※この作品はR-18です。

魂の座 四部 苺の季節   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。
ここからけっこー大変になります。


渾身のプロポーズ 5

「錯誤によるものですし、吉良瀬の当主は母上、紫さんだということで、いいと思いますよ」

 

 そう言って優一郎がにっこりと笑う。立城は驚きに目を見張って水輝を見た。だから言ったろ、と水輝が片目を閉じる。立城は嬉しさに微笑みを浮かべてうん、と頷いた。

 

「地下の陣を崩さないように路線を拡大させようと思って」

 

 照れくささに頬を染めて立城は小声で言った。今現在、この線は専用車両しか走らせていない。だが一般の人々に開放することが出来たら、清陵の交通事情はかなり改善される筈なのだ。通常ダイヤに専用車両を組み込む形にすれば、特殊な駅にも車両を回すことが出来る。

 

「実は、清陵学園駅は二重構造にするように既に工事が終わっています。今日乗ったのは地下二階の新ホームですよ」

「あ、そうか。駅の方を変えるっていう方法もあるよね」

 

 ぽん、と手を叩いて立城は優一郎に微笑みかけた。立城は駅の数を指折り数えて頷いた。基本の路線は環状線になっている。その主要駅にかませるように別の路線を敷けばいい。

 

「なんだか楽しみだな。昔みたいだ」

 

 何気なく呟いた立城の肩を水輝が抱き寄せる。

 

「んだからとっとと力回復しろ。お前が動けなきゃ意味ねえだろ?」

 

 耳元に言われて立城はくすぐったさに首を竦めた。それから立城は頬を染めて水輝を見た。

 

「……手伝ってくれる?」

「あー、使い魔の作り方から、力の保持の仕方から、手取り足取り教えてやるよ。ついでにお前は魔法も覚えとけ。落ち着いたら龍宝珠界に叩き込んでやる」

 

 笑いながら言って水輝が覚悟しとけ、と言う。それを聞いた立城は眉を寄せた。

 

「駄目だよ。龍宝珠界の時間の流れはこことは違うのに」

「あ。そっか」

 

 水輝が軽く目を見張って答える。立城はもう、と呟いてから困ったように笑った。すると水輝がぱちん、と指を鳴らす。

 

「そうか。行くのが駄目なら呼べばいいじゃん」

「……え?」

 

 訝りに低い声を漏らして立城は水輝を凝視した。まさか、と呟いた立城に水輝が嬉しそうに笑いかける。

 

「あの、ね。水輝。便利道具みたいに呼び出すのはどうかと思うよ? それに何で君が呼べるの」

 

 そう言いながら立城は考えを巡らせた。確かにあの時、水輝は龍宝珠界から直にラスティを呼びつけた。本来、龍神と言えどそんな真似は簡単には出来ない。だから立城はてっきり水輝は翠と何らかの約束をしてラスティを借り受けたのだと思っていたのだ。

 

「なに言ってんだ。お前らも総一郎先輩呼んだりしてんだろ?」

 

 けろりとした顔で水輝が言う。立城は目を見張って息を飲み、慌てて斎姫と優一郎とを見た。不思議そうな顔をしている斎姫の隣で優一郎が困惑した面持ちで言う。

 

「あの、それは……どういう?」

「だから総一郎先輩を呼んだりしてんじゃねえの? 龍宝珠界の住人だろ? あれ」

 

 あっけらかんと水輝が言う。立城は思わずその場に立ち上がってからぐらりと身体を傾けた。うっかりヒールが片方壊れていたことを忘れていたのだ。悲鳴を上げた立城を水輝が腕に抱いて引き寄せる。立城は水輝の膝の上に倒れてから慌てて顔を上げた。

 

「どういうこと!?」

「は? なに寝ぼけてんだ、お前。総一郎先輩をお前がこっちに呼んだんじゃないのか?」

 

 今度は眉を寄せて水輝が言う。立城は焦って強く首を横に振った。

 

「知らないよ、僕は! そんな話!」

「は?」

 

 真面目に叫んだ立城に水輝が間の抜けた声を返す。

 

「なるほど、そうか、なるほど」

 

 一人、納得顔で優一郎が頷く。立城は身体を起こしてきちんと座り直しながら考えを巡らせた。総一郎は確かに優秀だが、紛れもなく吉良家という人の家に生まれている。……筈だ。自分の考えに今ひとつ自信が持てず、立城は呟きでそう付け足した。

 

「お前が画策してこっちに引っ張ったんだとばっか思ってたけどな。おれは」

 

 そう言いながら水輝が頭をかく。

 

「とりあえず、魔法なら奈月さんに教えてもらうという手もあるんじゃないですか?」

 

 急に話の方向を優一郎が戻す。それを聞いて立城はああ、と頷いた。水輝が苦笑して肩を竦め、身を屈める。水輝は壊れていた立城の右のハイヒールを取り上げて身体を起こした。ドレスと同じ藤色のハイヒールを水輝がのんびりと指で撫でる。すると壊れていた踵は元に戻った。

 

「ほら。これでいいだろ?」

「あ……ありがと」

 

 戸惑いながら答えて立城は水輝が床に据えたハイヒールを履き直した。

 

「ま、最悪おれが教えればいっか。奈月に頼むとどうも力の調整がなあ……」

 

 そう告げて水輝がくすくすと笑う。立城は眉をぴくりと上げてそう、と気のない声を返した。何事かを思い出しているのだろう。水輝はまだ笑っている。

 

「屋敷はあのまま残すとして……おい、優一郎。お前、あの地下を拠点にするのか? 家とかいるんだったら今のうちに交渉しとけよ」

 

 まだ笑いを含んだ声で水輝が優一郎に言う。

 

「僕の城はあの地下研究室ですから、それに」

 

 母上の補佐役としては口出しさせていただきますから。そう続けて優一郎がにっこりと笑う。それを聞いた立城は目を見張って優一郎を見た。

 

「手伝ってくれるの?」

 

 戸惑いと不安を隠さず立城は優一郎にそう訊ねた。

 

「自分が権力を握るつもりもありませんけど、正直、母上だけにまかせておいては不安ですからね」

 

 小さく笑って優一郎が言う。立城は嬉しさをいっぱいにこめて心から笑った。

 

「ありがとう!」

 

 そう告げた立城の横で水輝が何故か赤くなって口許を手で覆う。そのことに気付いた立城は驚きに目を丸くして水輝を見た。次いで斎姫と優一郎を見る。二人はそれぞれが驚いたような顔になっている。どちらの顔も少し赤い。

 

「ど、どうしたの?」

 

 急に不安になって立城は隣に座っていた水輝にとりあえず声をかけた。すると水輝がそっぽを向いて呻く。

 

「いや、初めてお前の全開の笑顔っての見て、ちょっとびびっただけだ」

 

 そう言ってから水輝がわざとらしい咳払いをして立城の頭をぽん、と叩く。立城は訝りに眉を寄せた。

 

「さっきの顔、人に見せるなよ。ちょっと攻撃力高すぎる」

「ど、どういう意味?」

 

 そんなに変かな。不安に呟いて立城は自分の頬を両手で押さえてみた。そんな立城を横目に水輝がため息をつく。

 

「いや、もう、これは真面目に育てるしかないっぽいなあ」

 

 やれやれと言いながら水輝が腰を上げる。ゆっくりと電車が速度を落とし、やがてホームに滑り込んで停車する。水輝に手を引かれて立城は電車から静かに降りた。ホームの壁には清陵中央駅と駅名が記されている。誰もいない改札を抜け、四人は地上に続く通路に向かった。




総一郎さんwww
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