実際にバトるとは思ってませんでした。
エロシーンはありません。
視界が開けると見知らぬ部屋の光景が見えた。随分と閑散とした部屋だ。何もないがらんとした部屋の隅にはダンボールが詰まれている。
「お前も大概、しつこいな。さっさと帰れ」
呆れたように言って目の前に立っていた多輝が手を振る。その背後にいた蒼と由梨佳がリビングらしい部屋を出て行く。優一郎はそれを見送ってから多輝に向き直った。
「過去がどうとか前世がどうとか僕は知らないし、関係無い。僕は多輝、君が好きだ。過去とか前世とか抜きにして、君が僕のことをどう思っているのか話してくれ。あっと、吉良瀬多輝のジョーカーの任を解く」
早口でまくし立てて優一郎はじっと多輝を見つめた。多輝がやれやれとため息をついて頭をかく。
「都合のいい時ばっか力使いやがって」
呆れたように言って多輝が優一郎を斜めに見る。それから多輝は腕組みをして優一郎に顎をしゃくった。
「おれはお前なんざ何とも思っちゃいねえ。てめえもとっとと正気に戻って人形の相手をしてやれ」
そう言って多輝が踵を返す。部屋の奥に向かって歩いてから多輝はその場に座り込んだ。フローリングの床に腰を下ろして壁にもたれかかる。機体に相当の負荷がかかっているのだ。
「多輝! 大丈夫かい?」
「寄るな」
思わず駆け寄ろうとした優一郎に多輝が鋭い声で言う。それから多輝は疲れたように笑ってみせた。
「護ってくれる相手なら要がいる。諜報活動させたいなら鈴がいる。斎姫だってお前の傍にいるんだし、おれがいる理由なんてねえだろ」
呟くような小声で言って多輝がため息をつく。優一郎はしばしじっと多輝を見下ろしてため息混じりに告げた。
「多輝って思ったよりも母上に似ているね」
ぼそりと告げた優一郎を多輝が苦笑して見つめる。
「そーかもな。あいつらもろくなことしやがらねえ……おれはこんなの望んでねえってのに」
そう呟いてから多輝が目を閉じる。全身の力を抜いた多輝がぐったりと壁にもたれる。その唇の端から赤い液体が筋になって落ちる。それを見た優一郎は仰天した。今は多輝の防御壁に阻まれて機体の内部の様子があまり見えない。もしかしたら多輝の機体には想像以上の負荷がかかっているのではないか。
「多輝、好きな人の傍に居たいって思うのは、へんかな?」
「だからてめえは斎姫についててやりゃいいだろうが」
呆れたように言って多輝が目を開ける。優一郎は沈んだ顔で多輝を見つめた。多輝は目を開けてはいるが苦しそうに呼吸をしている。時折、咳き込んでは口許を手で押さえる。その手には赤い液体がべっとりとついていた。
「その様子を見れば、君が嘘をついてるってことははっきりしてる。僕のこと、好きなんでしょ?」
「寝ぼけたこと抜かすな。おれは好きじゃねえっつってるだろが」
優一郎の問いに返した瞬間、多輝が激しく咳き込む。その後、多輝は疲れたように息を吐いて壁伝いに床に沈んだ。
「ちょ……っと……無理しすぎたかな……。悪い、おれ、寝るわ」
そう呟いたかと思うと多輝が目を閉じて深い息をつく。お前もさっさと帰れよ、と呟いてから多輝は寝息を立て始めた。多輝が眠りに就くと同時に優一郎の視界を遮っていた分厚い障壁が消えていく。優一郎はため息をついて多輝に近付き、その場に屈んだ。
とにかく連れて帰ろう。そう思って優一郎が多輝に手を伸ばした瞬間、背後で力が炸裂する。反射的に飛び離れた優一郎は振り返って目を見張った。
「申し訳ありません。多輝様の命ですので」
いつの間に現れたのか、部屋の入り口には蒼が立っていた。その後ろには由梨佳の姿も見える。多輝は最初から自分が沈んだ時のために蒼と由梨佳に命令を下していたのだろう。
「人形よ。本性を晒せ」
紫宝珠を器から取り出しながら優一郎は鋭い声を飛ばした。その直後、由梨佳が悲鳴を上げて床に沈む。宝珠を展開し、小さな盾と化しながら優一郎は蒼を見た。蒼はだが、静かな目で由梨佳を見ているだけだ。
「多輝様の修復は彼女にして頂きます。一刻の猶予もないのでは?」
そう言いながら蒼がその場からかき消える。次の瞬間、優一郎は容赦のない力で壁まで吹き飛ばされた。瞬間的に移動した蒼が優一郎の肩を打ったのだ。盾のおかげで肩自体にはダメージはない。が、壁に強かに全身を打ちつけ、優一郎は痛みに震えながら身体を起こした。
「そうだね、おねがい、するよ……。人形よ、そなたの主の修復を命ず……」
力なく言いながら優一郎は床に膝をついた。その直後、蒼が床を蹴って身を沈め、優一郎の鳩尾に膝を叩き込む。辛うじて盾でそれを防いだ優一郎は受身も取れないまま、再度壁に打ち付けられた。衝撃に息が止まる。
「さすが……だね」
呟くように言った優一郎に蒼が迫る。
「主を護らなければなりませんから」
ある程度の強さは必須です。淡々と告げてから蒼がゆらりと腕を上げ、優一郎に手のひらを向ける。優一郎はのろのろと顔を上げてその手を見つめた。
「お引き取りください。ここは多輝様の城。招待状のない方を放置してはおけません」
では、と蒼が告げる。次の瞬間、蒼の手のひらから力が放射され、優一郎は強制的に自分の部屋へと叩き返された。一気に視界が揺れて見慣れた部屋の様子が目に映る。
ちなみに由梨佳は命令通りにしてます。
なのでエロシーンはあるといえばあるのかも……?