王国の西部に広がる魔女の森。
腕に自信のある冒険者ですら立ち入らないこの森の最奥で俺は魔物達と戦っていた。
「ガァヴヴぅうッ!!!」
「うおっ、死にかけのくせにスゲェ威力だな」
相手にしているのは王種の魔ウルフ。
偶に人間の生活圏に一匹で現れると小さな都市すら壊滅させてしまう災害級の化け物だ。
それが俺の周りに五匹いる。
しかし、その全てが深傷を負っており、最初にあった威圧感は既になくなっていた。
「よっと!」
「グぎゃッ!!!」
飛び掛かってきたウルフを躱して隙だらけの身体に剣での攻撃を放つ。
それで首を落とす事に成功すると、他の四匹が怯んだ様に俺から距離を取った。
「喧嘩を売る相手を間違えたな。俺はこの森の中じゃ上から2番目に強いぞ」
魔物に人の言葉が分かるわけがないが、俺がそう言うと奴等は更に後退し、逃走する隙を窺い始めた。
だがそれを許す訳にはいかない。
師匠から与えられた今日のノルマは魔ウルフの魔石3個なのだ。最低でももう二匹ここで死んでもらう必要がある。
「悪く思わないでくれよ」
俺は魔法で身体能力を高めると1番近い個体に飛び掛かった。
音速に迫る攻撃は災害級の魔物に認識すらさせず、その身体を両断した。
結局、一匹には逃げられてしまったが、ノルマを達成した俺は森の中にある小さな家に戻る事にした。
危険な森の中にあるその家は、持ち主が施した強力な魔法で守られており、俺ですら傷ひとつ付ける事が出来なくなっている。
俺は2年間生活するその家の玄関を潜った。
「戻りました師匠」
「ん。おかえり。……早かったね」
俺を迎えたのは椅子に腰掛けて本を読んでいた小さな少女だ。
水色の髪に黄金色の瞳をした可憐な容姿。
森の妖精だと名乗られたら信じてしまいそうなほど美しい彼女だが、正体はこの森を支配する伝説の魔女だ。
見た目は12歳くらいだが実際は1000年以上生きているらしい。
実際、この2年間で一切容姿が変化していない。
俺は彼女の短いスカートから覗く太ももに目を奪われかけながら、今日のノルマの魔石を渡す。
「最近はもう魔ウルフにも手こずらなくなってきましたからね。倒すより探す方が時間掛かりましたよ」
「そう。随分と強くなった。流石私の弟子」
「全て師匠のお陰ですよ」
褒められた事で顔が緩みそうになる。
この世界で頼る者のいない俺を保護して力を与えてくれた恩人。それが彼女だ。
その期待に少しでも応えられているならそれ以上に嬉しい事はない。
「ところでこの魔石は何に使うんですか?」
師匠の対面に座りながら訊ねる。
魔ウルフの魔石が3個もあれば強力な魔道具を作り出せる筈だ。
「気になる?」
師匠は本から顔を上げてこちらを見ると小さく顔を傾けた。
相変わらず伝説の魔女とは思えないくらい仕草が可愛い。
顔が無表情なのもポイントが高い。
「勿論気になりますよ。前作ってた異空間に物を収納出来る魔法の袋も凄かったですからね」
「そう。あれは会心の出来だった」
「それで今回も魔道具を作るんですか?」
「……ナイショ」
少し口元を緩めながら師匠はそう答える。
それが彼女の笑っている時の顔だと知っている俺は珍しいものが見れたと謎の満足感を得た。
その表情から察するに完成させてから俺を驚かせたいのだろう。
そういう子供っぽい所が師匠にはある。
俺は「内緒なら仕方ないですね」とそれ以上聞く事はしなかった。
昼時になり、簡単な食事を一緒に食べてから俺達は食休みをする。
師匠は読書に集中しており、俺はコーヒーを飲みながらそんな彼女の姿を眺めていた。
本当に師匠は綺麗な顔をしている。
時々こうやって観察しているが見飽きる事はないし、なんなら丸一日だって見ていられる気がする。
多少幼い見た目だろうが問題にならないくらい魅力的で、街に行けば注目の的になるのは間違いないだろう。
そんな彼女の顔を独り占めしている事に仄かな優越感を抱いてしまう。
俺達はしばらくそのまま会話もなく過ごした。
少し眠たくなってきた俺は肘を突いてボーッとする。
そんな時、師匠が突然本を置いて俺の方を見て来た。
「ご褒美、いる?」
「はい? 何の話です?」
「魔石を取って来てくれたご褒美。欲しい?」
「まあ、貰えるなら欲しいかもですけど、突然どうしたんですか?」
「本に書いてあった。労働には対価がいると」
そう言って師匠は本に目を落とす。
勝手に魔導書とかだと思っていたのだが、どうやら割と普通の本を読んでいたみたいだ。
「あ、でも対価という事ならここに住ませてもらってる訳ですし、それで十分過ぎるくらいですよ」
「それは別の話。ご褒美何がいい?」
「あ、俺が決めるんですね。そう言われても別に欲しい物はないですし……」
森の中の生活には最低限の物があれば十分だ。
師匠の気持ちは嬉しいが、少し困ってしまう。
それを察したのか師匠は言葉を重ねる。
「別に物じゃなくてもいい。私にして欲しい事はない?」
「して欲しい事ですか?」
「そう。たとえば膝枕とか」
「……何故膝枕?」
「眠たそうだから。それに、さっき私の脚見てた」
どうやらバレていたらしい。
いつも何も言わないから向けられる視線に鈍感なのかと思っていたが、スルーしてくれていただけなのかもしれない。
悪事がバレたような気持ちになり、少し気まずくなる。
言い訳をするみたいだが、人里離れた森の中で、小さな家に美少女と2人きりなのだ。
その相手が都会の女子高生くらい短いスカートを穿いているのだからどうしても目が行ってしまう。
1000年前に通っていた古の魔法学校の制服らしいから師匠の方に他意はないのだろうけど。
それにしても膝枕か。
「本当に良いんですか?」
「ん。構わない。膝枕してても本は読める」
「なら、その……お願いします」
俺はその誘惑に抗う事が出来なかった。
師匠はソファの方に移動すると、自分の膝を叩いて「来て」と言った。
彼女は制服の上にローブを着ているが、脚は剥き出しの状態だ。
俺はソファに座ると少し緊張しながら彼女の膝に頭を乗せた。
頬に柔らかい太ももの感触を感じる。
何だろうこの状況は。
俺にとっては色んな意味でご褒美だが、師匠はどんな気持ちで膝枕を提案したのだろう。
「どう?」
頭上から師匠が声を掛けてくる。
眠れる気はしないが、ご褒美としては最高だ。
師匠の肌は柔らかくて気持ちがいいし、耳に当たるスカートらしき感触で変な気持ちにさせられる。今振り返ったら師匠の下着が見えるかも、なんて考えてドキドキしてしまった。
「まあ、悪くないです」
だが、そんな内心をそのまま伝える訳にもいかず、俺は曖昧な返答をした。
言った後に少しあっさりし過ぎかと思ったが、師匠は「そう。なら良かった」とだけ言って本を読み始めた。
「…………」
師匠がページを捲る音を聞きながら、ずっとこの生活が続けられたら良いな、と俺は思うのだった。