※この作品はR-18です。

もう1人のプレイヤー   作:ハーブマン

10 / 28
王国殲滅 貴族領 終幕

エルベロ「殺(と)った」

 

エルベロは魔法で強化された渾身の力を込め、全体重をかけた最高の一撃を怪物の頭へ振り下ろす。

後にも先にも、これ程までに完璧な一撃は無いだろう。そう思えるほどの完璧な一撃。

このような一撃をこの土壇場で打ち出せたのには理由があった。怪物・ディアーと言う存在を前に彼女の生存本能は全力で働き出した。死にたくないと言う本能により、彼女はいわゆる「ゾーン」に入っていたのだ。その全集中の状態が、普段の彼女なら出来るわけがない動きを可能にしていた。

そして、その彼女の一撃は怪物の頭を割った。

 

ディアー「なん…え…ア…ア…アヴ…アァ…?」

 

骨の軋む音、吹き出る血潮、脳と思しき肉の破片が頭から零れ落ちる。

怪物は言葉にならない言葉を発していた。

 

デミウルゴス「馬鹿な!」

 

談話室から見ていたデミウルゴス並びに、階層守護者全員が驚愕していた。現地住民にレベル100プレイヤーがやられた。この事実は普段優秀な彼、彼女らを動揺させるのに十分な情報であった。

そして、守護者達よりも驚き、動揺しているものが一名

 

アインズ(そんな…まさか…ディアーさんが…やられた?いや、ありえないだろ!そんな…奴らのレベルは多く見積っても30も無い、そんな連中がレベル100のプレイヤーを倒す…?そんな馬鹿なことがありえるか!)

 

アインズは驚きのあまり声が出なかった。

その時、現場のエルベロ達は放心していた。

倒した本人も、冒険者も、四武器メンバーも誰も喋らない。静寂が数秒続いた。そして、やっとエルベロが口を開く。

 

エルベロ「やった…やったのか…やった!やったぞ!!」

 

エルベロが勝利を告げる。すると、ナイウーア領では歓声が巻き起こった。エルベロは斧から手を離し、冒険者達へ手を振る。勝利を確実に伝えた。

その時、彼女はちょっとした、そう、ちょっとした違和感に気づいたのだ。

「なぜ魔法が解除されない?」

都市を覆う魔法が解除されていない。もちろん、術者が死してなお、残る魔法は存在する。しかし、魔法が消えていないこの現状が彼女を不安を煽る。

そんなことを考えていると、建物の上から拍手が聞こえた。冒険者や四武器メンバーではない。誰かの拍手。

 

???「おめでとう!素晴らしい演目になった。感謝するよ。悪の魔導国からの怪物と相対したミスリル級冒険者が、ギリギリの接戦の末、怪物を打ち倒し、都市では歓声が巻き起こる」

 

エルベロは声の主へと目をやった。そこには先程殺したはずの怪物がいた。

 

ディアー「いかにも英雄譚らしい物語(ストーリー)じゃないか!素晴らしい。ここまで物事が上手く進むと思って無かったよ」

 

冒険者、四武器、エルベロ、全員が怪物を見る。先程殺したはずの相手が悠々と喋っている。どこにも傷は見当たらない。気づくと、先程まで転がっていた怪物の死体は自分の突き立てた斧を残し、無くなっていた。

そして、怪物の声が後ろから聞こえてくる。怪物は目の前にいる。しかし、後ろから声が確実に聞こえるのだ。

 

ディアー「そして、この演劇(ショー)は」

 

エルベロは恐怖に彩られた目を見開く。怪物が自分の後ろに立っていた。屋根の上の怪物が移動した訳では無い。2人いる。

 

ディアー「怪物を打ち倒した英雄達が」

ディアー「蘇った怪物に蹂躙され」

ディアー「終幕を迎える」

 

四方八方から声が聞こえる。看板の裏、影の中、空、外壁

様々な場所に怪物がいる。その事実は冒険者、四武器メンバー、そしてエルベロに絶望を与えた。

エルベロの恐怖に彩られた表情に絶望が映る。彼女は失禁していた。「倒した怪物が数を増やし、蘇ったから」これも理由ではあるが、もう一つ理由があった。それは、

 

明らかに先程までとは違う、今にも押しつぶされそうな重圧

 

それを感じたからだ。本能が叫ぶ、「逃げなければ」

しかし、体が恐怖に支配され動かない。

 

ディアー「では、フィナーレは派手に行こうか」

 

怪物達はそう言うと巨大な魔法陣を展開する。

 

ディアー「隕石落下(メテオフォール)」

 

魔法が発動する。

そう思われたその瞬間、怪物達の動きは止まった。

 

ディアー「誰だ…?」

 

怪物がそう言い放つと、都市に展開されていた巨大な壁魔法が消えた。

 

ディアー「部外者は立ち入らないでもらいたいな」

 

エルベロが空へと目をやると1人の赤い鎧を着た者が飛んでいた。彼女はその姿に見覚えがあった。

 

エルベロ「朱の雫…」

 

彼女の言葉で、絶望に支配されていた人々の目に光が宿る。

 

朱の雫「おい化け物、俺が相手になってやる」

 

屋根の上の怪物は呆れた顔で答える

 

ディアー「はぁ…演目で異常事態(イレギュラー)は付き物か…全く、大事な演目での異常事態は勘弁して欲しいね」

 

その怪物は魔法を展開させる。

 

ディアー「いいだろう。相手をしてやる…かかってこい!愚かで正義感に支配された蛮勇よ!正義感だけでは人は救えない、その事を教えてやる!」

 

ディアーはどこか怒りを込めた口調で朱の雫に向かって叫ぶ。

 

しかし、そう言うと怪物は奇妙な動きをした。耳に手を当て、喋り出す。怪物に伝言(メッセージ)が入った。

怪物の様子が一変する

 

ディアー「えっ?…は?!撤退!?何を…必要な情報は取れた…?」

 

エルベロ達には何をやっているのか分からなかったが、怪物の口調からして、魔導国からの連絡だと検討がついた。そして、撤退の2文字を聞いてエルベロの目には光が強く宿る。

 

ディアー「承知しました……撤退します」

 

怪物は納得のいってない表情で転移門(ゲート)を開く。

すると、朱の雫は怪物に向かって喋りかけた。

 

朱の雫「逃げるのか?臆病者だな」

 

怪物は一瞬動きを止めたが、振り向かず転移門へと向かって歩く。

 

朱の雫「臣下がこのような臆病者なら、魔導王はもっと卑怯で、臆病な、見るに堪えない者なのだろうな」

 

怪物は動きを止めた。そして、肩から目を覗き込ませて、答える。

 

ディアー「おい…朱の雫とか言ったか?」

 

その怪物の表情には先程までの戦いで見せなかった、激しい怒りの表情があった。

 

ディアー「そう言う発言は控えた方がいい…寿命を縮めることになるぞ」

 

次の瞬間、怪物から先程までとは比べ物にならない程の重圧と殺気を感じた。

その殺気を感じたエルベロはもちろん、四武器メンバー、冒険者は体から力が抜ける。恐怖により、体の力が抜けたのだ。

エルベロは怪物のすぐ近くにいた為、気を保つのに精一杯だった。そして、女冒険者で、基本後衛を務めていると言うこともあり、少し離れた所にいたリリネットもその強すぎる殺気と、重圧に恐怖し、下半身から液体が漏れ始める。失禁では無い。その殺気で体が死を確信し、本能が種を残そうと必死になった結果である。

 

そして、怪物はそう告げると転移門の中へと消えていった。




何とか書き終わりました。次回はアインズと守護者達のディアー戦を通しての感想会です。

ここまでの読んでいただきありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。