
「で、だ。おれの言う通りに言え」
「おう」
頷いた多輝を見て水輝も頷く。
「星の力を秘めし鍵よ」
「星の力を秘めし鍵よ」
言われるままに多輝は繰り返した。すると手の中に浮かんでいた鍵がすうっと宙に上り、光を帯びる。多輝は驚きに目を丸くしてそれを見つめた。
「真の姿を我の前に示せ。契約のもと、苺が命じる。レリーズ」
「待て。何で苺……」
「いいから言え!」
怒鳴りつけられて多輝は渋々と水輝のせりふを復唱した。すると光を帯びていた鍵が一気に杖に転じ、白衣だけだった多輝の身体に先ほどまで着ていた服が纏わりつく。続いて多輝の目の前には一枚のカードが現れた。
「それが白銀のカードだ。いいか、ここからも続けて言え」
ひたすら真面目な顔で水輝が言う。多輝はやけくそになっておう、と頷いた。
「白銀の翼」
水輝に言われたままに多輝が言った瞬間、多輝の背には大きな銀色の翼が現れた。多輝は自分の背と水輝とを見比べて顔を引きつらせた。水輝が成功、と親指を立てて笑う。待て、失敗する確率はどのくらいだったんだ。そう、多輝が訊ねる前に優一郎が水輝に拍手する。多輝は杖を片手に泣きそうな顔で由梨佳を振り返った。
「お疲れ様」
由梨佳がそう言う。その顔には苦笑が浮かんでいる気がする。多輝は一目散に由梨佳のもとに走り、その胸に飛び込んだ。
「あ、そうだ。カードの力とその杖は、苺が用が済んだと思えば勝手に消える。後で鎖をつけてやるからおれのところに来い」
それだけ言って水輝がいきなり力を放つ。視界が一気に弾けたと思った直後、多輝は見慣れたキッチンの中にいた。だがキッチンに現れたのは多輝と由梨佳だけだ。多輝は慌てて抱きついていた由梨佳から離れた。
「命も与えてくれないし嫌われてしまったのかと思ったわ」
「い、いや、そんなことは」
静かに告げた由梨佳にそこまで言ってから多輝は慌てて目を上げた。いつの間にか由梨佳の口調が変わっている。多輝は驚きに絶句して、由梨佳の肩を震える手でつかんだ。
「男の子の時と、対応を変えるようにプログラムし直してもらったの」
「そ、そうだったのか」
驚きに目を見張ったまま言った多輝の背から翼が消え、杖が消える。それと同時に多輝の服は再び優一郎の白衣一枚になった。だがそのことにも気付かないまま、多輝はそっと由梨佳に身を寄せた。
「身体は以前よりも人に似せて作られているけど、精神的自立性はさらに低下しているの」
由梨佳の口調はあくまでも穏やかだ。多輝は由梨佳の肩に額を押し付けてうん、と答えた。
「命が無ければ、うまく行動できないし、どうすればいいか判断もできない」
「うん」
多輝は目を閉じて頷いた。続けてごめん、と詫びる。
「謝る必用は無いわ。要らなくなったらいつでも言って」
「要らなくなんてならない」
多輝はそう呟いて由梨佳の身体に恐々と腕を回した。壊れもののようにそっと由梨佳を抱きしめ、多輝は口許に笑みを浮かべた。
多輝は魔法少女になりました(棒