昨日は移動と挨拶の承諾のため肉体的にも精神的にも疲弊していた。そのためかこの慣れない地でも割と良い睡眠を摂る事ができた。
今朝の目覚ましは早朝にも関わらず子孫繁栄を望む蝉たちの酷く耳奥に響く合唱だった。「ジリジリ」、「ミンミン」など同じ言葉の繰り返しで伝わるものなどあるのだろうか。蝉の鳴き声の合間を微かに村人の声が垣間見える。
八幡「(...例の祭りか)」
ふと、昨日の雪乃との何気ない会話が頭をよぎる。
雪乃「この時だけは何も聞かされてないの」
この時、彼女の顔に曇る影に若干の不安を覚えたものの、やはりそれは杞憂に過ぎない。そう思うことにしていたのだ。このまま何事もなく夏が終わるの待つ、そうなることに期待するほかなかった。
そんな事を考えながらふと辺りを見渡してみたが、
八幡「...雪乃はもう起きたのか?」
昨夜、隣でスヤスヤと寝息を立てていた彼女の姿がそこにはなかった。早起きな性格なのは百も承知な上なのだが、些か早すぎなのではないか。やはり、こういった場では彼女もより一層引き締まっているということか。
改めて、雪乃のパートナーとしての自覚を持ち、朝支度を始めた。
雪乃「お祖父様、どういうことですか!? 話が違います!! 私は彼と参加する予定のはずでは?」
孝蔵「本当に申し訳ない... ただ、昔からの馴染みだから、てっきり隼人君かと」
雪乃「そんなことあるはずがありません!! とにかくアレは私は八幡と執り行います、よろしいですね?」
孝蔵「..............」
雪乃「...お祖父様?」
孝蔵「残念だが、それは無理なんだよ」
雪乃「...はい? なぜです?」
孝蔵「既に執行者の名前は村中に伝達されておる。それに、一度執行者を決めたら変更することはできない決まりなのだよ」
雪乃「そんな.....」
???「......ンフッ」
一通り身支度を整え、寝室でくつろいでいると、廊下のほうからパタパタと軽い足音が近づいてくる。そして、俺の部屋の前で止まり、引き戸が開かれる。
スゥー--
雪乃「.........」
引き戸から顔を覗かせた彼女は、どこか神妙な趣きをしている。
八幡「どうしたんだ、そんな表情久々に拝んだぞ?」
雪乃「......なんでもないわ、ごめんなさい」
そう告げると彼女は部屋の整理を始めた。とりあえず何かしていないと落ち着かないような、そんな気がした。
八幡「じいさんの所来ていつも以上にかしこまるのは分かる。ただ、ここにいる人間はみんな素のお前を知っている。だから変に自分を繕わなくてもいいんじゃないか?」
一応、俺なりにフォローのつもりで彼女に届けた言葉。すると、雪乃は作業を一旦止め、こちらを向き、
雪乃「....そうね、そうしてみるわ」
わずかに上がった口角と先ほどよりかは明るい反応に俺は少し安堵することとなった。
八幡「それこそ、今日の祭りで良い気分転換になるんじゃねーの?」
雪乃「...............................そうね.......
............けて.........」
二話 了