※この作品はR-18です。

魂の座 四部 苺の季節   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


ウェディングバトル、開始! 2

「コードワイバーン」

 

 そう呼びかけた水輝の耳にほどなく電子音が聞こえる。

 

『声紋照合しました。通信回線開きます』

 

 穏やかな女性の声の後、今度は別の女性の声がする。こちらは先と違って肉声だ。

 

『コードワイバーン、こちら通信室です』

「おっ、ラッキー。久しぶりじゃん、元気だったか?」

 

 水輝は知り合いの通信士に笑みを浮かべてそう言った。すると通信機の向こうで女性が息を飲む。学が超人的なスピードで走らせるロールスロイスの後部シートで水輝は優雅に足を組み替えて笑った。

 

「何年ぶりかなあ」

『ほっ、ほんとに水輝くんなの!?』

 

 女性の声は引っくり返っている。水輝は当り前だろ、と笑ってちらりと奈月と鈴を見た。奈月は懸命に地図を見つめている。その隣で萎縮したように固まっているのは鈴だ。

 

「悪いんだけどさあ。ちょっと頼み、あるんだよな」

『ちょ、ちょっと、仕事中なんだから……あんまりプライベートなことは』

 

 途端に女性が声を潜めてぼそぼそと言う。水輝はそれを笑い飛ばして違う違う、と答えた。

 

「あのさ。紫の」

『紫!?』

 

 女性が裏返った声で叫ぶ。あー、うるせえ。胸中でそうぼやきながら水輝はしかめ面になった。が、声だけはごく普通に言う。

 

「そう。紫の居場所、知りたいんだけど」

『なっ、なっ、なっ』

「あ、そうそう。学に許可貰ったから、諜報部のやつ動かしていいって」

 

 じゃ、頼んだ。明るい声で言ってから水輝は一方的に通信を切った。それから身を乗り出して学に訊ねる。

 

「食堂は動いてんだろ? 使えそうなのいないのか?」

「あんたって人はもう!」

 

 悲鳴のような声で言ってから学がスーツのポケットから携帯電話を取り上げる。泣きそうな声で電話し始めた学を余所に、水輝はシートに深く腰掛けた。窓際に座る鈴がぼそぼそと何かを言っている。どうやら優一郎と話をしている最中らしい。

 

「移動に絶対、金遣ってる筈だから……そっち辿った方が速いかな」

 

 水輝はそう呟いて頭をかいた。すると隣で地図を凝視していた奈月が顔を上げる。

 

「ちょっと魔法を使っていいですか?」

「ああ」

 

 笑顔で告げた奈月に水輝は頷いた。するとその横でぎょっとしたように鈴が目を見張る。

 

「幻の桜よ吹雪のように散れ」

 

 奈月が呪文を詠唱した後、ロールスロイスの周辺に桜吹雪の幻影が現れた。宙に浮かんだ桜の花びらは雪のようにも見える。僅かの間、車を取り巻いたそれが一気に散る。おおー、と水輝は思わず感嘆の声を上げた。だが鈴や学の目には見えないらしく、怪訝そうな顔をしている。

 

「えっと、北に十キロ移動していただけますか?」

 

 学に言いながら奈月が地図に何事かを書き込む。了解、と声を返した学が頷く。なるほど、魔法で探すという方法があったか。そう呟いて水輝は奈月の頭を撫でた。

 

 奈月に言われた通りに学が車を移動させる。そこでまた、奈月は呪文を詠唱した。すると同じように桜吹雪の幻影が散る。水輝は奈月が膝に乗せている地図とダッシュボードの上にあるカーナビゲーションシステムのディスプレイとを見比べた。

 

「だいたいですけど、この線の交点のあたりだと思います」

 

 そう言いながら奈月が地図の一点を指差す。車を路肩に寄せて停めた学が振り返って即座に携帯電話を耳にあてがう。水輝も通信機のスイッチを入れた。

 

「コードワイバーン」

『はーい、こちらねねこ食堂。ご注文は?』

「阿呆。なにばかやってんだ、耀」

 

 挨拶抜きで水輝は容赦なく言い放った。途端に通信機の向こうでおお、と耀が笑う。水輝は再度、阿呆、と言ってから言葉を継いだ。

 

「上名木湖周辺を完全封鎖。絶対、紫を逃がすな」

『あいあいさー』

 

 無駄なことは言わず、それだけ返事して耀が通信を切る。水輝は次いで通信室を呼び出した。先と同じ通信士が出る。水輝は口早に同じことを告げてから学を見た。ちょうど、電話を切った学が振り返る。

 

「一応、マスコミはこっちが動くまで抑えられるから……でも、そんなに時間はないわよ」

「了解。んじゃ、出せ」

 

 短く言ってから水輝はシートに寄りかかった。大きく息をついて額を覆う。隣に腰掛ける奈月の肩を抱き寄せ、水輝は耳元にありがとうと囁いた。奈月が笑顔でそれに応える。

 

 立城が本気で隠れようとすれば、水輝には足跡は辿れない。が、一緒にいる桜は別だ。あれは使い魔としてはとても未熟で、己の気配を消す術を知らない。水輝は奈月が術を使うまでそのことを失念していたのだ。




登場人物おおすぎ問題w
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