※この作品はR-18です。

魂の座 四部 苺の季節   作:伊駒辰葉

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水輝は裏技って言いますけども、いやふつーじゃないからw
エロシーンはありません。


裏技の宝珠

 優一郎が静かに部屋を出て行ってから水輝は深々とため息をついた。

 

「……なに?」

 

 不満いっぱいの顔で立城が低い声で言う。水輝は頭をかいてから煙草を灰皿に押し付けた。

 

「考えてみれば、お前の龍宝珠は一つもないんだな」

「今さら?」

 

 水輝を睨んだままで立城が言う。水輝はそうだな、と呟いて左胸に手をあてがった。指先で狙いをつけながら立城に笑みかける。

 

「さすがに肉の器がないと維持は無理か」

「厭味のつもりなら僕はここを去るけど?」

 

 冷えた紅茶の上に新しくポットから紅茶を注いで立城が言う。だがその声には力はない。やれやれと呟いてから水輝は話を切り替えた。

 

「結婚、するのか?」

「ここまで騒ぎが大きくなったからね。断れないと思うよ」

 

 注いだ紅茶を啜って立城が小声で言う。ふうん、と呟いてから水輝は肩を竦めた。どちらでもいい。が、真相を知った立城が同じ選択をするとも思えない。

 

「まあいいか。お前の場合は相手は誰でもいい筈だからな」

 

 ぼやくように言ってから水輝は自分の左胸に右手を突き入れた。激しい痛みを堪えて身体を折る。水輝の言葉にいらついたのか、顔をしかめていた立城が腕を持ち上げる。無言のまま、立城は手のひらを水輝に向けた。その瞬間、幾分かは痛みが和らぐ。水輝は苦笑を浮かべて左胸から宝珠を一つ、選び取った。

 

 立城が目を見張る。水輝の右の手には透明な宝珠が一つ、つかまれていた。水輝は乱れた呼吸を整えてからそれを宙に放った。水輝の手を離れた宝珠が中空に静止する。

 

 Lavender's blue, diddle, diddle,

 Lavender's green;

 When I am king, diddle, diddle,

 You shall be queen.

 

「なに、それ」

 

 水輝が歌った後で立城が顔をしかめて言う。

 

「マザーグースだよ。知らないか?」

「それは判るけど」

 

 立城が顔をしかめたままで宙に浮かんだ宝珠を見上げる。

 

「ラベンダーあおい。ラベンダーはみどり。わたしが王さまならあなたは女王さま……ってな。ま、意味が判んないならいいか」

 

 そう言ってから水輝は宙に浮かんだ宝珠に手を差し伸べた。すると透明な宝珠が水輝の指の先まで漂い、ぴたりと動きを止める。そこで優一郎が部屋に戻ってくる。水輝は振り返っておかえり、と声をかけた。

 

「誓約の確認をしてたんですか?」

「いや。存在の確認だ」

 

 歩み寄ってくる優一郎に答えてから水輝は宙に浮かぶ宝珠を見上げた。

 

「魂の源よ。全ての存在の鍵よ。我、青の鍵、紺碧の沙耶。かの誓約に従い、戦い続ける者」

 

 口の中で言葉を紡ぎながら水輝は顔を戻して目の前に座る二人に笑みかけてみせた。立城は驚いたように目を見張っている。ソファに座り直した優一郎は吸い込まれるように透明な宝珠を見上げている。

 

「誓約に基づき、かの者に力を与えん。かの者の護りの盾となりてその意志に従え」

 

 そう水輝が呟いた瞬間、宙に静止していた宝珠が一気に紫色に染まり変わった。光を帯びた宝珠がゆらりと動いて立城の元へと漂う。驚きに目を見張った立城の膝にそれは静かに鎮座した。

 

「……ま、件の誓約の内容についてはおれもはっきりとは知らないんでな。これは裏技みたいなもんだ」

 

 疲れた息をついて水輝はソファに深く寄りかかった。シャツの一番上のボタンを外して身体の力を抜く。立城が震える手で持ち上げた宝珠は完全に紫宝珠へと変化していた。

 

「水輝さん、また無茶な技を」

 

 苦笑して優一郎が立ち上がる。水輝の横に回った優一郎は手のひらをそっとかざした。柔らかな癒しの力が注がれる。悪い、と呟いて水輝は目を閉じて額を覆った。

 

「……何で……こんな」

 

 紫宝珠を握った立城が震える声で言う。あー、と呻いてから水輝は片目を開けた。

 

「何で出来るかとかどうしてとか訊くなよ。おれにもわかんねえんだからな」

 

 ただ、出来ることは判っていた。が、これまで必要に迫られたことがないだけだ。水輝は疲れた息をつきながらそう説明した。立城が握っているのは紛れもなく立城自身の宝珠だ。

 

「情報は断片的ですからね」

 

 水輝に力を注ぎながら優一郎が言う。そうだな、と呟いて水輝は肩から力を抜いた。緊張していたために全身ががたがただ。やはり、一度に全ての宝珠を揃えるのは逆に危険だ。そう思いながら水輝は立城に目をやった。

 

「だって、これ……僕の……」

 

 呟くように言って立城が紫宝珠を握った両手を胸に引き寄せる。俯いて震える立城をしばし見つめ、水輝は苦笑した。

 

「欲しかったんだろ? 血なり精液なりを使えばもう少し楽なんだが、それだとおれの属性が残るからな」

 

 まあ、残ったところでどんな属性なんだか判ったもんじゃねえけど。笑い混じりに言ってから水輝は身体を起こした。隣に座っていた優一郎にありがとう、と声をかける。優一郎は頷いて元の席に戻った。

 

「母上、よかったですね」

 

 優一郎が立城ににっこりと笑いかける。だが立城は宝珠を握りしめて答えない。




当時、マザーグースを必死で調べたなぁ、と懐かしんでます。
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