俺、雪村光輝の人生は中学時代までその名前の通りに光り輝いていた。
容姿・学力・運動神経のどれもそれなりレベルだったが、人間関係に恵まれた事もあってクラスの中心的なポジションにいたのだ。
仲の良い友人達とグループを作り、幼馴染の女の子と恋人一歩手前くらいの関係を維持して、毎日楽しく過ごしていた。
それが終わったのは高校に入学してからだ。
市内の高校では地元中学から進学して来た奴等が大きなグループを作っていてクラス内で発言力を持っていた。
俺達は二番手三番手のグループに甘んじる事となり、彼等に配慮した生活を強いられた。
だが、この時はまだ良かった方だと今では思う。
変化が起きたのは5月に入ってからだった。
クラスのカーストトップにいる西谷泰斗とトラブルがあり、翌日からイジメのターゲットにされたのだ。
友人達は巻き添えになるのを恐れて俺から離れていった。
教師も見て見ぬふりを決め込んだ為、俺の味方は隣のクラスの幼馴染・晴美だけだった。
晴美はその容姿だけで他のグループからも一目置かれており、彼女がいる所では西谷達も俺に何かしようとはしなかった。
晴美は自分が孤立する事も気にせず俺を支えてくれた。
初恋の相手のそんな姿に罪悪感を抱きながらも、俺は救われる思いだった。
──だから、晴美が西谷とセックスする動画を見せられた時、大きな喪失感を味わったのだ。
動画には、西谷に無理やりレイプされていた晴美が彼のテクニックで次第に堕とされていく様子が映っており、自分達の10年以上の絆がたった数十分で塗り潰される光景を見せ付けられた。
その日から晴美の定位置は俺の隣ではなく西谷の隣に変わってしまった。
俺がイジメられる姿を西谷の隣で辛そうな顔をしながら見つめる晴美。
時には俺の目の前で西谷に犯されて喘ぐ姿も見せていた。
──そんな日々が半年ほど続いた頃。それは起きた。
俺がいつものように西谷達のイジメを受けていた時だ。
突如教室の床が光り、視界が暗転すると次の瞬間、俺は多くの人がいる広間の中に移動させられていたのだ。
俺が巻き込まれたのは異世界の女神が行なった勇者召喚という儀式だった。
世界を滅さんとする魔王。
それに対抗する為、異世界から強力な才能の持ち主を呼び出し、勇者として世界の命運を託すのだそうだ。
これに選ばれたのが俺────ではなく、西谷だった。
アイツもまた俺と共に異世界に召喚されていた。
どうやら女神の本命は西谷の方だったらしく、俺は巻き込まれただけの存在だったのだ。
その日から、召喚されたルク・エルクス王国の城で俺と西谷は闘う訓練を受ける事になった。
俺にも多少は才能があったようで、西谷のサポートをするように王女から頼まれた。
しかし、勇者である西谷との差は歴然で、アイツに無理やり模擬戦をさせられると度々ボロ雑巾の様になるまで痛め付けられた。
城の人の多くは西谷の行動に良い顔はしなかったが、召喚に巻き込まれただけの俺の為に勇者である西谷を止めようとはしなかった。
違ったのは王女のエルザを含め数人だけだ。
エルザ王女は国王の代わりに国の運営をしている才女で、召喚された俺達を王女の名の下に保護し、世話をしてくれた。
20歳の若さで既に施政者として相応しい覇気があり、あの西谷ですら彼女の前では緊張した姿を見せていた。
彼女は曲った事が嫌いな性格のようで、俺をイジメる西谷の姿を目にするといつも止めに入り、「このような事を続けるなら貴方を軽蔑せざるを得ませんね」と西谷を牽制してくれた。
彼女は勇者召喚には元々反対だったらしく、西谷が勇者の役割を放棄しようとしても「我が国は異世界の子供に守って貰わなければならないほど弱い国ではありません」と言って問題にしなかった。
一方で真面目に訓練に取り組む俺に対しては比較的優しく接し、闘うのが嫌になったらいつでも投げ出して良いとまで言ってくれた。
日本では味方になってくれる人が誰もいなかった事もあり、彼女の存在は俺の救いとなっていった。
最初は異世界の事を他人事と考えていたが、エルザ王女の為なら頑張ってみようと、そう思ったりもした。
半年が経つ頃には俺の実力は騎士の隊長格を上回る程にまで成長し、王国内で敵わない相手は10人といない状態になっていた。
異世界人のポテンシャルはそれほど強力なモノだったのだ。
しかしそれでも勇者である西谷と比べるとどうしても劣ってしまう。
西谷は訓練を始めて1か月で王国最強だった騎士団長を越えてしまった。
アイツは騎士団長を再起不能なくらい痛め付けると、その圧倒的な暴力で城の者達を脅し、好き勝手振る舞うようになった。
騎士が束になっても敵わなくなると、西谷はその女癖の悪さで侍女や女騎士、貴族の娘に手を出し始めた。
半年が経つ頃には城で働く若い女性で西谷の餌食にあっていない者はいなくなっていた程だ。
俺に良くしてくれたメイドや訓練に付き合ってくれた女騎士も西谷に犯されて泣いている姿を見かけた。
そんな状況を見てエルザ王女は遂に西谷に勇者の資格なしと判断し、城からの追放を指示した。
──だが、その判断はあまりにも遅すぎたのだった。
西谷はエルザ王女の護衛の騎士達を一瞬で倒すと、彼女を無理やり自分の寝室に連れ込んだのだ。
そして結界魔法で誰も侵入出来ない状態にした後、丸一日彼女を強姦した。
部屋から聞こえてくるエルザ王女の声が強気なモノから悲鳴に変わり、泣き声になり、そして嬌声に変わるまでそれほど時間は掛からなかった。
次の日に西谷が出て来た後、部屋の中に入った俺は、そこで無惨な姿を晒す彼女を目撃した。
身体中を白濁液で汚したエルザ王女は脚を大きく広げたまま意識を失っており、見開いたままの目からは涙が溢れていた。
──この日、ルク・エルクス王国は西谷の手に堕ちたのだ。
アイツは魔王を倒す気は皆無で、欲望のままに行動を始めた。
王都内で見目の良い娘を見つけては強姦し、気に食わない者は惨たらしく殺害した。
貴族や騎士の娘を人質として後宮に軟禁し、逆らった者には変わり果てた姿の娘を送りつけるなどした結果、暴力だけで国を完全に支配したのだった。
最初の内はエルザ王女を始め、仲の良かった子達の身を案じて城に残っていた俺だったが、次第に身の危険を感じ始め、遂には全てを見捨てて王都を去る事にした。
だが、西谷はそれが気に食わなかったようで国中に俺を指名手配した。
街で生活する事が出来ず、国を出ようにも国境を越えられなかった俺は、王国の西部に広がる"魔女の森"に身を隠すしかなかった。
魔女の森は強力な魔物が跋扈する危険地帯で、命知らずの冒険者ですら立ち入る事のない場所だ。
しかし裏を返せば人と出くわすことがないという事で、腕に自信のある俺にとっては街中よりも安全な場所に思えた。
魔物を倒してはその肉を食らい、夜になると木の上で気配を消して眠る。
そんな生活を俺は続けた。
西谷が俺の事を諦めるか、どこかの強者が奴を討ってくれる事を信じ、休まる事のない日々を送る。
しかし、それが半月も続けば疲労は蓄積し、能力を十全に発揮出来なくなるのは当然だった。
ある日の夜。
俺は魔物の奇襲を受けるとそのまま多くの魔物に追いかけられ、とうとう力尽きてしまった。
本来負けるはずのない相手に手も足も出ずに狩られ、最期の瞬間を待つしかない状況。
──そんな時に助けてくれたのが師匠だった。
"永遠の魔女"アンナマノン。
1000年以上前からこの地を支配する伝説の存在。
かつては魔王すら単身で滅ぼしたとされる最強の魔法使い。
そんな彼女が何の気紛れか瀕死の俺を助け、保護してくれた。
それが今から2年前の話だ。
そのまま彼女に弟子入りして魔法を教わった俺は、最高の師匠のお陰か、異世界人としてのポテンシャルのお陰か、城にいた頃より遥かに強くなっている。
それこそ当時の西谷くらいなら一蹴してしまえるだろう。
だけど、もはやそんな事は俺にとってはどうでも良い事だ。
俺は師匠の元で幸せを手に入れたのだ。
それを捨ててまで西谷に復讐をしようだとか、そういう考えは一切湧かなかった。