夕食の用意を終えた隼人は、帰宅してシャワーを浴び、部屋着に着替えた茜と共に食卓に着いていた。
やや気まずい空気の中、二人は無言で箸を動かし、食事を進めていく。
いつもであれば葵が二人の緩衝材となり、隼人と茜も少ないながら会話を交わしたりするものなのだが、今日はその肝心の葵がヤリ過ぎでダウンしてしまっている。
心の中で小さくため息をつきながら、隼人はちらりと茜の方を覗き見た。
現在学園の二年生である茜は、おっとりとした性格と柔らかな容姿を持つ母親の葵とは違い、どちらかと言えば生真面目な性格で、容姿もやや凜々しさを感じるような整い方をしている。
おそらくは、葵よりも亡き父親の容姿を引き継いでいるのだろう。
胸や尻は、葵に似て非常に大きく育っているが……
と、視線が茜の胸元に移動しそうになるのを、隼人はすんでの所で堪えた。
そもそも茜と隼人が今のような関係になってしまったのは、おそらく茜が隼人の職業について知ってしまったことが原因だろうと推測していたからだ。
隼人は自分の仕事に誇りを持っていたが、だからといって他人に理解を求めようとは思っていなかったし、理解されづらいだろうとも思っていた。
ましてや当時まだ思春期真っ盛りであった茜が、AV男優という仕事に就いている隼人をどう思うかなど、深く考えずとも分かる。
おそらくは、軽蔑したであろう。
そのうえで自分の胸や尻に視線を送られたりなんかした日には、軽蔑を通り越して嫌悪の対象となってしまうかも知れない。
隼人にとって、茜は年の離れた妹のような存在であった。
血は繋がっておらずとも、家族のように思っていた。
大切な存在だし、愛してもいた。
だからこそ、茜にこれ以上距離を取られるのは、隼人にとって非常に辛いことであった。
「……お母さんは?」
何か会話の糸口はないか、と懸命に頭を働かせていた隼人に、茜の方から声をかけてきた。
しかし、それは非常に答えづらい質問でもあった。
なぜなら、葵は六時間もの長きにわたって犯され続けたあげく、現在は意識を失って眠っている最中だからだ。
まさか「お前のお母さんなら、いま俺の精液で腹をたぷたぷにしたまま寝てるよ」などと言えるはずもない。
「葵さんは…………疲れて眠っているようだった。起こすのも可哀想だから、今日は俺が食事の用意をしようと思ってな」
と、無難な答えを返しておく。
茜は「……ふぅん」と短い返事をし、また黙ってしまった。
いったい、思春期の妹や娘を持つ世の男たちは、どんな内容の会話をしているのか……
また訪れた沈黙に、隼人が頭を悩ませていると────微かなバイブ音が聞こえた。
AV男優だった隼人には聞き慣れた音だったが、もちろんそれは電動ディルドの音でもピンクローターの音でもなく、茜の持つスマホから聞こえてきた音だった。
スマホの画面を確認した茜は、残っていた食事を素早く平らげると、「……ごちそうさま」と隼人に告げ、食器を流しに置き、足早に自分の部屋に戻っていった。
もしかしたら恋人からの連絡かな……と、隼人がほろ苦い気持ちになっていると、茜はすぐに部屋から出てきた。
しかも、直前までの部屋着姿では無く、外出用の服に着替えてだ。
「今から外に行くのか? このご時世だ、一人で行くつもりなら、危ないから俺も一緒に……」
「……大丈夫、人に会いに行くから、一人じゃないし」
「だが……」
「行ってきます」
隼人との会話を切り上げるように、茜は出て行ってしまった。
その時の、何か隠し事をしているような、そして緊張しているような茜の表情に、隼人は言い知れぬ不安を覚えるのだった。
◇
────藤崎茜には秘密があった。
それは、母親である葵にも、恋心を抱いている隼人にも伝えていない、重大な秘密だった。
時は遡り、一年と少し前。
茜は誰にも告げずにただ一人、ある場所を訪れていた。
その場所とは、Equipment Arms Development Technology(補助兵装開発技術社)────通称『E.D』と呼ばれる、ヒーロー用のスーツや武器などを開発している会社だった。
「……来たか、茜」
受付をすんなりと通された茜が案内されたのは、第三研究室────最新鋭ヒーロースーツを開発しているE.Dの中でも、特に機密性の高い実験的な研究をしている場所だ。
そしてその中で茜を待ち構えていたのは、一見すると○学生にしか見えないような、白衣を着た幼い容姿の少女であった。
少女の名前は『ミドリ・ドライゼン・ヘルム』。
見た目は完全に未成年だが、実際には茜よりも年上の合法ロリだ。
日本人の父とドイツ人の母を両親に持つ日独ハーフで、十代半ばにしてこのE.Dを創設し、それから十年も経たずして世界でも名の知れたヒーロースーツ開発者となった大天才である。
そのミドリに、茜は呼び出されていたのだ。
「来てくれた、と言うことは、覚悟は決まったと考えてもいいのかな?」
「ええ」
「そうか……では、こちらに来たまえ」
ミドリに促され、茜はその後についていく。
そしてたどり着いたのは、ミドリ以外の人間は入ることも覗くことも許されていない、彼女個人の研究室……
対外的には一切その存在は発表されておらず、社内でも知る者は一握りの人間しかいないという、極秘の第四研究室であった。
いくつものヒーロースーツや武器などが雑多に並べられている中から、ミドリはひとつのアタッシュケースを手に取ると、茜の前に持ってきた。
「これがそうだ」
そう言って、ミドリはケースを開いた。
その中に入っていたのは、ピンポン球ほどの大きさの球体が、直列に六つ連なった形状をした、一本の棒────
それはどう見ても、アナルビーズであった。
しかもそのアナルビーズは、金属ともシリコンとも判断のつかぬ謎の素材で出来ており、表面の色はまるで流動しているかのように複雑に蠢いて、見る角度を変えずとも刻一刻とその色を変化させている。
「これが……」
あからさまなアダルトグッズを提示されたにも関わらず、茜は真剣な表情でアナルビーズを見つめた。
なぜならば……
「……そう、これが遺跡から出土したオーパーツを解析し組み込むことによって作られた、最新の────いや、未来のヒーロースーツ。その名も
それは、アナルビーズでは無かったからだ。