パロキャラたちでHentai×Hentai 作:ひきがやもとまち
「なんですって・・・? 古代魔導王国の遺跡を発見したですって!?」
未帰還部隊の捜索隊から思わぬ報告がもたらされた聖女王国辺境派遣軍司令官は、驚きながらも内心で舌打ちしていた。
・・・厄介な疫病神を見つけてくれたものですね・・・と。
「・・・わかりました。後は司令部が処理します。貴女たちは疲れているでしょうから、宿舎でゆっくり休みなさい」
「ハッ! 気遣っていただきありがとうございます、閣下」
「ただし、事が事です。内外に知れ渡っては軍の規律を乱すことにもなりかねませんので、許可あるまで箝口令を敷きます。――くれぐれも内密に。いいですね?」
「ハッ! 承知しました!!」
率直な感謝とともに敬礼して去って行く部下の仕官の背中を見送りながら、内心でバカ正直すぎる部下を罵倒しつつ、司令官は席から立ち上がって窓へと近づいていき夕暮れ空の風景へと視線を投げかける。
無論こんなド田舎辺境国の畑しかない風景に興味があったわけではない。ただ自分が考え事をしている顔を他人に見られたくなかっただけでしかない。
「・・・厄介なことになりましたわね、古代王国の遺跡とは・・・。アンジェリーナ様に、どう報告いたしたものか・・・」
綺麗に流された長い黒髪と切れ長の瞳、細長の眼鏡をかけて、聖女王国将軍の制服であるミニスカートスーツ軍服をまとった妙齢の美女司令官。
彼女は部下がいなくなった部屋で神経質そうに眼鏡を光らせると、ギリッと音を立てて爪を噛む。
『美しい美貌こそ女にとっての宝。美しい者は女神様の寵愛を得ている者』
とする聖女神教の教えを尊んでいる女王国貴族出身者らしい、恵まれたプロポーションと美貌を維持するための努力を欠かさなかった結実としてメリハリの取れた大人の体つきをもつ彼女に、文官・武官用を兼ねた高性能な蒼いミニスカ軍服は美しく似合っていたが、服と肉体の中に詰まっている心の醜さまで綺麗に飾れるほどの超高性能は付与できていなかったため、このような仕草をすると逆に性悪さが際立たされてしまう結果をも招く。
・・・・・・現在、彼女たちの本国では近く死期が訪れることを予言された聖女王陛下の後継者を決めるため、娘姉妹同士による権力闘争の真っ最中で、此度の遠征もその一環として行われたもの。
後継者選抜の際に、より多く聖女神のために貢献した者が有利になれるから・・・・・・ただそれだけの理由と目的で戦略的にも政治的にも価値の乏しい田舎の辺境国にまではるばる遠征してきてやっただけだったのである。
そこに、莫大な価値が眠っている古代王国の遺跡が突如として出現したのだ。司令官としては判断に迷わざるを得ない。
――特に、彼女の場合は最重要事項になったと言うべきだろう。
彼女は代々、第二王女アンジェリーナの家系に仕え続ける直臣の一族現当主であったが、武断的で武力バカのきらいをもつ第二王女と、インテリ風の見た目と能力を持った自分とではタイプが合わず、以前から相性が悪かった。
だからこそ今回の後継者争いを機に乗り換えようと決断して、謀略家タイプの第三王女イリーナとの密約を交わした上でアンジェリーナ第二皇女の帝位継承を後押しするためという名目の元、出陣してきた微妙すぎる立場にあったからである。
報告すべき対象が二人もいて、どちら共が対立している上に本命は既に決めている彼女だったが・・・・・・さすがに女王国の将軍として表向きの立場というものもある。いくら何でも家臣筋の者が王族の一人を謀り利用したとあっては不敬罪にも程がある。
しかも、そうなった時にイリーナ第三王女は必ず自分を見捨てるだろう。もとより成功報酬としての密約なのだ、自分が損をしてまで見捨てない方がおかしいと彼女自身でさえ思ってしまう。
もともと未帰還の部隊を捜索させたのも、敵の残党に襲われたものと仮定してアジトを探させるためであって、法に則って規則通りに現地徴用してやっただけの元盗賊女など生きていようが殺されていようが彼女にとってはどちらでもよかったのだ。
その程度の見積もりで行わせた捜索行で思わぬ大魚が釣れてしまった彼女に、そうなった時の展望など今の時点であるわけがない。
「・・・とにかく考えるための時間を稼がなければいけませんね・・・。誰にも知られないよう、報告を少しでも遅らせるため口実を作っての時間稼ぎが必須の状況です・・・」
悔しげに爪を噛みながら彼女は愚痴るようにつぶやく。
まったく、寝返れさえすればいい侵略先にとんでもないド田舎国家を選んでしまったせいで災厄に見舞われたものだと、己に降りかかった不幸を嘆きながら・・・・・・。
しかも現在、彼女がおかれている立場にあっては“この件を誰にも知られないようにすること”それ自体が不可能事に近いレベルで難しく。
「――特に、“あの方”にだけは絶対に知られないよう情報統制には細心の注意を払わなければ・・・。
もし万が一にも“あの方”に、この件が知られてしまった時にはどのようなことが起きてしまうのか・・・・・・『バカでも分かる程度のこと』だから恐ろしい・・・・・・」
眼鏡の美人司令官はそうつぶやくと、身震いしながら首をすくめる。
“自分たち女王国軍にとって最高の英雄”の麗しい姿と、頼りがいのある圧倒的強さを思い出して恐怖に首筋を寒くさせられる。
・・・・・・そんな時だ。
扉の向こう側にある廊下の先から、規則正しい軍靴の歩調が静かに響いてきて、礼儀正しくノックの音が聞こえてきて、キツそうに見える美貌をもった美人司令官を『わひっ!?』と驚かせてピョン!と軽く飛び上がらせてから涙目で振り返らせてしまう恐ろしい相手の到来が知らされたのは。
「――私だ、司令官。聖女王国第一王女エミリア・セイントナイトが、話があって罷り越しました。入室してもよろしいでしょうか?」
「・・・・・・どうぞ、殿下。こちらも一段落ついたところでしたので、丁度良かった・・・」
慌てて取り繕い、椅子に座り直しながら一つ咳を吐いて座り直し、礼儀正しく入室の許可を求めてきた目上の王族相手に形式的には上の礼儀作法として立場にある現場司令官として入室する許可を与える。
「失礼いたします」
ガチャッと最小限の音だけ立てて扉を開けて、司令官室に入室してきた鎧甲冑姿の女騎士の出で立ちは相手を知らぬ者から見れば無礼とも、反逆の証拠とも取れる危険なものであるはずだったが、彼女に対してだけは“その種の心配は”しなくていいことを短い付き合いながらも司令官はよく思い知らされていた。
ここは侵略先という名の敵地であり、いつどこから敵が襲いかかってくるかも侵攻してきた側の自分たちには分かりようもない以上、いつ何時どこから敵が攻めてきたとしても即応できるだけの準備を常に欠かさないことは武人として当然の義務だった。
彼女はそれを実践しているだけなのだ。
現に、普段なら履いているはずの右腰に帯びた聖剣はなく、代わって宝石がついた短剣一本だけが今の彼女が武器として武装している刃物の全てとなっている。
相手に対して敵意がないことを示すと同時に、司令官室に入る時には剣を預けるという軍律を遵守した結果であり、皇族や上位貴族には許されている特権も戦場では行使しないとする彼女の誠実さをよく現した行動ともいえるだろう。
無論それは、クソ真面目すぎる正義バカの堅物という側面をも持っていることを示しており、司令官が警戒しているのも其方の方面に対してのものだけだった。
もし彼女が今回の件をどこかから耳にしていたとしたら、その時は―――
「実は治安維持のパトロール中に、町の住人たちから気になる噂話を耳にしたのです。『我が軍の一部が逃げた敵を追撃中に消息を絶った』・・・と。真でしょうか?」
「・・・占領地の住民が、制圧軍に対しての悪口をデマとして流すことはよくあることです」
答えながら司令官は、内心で激しく舌打ちしていた。軍の内側から情報が漏れて知られてしまうことばかりを警戒していたために、外部から情報がもたらされてしまう危険性を度外視してしまっていた自分の焦りぶりを思い知らされる形となったからだ。
思えば、捜索隊を進発させた時は『その方向に敵の残党が潜んでいるかもしれない』という警戒心程度しか持っていなかったために隠蔽工作など一つも行っていなかった。その光景を目にしていた占領地住人が侵略者たちへの悪意と決めつけによって真実に辿り着いてしまう可能性は充分すぎるほどありすぎる状況だったのだ。
「そうかもしれませんが、もし事実であった場合、放置しておける情報ではありません。私が直接、彼女たちの捜索に出向きたいのです。ご許可いただけますね?」
「で、殿下! それは余りに危険すぎますわ! どうか尊いお身体である御身を大切に・・・っ」
「要らぬ心配は無用です」
そう言って、相手の申し出を短く拒絶した後、【蒼の姫騎士】とも呼ばれている凜々しくて強い皇女殿下は、表情を崩して寂しそうに微笑を漏らされると―――
「・・・どのみち戦場まできて飾り物にしかしたくならない、お荷物皇女の身です。軍にとっても貴女にとっても居ない方が身軽になるのが私ですから、厄介払いできて丁度良いでしょう?」
ぐ・・・、と思わず唸らされてしまった司令官が黙り込まされる姿に、もう一度微笑を向けてから表情を引き締め直して一礼し、許可はもらえたものとして司令官室を去って行く『王族による戦場視察』という名目で同行を“しぶしぶ許可して差し上げた第一王女殿下”の後ろ姿を見送ることしかできなかった眼鏡の司令官はやがて肩の力を抜いて、椅子に座り直す。
まぁ、良いか。お飾りにも時にガス抜きは必要だ・・・と自分自身を納得させるための口実を頭の中に思い浮かべながら・・・。
「・・・やれやれ・・・、殿下の“物好き”にも困ったものですね・・・。あの趣味さえなければ女王国中がすべて彼女の味方となり、大陸史上最大の帝国を築き上げた建国者になれていたものを・・・惜しいことです」
司令官はつぶやき、嘘偽りない本心から残念がって溜息をつく。
それは彼女だけが抱いている想いではなく、女王軍兵士も臣民も、あるいは他の王族たちさえ想いだけは共有していたかもしれない魅力的な架空の未来にありえたはずの姿・・・。
蒼の姫騎士、気高く高潔な理想の剣士、聖女王国軍最強にして最高の切り札。
王族の直系で、しかも女系国家の王家に一番上の娘として生まれた身でありながら数多の異名を持つ有数の戦士でもあるエミリア・セイントナイト第一皇女は、聖女女王国にあって正しく【異端】と呼ぶべき存在であり【変わり者】とされている人物でも在り続けていた。
望めば王位を手に入れられる王族直系でありながら権力を望まず、陰謀渦巻く宮廷よりも兵士たちと泥にまみれて国と民のために外敵と戦う戦場を好み、そして強く、美しい。
権力者の一族として余りにも異端過ぎる気質を生まれ持った彼女は、武人としての初陣を経験して実績を上げていくようになると女王位継承権を自ら放棄して宮廷からも遠ざかることを明言し、そして実際に実行してしまった。
当時は国内でも大騒ぎになったほどの大ニュースであり、彼女自身の姉妹である妹たちにとっても驚愕ではあったが、同時に思わぬ幸運をもたらしてくれる朗報でもあった。
何しろ自分たちがいくら王位を望み、権謀術数の限りを尽くそうともエミリアが長女として健在である内は決して望みが叶うことはないだろうと諦めざるを得なかったからである。
華奢で細身ながらも出るところは突き出している、美の極致とも称される美姫としての体を持ちながら、人間の限界を超えた超人ではないかと言われるほどの性能を内側に備え持ったエミリアを傷つけることは普通の人間である彼女たちには不可能であり。
毒も効かず、最強の暗殺者などドラゴンキラーの称号を手に入れた長女騎士から見れば赤子同然・・・・・・こうなると流石の陰謀好きな妹姫たちでさえどうすることも出来はしない。
その次期後継者の座を確実視されていた長女が、自ら失脚してくれたのだ。妹たちとしては喜び勇んで彼女の勇退を賞賛して、公式にも法的にも確約するため協力を惜しまぬわけがない。
斯くしてエミリアは権力争いの場から遠ざかり、戦場に居続けることが出来るようになった訳だが、今度は別の人間たちが迷惑を被らされることなってしまってもいた。
現場の指揮官たちである。
兵士たちにとっては力強く、頼り甲斐のある彼女が味方にいてくれることは嬉しい限りで士気も上がってくれたのだが、継承権を破棄したとはいえ皇族の直系に掠り傷一つでもつけさせてしまったらとビクビクしなければならない保身タイプの将軍たちとしては堪ったものではない。
その中でも特に、眼鏡の美女司令官は典型例といえる一人だったのかもしれない。
彼女は名門貴族当主らしく欲もあれば野心もあり、己が野心のため辺境の小国を寝返る忠誠の証として献上するため侵略できるエゴイストな俗物だ。
だが一方で、辺境の小国相手に大軍を率いて攻め込みながら、盗賊の頭を雇い入れて騙し討ちの奇襲で攻め落とそうとする、臆病なところを持った小物でもあり。
勝って得られるものの大きさよりも、そのためのリスクを恐れて選ばない道を選択しやすいチキンな性格を持った司令官だったからである。
そんな彼女にとって、今回の古代王国遺跡発見は迷惑極まりない報告だった。
手を出して痛い思いをするのは恐ろしい。・・・だが、在ると知ってしまった以上は手を出さずに我慢し続けるのも難しい、気になる存在であったのも事実だったから・・・。
「・・・いっそ古代遺跡を発見したなどと知らせてくれなければと思っていましたが・・・私から依頼するの憚られますけど、皇女殿下御自ら出向かれることを決断されたのであれば家臣としては、どうしようもありませんものね・・・。
あの方なら財宝を見つけてもネコババするのを自主的に我慢してくれそうですし、後は報告書の文面だけが私のやるべき仕事ですか・・・ウフフフ・・・」
顔の前で両手を組んで、正面からは見えなくした口元で怪しく笑い声を上げながら打算的で功利的な未来予想図に胸を膨らませ続けていく眼鏡の美人司令官。
もとより彼女が気にしていたのは、王女殿下を戦に参加させて傷でも付いたらどうするのか?という責任問題の追求だけ。物理的に彼女が傷つけられる未来など一度も想像したことがない。
――知らぬ者から見れば奇妙なことと映るであろうが、彼女はこのときエミリアが敗北したり敵に捕まったりする事態になった時のことは一切考えていなかったのだ。
強者の傲慢、油断、楽観的と客観的にみて罵る者も多いだろう判断だったが、それは別に彼女だけに当てはまる評価ではなく、広い範囲で言うなら大陸中の国家中近くにいる者であるなら全員が彼女と同じ思考に至ったであろうから逆に評価の方が間違っていたと言うべきだったのかもしれない。
それほどまでに強いのだ、エミリア第一王女殿下は。最強無敵な【蒼の姫騎士】は。
たしかに猪突猛進で真面目すぎる性格は、敵に罠にはめられやすく、毒や薬などの搦め手にも弱点となり得るものではある。
だが彼女はそれら全てを力尽くで粉砕してしまえるだけの力を生まれもってしまっている、紛れもなき超人であり、この世界最強の規格外すぎる超人類。
罠でも何でも使って彼女を倒せる者がいるとするなら、むしろ見てみたいものだと臆病すぎる司令官でさえ確信してしまえるほどの超越的な存在なのである。
そんな存在が負けるなどという話を、一体誰が信じるというのだろう? 馬鹿馬鹿しい。
・・・なればこそ、その有り得ぬ事態が起こってしまった時には大陸中全ての国家は巨大な衝撃を受けさせられ、それまで通じた既存の常識とは別の異なる概念を基準にして各々が勝手な解釈と判断で動き出さざるをえない状況へと追い込まれていくことになるだろう・・・。
古代王国遺跡という名の迷宮に味方救出のため赴こうとする蒼の姫騎士エミリアには、自分の価値が、もたらすことのできる未来の可能性が解っていないまま蒼く長い髪をなびかせながら颯爽と出陣していく・・・・・・。
この事件の後、大陸は彼女を中心に動き出し、動乱の時代を迎えていくこととなる。
敵に敗れて捕らわれた最強無敵のはずの【蒼の姫騎士エミリア】として、不本意な歴史の変転をもたらさせられる身分へと落ちぶれていくことになる、首輪につながれた近い将来の自分の姿を今の彼女はまだ知らない―――。
永遠の暗闇に包まれた滅びの迷宮の中を今、ピンク色の光が淡く照らし出している。
それは美しい少女騎士が纏う魔法のビキニアーマーが放つ魔力光による現象だった。
ピンク色の魔法布で織られたビキニアーマーを纏い、天使の翼を模った聖剣を腰に帯び、凜然とした表情をいささかも崩すことなく大真面目にダンジョンの中を進軍していく彼女の姿は、見る者によっては滑稽に映るものだったであろう。
だが今、彼女に付き従っている護衛部隊の騎士たちには独りとして彼女の勇姿に滑稽さを見いだす者はおらず、自分たちの手の届く距離で今も左右に揺れているピンク色の布で包まれた美尻を見ても、下劣で邪な感情を抱かされる者は一人も存在していなかった。
彼女が放つ処女雪のごとき凛烈さと、穢れなき圧倒的なオーラ。そして今までに培ってきた実績と人望が彼女の言動と仕草の全てに付与されることで、あらゆる行動が神がかって兵士たちの目には見えるようになっていたからである。
彼女こそが軍神。彼女こそが勝利の女神。彼女に従っている限り自分たちに敗北は永久に訪れることなし!・・・そう確信する兵士たちも少なくない聖女王国にとっての絶対的存在。
聖女王国第一王女、エミリア・セイントナイト。
謎の敵に囚われた部下を助け出すため、彼女が率いる救出隊がダンジョンを発見・侵入してより小一時間が経過していた。
エミリアの纏う鎧のお陰で松明の節約ができてはいたが、そのぶん闇に潜む魔物たちから奇襲されるには目立ちやす過ぎる灯火ともなっていたため気を張りながら歩いていたのだが、幸いと言うべきなのか肩すかしと言うべきなのか現在の所ダンジョンに潜む魔物たちからの襲撃は一度も会っていない。
「・・・なんとも奇妙なダンジョンですね・・・」
護衛につけられた近衛騎士の一人が不審気に、気味悪いものでも見たかのような表情と口調でそう言うのにエミリアは振り向いて視線で問う。
「いえ、私は近衛になる前、幾度か侵略先でダンジョン探索隊に参加したことがあるのですが、今回のような構造を見たのは初めてでしたので気になりまして・・・」
「そうか・・・。確かあなたは、“前線組”から取り立てられて近衛騎士の位を授けられていたのでしたね」
「はい、覚えて頂いて光栄です。殿下」
騎士は言葉通り嬉しそうに表情を綻ばせながら言って、自分の知る限りのことを全てエミリアに語り始める。
純粋に軍事的英雄に自分の活躍を知っていてもらえたことが嬉しかった気持ちもあったし、カワイイ女の子を前に自分の武勇伝を語って聞かせたい男としての願望も混じった動機によるものではあったものの情報そのものに嘘や誇張は一切なく、武勇の人ではあってもダンジョン探索は初めてのエミリアにとっては非常に参考になる経験者の知識になってくれもした。
一般の人達から見たダンジョンは、「魔物が住む迷宮の中に財宝が眠っている場所」という程度の意味しか持たないため呼び分ける必要もないからと無視されているのだが、実のところ大陸にあるダンジョンと呼ばれる場所には二つのタイプに大別され、攻略法も含めて全く別物であると考えるのが冒険者の間では一般的とされている。
一つは、洞窟や放棄された鉱山跡など自然にできた土と岩の迷宮に、盗賊達や泥棒が財宝の隠し場所として使っていたものが、盗賊達自身が死んだり捕まった利などして取り出すことができなくなってしまったことから長らく放置されたままになっている【自然のダンジョン】と呼ばれるタイプ。
もう一つは、古代王国期に造られた遺跡の中に未発掘のものが見つかった場合のダンジョンだ。こちらは【迷宮】とばれるタイプのダンジョンで、その遺跡を造った古代王国がどの国かによって自然ダンジョンか迷宮かが分類されている。
一口に古代王国と言っても、古代に存在した王国は無数にあり、魔法の宝物を隠したまま滅ぼされた王国というのも数知れないのだから一概に全てを同じと捉えることは現実的ではない。
「――ですが、このダンジョンは両方の特徴と似ても似つきません。自然のダンジョンであれば苔やツタがそこいら中に生えていますし、自然の法則で道が造られているため方向が分かりません。逆に迷宮の場合には明確な人の意思が介在していますので、罠と守護者として配置された不死者や魔法生物たちに何度か襲われているはずです」
「・・・たしかに、今の今まで一度も襲撃がなかったことは妙ですね・・・。警戒した方が良いのかもしれません」
エミリアは経験豊富な年長者からの助言に感謝し、自分に彼ら護衛部隊を率いていくよう進言してきた侵略軍司令官の保身的発想を侮蔑していた過去の自分を思い出して内心で赤面した。
実力だけを問題視するならば、彼ら護衛部隊は最強の姫騎士エミリアの役には立たない。肉の壁としてすら使い物にならないだろう。魔法布で体内魔力を底上げされたエミリアの防御力は通常の金属鎧で武装した彼ら全員を合わせた其れを遙かに上回っており、むしろ守ってやらなければならない対象が増えるだけでお荷物にしかなれない。
それでも皇女が一人だけで味方の救出に赴いたとあっては示しがつかない。一人の部下からも忠誠心を受けていないのかと、王族の器量のなさを内外に知らしめるようなものである。
流石にそれはエミリアにとっても不本意な言われようだったため、仕方なしに受け入れた護衛部隊の同行案だったのだが、やはり経験豊富な年長者がいるのと居ないのとでは難易度が変わり、選択肢の幅が大きく増える。
最強剣士であることで自信過剰になっていた自分に気づかされた思いでエミリアは自重し、反省し、今度の任務を終えた後には今少し侵略軍司令官の内心を知る努力をしてみようかと、そう思った次の瞬間。
ピカッ。
「・・・っ!? 誰っ! 何者ッ!!」
急にランプが灯されて明るくなった周囲の光景に、騎士達とエミリアは大急ぎで迎撃態勢を取って全方位を警戒し、罠の発動か敵の襲撃に対応しようと緊張度を高めさせる。
戦場を確認しようと周囲の地形に目をやると、確かにこの場所が普通のダンジョンでないことが素人の目にも明らかすぎるものとなってくる。
まず材質が違う。木材でも石材でもない、まるで魔法金属のようにも見えるツルツルとした滑らかな建築材のみで形作られ、遺跡と言うより今なお使われ続けている宮殿のようにさえ思えてくるほど壮麗で、しかも生活感が感じられる不思議な空間・・・。
「・・・聞いたことがあります」
先ほど語ってくれた騎士とは別の一人が、冷や汗混じりに呟き出す声が聞こえた。
「昨日までなかったはずのダンジョンが、ある日突然その場所に現れ、内部には誰一人として住んでおらず、モンスターさえ現れない。
――だが不思議なことに、つい先刻まで誰かが生活していたのように整理整頓され、時には温かいシチューと食事までが饗されたテーブルまで置かれた部屋が存在していた・・・・・・そんな現実にあり得ないはずのダンジョンの話を・・・」
オドロオドロしい口調で語られる、無害なれども不気味な騎士の話に他の騎士達も一様に方をすくませる。
もともと聖女王国にとって男というのは女の引き立て役となるべき生き物と運命づけられた存在で、近衛騎士の役割はあくまで後続の盾となり守り切ることのみに徹することができる者たちだけがなることを許されている職業だ。
止めを刺す攻撃役は、女騎士達と皇族だけが果たすべきものであり、守るべき対象を守るため命を捨てて盾となって散ることこそを本懐とする漢達だけが引き立てられて特権階級の一員になることを許すことで形ばかりの能力主義を歴代女帝達は実地してきている。
このため彼らは、守るべき対象が逃げ出さない限りは自分たちだけ逃げ出すことができない。不気味なだけで安全だからと居座られてしまう方が、敵の攻撃から守ればいいだけのわかりやすい任務よりも気味悪さは上回ってしまう傾向が強いのである。
そして、それを知るが故にエミリアは判断に迷わざるを得ない。なにしろ明かりがついたこと自体は探索が楽になっただけでデメリットはないのだ。何の目的もなしに親切心でやってくれたと思うほど彼女は楽天家ではないとはいえ、囚われた味方の捜索目的できておきながら明かりがついて楽になったから撤退しました、など笑い話になるのは自分たちだけという滑稽な選択がとれるわけもない。
それでも不気味なのは事実であり、的の思惑が分からないのも事実ではあった。だいたい明かりの光量が強すぎる割には、ランプがどこにも見当たらないのは余りにもおかしく、自分たちの通路以外には照らし出されていない以上、何らかの目的のためのトラップと考えるのが当然の発想と言うべきだろう。
だが結果として、彼女たちの懸念は全て見当違いの的外れを極めることになる。
相手の少女はただ、“散歩”をしていただけであり、暗い道で素肌を傷つけてしまわないよう安全に気を遣って、散歩ルートにある照明を自動で点灯するよう設定しておいた。
只それだけの、平凡な日常生活の1シーンを普通にフツーに送っていた。
只それだけの行為に過ぎないことを、していただけだったのだから・・・・・・。
そして、明かりの点いた先に広がる、音響を計算され尽くしたよく響く通路の向こう側から、平凡で普通で日常的な響きしか“纏っていない”フツーの少女の歌声が聞こえてくる・・・。
「・・・・・・通りゃんせ、通りゃんせ・・・。ここはどーこの細道じゃ~・・・♪」
『『っ!? 誰だ!!』』
「そこにいるのでしょう! 隠れてないで出てきなさい!!」
歌声が聞こえてきた方角に向けて、エミリアは聖剣を、近衛騎士達は巨大な金属盾と長大なランスを突き出して敵意と憎悪を威嚇のためにも発散させる。
「天神さまの細道じゃ~・・・、ちょーっと通してくんしゃんせェ・・・、ご用がない者通しゃせんゥ・・・♪」
だが、それらプロの軍人達にとって当たり前の敵対行動に対して、相手の少女の声に動揺の色はない。先ほどまでと変わらぬ平凡で普通の日常生活だけが歌声にはこもり続けている。
やがて、少女が歌う歌声との距離が近づいてくるのに合わせて、別の音も騎士達の耳に聞こえてきて不審そうに眉をひそめさせ始めてもいた。
・・・ジャラリ・・・、ジャラリ・・・・・・
鎖をつけたナニカに引っ張られるように、揺れる小さな金属音が聞こえてくると、
ペタリ・・・、ペタリ・・・・・・
生き物の肌が床に張り付き、そして剥がされる独特の音が追随してくるのが聞こえ、
・・・ハッ、・・・ハッ、・・・ハッ・・・・・・。
動物の呼吸音のがような、舌を突き出して息を吐き出す生々しい息づかいの音が最後に付いてきて、最終的には同時に響き始める一つの音へと合流していく奇妙な音・・・・・・。
「な、なんなの・・・? これは、いったい・・・っ!?」
混乱するエミリアのことなど意に介さぬかのように、そもそも存在自体を認識していないかのように、少女は楽しそうに無邪気に平凡に、人として当たり前のことをこなすために仲間を助けに来た騎士達の前へと姿を現す。
「この子の七つのお祝いにー・・・、札を届けに行くところー・・・♪」
ジャラリ、ジャラリ・・・・・・。
ペタリ・・・、ペタリ・・・・・・。
・・・ハッ、・・・ハッ、・・・ハッ・・・・・・と。
平々凡々で当たり前の人としての生活を。
【ペットにした飼い犬の散歩】を、毎日同じ時間帯、同じルートを通って帰って行く。
只それだけの当たり前の日常生活の一部を行う途中の姿を。
「行きは良い良い、帰りは怖いー・・・・・・」
素っ裸にされて犬の首輪をはめられて、頭には犬耳、尻の穴からは尻尾をブッ挿された無様な姿で、獣のように四つん這いになって歩かされている、助けにきた囚われの味方。
そんな味方にはめられた首輪の鎖を右手に、逃げ出さないよう躾のための鞭を左手に。
混沌の主に出会って忠誠を誓い、絶対的な力を与えられた平凡な村娘“だった存在”が、最強の姫騎士率いる救出隊の前に姿を現し―――
「だけど通りゃんせ~・・・、通りゃんせ~・・・・・・♪」
黒いローブを身に纏い、その下には最小限度の布地面積しか持たない衣服を着て、色白の肌を露出させた部分の多い、【黒と白が量極端になった女の子】が「犬の散歩」をしている最中に『無断で人の家に入り込んで行く手を遮る無礼な人たち』に悪いことはしちゃいけませんと分かってもらうための呪文を最後まで唱え終わる。
・・・・・・唱え終わって、しまったのだ・・・・・・。
「泥棒さんたちを、居るべき場所に、ブタ箱の中に、檻の中に・・・♪
《チェイン・ワンワンワン》」
騎士の数だけ鎖が走り・・・・・・彼らの「人として生」を終わらせる音を響かせる。
この世界の理から外れてしまった者による、異世界の都合に基づく裁きが再び始まろうとしていた・・・。
つづく