長いのでエピソードも切ってます。
エロシーンはありません。
広々とした部屋には大勢の人々が詰め掛けていた。並べられた長いテーブルにはたくさんの料理が乗り、談笑しながらの立食パーティとなっている。一応は司会者もいるが、最初に立城と水輝を紹介した程度の仕事しかなかったらしく、今は客に混ざって歓談中だ。司会進行役の要、フロアを行き来するウェイトレスたちは全てヒューマノイドだ。が、客たちの誰もそのことには気付いていないようだ。そして多輝もまた、他の者と同様にウェイトレスをしていた。
「お待たせ致しました」
料理はあらかじめテーブルに並んでいるため、ウェイトレスが運ぶのは主に飲料だ。注文を受けたワインをトレイに乗せた多輝に嫌に明るい声で女性が礼を言う。
「んまぁぁあああ! 可愛い! どうもありがとねっ」
ありがとうございます、と儀礼的に言おうとした多輝は相手の女性を見て訝りに眉を寄せた。かなりの美人に見えるが、どうも変な雰囲気をしている。多輝はどうも、と素に戻って言ってからワイングラスを女性に手渡した。そして多輝は何となく女性の隣にいる少女に目をやった。愛らしいブルーのドレスに身を包んだ少女が多輝に会釈をする。どっかで見たような。そんなことを思いつつも多輝は会釈を返してフロアを歩き出した。ウェイトレスはこうしてフロアを歩き、テーブルの空の容器を下げ、呼び止められたところで客から注文を取るのが仕事だ。
銀色のトレイに空いたグラスを乗せたところで声がかかる。
「ちょいと、そこのウェイトレスさん。おれさまに烏龍茶を持ってきやがれ」
「うあ、すげえむかつく」
背後からかかった声に多輝は低い声で言ってから振り返った。案の定、背後に水輝が立っている。多輝はけっ、と喉の奥で言ってちょっと待ってろと答えてトレイを持ち上げた。
すると水輝の後ろからひょっこりと奈月が顔を覗かせる。多輝はああ、と呟いてから奈月にも声をかけた。
「奈月さんは? 何かあったらついでに持ってくるけど」
愛らしい奈月の服はドレスというよりはふわふわした綿菓子のように見える。桃色のスカートの中にはペチコートが何枚も重なっているのだろう。緩やかな曲線を描いてスカートはふんわりと膨らんでいる。膝下までの丈のスカートからはほっそりとした綺麗な脚線美が覗いている。胸元には大きな青い宝石のついたブローチもついており、耳には同じ色の石のついたピアスも嵌っている。髪はいつものストレートではなく、軽いウェーブがかかっている。いつもに増して愛らしい奈月の姿に多輝はつい見取れてしまった。
「ありがとうございます。でも、わたしはいりません」
あまり、大量の食事をとることはできないんです。小声で続けて奈月が多輝に軽く頭を下げる。
「あ、ああ。ごめん」
そういえば奈月は生身ではなかった。そのことを思い出して多輝は詫びた。次いで奈月の横に立つ幼い少女に何となく目をやる。見目はかなり整ってはいるが、幼い割にやけに静かな顔をしている。多輝はしばしじっとその少女を見てから再び奈月と水輝に目を戻した。三人を同時に視界に入れてから、多輝は何気なく言った。
「何かそうしてるとあんたら、親子みたいだぞ」
「主賓になにを抜かすか、このくそがき」
そう言って水輝が指で何かを弾く。小さなものに額を打たれて多輝は痛みに顔をしかめた。何だよ、とぼやきながら床に屈んで額に当たって落ちたものを拾い上げる。それは薄い紙に包まれたキャンデーだった。
「水輝さん、もう、やめてください」
第二撃目を構えていた水輝に奈月が慌てたように言う。次いで、奈月は多輝を鋭い目つきで見た。
「多輝さんも、紫さんを差し置いてそのような発言をするのは失礼です」
「あ、うん……ごめん」
手の中のキャンデーをちらりと見てから多輝は素直に詫びた。それから多輝は上目遣いに水輝を見た。水輝は退屈そうに余所を向いて欠伸をかみ殺している。
「おい。その主賓がこんなとこにいていいのかよ」
そう言って多輝はフロアの一角を指差した。そこにはやけに人が溜まり、賑やかな話し声がしている。多輝が指差した方を見やった水輝が苦笑して肩を竦める。
「おれが行っても仕方ないだろ。お偉いさん方の相手なんざ、してられっかよ」
うっとうしい。水輝が顔をしかめてそうぼやく。それから水輝はふと気付いたように奈月の隣に立つ少女の頭を撫でながら言った。
「苺にはまだ紹介してなかったな。こいつは桜。立城の使い魔だ」
周囲に聞こえないように少し小さな声で水輝が言う。多輝は驚きに目を見張って桜と呼ばれた少女を凝視した。確かに面影はある。が、かつて立城の秘書を務めていた使い魔と、目の前に立つ少女が同一人物とは到底思えない。
「え、あの桜、さん? だっておれが見たのは」
「あー。前のはおれがばっさり殺したからなあ。今のこいつは立城が新しく作ったやつだ」
まるで世間話のように言いながら水輝が桜の頭をぽん、と叩く。すると桜が凄まじく嫌そうな顔をして水輝の手を払った。
「馴れ馴れしくしないでください」
そう言って桜が踵を返し、離れていく。慌てたように奈月がそれを追いかけていく。残った水輝はやれやれと肩を竦めて苦笑した。
「立城を拉致ってからずっとあの調子でな。どうも随分とおれのことが気に入らないらしい」
「そりゃ、あんたが立城をかっさらったからだろ」
呆れた顔で多輝は答えた。すると水輝が阿呆、と低い声で言う。
「使い魔が主の決めたことに不服を唱えるなんてある筈ないだろ」
聞こえるか聞こえないかの声で言ってから水輝が手を振る。
「とっとと行け。そしておれさまの烏龍茶を運びやがれ」
どこまでも偉そうに水輝が言う。判ったよ、と乱暴に言い捨ててから多輝はキッチンに引っ込んだ。備え付けのテーブルに乗せられたデキャンタからグラスに烏龍茶を注ぎ、氷を幾つか放り込んでから水輝の元に戻る。だがいつの間にか水輝は見知らぬたくさんの女性に囲まれていた。笑顔で女性達と話をしていた水輝が多輝を見止めておう、と手を上げる。
婚約発表の場なのですが、ものすごい人数……と書けているかどうか(汗)