あ、エロシーンはありません。
「以前の使い魔はあくまで母上の枝であって、独立した存在では無かったように思えました」
「うん。そうだろうね」
真也に対する想い以外は当時の立城にとって邪魔に過ぎなかった。が、想いを核にした使い魔たちは一丸となって立城を護る役に徹した。それは使い魔が使い手に忠誠を誓うというよりは、元々が切っても切り離せない存在ゆえだったのだろう。
「もう、母上には以前のような使い魔の作り方はできないはずです。なのに、無理矢理に桜さんを作り上げてしまった」
穏やかな口調で優一郎が告げる。その声には責める響きはない。なのに聞いている立城の胸に言葉は酷く重く響いた。立城は俯いて手の中のカップに目を落とした。赤い紅茶がカップの中で揺れる。
「桜はヒューマノイド化した方が幸せ?」
ぽつりと立城は呟いた。
「使い魔の作り方をきっちり覚えなおした後、作り直すという手もあります。『桜』の名を持つ使い魔に拘りがあるなら、今のあの子は破棄して作り直せばいいでしょう」
淡々と語る優一郎を立城は上目遣いに見た。それから苦笑して顔を上げる。
「捨てるなんて出来ないよ。どんなに幼くても彼女は桜なんだから」
やっぱり、僕がちゃんと育てた方がいいのかな。そう呟いて立城は唇を引き結んだ。ヒューマノイド化するといっても方法はそんなに簡単ではないだろう。それにヒューマノイド化するということは、同時に性的快楽が必須ということになる。だが生憎、立城の作る使い魔には性はない。
「母上、自覚していないようですけど、母上は使い魔の作成に既に半分失敗しているんです。彼女を育てても、使い魔としては不完全な存在となるでしょう」
「うん。だから桜と一緒に僕も引っ込もうかなって」
それなら誰にも迷惑はかからないし。そう付け足して立城は微笑んだ。それまで淡々と語っていた優一郎が目を丸くする。
「あの、引きこもるのは自由ですが、これからの結婚問題などにどう対処されるつもりですか?」
「婚約発表と結婚式と……何だっけ。披露宴? はちゃんとするよ。でも政略結婚なら、僕の結婚相手が吉良瀬グループはちゃんとしてくれるんだろうし」
まあ、それが目的だろうからね。そう言ってから立城は小さく笑った。相手は権力さえ手に入れればいいのだろうから、それで気が済むだろう。その先、立城が表に出ることはかえって相手の迷惑になる。立城は静かな口調でそう告げた。
「相手の方に確認されたのですか? 行き違いがあった場合はどう対処されるのですか?」
不安そうな面持ちで優一郎が告げる。立城は首を傾げて苦笑した。
「他にどんな目的があるの? 僕は相手の顔も知らないんだよ? そんな相手と結婚しようなんて、他に目的はないじゃない」
穏やかな声で答えて立城はカップをテーブルに戻した。
「はっきり言いましょう。母上は自分が女としてかなりの美形である事を認識していますよね?」
「まあ……龍神だからね」
意を決したような優一郎の言葉に立城は軽く頷いた。元々、龍神という種が人間の姿を取る場合、かなり容姿が整っているケースが殆どだ。
「例えば母上の予想どおり、今回の事件が政略結婚だったとしましょう。相手は一般的な人間の男性だとします。もし母上が醜女なら、引きこもるから好きにしてくれという主張は諸手を上げて歓迎されるでしょう」
だけど。滑らかに語った優一郎がそう告げてから言葉を切る。そうでない場合は違うと言いたいらしい。そのことに気付いて立城は肩をすくめた。
「結婚の条件に呈示すればいいんじゃないの? 吉良瀬の力を手に入れるんだから、その程度のことは飲めないとね」
みなが寄ってたかって勝手に話を進めている理由は政略的なもの以外にない。そう確信している立城はすらすらと言い返してみせた。
「今回の事件で、母上は誰かを説得できましたか?」
急に優一郎が矛先を変える。立城はため息をついて出来なかったね、と答えた。
「でもじゃあ僕は無条件で結婚しなければならないのかな? 何のメリットもなく?」
相手がどんな権力を負っていようと立城にとっては至極どうでもいいことだ。逆に相手は相当の力を手に入れるのだから条件は飲んで然るべきだろう。立城は少し不服をこめてそう言った。
「あの、ならもっと早くなぜ主張しなかったのですか? 明日はもう記者会見なんですよ? 明日の席でいきなりその条件を提示するわけですか?」
「主張しようにも相手が一向に僕の前に現れないものだからね。プロポーズとやらもされていないし」
それなら顔を合わせた時に言うしかないでしょ。立城は呆れたような優一郎の言葉にそう答えた。
「僕は誰がどう動いているのかはわかりませんが、如月老あたりが仲介しているのでしょう? 今からでも如月老に条件について相談してみてはどうですか?」
少し間を置いてから優一郎が告げる。立城はそれを聞いて小さく笑った。
「如月老がいま何をしているか知っている? あの人ね。毎日嬉しそうにホテル巡りをしているそうだよ。結婚披露宴の会場を決めるために、だって」
そんな人に相談なんて出来ないでしょ。立城は肩を竦めてそう言った。相談に行ったら最後、ホテル巡りに付き合わされるに決まっている。
「母上の覚悟はわかりました。ちょっと失礼します」
そう言ってから優一郎は白衣のポケットから通信機を取り出した。立城はそっと息をついてテーブルからカップを取り上げた。あと少し。明日になればかなり行動に制約がつくだろう。婚約が事実上成立すれば、相手と共に各方面に挨拶に行かなければならないし、何より記者会見のこともある。その合間を見て条件を突きつけて、最悪の場合は婚約破棄すると脅せばいいのだ。立城は優一郎が話をしている間、ぼんやりと考えを巡らせた。
立城視点で書いていくとかなり酷い気がしますが、そーではないので……。