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優一郎に依頼された手伝いの方は無事に終了した。具体的には冥界の犬をヒューマノイドに作り変える作業だったのだが、それについては立城の方が力の属性が近い。しかも立城は多輝から力を注がれていたため、その手伝いを難なく行う事が出来た。
でも、嫌だったんだけどな。何でストレス値が下がったんだろう。立城はその時のことをぼやりと思い出して呟いた。すると立城の正面に腰を下ろして茶を飲んでいた優一郎が不思議そうな声を上げる。
「あ、ごめん。何でもない」
笑顔で言ってから立城は紅茶を啜った。作業も終了し、一段落したこともあって二人は立城の部屋で茶を飲んでいた。優一郎の部屋には渚がいるし、落ち着かないだろうということで移動してきたのだ。
吉良瀬の宝物庫に眠る金龍の宝珠については水輝が調査中だ。あの宝物庫の扉を開くには立城が必要になる。立城自身が鍵になっているのだ。が、生憎と立城は以前のような青年の姿がとれない。今は大分、力も戻ってはいるが大事を取ってヒューマノイドのままでいるのだ。この方が効率的に力を回復出来ると言うのが優一郎の弁だ。
「かなり力も戻ったようですね。よかった」
にっこりと笑って優一郎が言う。立城はうん、と笑顔で答えてみせた。が、やはり気にかかる。立城はしばし黙してからあの、と優一郎に声をかけた。
「母上、なんですか?」
笑顔のままで優一郎が穏やかに答える。立城はうん、と呟いてから意を決して訊ねた。
「あの、どうして……その、僕のストレスって解消されたのかな。その……多輝、とだったのに」
視線を彷徨わせた立城の声は無意識に小さくなった。恥ずかしさに顔が熱くなる。
「まず、水輝さんを思い浮かべていたことがひとつ。それに、母上は多輝にも反応するようですね」
一本ずつ指を立てながら優一郎が微笑む。え、と息を飲んで立城は目を見張った。何で、と思わず呟く。
「多輝のこと、嫌いですか?」
「そういう訳じゃないけれど」
立城は眉を寄せてそう答えた。確かに多輝には特に嫌悪感はない。幼い頃から接してきたために親しみもある。だが好意を抱いているからといって反応するものなのだろうか。その理屈だと他にも色んな人間に反応してしまうのではないだろうか。立城は戸惑いながら優一郎にそう説明した。
「それは、やはり水輝さんの娘ですし」
小さく笑って優一郎が答える。立城は何事かを言おうとしてはみたが、結局は上手く言葉にならなくて黙り込んだ。
しばらく二人は黙ったまま茶を飲んだ。紅茶が少なくなったところでポットから温かいおかわりを注ぎ足す。立城はついでに優一郎のカップも満たしてからため息をついた。
あの後、姿を消してから水輝は今まで現れていない。忙しく調査をしているのだとは思うが、妙に寂しく感じられる。あの時、水輝が使った術で作られた宝珠は今は立城の中におさまっている。立城は胸をそっと押さえてもう一度、ため息をついた。
「母上、そろそろ力も戻られたことですし、ひとつ相談があるのですが」
ぼんやりと考えを巡らせていた立城は慌てて顔を上げた。
「あ、うん。なに?」
胸を押さえていた手を静かに下ろして立城はにこやかに訊ねた。
「桜さんの件です。教育の進行状況は、はかばかしく無いと聞きましたがどうですか?」
「あ……うん」
小声で答えて立城は顔を曇らせた。暇をみては桜には色んなことを教えているつもりなのだが、どうも上手くいかない。抜けの多い部分を補うには圧倒的に時間が足りないのだ。すぐに使い物にはならないだろう。立城は消沈した顔でそのことを優一郎に説明した。
「そのことについて提案があります。桜さんをヒューマノイド化する気はありませんか?」
優一郎が手にしていたカップをテーブルに静かに乗せる。その後、優一郎は手を足の上で組み合わせた。立城はじっと手の中のカップを見つめて考えを巡らせた。使い魔をヒューマノイドにする件については渚という前例がある。が、渚は実際には使い魔の器ではなく、龍神のそれだと水輝たちは話していた。もしそうなら桜がヒューマノイドとなったところで特に問題はないのかも知れない。
だが考えの末にそう結論を出しても立城はすぐには優一郎に色よい返事が出来なかった。桜は立城と共にあった使い魔の中では最も優秀だった。もちろんそれは過去の話だが、今の桜が前の存在とまったく関わりない訳ではない。やはりそこには立城の執着が残っている。
「渚さんのトラブルは魂側の座格と使い魔という位置付けの問題で、使い魔をヒューマノイドとするのに全く問題はありません。それに」
そこで優一郎は一旦言葉を切って息をついた。首を軽く傾げて優一郎が静かに立城を見つめる。立城は視線を感じて顔を上げた。
「母上。以前とは母上と使い魔との関係が違っていることに気づいていますか?」
「……判ってるけど」
小声で答えて立城はそっと視線を背けた。立城はかつて想いを分割して使い魔を作っていた。それはその感情を持っていると目的に邪魔だったという明白な理由があった。そして想いを核とした使い魔たちは最終的には水輝に蹴散らされた。
ここまでの流れではキレてません。