ナイウーア領での戦いから暫くして、魔導国と王国は臨戦態勢を取っていた。これから、王国軍と魔導国軍との戦いが始まる。
ディアー(緊張するなぁ...これから戦いが始まる。恐らく、この一戦は後世に語り継がれる大合戦となるだろう。あの長い歴史を持つ王国を、つい最近出来た魔導国が滅ぼすのだから...)
今回の戦いは基本的にディアーに一任されている。
ナザリック勢は王国軍を滅ぼした後、王国へ乗り込み、中の敵勢力を殲滅する運びとなっている。
アインズ自身はこの戦場におり、采配はディアーが行う。
アインズは魔導国軍が侵攻を始めたタイミングで、パンドラズアクターと入れ替わる予定である。
そして、ディアーはアインズから兵を借り受けている。
80体のデスナイト及び、後方には50体のエルダーリッチ、その他800の下級アンデッドを借り受けている。デスナイト達には前線で戦っては貰うが、大半の敵の殲滅は天空の森の戦闘部隊、ナザリックで言うところの階層守護者にあたる「殲滅の道化師隊」が担当する。
天空の森にはディアーが作った幾つかの戦闘部隊が存在しており、その数は殲滅の道化師隊含め5つある。
その内でも、広範囲攻撃に長けた殲滅の道化師隊を連れてきたのは、デスナイト達にタンクをしてもらい、後方からの魔法支援で殲滅する、と言ったシンプルな戦法を取るためであった。
ディアー(いや、このレベル差なんだから、これはもう戦争なんかじゃない...)
ディアー「殲滅だ」
一方 王国軍では
ザナック「はぁ、結局ここまで来てしまったか...」
ザナックは魔導国に何度もあの手この手で降伏をしたいと願い出ていたが、その降伏は認められず、遂にはここまで来てしまっていたのだ。
兵士長「どうにか降伏をすることは叶わないのでしょうか?恐らくあのアンデッドは、専門家からの報告では推定難度百のアンデッドです」
ザナックは深くため息をつく
そして、遠い目をしながら独り言のように呟いた
ザナック「そんな化け物が...数十体...何かの冗談であって欲しいな」
兵士長「私だって信じたくありません...それに加え、数百のアンデッドがおります。兵士長の身でこのようなことを言うのは忍びないのですが、正直に言わせていただきます!
およそ王国軍ではあのアンデッドの軍に勝てません!それに、あれが全てだとは考えにくいです。何かしらの遊撃部隊や、奇襲部隊が隠れていてもおかしくありません。どうにか降伏出来ませんか?!」
兵士長は必死の形相で訴える。しかし、兵士長も分かってはいるのだ。魔導国がこちらの降伏を受け入れないことくらい。何度もザナックが魔導国へ降伏を訴えているのに、全く応じてもらえていないことくらい、兵士長は分かっていた。しかし、分かっていながらもこう発言したのは、それほどまでに絶望的な戦力差だったからである。
ザナック「兵の数ではこちらが圧倒している...囲んでどうにか出来ないか?」
ザナックは藁にもすがる思いで兵士長に尋ねる。
兵士長「...不可能です。囲んだところでこちらからの攻撃は通らず、相手の攻撃は一撃で数人の命をあっさりと奪うでしょう。それが続けばこちらが消耗するだけです...せめて、ガゼフ・ストロノーフ様がいらっしゃれば突破口はあったかもしれませんが...」
ザナックは自分の身につけている鎧を擦りながら、この鎧の本来の所有者の顔を思い出していた。
ザナック(奴か...俺は奴との関わりは少なかったが、兵士達からの信頼が厚く、奴がいるだけで兵の士気が上がると言うのは聞いていた。最初は、父上が平民出身の奴を傍に置くようになった時は到底理解出来なかったが、これ程までに兵士に信頼されていたのだから、父上が奴を傍に置きたがるのも分かるな...)
ザナックは頭を振り、邪念を振り払う。今いない人間を思い浮かべたところで、戦場では意味の無いことだからだ。たらればの話を考えるくらいなら、策の一つでも練らなければならないのが上の勤めである。
ザナック「もう一度、降伏を受け入れて貰えないか、と交渉に行く。馬を用意しろ」
兵士長は短く返事をすると、天幕の外へ入っていく
そして、兵士長は暫くして馬を連れて来た。
ザナックは馬に乗ると魔導国の天幕へ駆けていく。
その足取りは重かった。
まるで鈍化でもかかっているかのような。
自分が走っている訳でもないのに酷く疲れる。
冷静に考えれば当たり前だ。今から、「死」のそのものと直接話をしようと言うのだから
アルベド「アインズ様、同盟者殿、王国から王子が面会を求められています。いかがなさいますか?」
アインズは承諾を伝えるよう命令し、机と椅子を部下に用意させると、護衛をつけず、ディアーと2人で王子の元へ向かった。
ザナック「これはこれは、魔導王陛下、戦争中に対話を受け入れて下さりありがとうございます。魔導王の慈悲深きお心に感謝申し上げたく...」
アインズ「あぁ、世辞は結構。言葉を飾るのは好きではなくてね。本題に入ろう...っと、その前に少し紹介させてくれ。隣にいる彼は私の護衛では無い。今回の軍の指揮を任せているディアー君だ」
ディアーは紹介を受け、1歩前に出て軽く一礼する。
アインズ「君さえ良ければ彼も同席させてくれないかね?そして、同席を許してくれるのであれば、彼にも発言権を与えたいと思っているのだが...」
ザナックは貴族達への対応を沢山したことによって身についた、自然で爽やかな作り笑いを浮かべて承諾した。
3人は対照に位置する席に座し、話を始めた
ザナック「魔導王陛下、本題に入らせていただきます...我々の降伏を受け入れていただけませんか?」
アインズ「断る」
食い気味の回答にザナックは一瞬怯む。しかし、ここで引いては勇気を出して来た意味が無い。ザナックは畳み掛ける
ザナック「なぜです?我々の提示した条件に不満があるのでしたら改善案を出します。まともな理由も聞けずに断られるのでは、さすがに納得できません!」
アインズから目の赤い光が消え、一瞬の沈黙が場を包んだ。
ザナックの表情は青ざめる。直前の自分の発言の愚かさを噛み締めていたのだ。感情を表に出し、強い口調で話してしまった。ここは交渉の場であり、子が親に対し、駄々をこねる様なことをしていい場所では無い。自分の失態を悔いたザナックにとって、この一瞬の沈黙は永遠にも感じられた。そして、その永遠とも思えた沈黙がアインズによって壊される。
アインズ「...そうだな...面倒くさそうだと思ったから。と言って、納得して貰えるかね?」
ザナックは目を丸くした。相手は生者を憎むアンデッドだ。この場で殺されても可笑しくはない。それなのに、相手から帰ってきた回答は意外なものだった。その回答を聞いてザナックが最初に思った事はただ1つ。
人間みたいな事を言うんだな
そう、思ったのだ。
ザナック「面倒くさそう...とは、どういう?」
アインズ「まぁ、そうだな。君達と魔導国として関わり始めてまだ日が浅い。それなのに、早々にトラブルが起きてしまった。日が浅いからだとも言えるが、トラブルの大きさが問題だ。聖王国への物資を王国の貴族が襲った?こんな一大事が付き合い始めてすぐに起きてしまったのだ。これから先、どんな面倒事が起きるか想像も出来ない。だから、君達をここで滅ぼした方が良いと判断したんだ」
ザナックは机を叩き、立ち上がる
ザナック「そんなものは極論だ!」
ディアー「ええ、そうです!極論です!」
突然、アインズの隣の鹿の怪物が口を開いた。ザナックは怪物へ目を向ける
ディアー「だが、極論こそ真理だ」
ザナックは睨みつけるような視線を送りつつ、怪物に問う
ザナック「なぜ...そう思うのです?」
ディアーはゆっくりとした口調で話を始めた。
ディアー「...例えば、沢山金が欲しいと、稼ぎたいと願う人がいたとします。では、どうやれば金が手に入りますか?色々方法はあるでしょう。しかし、1番確実で王道なのは働くこと。違いますか?」
ザナックは頷く
ディアー「では、単純な話、働き続ければいいのです。朝も、昼も、夜も、ずっと、休まずに、死ぬまで、永遠に...それが多く金を手に入れる方法です」
ザナックは目を点とも丸とも言えない形にした。明らかな動揺が見える。あまりに単純な話。確かに、前置きで「単純な話」だと言っていたが、自分の想像よりも遥かに単純な話だったのだ。しかし、言っていることが滅茶苦茶だ。そんなのは無理に決まっている
ディアー「極論ですよね。だが、真理だ。働く過程で死ぬかもしれない。何かを失うかもしれない。だが、金を手に入れると言う目的は確実に達成される。つまりは...面倒事を引き起こす王国など、トラブルを起こさぬよう対策を立てるよりも、滅ぼした方が確実なんですよ」
ザナックは何も言えなかった。
あまりにも無茶苦茶で理不尽すぎる話。だが、筋が通っていた。ザナックは少し考え、納得したような、吹っ切れたような表情を見せた。
ザナック「なるほど...ハハッアハハハハ!」
アインズはザナックを静かに見つめる。
そして、ザナックは出された水を一気に飲むと立ち上がり、アインズとディアーに目を向ける
ザナック「いや、失礼。ありがとうございました」
アインズ「要件は以上かね?」
ザナック「えぇ、これで私からの要件は...あぁ、そうでした。もう1つお聞きしたいことが」
アインズとディアーは立ち上がり、ザナックと歩きながら話をする
ザナック「私の兄を殺したのは魔導王陛下の手の者でしょうか?」
アインズは顎に手を当て、考え込む。全く覚えは無いが、恐らくはうちの者だろう。一国の王子を殺すなど、ナザリック勢以外はあまり考えられない。
アインズ「ふむ...覚えは無いが、恐らくは私の部下がやった事だろう。すまなかった」
ザナック「あぁ、いえ、お気になさらず。あの兄のことですから、きっと魔導王陛下に失礼なことでも言ったのでしょう」
アインズ「詫びとして、何か簡単な願いくらいだったら聞いてやらんこともないが」
ザナックは一瞬「王国を助けてくれ」と言おうかと思ったが、それはあまりにくどいと感じたので、別の願いをした。
ザナック「では、私を殺す時は苦しませず殺していただけませんか?」
アインズは一拍置いて返事をする。
アインズ「...フッ...そうか、了解した。ディアー、戦いの中でザナック王子を見かけたら、苦しませずに殺せ」
本人の前で、本人を殺す話をする。これほど滑稽なことも中々無いが、ディアーは少し笑うと静かに承諾した。
随分間が空いてしまいましたね。すみません。
期間が空いたので、元々無かった文の才が更に無くなっていないか心配ですが、楽しんでいただけたでしょうか?
もし、楽しんでいただけたなら幸いです。
次回もお楽しみに!