俺たちは風呂から上がると、軽く飯を済ませ、その後は他愛もない話をして時間を過ごしていた。
昼を過ぎた頃、俺は例の話を高野さんにした。
「あの、昨日の話の事なんですが、あれから詳しいことは何も話せてなくて・・・その、細かいことを決めたいんですが・・・」
俺がそういうと、高野さんは『ああ』と短く返事をした。
二人してダイニングのテーブルに向かい合わせで座ると、高野さんが『コーヒー飲むか?』と聞いてきたので、『はい』と答えた。
高野さんが二人分の珈琲を持ってテーブルに付くと、少し沈黙が続いた。
昼間では軽口を扣いて、笑って離していたのに、途端に空気が重くなったような気がする。
何を話せば良いのか、何から話せば良いのか、頭の中でぐるぐるしていると、高野さんから『俺からも条件って出せるんだよな』と聞かれた。
「あ、はい。もちろんです。当然俺ばっかりの都合では無いので、高野さんも・・・。お互いが納得できる着地が出来れば良いなと」
「じゃあ、律は嫌だって言ってたけど、その期間だけでも一緒に住みたい。職場も同じで家も隣通しだけど、四六時中一緒に居たい。10年は埋まらなくても、少しでも近くに居たい。駄目か?」
「・・・・・・」
「・・・、無理にそうしたいわけじゃない。無理しなくても良い」
そう言った高野さんは、少し珈琲の入ったカップを見つめた。
「・・まぁ・・、泊まりの回数を増やすとかくらいなら・・・」
俺がそう答えると、高野さんはカップから視線を上げ、明らかに嬉しそうな表情をした。
その表情を見て俺は安心した。
「じゃあ、俺は、月に1回以上は2人でどこか出かけたいです。遠出とかじゃなくて、今回みたいな、新しく出来た店とか、のんびり出来そうな場所とか、・・・それで、それでお互いの話をしたいです。離れていた10年のことも、イギリスで見た景色とか、食べたものとか、面白かったこと、嫌なこと、何でも・・話せること話したいです。それと高野さんのことも、、、、聞きたいです。香川で過ごした事、大学時代のこと、後、集談社時代の事も、話せることだけで良い、知らなかったことを一つずつ無くしたい、、、です」
「そんなことでいいなら、いつでも話す。お前のことも、全部聞きたい。ま、清宮さんの事は別に良いけど・・・」
そんな事を言うと、珈琲を一気に飲み干し、ぷいっと席を立った。
「あの、・・・尚のことは話しましたけど、本当に唯の友達です。イギリスで過ごした時間の多くを尚と過ごしました。寮での部屋も同室だったし、イギリスへ来たばかりで、土地勘の無い俺を彼方此方連れ回して元気づけようとしてくれたのは、同じ日本人の尚でした。だから、尚の話をしないというのは無理です。でも、俺は尚にそれ以上の感情は持っていません。今だって感謝はしているけど、特別な感情はこれっぽちも有りません。俺がと、とくべつ、、、に思うのは、、、貴方だけ、、、、です」
俺が言い終わる前に高野さんは席へ戻り、腰を下ろしていた。そのまま前のめりに顔を近づけてくると、『最後、聞こえなかった』と、真顔で俺に言い放った。
「・・・なっ・・・・う、嘘ですね、き、聞こえてたでしょ!!」
「いや、本当に聞こえなかった。なに、お前俺に聞かれたくないこと言ってたの?」
こういう人を茶化す様な行動がこの人なんだろうけど、そこだけは一生好きになれないと思う。
でも、高野さんのこんな行動の意味を知り、深く後悔することに俺はいずれなるんだけど、まだまだお子様な俺はそんな事考えもせずに、茶化されてバカにされた苛立ちをそのまま表情にするだけだった。