……が、こう……なんか恥ずかしい感じのシーンというか……w
「いや、かなり無理したみたいだから思い出せなくても仕方ないよ。僕を抱きかかえてこの翼で飛んだんだよ」
そう言いながら優一郎が手を伸ばして多輝の翼に触れようとする。だがその手は銀色の羽根を空しく突き抜けてしまう。多輝は困惑した面持ちで自分の背中にある翼と優一郎の顔とを見比べた。
「あの……ごめん。これ、しまえなくて」
多輝は呟くように言いながら翼を軽く動かして身体の前に向かって曲げてみた。綺麗な銀色の羽根の揃った翼はだが、多輝の手でも触ることが出来ない。多輝は消沈した面持ちでちらりと優一郎を見た。
「どうして? いいじゃない。似合ってるし。天使みたいで可愛いよ、多輝」
「え、あの、その」
にっこりと笑って言われた途端、多輝は真っ赤になった。うろたえる多輝の翼が自然と元の位置に戻る。
「でもほら、外に出たりとか出来ないし、それだと色々と困ることも」
両手を意味なく振り回して多輝はぎこちなく言葉を継いだ。
「鉄道を使って、屋外実験場へ出ればいい。あそこなら人も居ないし。飛ぶ訓練でもする?」
そう言いながら優一郎がくすくすと笑う。多輝は真っ赤になってスカートをつかみ、俯いた。そういう意味じゃない。優一郎に何か用事を言われた時に出られないのは困る。多輝はだが思いを口にはしなかった。黙って首を横に振る。
おれが出来る程度のことは、多分他の奴らにも出来るもんな。そう心の中で呟いて多輝は顔を上げた。
「多輝。君は誰のもの? 君の主は誰?」
ふと優一郎が言う。多輝は少し不思議に思いつつも優一郎だと答えた。何故、優一郎はそんなことを訊くのだろう。
「君の価値は僕が決める。僕には君が必要なんだ。ずっと気張らなくてもいいんだよ。休むときは休んで、英気を養うことも大切だよ」
ゆっくりとひと言ずつ言い聞かせるように優一郎が告げる。多輝は僅かに顔を輝かせてからすぐに沈うつな面持ちになった。自然と顔に差していた赤味も消える。
「でもおれ、他の奴らみたいに役に立ってないみたいな感じ、するし……」
多輝はそう呟いて俯いた。
「大変な思いをさせてしまったから記憶を無くしてしまったけど、冥界で君は大活躍したんだよ。自信を持つんだ」
「でも」
だって何も覚えていない。そう言おうとして多輝は口を噤んだ。そこで何があったのかも、具体的に何をしたのかも判らない。冥界という場所がどういったところであったかすら覚えていない。それでは自分が何事かを成したことにはならないのではないか。
多輝はそう考えてから小さくため息をついた。顔を上げて出来るだけの笑みを優一郎に向ける。
「ええと、それで? 何か用があって来たんじゃないのか?」
平静を装って多輝は訊ねた。
「実は君にプレゼントがあるんだ。といっても梨恵さんに作ってもらってるんだけどね。もうすぐできあがるから、それまでどうしようかな……」
「プレゼント?」
多輝は目を丸くして問い返した。一体、何だろう。それまで悩んでいたことも忘れ、多輝は楽しさに心を躍らせた。自然と顔がほころんでくる。
「服だよ。そうだ、すぐに着てもらおうと思っているから、裸になってもらえるかい?」
優一郎がぽん、と手を叩いて言う。多輝はえっ、と目を見張ってからわかったと頷いた。ちょっと待ってろ、と優一郎に言い置いて身を翻す。多輝はそのままバスルームに向かおうとした。
「待って。どうしてここで脱がないの?」
「えっ」
裏返った声を返して多輝は足を止めた。ぎくりと肩を竦めて恐る恐る振り返る。いや、ほら、と言葉を継いでから多輝は空笑いした。
「えーと、やっぱりさ。……そうだ! 洗濯! この服、そろそろ洗濯した方がいいかなあって」
ついうっかりいつもの調子でショーツをセレクトしていたことを忘れていた。多輝はじりじりと後ろ向きでバスルームに向かいながら優一郎に愛想笑いをしてみせた。
「多輝が脱ぐところ見たいな。だめ?」
「うっ」
上目遣いで言われ、多輝は硬直した。優一郎が軽く首を傾げてじっと多輝を見つめる。多輝はごくん、と生唾を飲んでから慌てて首を振った。
「ほら! あれだよ! ええと……ええと……こう、何ていうかたしなみというか」
多輝は自分が何を言っているのか判らなくなりながら必死の面持ちで告げた。いつの間にか顔が真っ赤になっている。だがそのことに気がつかないまま、多輝は懸命に言い訳を試みた。
「やっぱり、その、好きな男の前で脱ぐってのは、ほら」
そこまで言って多輝は自分の言ったことに気付いて更に動揺した。どさくさに紛れて何を言っているんだ、おれは! そう内心で自分を叱りつける。
「だったら、態度で示してほしいな」
そういえば、君は、ヒューマノイドとして僕に対する忠誠と愛情を示すポーズを自分から取ってくれたことなかったね。ちょっと寂しいなあ。そう言って優一郎が寂しそうな笑みを浮かべる。途端に多輝の下腹部がずくん、と疼く。どもりながら多輝は慌ただしく周囲を見回した。
「だ、だから、ええと、脱いでくるから! ちょっと待ってろ」
そう言った後、多輝は焦りながら踵を返した。焦った多輝の翼が無意識のうちに動く。え、と多輝が目を見張る。次の瞬間、多輝の身体は少し浮かんでそのままバスルームの扉に向かって飛んだ。高速で動いたために受身を取ることすら出来ない。多輝は身構える間もなくけたたましい音を立ててバスルームの扉に突っ込んだ。
「いてえええええ!」
頭や肩を強かに打ちつけ、多輝は悲鳴を上げた。背中の翼はほんの少し動いただけだ。多輝は床にうずくまりながら涙を浮かべて打ち付けたところをさすった。
ラブコメが始まってる気がします。