※この作品はR-18です。

魂の座 四部 苺の季節   作:伊駒辰葉

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このエピソードで五章は終わりです。
エロシーンはありません。


せつなと天彌の物語 1

 大騒ぎしていたレポーターたちが去り、会場の客が全て去り、片づけが終了した時は既に深夜になっていた。水輝は疲れ果てた身体を引きずるようにしてホテルの最上階の部屋に入った。ぐったりとした水輝の後に、これまた疲れきった立城が続く。

 

「……なんで……たかが結婚で……こんな目に」

「それは……僕のせい……なんだろうけど」

 

 力のない声で会話をしつつ、水輝は部屋の明かりをつけた。この日のためにわざわざ予約したのだというスイートルームには可愛らしい装飾が施されている。テーブルにはたくさんの料理と花が飾られ、窓辺にかかるカーテンには紙テープで飾り付けまでしてある。ワインクーラーでは上等のワインが冷やされている。水輝はそれらを横目に真っ直ぐにソファに向かった。倒れるようにしてソファに沈む。続いて立城がくたびれた顔で椅子に腰掛けた。

 

 しばし二人は黙っていた。そもそも自分が口を滑らせたのがミスだったのだが、それにしても何もここまで騒ぎが大きくなることもないだろう。水輝は内心でしばしレポーターたちを罵倒した。ついでに要も心の中で罵っておく。

 

「まあ、ここまで来ればもうこれ以上は何もないだろ」

 

 ソファに寝そべって天井を仰ぎながら水輝はため息混じりに告げた。するとテーブルのワインクーラーからボトルを取り上げて立城が苦笑する。

 

「それはどうかな。多輝、何か勘付いているかも知れないよ」

「あー……くそがきか」

 

 呻くように呟いて水輝は勢いをつけて身体を起こした。ネクタイを解いてソファに放り、ついでにジャケットも脱ぐ。シャツの一番上のボタンを外してから水輝は立城の正面の椅子を引いた。腰掛けながら細いシャンパングラスを立城に突き出す。すると呆れた顔をして立城が水輝を見た。

 

「まさか飲むの?」

「んだよ。てめえのだけ注いでおれにはくれねってのか」

 

 椅子に横向きに腰掛けて水輝はおら、とグラスを揺らした。ため息を吐いた立城がグラスにシャンパンを注ぐ。互いのグラスの縁ををおつかれ、と合わせてから水輝は舐めるようにシャンパンを飲んだ。

 

「君が多輝に何を仕掛けているのかについては僕は詳しくは知らない。でも、無理に抑えてばかりいると、手を噛まれるよ」

 

 静かに語りながら立城がグラスを傾ける。水輝は苦笑してそうだな、と呟いた。

 

「もうお前もそれを使って悪さなんぞ企まねえだろうから教えてやるか」

 

 そう言ってから水輝はグラスに入っていたシャンパンを飲み干した。おかわりを要求しつつ、小声で言う。

 

「ずっと昔の話だ。紫翠が潰えて魂が浄化されている最中の話だからな。お前はまだ生まれてなかった」

 

 黒妖牙が天に牙を向いたことから始まった大戦の折、かつて水輝と共に黒妖牙の軍勢を脅かした者がいた。主龍神天輝の守護は金龍神の識晃が担い、天輝の率いる軍を火藍が取り仕切っていたあの頃、水輝は一人で軍とは全く別の動きをしていた。陽動も兼ねて水輝は黒妖牙の率いる龍神たちを暗殺していたのだ。

 

 そしてもう一人。鬼神と恐れられた水輝と共に同じ仕事をしていた者がいた。

 

「それが雷神と呼ばれた天彌だ。奴の力はもしかしたら八大を越えていたとも言われている」

「天彌……」

 

 立城が呟いて眉を寄せる。聞き覚えのないのは当然だ。その名は忌まわしいものとして後に完全に封印された。

 

 戦いの中で主龍神天輝は敵方の力になりそうな者を全て抹殺するように命令を下した。そこには龍神以外の力を持つ者たちも多く含まれていた。天輝の命令に従い、龍神たちはハンターや誓約者たちを根こそぎ殺していったのだ。

 

「天彌はおれの配下だった。天彌は自分からはそんなに喋る方じゃなくてな。思考も完全にシャットアウトしてやがったから、何を考えてるかあんま判んないとこもあって」

「参考までに訊くけど」

 

 水輝が苦笑しながら告げると立城が低い声を挟む。

 

「天彌を作ったのは誰?」

「おれだ」

 

 水輝はためらいもなく即答した。すると立城が目を細める。水輝は肩を竦めてシャンパンを少しだけ飲んだ。疲れた身体に心地いい酔いが回る。

 

「おれも思い出したのは最近だ。……尤も、おれも意識して作ったつもりはなかったらしいがな。そのせいで記憶が欠落してたらしい」

「君の場合は自己防衛のために記憶が落ちる傾向にあるからね。別にそれを責めるつもりはないよ」

 

 こめかみを指先で叩いてみせた水輝に立城が苦笑する。そうか、と笑って水輝は話を続けた。

 

「天彌はあの頃、とても大切にしていた者がいた。まだ龍神の恐ろしさを知らない人間の方が多かったし、特に警戒もしなかったんだろうな。無邪気なもんだった」

 

 黒妖牙との戦いが始まる少し前の話だ。そう続けて水輝はシャンパンを飲んだ。空になったグラスに立城が無言でおかわりを注ぐ。

 

 山奥の小さな村はずれに細い滝があった。そこでいつも天彌は一人の少年と会っていた。その少年の名はせつな。せつなは早くに両親を亡くし、天彌のことを母親のように慕っていたらしい。

 

 だが大戦が起こる。天彌はそれまでのようにせつなの許を頻繁に訪れることは出来なくなった。そのことを告げた天彌をせつなは泣いて引きとめようとした。が、天彌は何度もせつなに詫び、結局、せつなは天彌の説明に納得して頷いた。全く会えなくなる訳ではない。そう納得したのだ。

 

「んでも、そう事は簡単にはいかなくてな」

「……せつなが誓約者だったから」

 

 小声で立城が言う。そうだ、と水輝は頷いた。




ちょっとだけ真面目な話……に見えますけども。
そもそも設定とか書きながら出来ていくので、書いてる本人がびっくりしているのです、これ……w
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