※この作品はR-18です。

魂の座 四部 苺の季節   作:伊駒辰葉

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エピタイの通りです。
エロシーンはありません。


これは痴話喧嘩なのか、それともすれ違いなのか

 だから悪かったって言ってるだろ。呻くように言いながら水輝は目を上げた。立城が腕組みをして水輝を睨みつけている。それを見てから水輝はふん、と横を向いた。するとご丁寧に立城が水輝の目の前に動いて鋭い視線を落とす。立ったままの立城に見下げられて水輝は顔をしかめた。

 

「だから言えないっていうのはなに? 説明出来ないってどういうこと? 僕はそんなに難しいことを訊いている?」

 

 流れるように言って立城が眉を寄せる。あー、と低く呻いてから水輝は俯いた。指に挟んでいた煙草がこぶしを握ったために自然と折れる。

 

「だから、もうちょっとしたら説明してやるって」

「何でわざわざ期限を切らないとならないの? それも数日後ってどういうこと?」

 

 立城が問い詰めようとしているのは噂の真相についてだ。吉良瀬の筋から噂が流されていることが立城の耳にも入ったらしい。だが水輝は頑として口を割らなかった。それでこの調子でずっと会話が平行線を辿っているのだ。

 

「どうせ何日か待ったところで別に構わないだろ。これ以上、騒ぎは大きくなりようがないし、放っておくしかないんだし」

「そういう問題?」

 

 呆れたように言って立城がちらりと桜に目をやる。桜はテーブルの脇に立ったままじっとしている。だが立城も桜に訊ねても無駄だと思ったのだろう。もういいよ、と言って桜に頷く。桜は深々と一礼して姿を消した。その瞬間、桜が手にしていた急須が派手な音を立てて床に落ちて砕ける。どうやら急須をテーブルに置いてから消えるということを考えなかったらしい。

 

「……おい。もう少しあれ、何とかしろよ。何も知らなかったぞ」

「……そのようだね」

 

 水輝が言うのに対して立城が小声で同意する。それから立城は零れた茶を拭き、砕けた急須を片付け始めた。水輝も腰を屈めて欠片を拾うのを手伝った。

 

「どうでもいいが、お前、どこで男を引っ掛けた? べたべたに気配がくっついてるぞ」

 

 仏頂面で水輝は立城に顎をしゃくった。すると立城が急須の欠片を拾う手をぴたりと止める。

 

「何で水輝に解説しなきゃならないの、僕が。わざわざ」

 

 僕がどこで何をしていようと勝手でしょ。立城も水輝に負けない機嫌の悪い顔で言う。水輝はめいっぱい顔をしかめてそうかよ、と素っ気無く言った。立城がそうだよ、と答えて水輝を睨む。

 

「もうっ。人がのんびりと温泉で休もうとしていたらこれだもの。僕の知らないところで噂は広がる一方みたいだし」

 

 苛立ちを露にして立城が言う。確かに訳がわからない立城にしてみれば、真相が解明されないことには落ち着かないのだろう。水輝にもそれはよく判っていた。

 

 でも普通、気付かないか? そう胸中で呟きつつも水輝はああそうか、と何気なく同意してみせた。すると途端に立城が険のこもった声を上げる。

 

「そこで同意するなら教えてよ」

「いや、だからそれは待てって」

 

 何でこんなに鈍いんだろう。心底疲れながら水輝はそう思った。立城は前々から不思議と自分に関することには驚くほどに鈍い。誰かが好いているということについてはまるっきり気付かないのだ。そのくせ、他のことには鋭いために大抵は立城相手にははっきりと想いを口にしないようだ。口には出さなくても相手が読んでくれるに違いない。立城を相手にするとそう思う傾向があるらしい。

 

 しばらく二人で黙々と欠片を拾った。零れていた茶を完全に拭き取って欠片を入れたビニール袋を手に立城が立ち上がる。水輝もよいしょ、と腰を上げた。

 

「ところでさ。やんなくていいのか?」

 

 ふと思い立って水輝はそう立城に言葉を投げた。するとキッチンに向かいかけていた立城がものすごい勢いで振り返る。

 

「大きなお世話だよ! 君はさっさと渚さんを連れて帰ったら!?」

 

 凄い剣幕で立城が怒鳴る。それまで曖昧に立城の言うことをかわしていた水輝もそれにはかちんときた。機体の状態が思わしくないと感じ取って言ったのだが、どうやらそれは立城には無意味だったらしい。

 

「あー、そうかよ! 悪かったな、邪魔して!」

「……どういう意味」

 

 怒鳴った水輝に立城が冷ややかな声を返す。水輝は別に、とだけ言って踵を返した。背を向けた水輝に立城が大股で歩み寄る。部屋を出るために歩き出そうとした水輝の腕を立城は乱暴につかんだ。

 

「どういう意味?」

「言ったままの意味だ」

 

 低い声で言いながら水輝は振り返った。怒りに目を吊り上げている立城を指差して水輝は言った。

 

「どれだけ跡を消したところで見えるんだよ。大勢の人間の跡が」

「……へえ? それで?」

 

 薄い笑みを浮かべて立城が言う。だから、邪魔して悪かったって言ってる。水輝は憮然として答えて立城の手を振り払った。

 

「別に誰でもいいんだろ? お前こそさっさと誰か男を引っ掛けてこいよ。ま、せいぜい満足させてくれる相手でも見つけることだな」

「そうだね。じゃあ、遠慮なくそうさせてもらうことにするよ。君もさっさと帰れば?」

 

 肩を竦めて言った水輝に立城が微笑を浮かべて言う。言われなくても、と呟いて水輝は再び踵を返した。




誤解が誤解を生む……w
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