「魔王が動き始めたみたい」
ある日の午後。
読書をしていた師匠は突然それだけ言うとまた本を読み始めた。
まるで大し事ではないかのようなアッサリとしたその態度に、俺は一瞬聞き間違いかと思ってしまった。
「えっと、それヤバくないですか?」
「ん。少しヤバい。帝国が滅ぼされたらしい」
「帝国って、グラードですよね? 世界一の軍事大国じゃないですか」
「そう。国民の多くが死んだみたい」
本から視線を動かさずに師匠は言う。
彼女はどういう手段でか森の外の情報を常に入手出来るらしい。
もしかしたら今この瞬間、その情報を知ったのかもしれない。
にも関わらず、師匠は動揺する事なく本を読み続けていた。
彼女にとっては森の外のことなど全て他人事なのだろう。
日本人がテレビの向こうの映像を見るのと同じ。
それは別に師匠が冷たい人間だからではない。
1000年も森に引きこもっていればそういう認識になるのも当然だ。
「魔王って本当にいたんですね。それも帝国を滅ぼせるくらい強いなんて……」
「? コウキにも出来る。驚く事じゃない」
「まあ、時間を掛けたら出来るかもしれませんけど」
国を滅ぼすなんて考えた事もなかったが、言われてみれば今の俺の実力なら可能だろう。
西谷も個人の暴力だけで大国を支配しているくらいだしな。
「今の俺って魔王とも割と戦える感じですか?」
「一対一なら楽勝」
「え? 俺ってそんなに強いんですか?」
「ん。世界を敵に回しても勝てるくらい鍛えたつもり」
衝撃の事実だ。
師匠相手だと手も足もでないから実感がなかった。
でも、これで師匠の余裕の態度にも納得がいく。
彼女からすれば魔王なんて少し強いゴブリンくらいの認識なのだろう。
その気になればいつでも倒せる存在を警戒する必要はないし、その程度の存在に滅ぼされる国にも興味が湧かないのかもしれない。
俺はそれを悪い事だとは思わなかった。
師匠はその気になれば世界中の悲劇を防げるくらいの力を持っている。
救うことの出来る命を見捨てる事が悪となるのなら、彼女は休みなく世界の全てを守り続けなくてはならなくなるのだ。
それはもう神の領域で、1人の人間がする必要のない行為だろう。
だから、森の外の事を他人事と割り切る師匠の考え方は正しい。
俺だって西谷に苦しめられている人達がいるのを知っていながら、何もしていないのだから同類だ。
「外の奴らは魔王に勝てますかね」
「難しいと思う。勝てるなら女神は勇者に頼っていない」
「てことは西谷がやる気にならないと人類滅亡なのか……」
「心配?」
「まあ、流石にそれは同族として寂しいですね」
「そう」
森から出たいとは思わないが、森の外で人が生きているかどうかで気持ちは違う。
今後も師匠と2人きりで生活したいが、本当に世界に2人だけになるのは少し寂しく感じた。
そんな気持ちを師匠に話すと、彼女は本から顔を上げて俺の顔をジッと見て来た。
「ならコウキが魔王を倒せば良い」
「俺がですか? いや、でも……」
「助けたいと少しでも思うならそうするべき。後から悔やみたくないなら」
後悔はするだろうな。
俺なら魔王を倒せると聞いた後だから尚更そう思う。
俺はまだ師匠ほど割り切れてはいないから。
それを見抜いた上での師匠の言葉なのだろう。
「でも帝国って遠いですよね。魔王軍も数が多いだろうし、全てを倒そうと思ったら時間が掛かるでしょうね」
「面倒?」
「あまりここを離れたくないだけです」
恐らく移動だけで数ヶ月掛かるだろうし、1人で大群を相手にするのだから時間を掛ける必要があるだろう。
その間この森での生活から離れるのは正直憂鬱だった。
「なら、これ使って。転移の魔道具。この間のウルフの魔石で作った」
「なんでタイミングよくこんな物を作ってるんですか……」
「元々、コウキにその気があるなら魔王を倒しに行って貰うつもりだった」
師匠はあっさりと白状する。
俺の為というのも嘘ではないのだろうが、彼女なりに目的があった訳か。
この魔道具があれば移動はかなり楽になる。
一ヶ月もあれば魔王を倒して戻ってこれるだろう。
俺は何故魔王を倒して欲しいのか訊ねた。
「魔王の魔石は上質。良い素材になる」
「ああ、なるほど。素材目当てですか」
「ん。私はやる事がある。代わりに取ってきて欲しい」
世界を救う為じゃなくて素材集めの為に魔王を倒せとは師匠らしい。
魔王の被害に興味ないだろうに何故魔王の話をしたのかと疑問に思っていたがこれで納得した。
「勿論師匠が必要だと言うなら行きますよ」
「……うん。どうしても必要」
「なら、仕方ないですね」
師匠の頼みを断るという選択肢はない。
俺は勇者に代わって魔王を討伐する事を決めたのだった。
★
ルク・エルクス王国の王城。
その一室に数人の少女達が集められていた。
彼女達は周辺国で美姫として知られる貴族の娘達だ。
皆、人形の様に整った容姿をしている。
ドレスを着てパーティーにでも出席すれば男達の視線を集めるだろう。
だが、そんな彼女達は現在、涙を流して身体を震えさせていた。
着ていた服は全て脱がされて裸を晒しており、全員漏れなく股の間を濡らしている。
中には割れ目から白濁液を垂らしている娘もいて、彼女達が少し前に望まぬ性行為を強要されたのは明らかだった。
それを行なった男、西谷泰斗はベッドに腰掛けて1人の女性に自分の逸物を咥えさせている。
他の美姫達と比べても頭ひとつ抜けて美しいその女性は、西谷を憎々しげに睨み付けていたが、口の動きを止める事はない。
秘所からは愛液を溢れさせており、心はともかく身体は完全に西谷に堕とされている事が見て取れた。
「相変わらずフェラは下手だなぁ、エルザ。今日初めてやらせた奴の方がまだ気持ち良かったぞ」
「んッ、んッ、ウッッ! ……だ、黙りなさい──ッ、ッ!」
女性──エルザ王女は目の端に涙を浮かべて西谷を見上げた。
実質的にルク・エルクス王国のトップの地位にいた彼女が、今では西谷の性奴隷の1人にまで成り下がっている。
跪いて奉仕をする王女と、その頭を掴んで口を犯す勇者。
2人の上下関係は明らかだった。
「しかし、異世界って言っても美女揃いじゃないんだな。まさか最初に堕としたお前がこの辺で1番美人だとは予想外だわ。メインを先に食っちまった感じか? たくッ、テンション下がるぜ」
「ッ────!」
「ん? 何フェラ止めてんだよ。お仕置きが必要か? おい。また全裸で王都散歩させてやろうか? あん時の泣き顔はなかなか良かったからな。今度は犬みたいに四つん這いでしてもらおうか」
「ッ──?! や、やめて……ッ、ちゃんとしますから……っ」
「最初からそうしろや、ボケ」
西谷の脅しにエルザの身体は大きく震える。
気丈に見えても彼女の心は既に折れていた。
日常的に暴力を振るわれ、恥辱を受けていればどんなに気位が高い女でもこうなるだろう。
エルザは、はしたなく口を広げると必死に西谷の肉棒に奉仕し始めた。
「なあ、コイツら以外に美人で有名な女はいねぇのか?」
西谷が入口の側に控えている側近の男に訊ねる。
元々エルザに忠誠を誓っていた彼は、西谷の股間に顔をうずめる元主人の姿を複雑そうな表情で見つめていた。
西谷の方に視線を向けた男は、自分の記憶の中から数名の美女の名前を口にする。
「彼女達と同等以上ですと、聖峰國の光の巫女や共和国のアン婦人、バセット王国のメッダ姫などが有名ですね。────ああ、そういえば西の森の魔女も絶世の美女だと言われていましたな。まあ、これは伝説の話ですが」
最後の魔女に関しては側近の男なりの冗談だった。
伝説の存在を候補に挙げなければならないほど、お前の毒牙に掛かっていない美姫は少ないのだという遠回しの皮肉。
実際、世界的に有名な美女の多くが今この部屋に集められていた。
しかし、西谷はその皮肉を真に受けてしまった。
「魔女……。確かアンナマノンとか言ったな。魔王より強い世界一の魔術師か。──悪くねぇな。そういう女を組み敷くのは最高に楽しいだろうな」
そう言ってニヤリと笑うと、西谷はエルザの喉を犯すように腰を振り始めた。
この瞬間、魔女アンナマノンは西谷の新たな獲物として認識されてしまったのだった。