※この作品はR-18です。

魂の座 四部 苺の季節   作:伊駒辰葉

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やっと誤解がとけますw
エロシーンはありません。


渾身のプロポーズ 3

 ふと立城は目を上げた。

 

「……もしかして僕の胎が目的?」

 

 そのことに思い当たって立城は静かな声で水輝に問い掛けた。すると水輝が困ったように笑って肩を竦める。

 

「正直に言うとそれもあるな。まあ、その場合、相手はおれでなくてもいい訳だが」

「そう」

 

 やっぱり、と苦笑して立城は呟くように答えた。

 

「あの、母上……」

 

 困惑気味に優一郎が声を挟む。立城はなに、と促した。

 

「この婚約の打診の根拠になっている誓約が結ばれた時、水輝さんは記憶を無くしていて、そのあたりの事情はすっぱり忘れていたと思うんですけど……」

 

 それを聞いた立城は難しい顔をした。横目に優一郎をちらりと伺ってから水輝をじっと見つめる。水輝は肩を竦めただけで何も言わない。

 

「僕じゃなくてもいいんでしょ?」

 

 胎以外の目的なら特に自分でなくとも用は足りる。立城は小声で水輝に訊ねた。すると困ったように笑って水輝が頭をかく。

 

「まー、抱く女には事欠いてないんでな。性欲処理の目的って意味なら、お前でなくてもいいな」

「そうだよね」

 

 立城はそう答えて頷いた。それから水輝を真っ直ぐに見つめる。

 

「じゃあ僕じゃなくてもいいでしょ」

「性欲処理だけならな」

 

 立城の声に水輝が即座に切り返す。立城は疑問を覚えて眉を寄せた。胎でもなく性欲処理の目的でもないとなると、他に自分と結婚したいと思える理由が思い浮かばない。しばし考えを巡らせてから立城は指を鳴らした。

 

「ああ。紫翠の誓約の件については反故にするとまずいよね。それで?」

「いや……もう……何と言っていいか」

 

 思いついたままを口にした立城に水輝が呻くように言う。それから水輝は深々とため息をついて肩を落とした。

 

「全くこの女はどこまでも鈍いな」

「水輝の傍にいるってあれでしょ? 僕も出来る限りその誓約には従わなきゃならないのかな」

 

 立城は考えながら口許に指を当てた。だが紫翠の誓約が鍵になっているなら、優一郎もそれに従わなくてはならないことになる。何しろ紫翠は幾つかに力を割ってしまっているのだ。そのことに気付いて立城はあれ、と声を漏らした。

 

「あー、もう! まどろっこしいな!」

 

 唐突に叫んで水輝が立城の手を取る。何事かと目を見張った立城の左手の手袋を外し、水輝がそれを床に打ち捨てる。なに、と慌てた声を上げた立城の左手をつかんだまま、水輝がタキシードのポケットに手を入れる。取り出されたものを見て立城は息を飲んだ。

 

 美しい宝石のついた指輪が光っている。

 

「ちょっと! 何するの!」

 

 つかんだ左手の指に強引に指輪を嵌めようとする水輝に立城は悲鳴じみた声で叫んだ。右手で水輝の右手をつかんで力をこめて押し退けようとする。だが水輝も力いっぱい右手を動かす。にらみ合う二人の間で力が均衡し、互いの手が震える。

 

「水輝さん。強制はやめてください」

「うわっ!」

 

 優一郎が告げた瞬間、水輝の手が滑り、立城の手から外れる。立城は肩で息をしながら庇うように左手を右手で包んだ。宙に放り出された指輪を慌てたようにつかんで水輝も肩で息をする。

 

「何なの、一体」

 

 乱れた呼吸を整えながら立城はしかめ面で言った。

 

「母上。水輝さんの申し出を承諾するか、断るか、返答を僕が十数えるまでにお願いします。返答がなかった場合は承諾したものと見なします」

 

 そう言った後、優一郎がゆっくりと数を数えだす。

 

「ちょっと! だから何なんだよ、一体!」

「だから、好きだっつってんだ! この鈍感女!」

 

 水輝が立城に負けない声で叫ぶ。それを聞いた立城は真っ赤になった。優一郎は身体の後ろで手を組んで数を数えている。

 

「いや、え? でも、あの」

 

 立城は焦りながら水輝と優一郎とを見比べた。どうだ、参ったかと水輝がふんぞり返る。それまで目を閉じて数を数えていた優一郎が片目を開ける。立城はその場に硬直した。

 

 ほら、と水輝が指輪を持った手を差し出す。立城は顔を真っ赤にしたままで震える左手を差し出した。左手の薬指に水輝の指輪が嵌る。立城は俯いたまま、その左手を大切に右手で包んだ。

 

「……お受け、します」

 

 呟くように立城が言った瞬間、優一郎が数を数え終わる。

 

「母上、そして水輝さん、ご婚約おめでとうございます」

 

 優一郎がにっこりと笑って言う。立城は真っ赤になって俯いたまま、小さく頷いた。

 

「時間ぎりぎりだな」

 

 水輝が腕に嵌めた時計を見下ろして言う。立城はそれを聞いて目を見張った。

 

「え?」

 

 慌てて顔を上げた立城は水輝と優一郎とを見比べた。二人はやけに真面目な顔をしている。

 

「いえ、吉良瀬鉄道が使えますから」

「よし。じゃあ、さっさと行くか」

 

 言いながら二人が足早に歩き出す。立城は戸惑いながらその後を追った。

 

「ちょっと、行くってどこに?」

「あっ、水輝さんこれを。母上は当面の間、機体でしょうから」

 

 そう言った優一郎の手の中にマスター登録用のスティックが現れる。おう、と水輝が受け取ってくるりと振り返る。唐突に止まった水輝の胸に立城は飛び込む格好になって足を止めた。




おめでとう、と言いたいところですが。
残念ながらそーはならないのがこの2人。
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