エピローグ
「荒川さん……今日も……ありがとぉ……」
「はい、お疲れ様でした。また明日学校で」
ふらふらと、今日の利用者が部屋を去っていった。
そんな後ろ姿を彩芽は微笑みながら見送り、汚れてしまったシーツを回収しながら掃除を始める。
今日はソフトコースだった。
少々濡れにくい子だったがために、それほど時間も掛からずに後処理が終わる。
彩芽も学校を後にする。
人よりも少しだけ大きな通学バッグ。スーパーへと足を運び、その中からエコバッグを取り出す。
顔馴染みの店員と話しつつ、買い物もそれほど時間がかからずに終わる。
帰路につく。
たまたま出会った近所のお姉さんと談笑し、またね、という言葉と共に別れた。
が、今度は同じアパートのお姉さんと出会い、これまた談笑しながら一緒に帰る事となった。
「ただいま」
誰もいないというのに、律儀に挨拶する彩芽。一時期はそれをやめた事もあるのだが、何も言わないというのが何やらムズムズしたらしく、以来この習慣はずっと続いている。
まず冷蔵庫に食材を入れ、続いてシーツを洗濯機に入れ、続いて隠していた金庫にお金を入れる。
そこでようやく制服を脱いだ。
紺のブレザーと白のブラウスから現れたのは青の下着。
それさえも脱いだ。
「ん……っ」
裸の状態でベッドに腰掛けた彩芽は、手を股間へと差し込んだ。
「ぁ……はぁ……っ」
くりくりと、クリトリスが雑に転がされる。
そこに慈愛さえ感じ取れるような丁寧な手付きは無い。
「んっ、んっ、んっ……!」
くぐもった吐息が漏れる。
それはマッサージなどではなかった。
明確にオナニーだった。
「は、あ……んぅっ……ぁんっ!」
同時に乳首を雑に捏ねる彩芽。
くにくに、くにゅくにゅ、と突起が白魚のような指先でいじめ抜かれる。
「あっ、ふぁぁぁぁぁっ!」
そして、陰部に指先が消えた。
「ああっ! んんっ! んぁっ、ああっ!」
そのまま、くちょくちょと粘ついた音が鳴り始める。
少しの事前準備で、彩芽のそこは受け入れるカタチへとなっていた。
「はぁあんんっ! んぅっ! あっああっ!」
誰にも気を遣う事のない、自由なオナニー。
指先がおまんこの一番気持ちいい場所を捉え、最初からそこを執拗に捏ねくり回す。
「ぁっぁっぁっあっあっあぅっんんんっ!」
脳裏に何を描いているのかはわからない。
だが彩芽の吐息は濃くなっていき、顔も紅潮していく。動きが早まっていく。強くなっていく。
くにゅくにゅと乳首は弄り倒される。
ぐにぐにとクリトリスは手の平で押し潰される。
くちょくちょとおまんこは掻き回される。
「んあっ! いっ、くぅぅ……‼︎」
それは、唐突だった。
傍目には高まりきっていないと思われたそのオナニーは、唐突に終わりを迎えた。
彩芽はきゅっと目を閉じ、気持ちいい場所をぎゅっと押さえたまま微動だにしなくなる。
身体はふるふると震えて、確かに今絶頂したのだと主張している。
「ぁ、はぁ……っ」
ちゅぽ、という小さな音と共におまんこから指が引き抜かれた。
もっと欲しい、とばかりにくぱくぱと開閉するそこなど放っておき、彩芽は指先と陰部をティッシュで拭う。
「……よしっ」
そして、
――――――
一年と少し後。
「荒川さーん! ぐすっ! 荒川さーん!」
「もうっ、泣かないでください」
「やあだあああ! 卒業するのやだああ!」
「あはは、一緒に卒業しましょう?」
「荒川先輩いぃぃ! 行かないでくださいいい!」
「大丈夫ですよ、また会えますから」
「ううっ! うぃーっぐ! う゛ぅぅっ!」
「あぁぁほら、涙を拭いてください」
「荒川さん荒川さん荒川さんっ!」
「あはは……」
大人気だった。
今日は卒業式。
荒川彩芽がこの学校を旅立つ時であった。
が、同級生下級生問わず女子達がめっちゃ泣いていた。一部先生も泣いていた。
「荒川さん、大学でもよろしくねー」
なお、一部の者は余裕綽々だった。恨めしげな視線はバチバチに浴びていたが。
「皆様、本当にお世話になりました」
『こっちの台詞だよ⁉︎』
ぺこり、と一礼する彩芽だったが、それに対し総ツッコミが入る。
彩芽がこの三年間でお世話した生徒は数える事すら出来ない程の人数。
最終的には、女子ネットワークの中で彩芽の噂を知らぬ者などいないほどに広まり、最上級生になって自身も受験勉強で忙しいにも関わらず、あのお手伝いはずっと続いていた。
「荒川さーん。もうお店出しちゃってよー」
そんな中、冗談半分でそんな台詞が飛び出た。
「はい、その予定です」
『!?!?!?!?!?』
爆弾が落とされた。
何年後になるかは分かりませんが、と付け加える彩芽だったが、そんな台詞が頭に入ってきている者など皆無だった。
お店。彩芽のお店。
それが何のお店かなど想像に難くない。
即ちレズ風俗。
群衆は色めきだった。
男子生徒も周囲にいるために具体的な名詞は使えないものの、皆が皆超歓喜した。
そんな彼女達が思った事はただ一つ。
『絶対通う!』
故に彼女達は決意した。勉学に励もう、と。仕事に、バイトに精を出そう、と。
彩芽の前に立った時、恥ずかしい自分を見せないよう自己研鑽に努めよう、と。その上でめっちゃ気持ちよくしてもらおう、と。
皆が皆、燃えていた。
「では皆様。また会う日まで」
そんな彼女達を苦笑気味に見やったものの、ふわり、といつもの優しい笑顔を浮かべながら最後にそう締めくくり、彩芽は卒業した。
――――――
少しだけ時間が流れたある日のこと。
「いやー荒川ちゃん、手伝ってもらって悪いねー」
「いえいえ。こういうの得意ですからっ」
華の大学生活。
新入生達を迎えたのはサークル勧誘の嵐。
「はー、お嫁に欲しい」
「あはは……」
彩芽も例に漏れず、とあるサークルの新歓コンパに参加していた。
居酒屋でどんちゃん騒ぎの一次会を終え、カラオケでの二次会を経て、とある女子の先輩の部屋に集まっての三次会。
他の先輩達は酔い潰れながら帰り、新入生達も機を見て帰り、残ったのはこの部屋の主と彩芽の二人だけであった。
「片付けとかも手際良いよねー」
「ふふ、お褒めいただき恐縮です」
「かーっ! それでいてこの謙虚さ! たまんねー」
高校時代に培った一人暮らしの経験が活かされていた。
散乱した缶や包装をテキパキと分別廃棄し、皿なども洗う。その様は部屋の主よりも手慣れたもので、片付けはそう時間がかからずに終わった。
「あーあ。うちの元カレもこのくらい甲斐性あったならなー」
そんな彩芽を見やり、部屋主は溜息を吐く。
「元カレ、ですか?」
「うん、最近別れちゃった」
他の先輩達同様、そこそこ酔っ払っていた彼女はぽつぽつと語り出す。
「甲斐性云々は置いといてさ」
「はい」
「いや甲斐性もアレだけど」
「あはは……」
それから始まったのは元カレに対する愚痴。
やれ片付け等の手伝いをあまりしてくれなかった、自分の部屋がちょっと汚かった、時間に少しルーズだった、でも優しくて、でもカッコよくて、でもめっちゃ惚れてて、でも趣味嗜好は合ったし、だから一緒にいて凄く快適だったし、だから相思相愛だったのだけれど。
「……でもさ」
「はい」
「特にさ」
「はい」
「夜のアレ」
「アレ」
だがそこで、話の流れが変わった。
「あんまり気持ちよくなかった」
「それは……」
「一生懸命してくれてたんだよ? だけどなんか、その、ピントが地味に合っていなかったというか……」
「……はい」
「私も私でどこが良い、ってのをうまく伝えられなかったし……」
そう言って、部屋主は大きく溜息を吐いた。
「だから溜まっていく一方だし……って、何言ってんだろ。忘れて忘れて」
会ったばかりの新入生に何を言っているのか、と酔いながらも正気に戻る彼女であったが、その視線の先には真面目な表情の彩芽がいた。
「先輩」
「な、なに?」
彩芽は、女の子のお悩み解決のプロである。困っている事があれば、それを助けずにはいられない。
それが、こと性的な問題であれば、尚更。
だから、当然の如く、彩芽は言った。
「お手伝い、させていただけませんか?」