※この作品はR-18です。

仮面ペニッシャー   作:布施鉱平

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第十二話、それぞれの想い

「…………」

 

 藤崎茜が目を覚ましたとき、その目に映り込んだのは、見慣れた自室の天井であった。

 

 一瞬、先ほどまでの出来事は夢だったのだろうかと思いかけたが、その考えはすぐに否定される。

 

 なぜなら、ベッドに横たわる茜の姿は未だにブラックキャットのスーツを装着した状態のままであったし、なにより視線をずらしたすぐそこには、関係が微妙なものとなって以来、一度として茜の部屋に踏み入ることの無かった男────泰村隼人の姿があったからだ。

 

「隼人さん……」

 

「起きたか、茜……」

 

 二人の視線が交わる。

 

 聞きたいことがあった。

 

 言いたいことがあった。

 

 だが、それをどうやって伝えるべきなのか。

 

 二人は同時に同じ思いを抱き、そして先に口を開いたのは隼人の方であった。

 

「……話をしよう。俺が見せたあの姿について。そして、F.U.C.K.R(ファッカー)との因縁について」

 

「…………はい」

 

 真剣な隼人の口調に、茜もまた、覚悟を決めて頷いた。

 

 そして隼人は、自分の身に起きたことを語り始めた。

 

 平穏な日々の終わり、拉致、改造、脱出、戦い……

 

 その一つ一つを、茜は時に眉を顰め、時に唇を噛みしめながら聞き、気づけば、いつの間にか隼人の手を握りしめたまま涙を流していた。

 

 怒りがあった、悔しさがあった。

 

 自分の愛する人の身に突然の不幸が降りかかるのは、これで二度目なのだ。

 

 しかも、その両方に悪の組織の存在が関わっている。

 

 隼人の話が終わったとき、茜の覚悟もまた、決まっていた。

 

「……私の話を聞いて下さい。あの姿と、そして悪の組織との戦いについて……」

 

「……ああ、もちろんだ」

 

 隼人は茜の手を握り返し、その話に耳を傾けた。

 

 父の死、後悔、決意、偶然の出会い、そして戦いの始まり……

 

 話を進める茜の手を強く握りしめながら、隼人の心は怒りに震えていた。

 

 茜に年相応の少女らしい生活を送ることを許さなかった、悪の組織に対しては当然であるが、同時に一年もの間、自分が茜の孤独な戦いに気づいてやれなかったことに対しても、強い後悔と怒りを抱いていた。

 

 だが、それを謝ることなど出来るわけが無い。

 

 それは茜の覚悟に対する侮辱でしか無いからだ。

 

 茜は自らの意志で戦うことを決め、自らの意志で隠すことを決めた。

 

 そんな強い心をもつ少女に対して隼人が出来るのは、その覚悟を受け止めることだけであった。

 

「茜……」

 

「あ……隼人、さん」

 

 隼人は茜の体を優しい手つきでベッドから起こすと、その体を抱きしめた。

 

 一瞬の戸惑いを見せた茜だったが、その手はおずおずと隼人の広い背中に回され、そして隼人の体を強く抱きしめ返した。

 

 互いの鼓動が、互いの熱が、二人の傷ついた心を癒やしていくようだった。

 

「大きくなったな、茜……」

 

 実に数年ぶりに茜を抱きしめた隼人は、その成長ぶりに驚き、素直な感想を漏らした。

 

 もちろん、スーツ越しに感じる柔らかな胸のことだけを言っているわけではない。

 

「隼人さんも、逞しくなりました……」

 

 そして数年ぶりに想い人に抱きしめられた茜もまた、喜びと共に感想を呟いた。

 

 もちろん、あの時に見た巨大なチンコのことだけを言っている訳では無い。

 

 そのまま二人は、しばらくの間、成長した互いの感触を確かめるかのように、抱きしめ合うのであった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 ────数分後、二人は名残惜しく思いつつも手を離し、向かい合って座っていた。

 

 過去のことは互いに話したが、それで終わったわけでは無い。

 

 むしろ重要なのは未来の話なのだ。

 

「一度、隼人さんの体をE.Dに……ミドリさんに見て貰ったらいいんじゃ無いかと思います」

 

「E.Dか……」

 

 茜の提案に、隼人は迷うような表情を見せた。

 

 なぜなら、隼人の肉体は遺伝子レベルで改造を施され、すでに人間とは呼べない何かになってしまっている。

 

 人か怪人かの二つで分類するなら、間違いなく怪人側の存在なのだ。

 

 そして現代の日本において、怪人は『違法生物』として定められている。

 

 つまり、存在する事自体が法に触れているのだ。

 

 それゆえに、隼人はこれまで自分の正体を葵以外には明かせなかったのだが……

 

「大丈夫です。ミドリさんは、なんというか、その辺の価値観がちょっとおかし……独特な人ですから」

 

 しかし、茜は隼人の心配を否定した。

 

 ミドリ・ドライゼン・ヘルムという人物は、確かに世界でも有数の頭脳を持つ科学者だ。

 

 だが、優秀さと人間性は必ずしも比例しないのが、世界の通例でもある。

 

 ミドリもその例に漏れず、天才科学者であると同時に、倫理観の希薄なマッドサイエンティストの気質を有していた。

 

「そもそも私のスーツ……A.N.A(アナ)に遣われている『未知の科学技術(オーパーツ)』だって、本当は国に渡さなきゃならない、所持しているだけで違法な代物ですしね」

 

「それは……確かにそうだな」

 

 そう、茜のアナルに挿入されているA.N.A(アナ)には、遺跡から出土した『未知の科学技術(オーパーツ)』が組み込まれているのだが、これは本来であれば国が全てを管理保管するべきものなのだ。

 

 なぜなら、世界に存在する悪の組織が持つ独自の科学技術は、この『未知の科学技術(オーパーツ)』が元になっていると考えられているからである。

 

 遺跡から発掘された中で、現在判明している『未知の科学技術(オーパーツ)』の数は十数個に過ぎないが、実際は盗掘などにより行方の知れないものを含めると、その倍以上の数が存在すると言われているのだ。

 

 つまり、隼人は隠れてヒーローとして活動しつつも存在自体が法に反する怪人であり、茜もまた、ヒーローとして活躍しながらも、その活動を支えているのは違法な危険物なのである。

 

「だから、一度ミドリさんに見て貰いましょう。もしかしたら、隼人さんの体をなんとかする方法もあるかも知れませんし」

 

「……そう、だな。分かった。そのミドリという科学者に会いに行ってみよう」

 

「はい、じゃあ連絡しておきますね。……あ、もちろん、私も一緒に行きますよ」

 

 こうして隼人は、天才科学者ミドリ・ドライゼン・ヘルムに会いに行くこととなった。

 

 それが吉と出るか、それとも凶と出るか……

 

 いずれにせよ、クモンガーの言っていた『特別な改造に』ついて、何らかの発見をすることは出来るだろう。

 

 不安と期待を同時に抱きながら、隼人はまだ見ぬ天才科学者との出会いに思いを馳せるのであった。






ちなみにこの時、藤崎葵はまだ寝室のベッドで幸せそうに寝ているのだった。
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