……まあ、これは仕方ない……。
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「他に遊べるヒューマノイドは幾らでも」
呆れたように言いながら顔を上げたところで多輝は目を見張った。俯き加減になった優一郎の頬に涙が伝っている。
「君は人形じゃないから」
「は? なに言ってんだ。今のおれはヒューマノイドだろ」
優一郎の涙声に動揺しつつも多輝は答えた。ドアの向こうからは人々の騒ぐ声が聞こえている。
「機体を纏ってはいるけど、君は人形じゃない。だから」
俯いて優一郎が言う。多輝はやれやれとため息をついてハンカチを優一郎に差し出した。優一郎が俯いたままそれを受け取り、顔を拭う。
「あいつらの熱にあてられてのぼせてんじゃねえのか? そもそもおれなんざいなくても、不自由はしないだろ? 斎姫がいるんだし」
そう言ってから多輝はドアの取っ手に手をかけた。とにかく言われた通りにはする。そう言い置いて多輝はドアに向き直った。
「ぼくを置いていかないで!」
そう叫んで優一郎が再び多輝に抱きつく。多輝は目を見張って慌てて周囲を見回した。幸い、誰もいない。そのことを確認してほっと息をついてから多輝は優一郎を引き剥がそうとした。が、力任せに抱きつかれているために拘束が解けない。
「ちょ、ちょっと! 離せってば! おい、優一郎! 聞いてるのか!?」
そう言いながら多輝はじりじりとドアから離れた。こんなところを誰かに見つかったらまずい。多輝は舌打ちをして仕方なく先ほどの控え室に転移した。誰もいない控え室のテレビはつけっぱなしになっている。
「やだっ! もう一人になるのはやだっ!」
「な、なに言って」
急に幼い口調になった優一郎に面食らって多輝は焦った声を上げた。だが優一郎は嫌だと言いながら首を横に振る。首筋を優一郎の髪に撫でられた多輝はこみ上げてくるものを懸命に堪えた。
「ほら、いいから離せよ。第一、お前には斎姫がいるだろが」
ため息をついて多輝は優一郎を強引に引っぺがした。
「やっぱり、また、ぼくを置いていっちゃうの?」
俯き加減になった優一郎が泣きながら言う。それを聞いた多輝は訝りに眉を寄せた。いつもの優一郎とは違う。だがそれを判っていても多輝は一応、ごく普通に対応した。
「なに言ってやがる。お前がおれを置いていくんだろうが。斎姫と結婚すんだろ? 良かったじゃん」
激しい違和感を覚えつつも多輝は普段通りに素っ気無く言った。多輝の渡したハンカチで顔を拭いながら優一郎が涙声で言う。
「ぼくが邪魔なの?」
「うあー……話がかみ合ってねえ」
疲れた声で言いながら多輝は手近な椅子に腰掛けた。背もたれにかかっていたウェイトレスの制服を探って煙草を取り出す。一本咥えて火を点けてから多輝はうなだれた。何で急に優一郎は子供のような口調になっているのだろう。
「いいか? お前は斎姫と結婚すんだろ? したら、邪魔なのはおれだろ? まあ、要の奴はそれでも引き下がりそうにないし、そもそも斎姫がいるんだからお前は一人じゃない」
遊ぶなら他の奴使え。仏頂面で言いながら多輝は煙草をふかした。どうも調子が狂う。
「いつきってだれ? かなめって?」
「はあ? なに寝ぼけたこと」
言ってんだ。そう言いながら多輝は呆れた顔で優一郎を見た。が、優一郎は不思議そうな顔をして首を傾げている。多輝はしばし優一郎を凝視してから眉を寄せた。まだ長さの残る煙草を灰皿に押し付けて立ち上がる。
「……冗談に付き合ってられっか」
不機嫌に言ってから多輝は歩き出した。部屋を出ようとした多輝に慌てたように優一郎が追いすがる。
「いかないで!」
「ふざけるのも大概にしろ! てめえが記者会見に出ろっつったんだろうが!」
後ろから抱きつかれた多輝は乱暴に優一郎を振り解いた。勢いよく振り返って多輝は優一郎に指を突きつけた。
「都合のいい時だけふざけた真似すんな! どいつもこいつも……ばかにしやがって」
誰も何も教えてくれない。こんな時ですら冗談で誤魔化されているのだと多輝は本気で考えていた。どうせまた後になって手の内を少しだけ明かして終わりにされる。そして巻き込まれているうちに全てが終わっているのだ。
「ふざけてなんかいない。ぼくは、ぼくは」
切れ切れに言いながら優一郎が泣きじゃくる。多輝は苛立ちに任せて着ていたドレスを脱ぎ捨てた。それを床に打ち捨てながら叫ぶ。
「もう知るか! やってられっかよ、こんな茶番!」
多輝は控え室の隅にあるロッカーに歩み寄り、中から手ごろな服を選び出した。袋に入った真新しいシャツとジーンズを引っ張り出す。多輝は怒りに任せてビニールの袋を引き裂いた。
「天彌! いかないで! ぼくを置いて行かないで!」
唐突に後ろから抱きつかれる。多輝は目を見張って息を飲んだ。下着しかつけていない多輝の身体を優一郎が強く抱きすくめる。が、呼ばれた名に覚えがない。なのに多輝は優一郎に言われた瞬間に抵抗出来なくなった。身体の力が一気に抜け、自然と優一郎に寄りかかる格好になる。
「て……め。ヒューマノイドの……弱点つきやがって」
絶え絶えに言いながら多輝は何とか一人で立とうとした。が、どうしても力が入らない。おまけに強い欲求がこみ上げてくる。がむしゃらに抱きついた優一郎の腕が多輝の乳房を圧迫しているのだ。
「もう、ぼくを置いていかないで」
多輝の耳元に言ってから優一郎が腕の力を緩める。解放されるのか、と多輝が安堵の息をついた途端、優一郎は前に回って身を屈め、多輝の胸に顔を埋めた。その瞬間、電気のように快感が走る。思わず掠れた声を上げ、多輝は全身の力を抜いた。一気に脱力した多輝の身体を優一郎が慌てたように抱きとめる。
天彌でたよ……w