「先に入ってて? あ、それからお風呂に入ったら脱衣所に戻るの禁止」
そう言って、あさひは俺を脱衣所へ送り出した。あさひは俺がお風呂場に入ったあとで後から入ってくるつもりのようだ。
さて、簡単にオチを纏めるとこうだ。
幼少期を思い出しながらあさひと仲良く混浴をすることになったのである。
こんなことが許されていいのだろうか、いやいいはずはない。男女七歳にして席を同じゅうせず、という言葉を、あさひは知らないのだろうか。でも、俺は知っている、わかってるので俺はきっと許されないだろう。ごめんなさい。
念仏を唱えるように心の中で繰り返し謝罪を述べながら服を脱ぎ、あさひに事前に教えて貰っていた脱衣かごの中へ、洗濯したばかりの服よりも丁寧に折り畳んで静かに収める。
あさひは脱衣所の外、扉を挟んですぐのところで待っている。俺が浴室のドアを締める音が聞こえたら、脱衣所に入ってくるはずだ。
そう考えるだけで高揚し、じわじわと昂ぶってくる、と同時に罪悪感も同じだけ迫ってくる。
(本当にいいのかな……)
などと考えながら、俺は浴室のドアを開けた。
浴槽に蓋がかけられていなかったようで、既に浴室内には湯気が立ち込めていた。
顔全体に湯気を浴びたことで、お湯の中に溶け込んだ入浴剤の匂いに気づいた。
(あさひは楽しむ気満々だな……)
同い年の男女でバスタイムを共にするなんて中々無い非日常だ。あさひは、せっかくだし温泉気分で楽しもう、と考えているのだと思う。可愛いなぁと思う反面、人の気も知らないで、とも思った。
ふに、とビニール風船のような感触を足の裏で感じるまでは。
「……は、い?」
浴室の床をほぼ占領する形で、ゴム風船のような何かが敷かれていた。湯気でよく見えないが、何となく目を凝らして何となく輪郭を掴む。
「……銀色のやつだ、たぶん」
缶からは注がれているが、これはビールだ。グラフに注がれたビールの形をしていた。たぶんプールとか海に持っていくような巨大な浮き輪だ。それが洗い場に敷かれている。
ふと、アダルトビデオの知識が脳裏に浮かび上がる。
浴室でビニールの床。男女二人……それはよくない、だめすぎる。
確実性の無いふしだらな考えに至ったところで、背後からバタン、と扉の閉まる音がした。
あさひが脱衣所へ入ってきたようだ。必要最低限の動きで、そっと後ろに視線を向ける。浴室と脱衣所を挟む擦り加工の扉の向こうに動く人影が見えた。
何も躊躇わずに衣服を脱ぐような動作が確認できたので、慌てて視線も元に戻す。
(もーだめだ落ち着かない)
浴槽に浸かろうと思ったが、この体は洗うどころか、シャワーで流してすらいなかったことに気づく。人生で経験したことのないレベル動揺により、日常的な動作を行う反射神経が全て機能不全を起こしてしまっていた。最早バスタイムを無事に終える、というそれだけのことをやり遂げれない気がしてきた。
(はぁ……シャワー浴びよ)
人の家のものとはいえ、流石にシャワーぐらいは言われなくても使えるなと、たったそれだけの気づきを得て深く安堵している自分のメンタルの弱さに呆れ果てる。情けないことこの上ないな。
これだけのことで疲れ切ってしまった俺は、床がビニールになっていることをいいことに座ることにした。
立ったままはもう色々とキツかった、滑りそうだし。
そこで、ふと思い至った。あさひが揺れたビニールの上に脚を置いた瞬間滑るのではないか、ということに。
直後、背後で煩く扉が開く音が聞こえた。
「お待たせ……きゃぁっ!」
予感は見事に的中。
入場と同時に一歩踏み出したあさひはしっかりと悲鳴を上げながら足を滑らせた。
しゃがみこんだ姿勢からはすぐに動けないため、あさひを庇うことができない。
大丈夫か、と振り向く間すらなく、あさひは盛大に転倒した。
幸いなことに、あさひの片足はまだビニールを踏んでいなかったのでしっかりと踏ん張りを利かすことができていたようで、後ろ向きに倒れることはなかった。
代わりに、俺の背中に抱きつく様な形で派手に滑ったあさひは、その顎を俺の頭頂部に勢いよく叩きつけた。
歯と歯、顎と頭がそれぞれぶつかり合う鈍い音が2つ浴室内に響いた。それと同時に。
「ふにょん」
という音が聞こえたのではないかと、錯覚するような暖かく柔らかく心地よい感触を背中でしっかりと受け止めていた。
惜しいことに、その感触を咀嚼することはできず、脳は顎がめり込んだことによる痛覚の処理を優先させていた。
「っっっ痛ぁ!!!」
俺は思わず悲鳴を上げた。
狭い浴室によく響く。
「ぅぇえ……顎痛い……」
頭上からは、俺ほどではないがダメージを受けたあさひの泣きそうな弱々しい声が降ってきた。
「舌噛んでなかったら、俺よりマシだから大丈夫だ」
「んー、うん、噛んでなさそう。ごめんね、ぶつかっちゃって……」
「まぁ、俺がシャワーで濡らしたからだし、それはいいよ、それは」
シャワーからはまだお湯が流れ続けている。熱さは感じないけど、上から滴り落ちる感触はあるので、俺の代わりにあさひがシャワーを頭から浴びているのだろう。
とりあえずシャワーを止めてそのままの姿勢であさひに下を指差しながら問いかけた。
「これ、なに?」
「え?これ?沖縄行くときに、パパが買ってきたいかだ」
なるほど、出どころはそこでしたか……ではなくて。
「まぁそれは良くて、なんでそれがここにあるんでしょうか」
「えー、それはねぇ…………おしりが痛くならないように?」
微妙に疑問系のニュアンスのあさひ。恐らく、今のはウソだろう。
「はぁ、もう……危ないから、せめて先に言ってくれよ」
「いや、だって急にビール現れたら面白くない?あとおしり痛くないし」
「湯気で見えなかったから、踏むまで気づきませんでした」
「なぁんだ、だからノーリアクションだったのか」
あさひの脳内では、浴室の扉を開けた瞬間に俺の叫び声が響く予定だったのだろう。残念なことに、それは後からあさひの顎によって発声されることになりましたね。
「なぁんだじゃないんだわ、ていうか、あさひさん」
「なにー?」
「…………いま、裸?」
正直に、ビールのいかだに関しては殆どどうでも良かった。問題はそこじゃない。
「んーーーー、どう思いますか?」
逆にあさひは聞き返してきた。
質問に質問で返すのはズルだと知らないのだろうか。わかっててもやってると思うので、多分確信犯だろうけど。
「ヒント、あさひちゃんはゆうき君の背中にくっついたままです」
急にクイズ大会が始まっていた。
既にヒントまで提示されているサービス問題と見ていいだろう。
「ヒントそのに、タオルはここにあります」
背後から現れたタオルが視界に入りこみ、ひらひらと揺れているのが見えた。
これはとても良いサービスが効いているな、と思った。どういうサービスかなんて、敢えて言う必要もないだろう。
つまり、あさひは前を隠すはずだったタオルは転けてしまったので隠せなくなりました、ということだ。
「ヒントそのさん、動くとこんな感じ」
上に。下に。
あさひは、背中にもたれかかったまま身体を動かした。
シャワーで濡れた肌が滑る感触が伝わってくる。そこには特に引っかかりを感じたりはしない。つまり。
「……水着とか着てこればいいのに」
「えー、お風呂に布はマナー違反でしょ」
「プール着用して楽しむ温泉レジャーがあるの知らないのか?」
「しらなーい」
これは確信犯だ。
あさひはへんたいと認定した俺をからかって楽しんでいる。親公認の泊まりで何かあれば大惨事になる、だからこそ俺が何も出来ないということを理解した上でやっているのだろう。身体を張ったとんでもない一発芸だ。
「今から水着着てきてよ、ハラハラするって」
「私の裸で?」
「あさひの裸でハラハラします」
「ふーん、やっぱりへんたいさんだ」
へんたいさんでも何でもいいから心の安寧が欲しい、切実に。
どうか聞き入れてくれないか、と願うばかりだ。
「ま、ハラハラするよね、それはそうだよね」
すんなりと俺の胸中に溜め込んだ思いを、あさひは汲み取ってくれそうだ、と思った。
でも、これは違っていた。
「もし、わざとハラハラさせてたとしたら……ゆうき君は、どうする?」
「……なん、て?」
言葉そのものは簡単だが、想定外過ぎる返答だったために理解することができなかった。
わざと、とあさひは言った。
ハラハラさせたい、ともあさひは言った。
そんな、煽るようなことを。
あさひが、俺に。
「これ以上、女の子に言わせるつもり?」
右手のタオルをぽい、と捨てたあさひは更に手を伸ばして隅に置かれている大きめのボトルを掴み、手元にまで引き寄せた。
今、元の位置に残された似たサイズのボトルは2つあり、シャンプーとコンディショナーのみ。あとは洗顔やらの細々としたものばかりなので、あさひが持っていったのは恐らくボディーソープだろう。
「私からはこれ以上、何も言わないからね」
そう言って、背中に密着していた胸を浮かせた。少し冷えた空気に肌が触れてひんやりしたかと思うと、今度はぬるぬるした粘土の高い感触が背中の一点に引っ付く感触があった。同時にボトルがプッシュされる音が聞こえる。
たぶん、あさひはボディーソープを俺の背中に向けて飛ばしている。更に続けて2回、3回、ボディーソープを飛ばしたあと、今度はそれを塗り広げ始めた。
あさひの手のひらが背中全体を優しく撫でるように滑っていく。
「何してるの、あさひ」
「何も言わないって言ったし」
あさひは黙々と背中にボディーソープを広げた。
素肌の背中を他人に触られるなんて、子どもの時に親と風呂に入ったきりで、あとは病院の診察ぐらいでしかない。
あさひの手の平から、確かな熱さと心地の良い感触が伝わって来て、少し背中にむず痒い刺激が広がっていく。少し擽ったいような気もした。
やがてあさひの手の動きが止まり、背中から離れる。そして再び背中に体重がかかり、幸せな感触が今度は吸い付くように密着した。
あさひの部屋にあった水着の写真と、背中で受け止めている感触での推測するに、あさひの胸は決して小さくないと思う。大きすぎるということはないが、密着されて十分に感じられる心地よい柔らかさと圧がある。幸せを与え、とてつもない充足感で満たしてくれる、幸福のおもちだ。
そんなあさひの胸が、今度は上下に動き出してしまった。
ずりずり、ずりずり、と。ゆっくり、上下を往復する。
「ん、しょ……んっ、しょ……っ」
更に、あさひの口から漏れる小さな掛け声が耳元から至近距離で聞こえてくる。その一生懸命さに、全身が昂ぶっていくのを感じていた。
しかも、たまに混ざって聞こえてくるものがある。
「……っんふぅ……ふっ、ぁ」
今まであさひと遊んだり勉強したりと、交流する機会も時間も山のようにあった。そんな中で、こんな声は聞いたことがなかった。
艶っぽさがあり、全身がゾクゾクと震えて、頭の中で残響する。
喉を鳴らすような、甘いあさひの音。
「……っ、ふぅ……ねぇ、どきどき……してる?」
「…………うん、めちゃくちゃしてる」
あさひの問いかける声は、本当にあさひのものなのか疑うほどにいつもと違っていた。まるで、別の誰かが乗り移っているみたいに感じられた。
そのくらい、普段とはかけ離れている。
あさひの声を聞いているだけで、心臓の高鳴りが激しくなっていく。
「どきどきする……だけ、なの」
そう言って、あさひは両手を体の前に回してきた。そのままペタペタと、お腹の周りを触り始める。その手は少しずつ下に降りていくような動きをしていた。
あさひが、何をしようとしているのかわかったが、もう遅い。そもそも、俺にあさひを振り払うようなことをできるはずも無い。
「へへ……やっぱし、どきどきしてるだけじゃないじゃん」
あさひの手は股間に伸びていて、あさひの身体を張ったスキンシップにすっかり反応してイキりたつそれを優しく掴んでいた。
「汚いから……っ、触るなって、まだ洗ってもない……し」
つんつん、にぎにぎと、あさひ手が触れるたびに勝手に身体が反応してしまう。
自分の手ではないもので触られる感覚を知らないからか、自分で触るよりも敏感になっていた。
「洗ったらいいのー?てかさ、今から洗うんだけどね、私が」
「ちょっ、やめろって……っ、ぐぅっ」
ボディソープで全体が覆われたあさひの両手が股間を弄る。
下から上に、上から下に。隈なくその手で覆い包まれ、泡で優しく磨かれる。
洗う、という言葉通り、丁寧に何度も擦られて、時折、指先がカリ首に引っかかるように触れる。
それだけで、全身で身体をビクつかせて達してしまいそうになる。
「……これ、ズル剥けってやつでしょ?ゆうき君の、格好いいね」
それを知ってか知らずか、あさひは手を止めようとしない。竿からさらに下の袋の方にまで手を回して揉むように洗い始めた。
「おきゃくさまー、いかがですかー?」
「う、あ……」
カットでシャンプーをされる時のように、あさひは声をかけて来るが、それに反応する余裕がなくなってきた。
竿と袋の両方を、撫でるように、丁寧に、肌を触れ合わせて優しく包み洗われる感触がたまらなく気持ちいい。
「うわ……余裕なさそうだね。痒いところはないですかー?」
もみ洗いする手の動きは止まらない。あさひはまだ、この普通ではない雰囲気のロールプレイを続けるつもりのようた。
「そこ、は……かゆく、な……い……」
なんとか返事をしてみたものの、手のひらから伝わる刺激が強すぎて身体が震えてしまい、うまく言葉が出てこない。喉から絞り出すような声になってしまう。
「ふむふむ、ここもかゆくないってことはぁ、きもち、いい……のかなぁ?」
「ぁぁっ!そ、ぁ……ゃ……」
カリ首の真下、傘の裏側の窪みを、輪っかになったあさひの指が回転して慎重に磨かれる。
皮膚のないそこは、ダイレクトにあさひの指の感触が伝わってきてしまい、全身が震えるほどの痺れに苛まれた。
「はっ……はっ、くあ……とめ、て……」
思わず懇願するが、あさひの手は止まってくれなかった。寧ろ力が強くなったように感じた。
「止めないよ、綺麗に洗わないとダメなんでしょ?」
あさひの指が回転する動きに合わせて腰が動いてしまう。
あさひは片手でカリ首の下を、もう片方で竿を握っているので、腰が動くことで筒の中を通すような動きをしてしまう。それはもう、手でしているのと同じ動きだ。
「ひっ、ひっぁ、あ、ふ……が……」
動き出した腰は自力で止められそうになかった。もう、既に本能で腰を降っていた。あさひの手に出すことだけを考えて必死になっていた。
「ん……だめだよ……お風呂はそういうことをするところじゃありません」
突然あさひが耳元で囁く。
それと同時に両手を離していた。
擦れ、引っかかる場所がなくなり、突き出したそれは空を突いていた。
「ごめんね、意地悪して」
あさひはそう言って両腕を胸の前に回して力を入れてきた。
抱きしめられたことで、徐々に昂ぶった熱が引いていくのを自覚できる程度には冷静さを取り戻していた。
「……っぁ……はぁ、はぁ…………ふぅ」
深呼吸を繰り返して、気持ちを落ち着かせる。弄くり回されて刺激を受け続けたことでそれが収まりはしなかったものの、気持ちの余裕は取り戻せていた。
「…………何考えてんだ、バカあさひ」
必死に落ち着かせた頭で捻り出せた言葉はそれだけだった。
「だから、それは言わないってば、そんなことより全身ぱっと洗っちゃうね」
お湯冷めちゃう前にお風呂に浸かりたいし、とあさひは言葉を続けた。
あさひに勃起していることがバレただけではなく、解ってて寸前までもって行かれた今となっては、取り繕うことも妙に照れることも恥ずかしがる必要もなくなっていた。
「今は待って……絶対くすぐったいから」
「えー?でてないのに敏感なんだ」
あさひはお腹を軽く撫でる。
その感触だけで全身逆立つ様な、背中が縮こまるような痺れが走る。
「あー、ほんとに敏感さんだ、へんたいの敏感さんだ」
「…………はぁ、へんたいなのはそっちだろ……」
「えー?なにー?きこえないなー?」
そういってあさひは背中からも離れていった。
背中が途端に軽くなる。
「まぁ……もう、へんたいでいいけどね」
あさひはずっと流れていたシャワーを止めた。
思えばずっと流しっぱなしで、俺もあさひも頭からバケツをひっくり返されたように濡れきっていた。今月だけ水道代は上がったりしないだろうか、と少し不安になる。
「ね、交代しよ」
さっきよりも少しだけあさひの声は遠くなっていた。
「こっち向いて、今度はゆうき君が私を洗ってよ、洗い方は普通でいいから」
どうやら、普通じゃない洗い方をしていた自覚はあるらしい。ただ、言及するべきはそこじゃない。
今度は俺があさひを洗うだって?
「ゆうき君、くすぐったいんでしょ?だから私を先に洗ってよ、お湯冷めちゃうし、はーやーくー」
言っていることは至極全うだ。さっきまで普通じゃないボディーソープの使い方をしていた、自他ともに認めるへんたいとは思えない発言をしている。
「後ろ向いてるからさー、ちゃちゃっと洗ってよー」
そう言いながら後ろを向いていなかったらどうしようと考える。
とはいえ、もし前を向いていたらお互い見せ合うだけでしかない。そもそもがっつり触られているので、今更見られても見られなくても関係なんてないだろう。
ていうか、この流れなら万が一見てももう怒ったりはしないと思う。
それなら正直に、見れるなら見たい。生殺しされたせいで何でもいいからエロが欲しかった。いや、欲しくさせられた。あさひは結構な小悪魔、サキュバスと言っていいだろう。
前置きの声もかけず、くるりと後ろを向いた。ボディーソープとお湯でつるつるとよく滑るビニールの上で座っているからか、本当にあっさりと回転した。
新しく視野に入ってきたのは、あさひの綺麗な背中だった。体操座りをして、言ったとおりに後ろを向いていた。
少しがっかりしたが、代わりにあさひのおしりが見えていることに俺は気づいた。
男のそれと違い、あさひのおしりは脂肪で柔らかくぷっくり丸々としているようだ。自分の体重でおしりそのものが少しひしゃげている。その様子に酷く興奮してしまった。
「ちゃんと後ろ向いてたでしょ?」
「あっ、あぁ、そうだな」
「なんでそんな慌ててるの……見えてるの背中じゃん……」
おしりとおしりの間をまじまじと見ていたことに気づかれたと思ってびっくりした、とは言えなかった。
あさひは背中が丸見えということしか、思い至っていないらしい。頭隠して尻隠さずというやつだ。今に限っていえば、頭ではなく隠しているのは前だけど。
「あ、あさひの背中が綺麗でちょっと見惚れてたんだよっ」
咄嵯に誤魔化す。
とはいえ、半分以上が本当のことでもある。
実際、あさひの身体は無駄なものがなく、細く引き締まっている。
それでいて、脚と同じように背中も美白であり美肌だ。
1つの傷や怪我もない。
陶器のように滑らかで艶やかな質感をしている。
そんな綺麗な背中の、肩甲骨の下あたりにホクロがあることに気が付いて、さらに心臓が高鳴った。
「……そんなストレートに言わないでよ、照れる」
後ろを向いているあさひの表情は勿論見えないけれど、耳の先に朱色に変わっていることはわかった。
多分、顔も同じ色になっているに違いないだろう。
そして、それは多分俺も同じなのだろう。照れたあさひの後ろ姿も可愛いらしくて、顔が熱くなっている気がした。
お互い気恥ずかしくなって、束の間の静寂が訪れた。
このままだと何も進まないので、俺から沈黙を破ることにした。
「あさひが使ってるスポンジとかないの?」
サクッとあさひを洗って、落ち着いた身体を逆にサクッと洗って貰って、それで湯船で一息ついて、早く上がろう。そう決めた。
「え?ないよ?いつも手で洗ってるけど」
…………手?お手手ってことですか?
あさひの、返答を聞いた俺は、自分の両手をまじまじと見つめて、そのまま視線をあさひの背中に向けた。
あさひの剥き出しの素肌に、そのままダイレクトタッチかぁ、そっかぁ……えぇ、無理でしょ。
パチパチと瞬きをしながら、俺は固まってしまった。
てっきり、ボディ用のタオルとか、スポンジとかそういうのがあるとばかり思っていたので、ギリギリ平常心を保てると、そう思っていた。直接触れなければ、まだどうにかなると。
しかし、これはどうにもならない展開だ。寧ろ頭がどうにかなってしまう予感しかなかった。
洗い方何でもいいって、そう言ったよねあさひさん?
ねぇ、聞いてます?
俺は心の中で何度も問いかけることしかできない。
覚悟を決めるしかないか、と思い切るまでに思考が何周しただろうか。そんなことを、沸騰した頭で覚えているはずもなかった。