エロシーンはない……はずです。
裸で自慰くらいはあるんですけども……エロですかね、これ。
「第三の道を探します。必ずあるはずですから」
「あなたにはね」
静かな声音で告げてから渚は息を吐いてごめんなさい、と詫びた。
「下らない話をしてしまったわ。それで? 私はどうすればいいの?」
「このスティックを抜いたら、水輝さんからなんらかの性的刺激を受けるか、口頭による命令を受けるまで、自慰が止まらなくなります」
言いながら優一郎が渚の膣にささっているスティックに手を触れる。渚は疲れた笑みを浮かべてそれで、と促した。
「命令は抽象的なものではいけません。具体的なものである必用があります」
「そう」
呟いて渚は優一郎の手を見下ろした。
「……本当に生き恥を晒すという訳ね」
誰かに理解してもらいたいとは思っていない。理解し合える間柄など絵空事の嘘っぱちだと渚自身、知っているからだ。相手のことを理解したと思うのは単なる錯覚で、それは判った気になっているだけだ。相手の人生をなぞっていけない限り、完全な理解などあり得ない。
渚は目を閉じて天井を仰いだ。
「ずっとこのプログラムを設定したままにするつもりはありません。心は変るものですから」
それを聞いた渚は声を上げて笑った。目を開けて傍に座る優一郎を見る。
「あなた、本当にそう思っているの?」
「もちろん変らない部分もあります。あなたの水輝さんに対する感情が変るとは思えません」
「……本当に判っていないのね」
淡々と告げる優一郎に渚はぽつりと呟いた。だからかつてその術は封じられ、闇に葬られた。完全に中身を作り変えてしまうというケースに陥るという事実だけがその原因ではない。例え成功したとしても、その術は代償としてとあるものを払わなければならなかったのだ。
「申し訳ありません」
「何故、詫びるの? 作り手の側のあなたが気にする必要のあることではないのでしょうし、私がそれに口出しする権利もないわ」
そう言ってから渚は唇を引き結んだ。
「そうですね。どう言葉を飾っても結局のところヒューマノイドは人形なんです。そして」
渚は黙ったまま優一郎に視線をやった。あの時の紫翠もこんな顔をしていたのだろうか。ぼんやりとそう思う。だが多分、きっと今の優一郎の方が人らしい表情をしているのだろう。
「人形には自ら生死を選ぶ権利は無いんです。持ち主が飽きて捨てるまで、死ぬことは赦されません」
「そうね」
出来れば早く水輝が飽きてくれることを祈るわ。渚はそう続けてため息を吐いた。
「それでは渚さん。スティックを抜きます」
そう告げて優一郎がスティックを膣から抜く。その瞬間、渚は痛みにも似た感覚に襲われて眉を寄せた。酷く切迫したものがこみ上げてきて、それまで感じていた不快感が嘘のように消える。
でも多分、水輝は捨ててくれない。作り手は作った人形を捨てることが出来るけど、人形には選ぶ権利はない。
ぼんやりと考えながら渚は目を閉じた。腕が意志とは関わりなくゆらりと持ち上がり、剥き出しになった乳房と股間にそれぞれに指が這う。渚は自分の指が触れた瞬間に走った快楽に思わず小さな呻きを漏らした。
「水輝さんの精液を膣から受け入れれば丸一日、口から受け入れれば半日、このプログラムは停止します」
「そ、う」
クリトリスと乳首を指の間に挟み、軽く揉みながら渚は震える声で返事した。次々に快感がこみ上げてきてはいるのに、それを情欲が常時上回る。渚の呼吸は無意識の内に荒くなっていた。
「セックス以外の命令は、クリトリスに内蔵されたマイクロフォンから音声入力で認識します」
本当に性交渉にしか使われない人形ね。渚は心の中でそう呟いた。喘ぎが勝手に漏れ、言葉が唇では上手く紡げない。
「認識可能な命令は、あらかじめプログラムされたもののみです」
渚はそれを聞いてくすくすと笑い出した。本当に生き恥だわ。切れ切れの声で告げた渚の目から涙が伝う。そうしている間も渚の指は巧みに動き、尖った敏感な部分を愛撫する。
「また、命令によっては制限時間や命令受付インターバルが決まっています」
淡々と優一郎が説明を続ける。それを聞きながら渚は心のどこかでほっとしていた。こんな姿を目にしたら、きっと水輝は哀れんで殺してくれる。そうすればもう、生き恥を晒す必要もない。
「例えば『話をしたい』という命令は受け付け可能ですが、ずっとその命令を実行するのは不可能です。『話をしたい』という命令の制限時間は六十分、受付インターバルは八時間だからです」
優一郎の声が遠い。自慰をしながら渚は声にならない声で歌い始めていた。水輝に教わった歌を一つずつ静かに歌う。
生きているけど死んでいる。それがヒューマノイドと呼ばれる者たちの置かれた現状だ。ヒューマノイドの脳は確かに生きている。だが心の時は完全に停止しているのだ。生きた者たちに許される成長という言葉はヒューマノイドにとってはお伽噺になる。身体の時間が止まるのと同時に人の心は時を止めてしまうのだ。
だからあの術は封印された。まさにその状況を体現した者が実在したからだ。それは心の時を止め、人形として生き続ける。例え術者が死んでも、だ。
「渚さんの型のヒューマノイドには専用のメンテナンスベッドが用意されます。なんらかの理由で長時間マスターが離れる場合でも、自慰動作を続けるために、エネルギー補給や女性器ユニットの洗浄、修理などを自動的に行います」
渚はもう、優一郎の言葉を聞いてはいなかった。ただ、ひたすらに歌い続ける。時折、突き抜けるような感覚に襲われて身体が緊張する。絶頂に達しても渚はずっと歌い続けた。
これで確実に水輝は殺してくれる。たぶん、嫌だと思うだろうけれど、殺してくれる。そうすればもう、生き恥を晒す必要はない。恐らく約束を破ったために冥界で裁かれるだろうが、それでもいい。渚はぼんやりと考えながら淡い笑みを浮かべた。
「それでは、渚さん。このまま自慰テストを行っていてください。僕は、失礼します」
罪悪感を満面に表して優一郎が言う。だが渚はそれを見てはいなかった。
当時は書きながらヒューマノイドの設定を作ってる、という感じでした。