朝、エンヴィが自室に戻るとまだ寝ているロンギヌスの姿があった。まだ早い時間だし、特におかしなこともない。ロンギヌスを偽りマスターに近づいた罪悪感からか、静かにコソコソとベッドに入る。
……そのロンギヌスが、心臓の音が周りに聞こえてしまうのではないかと思いながら顔を真っ赤にしていることを、エンヴィは知らない。
マスターは、その翌日からロンギヌスに違和感を覚えていた。
いつもより一歩距離が遠い。普通に話せるのだが、目が合わない。特に問題があるわけではないのだが、長らく共に旅をしてきた仲だ。放おっておく訳にもいかない。
ただ、直接聞いていいものかと考えとりあえずエンヴィに聞いてみることにした。
「……そういう訳なんだが、何か知らないか?」
「いえ。ただ、貴方の目が節穴なのか分からなくなってきました」
「………」
想像以上に辛辣な言葉が返ってきて、少し固まる。
あの晩から、明らかにエンヴィとの距離感は近づいた。今までよりも、素直に言葉をぶつけられることは多くなったのだが、ここまで鋭い針を刺されたのは初めてだ。
困惑するマスターを見て、エンヴィは小さくため息を吐く。自分のことには気がついてくれたのに、ロンギヌスのことには気がついてあげられないのか、と。
ロンギヌスの様子が変わったのはあの晩からだ。そして急な態度の変化、身に覚えがある。
あんなことを聞いておいて、恋心を自覚していなかったのは自分の方だったじゃないかと思うが、あえて口出しはしない。
理由はまあ色々あるが……一番は、嫉妬心だろう。
そんな、イマイチ不揃いな様子で旅を続けていた。エンヴィとロンギヌスの視線が、自然とトマトに向く。たまたま通りがかかった村の畑になる新鮮なトマト。
「エンヴィもトマト、好きなのか?」
「………!」
質問に、力強い目線で返すエンヴィに苦笑する。どうやらブラックキラーズになっても、本質までは変わらないらしい。
それからエンヴィとロンギヌスの視線がふと交錯する。トマトに夢中になって、あまり周りを見ていなかったのか、それとも単なる偶然か。
しかしすぐにロンギヌスの視線は逸れてしまう。
「マスター。少し席を外します」
「……ああ」
マスターとエンヴィの視線の先には直売所がある。見送るマスターを尻目に、エンヴィはロンギヌスの手を引いて歩き始める。
「えっ!?」
「食べたいんですよね、トマト」
「それは、そうですけど……!?」
戸惑いながらも否定はしないロンギヌスは素直に引かれて店へと向かう。
結局トマトジュースとトマトとプチトマトを結構な量買い、近くの席に座ってからトマトを一つ取り出してロンギヌスに差し出す。
「……あの」
話があるんですよね、と切り出そうとするロンギヌスだったが、無言で差し出され続けるトマトに手を伸ばす。それからかぷりと一口。
「………」
それから無言でトマトジュースをストローで吸い始める。なんとも言えない空気の中、改めてロンギヌスは切り出した。
「何か、話があるんですよね」
「……ロンギヌスは、マスターのこと好きですよね?」
「……っ!?」
盛大にむせた。なんとなくそんな気はしていたが、あまりにも直球な質問に驚いたあまりにだ。
「落ち着きましたか?」
「だ、大丈夫です……!」
少し経って、落ち着いてからエンヴィは再び会話を再開させる。
「あなたは前に私に好きじゃないかと聞きましたが、そういうロンギヌスも好きだったんですよね」
「……それは、その」
「隠さなくていいじゃないですか」
「………!」
ぶっきらぼうに言い放ったエンヴィに、ロンギヌスの中で何かが弾けた……ような気がした。あまり争い事は好まないはずのロンギヌスが、それでも思うことはあった。
「余裕ですよね、もうマスターと付き合ってますから」
「…………私は、ただ」
エンヴィは少し遠く、誰か知らない人と話しているマスターを見ながら呟く。
「マスターは、そこまで狭量ではないと思いますが」
「………」
「ただ、ロンギヌスのことを女として見ていないのはいただけませんね。付き合いが長すぎて、そういう風に捉えられてないのかと」
「つまり、どういうことですか?」
「それは……」
エンヴィが固まる。マスターではない、更に別の方角。一点を見て固まっていた。ロンギヌスも釣られてそちらを見てみるが、特にめぼしいものはない。
「……また、タイミングが悪いですね」
「あの、何かありました?」
「多分、近くに異族がいます」
ティーパティーならぬトマトパーティーを中断し、しっかり残りのトマトを保管しつつマスターと合流。エンヴィが異族らしき姿を見たと説明すると、すぐに支度をして移動を開始する。
エンヴィの見たものは正解だった。村に被害が及ばないように少し離れた場所で異族と交戦しているマスターとキル姫の姿もそこにあった。
「はあ!」
槍が異族の剣を弾き、さらなる突きでトドメを刺す。そこに加勢しようとロンギヌスが走り出す。
異族が相手でもあまり戦うのは気乗りしないが、人々を守るためならばと迷いを捨てる。それになにより、色々と頭の中を渦巻いている感情を、忘れたかった。
「加勢します!」
正確な突きは、横から狙おうとしていた別な異族の脇腹を突き飛ばす。
ロンギヌスの言葉に反応したそのキル姫は振り返り、またロンギヌスもそのキル姫の顔を見ようとした。
ドクン。心臓が高鳴る。キル姫としての本能が、淘汰への本能が否が応でも反応する。戦いを嫌うロンギヌス自身の感情より、戦いを歓びとするキル姫としての本能が。
それでも二人のロンギヌスは互いの視線を振り切り、背中合わせになる。
「淘汰は、戦いが終わってからです」
「……はい」
もう一人のロンギヌスのマスターもまた、マスターへと視線を向けていた。同じキル姫が出会った時に何が起きるのかを、よく知っているからだ。
「エンヴィ!二人を助けるんだ!」
「言われなくても……!」
淘汰への本能が、二人の動きを鈍らせるのは明白だった。氷を纏った槍を構え、異族の群れの中へと突撃していく。
本気を出したブラックキラーズの前に、その辺の異族の群れなど敵ではなかった。そこまで時間もかかることなく、あっさりと異族は全滅する。
……そんなことは、重要ではない。
戦いが一段落付き、はやる心を落ち着かせるために深呼吸し、二人のロンギヌスが槍を構え立つ。
エンヴィが二人のマスターに、下がるように視線と手で誘導する。
「君は?君はロンギヌスじゃ……」
「まあ、私は淘汰のできない不良品ですから」
見ず知らずの奏官に丁寧に説明する必要もない。適当にはぐらかしつつも、三人の目線は向き合うロンギヌスへと戻っていく。
淘汰。キル姫同士の、イミテーション同士での儀式であり、決闘であり、殺し合いでもある。敗けた方は吸収されていき、最後の一人になった時にオリジナルとなる。そしてその戦いは、本能に刻まれている。
間合いを測りながら、ジリジリと二人は距離を詰めていく。それと同時に、少しずつ上がっていく口角。二人の闘争心が溢れたその瞬間、ほとんど同時に駆け出し槍を突き出した。まともに避けなければ、心臓を貫いていただろうその槍はしかしお互いに弾き合い狙いからズレて、かする程度。肌が裂けて垂れた血など、今更気にもとめない。
次の手を打とうとして、二人が振り返りながら、片方は槍で薙ぐ。身体を反らして躱しながら、脇腹へ向けて突きを繰り出すがすぐに槍を構え直し防がれる。
一進一退の攻防が激しく繰り返される。キル姫の中でも強い力を持つとされながらも、戦いを好まないロンギヌス。そんな二人の儀式は、滅多に見れないだろう苛烈さを持っていた。
「私は!」
ロンギヌスが、戦いながら叫ぶ。戦いの中で忘れるどころか膨れ上がっていく感情を吐き出すように。
「負けられないんです!」
「私だって!」
当たり前だ。負けを認め、素直に消えゆくキル姫などいない。
「私は!私は!」
でも
「マスターが!」
キル姫じゃなくて
「好きなんです!!」
人として、負けられない。
その言葉と共に放たれた一撃は、重かったように思えた。実際に、想いだけで都合好く強さが変わるようなものではないはずだったが、そう感じたのだから間違いない。
もう一人のロンギヌスだって、その想いはある。マスターが好きだし、戦いを好もうとしない変わり者のキル姫を受け入れてくれた恩もあるし、それだけじゃなくて……
腹を貫いた槍の感触を感じながらも、ロンギヌスは倒れた。
ロンギヌスは静かに槍を抜く。二人からはもう、戦いへの興奮はなくなっていた。ただ、敗けたロンギヌスの表情は凪いでいた。
伸ばされた手を、ロンギヌスは掴む。
「……私のこと、連れて行ってください」
「はい。必ず」
手の中で消えていく。目の前のロンギヌスが、自分になる。
淘汰とは、オリジナルへと近づくための儀式。故に、ただ敗者を生み出すだけではない。イミテーションを取り込んでいき、強くなっていく。
「今まで、ありがとうございました」
ロンギヌスのマスター……いや、ロンギヌスのマスターだった奏官へと、頭を下げた。それは、同じ顔をした赤の他人からではない、ロンギヌスからの心からの言葉。
「……ああ。そっちの君も、ロンギヌスのことをお願いするよ」
「もちろんだ」
どの口が言うんだか。エンヴィは少し呆れながらも、ロンギヌスに気づかれないようにマスターの服の袖を引っ張る。
「どうした?」
「今日、いいですか?」
「……いや、待ってくれ。流石に今日は」
マスターは横目でロンギヌスを見るが、かつてのマスターへのお別れだと、何か話していてこちらに気がつく様子はない。
「ロンギヌスが淘汰したんだ。そんな時に……」
「逃げたら、承知しませんよ?」
何か話している二人を見て、きょとんとロンギヌスが首を傾げる。それから静かに、嫉妬の炎を燃やしていた。
マスターもまた、エンヴィの強い意思の籠もった瞳を見て、認めるのだった。
トマト。トマト。そしてトマト。……正確には、トマトを使った料理。マスターが料理を用意している間に、二人のロンギヌスはのんびりと席で話していた。
「……マスターって、料理上手いんですね」
「そうですよ。普段はあまりしないのですが」
ロンギヌスがエンヴィの思考を探るように、顔を覗き込む。
「何か?」
「その、先程マスターと何を話していたのですか?」
「………後で説明しますよ。それより今は、一つだけ言わせてください」
真剣な顔で、目をつむり深呼吸してから言葉を吐き出した。
「淘汰、おめでとうございます」
「………はい。ありがとうございます」
ロンギヌスには、エンヴィの顔が少しだけ悲しそうに見えた。淘汰されることのない、決してオリジナルになることはないブラックキラーズだからこその言葉だったのだろうか。
ただ、そのお陰で今こうして二人が淘汰し合わずに済んでいる。それだけは、不思議とありがたかった。
トマトの匂いが付くのではないだろうか。そんな勢いでトマトまみれになったマスターは、部屋でくつろいでいた。
できれば今日はロンギヌスいようかと思っていた。淘汰、それに勝ち残れるのは一人だけだ。そんな戦いに勝った。これが一度目ではない。
そんな淘汰をした特別な日な訳で、エンヴィもそれを分かってないはずがない。なので、あのお願いをしてきた理由が分からない。……もしかしたら、大切な話があるから二人きりになりたいだけなのか、別の理由があるのか。単にセックスをしたくて誘ってきたようには見えなかったので、部屋に残っている。
すると、ノックの音が聞こえる。
「大丈夫だ、入ってくれ」
エンヴィだろうとマスターが答えると、扉が広く。そして
押されるように入ってきて、オドオドと視線を忙しなく動かしている。そして、押した犯人、エンヴィが後から入り扉を閉じる。
「……どういうことだ?」
「え、えっと、私戻り……!」
逃げ出すように部屋から出ようとするロンギヌスだったが、エンヴィが扉の前から動かない。
「いいのですか?」
「………」
ぎゅっと胸の前で手を握りしめ、俯く。それからエンヴィを見つめる。
「何か、大事な用があるのか?」
中々口を開かないロンギヌスへ促すように、マスターが問いかける。
もう一度ロンギヌスはエンヴィの顔を見てから、再びマスターへと向き直る。
「……マスター、私はあなたのことが好きです」
「ああ」
「……」
「……」
そこで見事に会話が固まってしまう二人に、エンヴィが呆れてため息を吐く。とても分かりやすく。
「あの、マスター?分かってます?」
「………?」
「………その、やっぱりなんでも」
戦っていた時に出た言葉は、熱に押されるように吐き出された言葉。けれど、今のだけは一世一代の決意を込めた告白だった。
それを理解していないマスターに、やはり女として見られていないという現実に打ちひしがれてしまう。再び諦めが影を差した時、呆れと怒りが半分のエンヴィがマスターに詰め寄る。
「あなたがロンギヌスとどのように過ごしてきたのか、どのような仲を築いて来たのか、私はちょっとしか知りません。けれど、ロンギヌスだって……!」
「……ああ、そうか。俺は」
マスターは立ち上がる。怒っているエンヴィを見て驚き固まっているロンギヌスへと一直線へ向かい、抱きしめた。
「……っ!?」
「ごめん、そうだよな。なんで俺、気づかなかったんだ」
それから、ゆっくりと離れていく。それからマスターの視線は、エンヴィへと移る。
「でも、俺は……」
「構いませんよ?」
即答だった。マスターとロンギヌスが目を丸くして見つめる。
「でなければ態々こんなことしませんよ。……ロンギヌスのことは信頼出来ますし、何よりマスターは二人の女性を愛せないほど、小さな男ですか?」
ニヤリと挑発するように笑うエンヴィに、微妙な空気になる。
「三人で、ですよね?」
「ロンギヌスは私のこと嫌いですか?」
「……嫌いでは、ないですよ?」
二人が目を合わせ頷いてから、マスターへと視線を移す。その時に既に二人の目は、獣に変わっていた。
「ロンギヌス……?エンヴィ……?」
ロンギヌスが、マスターのベッドに横たわり脚を開く。恥ずかしさも残っているのか、或いは興奮か。顔を真っ赤にしながらマスターに言う。
「私の初めて、もらってください……!」
エンヴィもさり気なくロンギヌスを支えるように背後に周り混んだ。……その光景と状況に、理解よりも興奮が上回っていった。
「ごめん、ロンギヌス。我慢できない!」
「ふえ?」
ロンギヌスの前に飛び出たそそり立つ肉棒に、身体がガチガチに固まる。
こんなに大きいのが、私の中に……!?
そんな驚愕をよそにそれはロンギヌスの隠部に添えられる。
「や、やっぱまっ………!?!?」
言い切る前に、それは勢いよく挿入された。処女膜をぶち破る勢いで強引に侵入してきて、あまりの痛みに声も上がらない。
「いけないマスターですね。まだちゃんと濡れてない女の子に挿れるなんて」
「誘ってきたのはお前らだろ!」
「〜〜〜!?」
マスターはしっかりとロンギヌスの身体を掴み容赦なく腰を振り始める。全然気持ちよさなんて感じなくて、痛みで意識が飛びそうになるが更に別の感触。服の中に侵入してきた二つの手が胸をもみ始める。
エンヴィが優しく愛撫しながら、更に顔を近づけてくる。それを察知した直後に唇を奪われ舌が侵入してくる。
痛みと混乱と快楽と、様々な感情に呑み込まれて頭の中がショートする。今まで一度たりともマスターに乱暴なんてされたこともなかったのに、今は獣と化しているその姿にも一つ混乱を加速させている。
ただ同時に、今まで見たことなかったマスターとの一面が見れたようで興奮する……ようなしないような。ぐちゃぐちゃに溶け始めているロンギヌスの思考はもはやまともに機能していなかった。
更にエンヴィの愛撫のお陰かはたまた慣れてきたのか、愛液が出始め少しずつ痛みが和らぎ快楽がそれを上回っていく。完全に消えたわけではないが、苦痛に悶えるだけではなくセックスを楽しめるだけの余裕が生まれてくる。それを察したか、エンヴィの手は乳首へと移動しこりこりと強めの刺激へと変えていく。
「はあ………♡」
エンヴィがゆっくりと唇を離すと、そこには同じく快楽と興奮で蕩けきった顔がそこにあった。自分も今こんな顔をしているのだろうかと一瞬だけ思考がよぎり、同時にぞくぞくっと不思議な感覚を覚える。
ロンギヌスは左手を伸ばすとエンヴィも同じく左手を離し、それから指が絡められていく。更に右手は自然とエンヴィの身体を撫でながら、既にびしょ濡れの股へと潜らせる。
「はあっ♡あっあっ♡」
エンヴィとのキスをやめて自由になった口から、嬌声が漏れる。同時にマスターの陰経がびくびくとし始めていることに気がつく。
「ますたーのがっ、ますたーのがへんれすっ♡」
「マスター、もう出したいんですね……♡」
ロンギヌスよりかは幾分か思考に余裕があるエンヴィが、必死な様子のマスターを見て再び妖しい笑みを浮かべる。
「ああ、もう限界だ!出すぞ!」
「だすっ!?だすってなにを!?」
直後、膣内に熱い何かが注がれていく。
「ひあああ!?」
わけがわからないという様子でただひたすらにぐちゃぐちゃになる。見てみれば、結合部から白い液体がどくどくと溢れ溢れていた。
「こ、これ……?」
「精液。知らないわけでもないですよね」
「せい、えき……?」
頭が回らない。知っているような、知らないような。聞いたことあるようなないような。
ぐるぐるぐる、頭と目を回しているとマスターがゆっくりと引き抜いていた。よほどたくさん注がれたようで、とろりと更に精液が垂れていく。
「ろ、ロンギヌス?大丈夫か?」
一度出して、いくらか理性を取り戻したマスターが慌てて声をかけるが、ロンギヌスの瞳はもう半分閉じていた。
「ます、たー……?」
どろんと意識が途切れていく。初めての行為……それもレイプ紛いの激しい行為に、身体が疲れ果てていた。
朝。日が差している。ぐぅ〜と身体を伸ばし、なんかあそこが痛いな……とぼんやり考えて、何故か下着になっていることに気がつく。それも昨日着ていなかったモノ。
更に何故か隣に眠っているエンヴィ。しかも同じく下着姿。ゆっくりとぼやけていた思考が鮮明となり、同時に記憶も返ってくる。
その朝、悲鳴が空をつんざいたそうだ。
天上世界。二人のロンギヌス……それもとても強いロンギヌスを連れていたマスターがいるとか、天上での異変の解決に大きく貢献したとか、色々とあったのだが……それはまた、別の話。