ザナックは捕えられ、ディアーの前に跪かされていた。
ディアー「ザナック殿、先程ぶりですね」
ザナック「えぇ、ディアー殿はお元気そうで…なにより」
軽い冗談を言って取り繕ってはいるが、ザナックは少しの疲弊が見える。
無理もない。精神的にだいぶ来ているのだろう。数万と居た王国の兵がたった一瞬で、そう、言葉の通り本当に一瞬で消え去ってしまったのだから。
時は遡り、エルダーリッチと殲滅隊が交代した直後
魔導国の後衛部隊が一時撤退したとの報告を聞き、ザナックが体制を整えようとしていた時だった。
前線で火柱が五本、同時に打ち上がったのだ。
ザナック「なんだ…あれは?」
そして、その火柱の中には人影が火柱1つにつき1人映っていた。
モル「第9位階魔法・炎柱(えんちゅう)」
メル「やっぱりこれが1番映えるよねー」
その火柱は殲滅隊によって作り出されたものだった。
炎柱の効果は自身を炎の柱に身を包み、防御する魔法。周辺への火属性のダメージは大したものでは無く、あくまで付随効果である。しかし、それは相手が同格だった時の場合。相手が格下であった時、それは強力な範囲攻撃魔法に成り上がる。
案の定、炎柱の火属性ダメージは王国軍へ絶大なダメージを与えている。
王国軍の前線は完全に崩壊した。盾を構えようが、魔法で防御しようが関係ない。炎柱の近くにいるだけで全てが灰燼と化すのだ。炎柱は破壊されるか、術師本体が解除するまで消えることは無い。そして、術師が移動すれば、炎柱もそれに合わせて移動する。
殲滅隊が歩を進めた分だけ、人間が焼け焦げ、肉塊になり、やがて炭になる。
その時初めて、王国軍は理解した。先程までデスナイトやエルダーリッチを相手に、被害は大きかったものの耐えられていたのは、決して王国軍の強さ故ではない。
遊ばれていたのだ
デスナイトとエルダーリッチだけでも、ものの数十分で王国軍を壊滅させられていたはずだ。それをやらなかったのはこの為。
自分達が格上の軍を相手に粘っている中、相手の後衛が引いたと言う情報が入る。すると、王国軍には希望が見える。相手の後衛があった上で粘っていたのだ。
『後衛が引いたら押し返せる』
『魔導国軍を倒せる』
そう言う希望を持ってしまった。その希望の光が、光明が、幻であると知らずに。─いや、知っていたのかもしれない。どこか勘づいていた者もいただろう。だが、口にしなかった。人は希望が見えると、それがどんなに脆く、簡単に崩れ去る砂の城だと知っていても縋りたがる。自分にとって悪いことを考えたくないのだ。だから、小さな光にしがみつく。そこを狙われた。
相手の後衛が引き、誰もが希望を見た瞬間、炎柱と言う絶望を持って、心を折られたのだ。
希望が絶望へと変わる。
これほど簡単に人の心を折る方法はない。
その後、王国軍は壊滅した。特に左翼側の被害は甚大だった。右翼側も左翼側も全滅したことには変わりないが、左翼側はまともな死体が残っていない。かつて人だったと思われる炭が少し落ちている程度だった。
その後、中央部分は殲滅隊・リーダー モルが残党を潰し、ザナックは捕らえられた。そして、現在に至る。
ディアー「ザナック殿、約束は果たしますよ」
ディアーがそう言うとザナックは薄く笑みを浮かべた。
ザナック「はは…感謝します。敵国の王子をこんなに丁寧に葬ってくださるなど、異例でしょうね」
ディアー「そうなんですか?私、歴史には詳しくないものでして」
ザナック「では、今度お会いした時はお教えいたします。覚えてみると意外と楽しいですよ。あぁ、また今度お会いするのは随分後になりそうですけどね」
ディアー「アッハハハハ!そうですね!私がそちらに行くのはいつになるか分かりませんが、気長に待っていただけると幸いです」
誰の目から見ても、これから殺される者と殺す者の会話では無い。古くから友人であったかのように、自然な会話だった。
ディアー「…よし、では!ザナック殿、何か言い残すことはありますか?」
ザナック「そうですね…これから、魔導国は王国の領土であった土地を国民ごと魔導国の物にされるのですよね?」
ディアー「えぇ、そうですね」
ザナック「では、私の成し遂げられなかった夢を託してもよろしいでしょうか?」
ディアー「なるほど。して、その夢とは?」
ザナックは少し笑ってみせると真っ直ぐ目を向けて答えた。
ザナック「良い国を作ることです。王国を裕福な国にする。それが、私の夢であり、目標でした。だから、王国の民をよろしくお願いします」
ディアーは少し考える素振りを見せた後、ゆっくりと瞬きをしてザナックを見た。
ディアー「その夢、託されました」
その声は、誰よりも優しく、誰よりも暖かい、森林の中にいるような心地よい声だった。
ザナック「ありがとうございます。これで安心していけます」
そう言うとザナックはゆっくりと目を閉じた。
ディアー「ザナック殿、ゆっくりとお休み下さい」
………
ザナックはベッドの上で目が覚めた。前日のことをよく覚えていない。だが、何故か気分がいい。何があったのか全く分からなかった。
コンコン
扉が叩かれた。
ザナック「入れ」
ザナックがそう言うと、扉が開き、妹であるラナーが入ってくる。
ラナー「お兄様!おはようございます!」
ザナック「ん?…あぁ、おはよう」
ザナックは違和感を覚えた。いつもの妹と何か違う。いつものような作られた笑顔ではない。そこには、自然な笑みがあった。
ラナー「ザナックお兄様、早く来てください!お父様とバルブロお兄様お待ちです」
ザナック「父上が?何か用でもあるのか…?と言うか、兄上も?」
ラナー「まぁ!お兄様ったら!いつも朝食を家族で食べているではありませんか!早く行かないと、朝食が冷めてしまいますよ!」
ラナーに袖を引っ張られてザナックは部屋を後にした。
ザナックは違和感を感じていた。家族で食事など、何年もしていなかったはずだ。それなのに、妹は今まで一緒に朝食を取ってきたかのように言っている。それに加え、兄であるバルブロは確か、死んだはずだ。
色々疑問が浮かびすぎている。ザナックは少しづつ問題を解決していこうと考え、ザナックはそれとなく、ラナーに少し質問をした。
ザナック「なぁ、妹よ。これまでも俺達は一緒に食事を取っていたのか?」
ラナーが両の頬をプクゥーと膨らませて言う。
ラナー「もう!お兄様!まだ寝ぼけてらっしゃるんですか!先に顔でも洗いに行きますか?」
ザナック「いや、いい。大丈夫だ」
ザナックは一瞬、ラナーがふざけているのではないかと疑ったが、こんなことをする性格では無い。それに、今のラナーはどこかおかしい。今まで感じていた不気味さが一切ない、ただの普通の妹と言った印象だ。
ザナック「そういえば、妹よ。今の国の状況はどうなっている?周辺諸国からの動きはあるか?」
ラナー「えっ?なんで、私に聞くのですか?私、全く国のことなど分からないのですが…」
ザナックは目を丸くした。あのラナーが国のことを全く知らず、周辺諸国の動きも把握していない?
そんなはずは無い。どんなに小さな動きでも見逃さないラナーがそうなことを言うはずがない。
そうこうしている内に父(国王・ランポッサ)とバルブロが待っている部屋まで着いた。
ラナー「お父様!バルブロお兄様お待たせしました!」
ランポッサ「おぉ、やっと来たか。2人とも早く座りなさい。朝食が冷めてしまうぞ」
バルブロ「待ちくたびれたぞぉ!さぁ!早く食べよう」
ザナックは言われるがまま席につき、朝食を食べ始めた。
ザナック「父上、少し聞いてもよろしいでしょうか?」
ランポッサ「ん?どうした?」
ザナック「周辺諸国からの動きはありますか?帝国との小競り合いの件についても少しお話が…」
ランポッサ「ん?帝国との小競り合い?何の話だ?それに、周辺諸国に動きは無いぞ。世界で最も軍事力を持っており、金にも余裕のある我が国に手を出す国などおらんよ」
ザナックは驚きのあまりスプーンを落としてしまった。
バルブロ「ん?どうした?」
ラナー「ザナックお兄様?!大丈夫ですか?!どこか体調でも悪いのですか…?」
ザナック「あぁ、いや、大丈夫だ。すまない。少しボーッとしているようだ」
ランポッサ「大丈夫か?体調が悪いなら、部屋にいた方が」
ザナック「いえ、本当に大丈夫です。ありがとうございます」
ザナックは頭の整理が追いつかなかった。世界で最も軍事力を持つ?帝国との小競り合いは無い?
何が何だか分からなかった。
ザナックは朝食を食べ終えると、書庫に向かった。
ザナック「なにが、どうなっているんだ!」
歴史書に書いてあったのは自分の知っていた歴史と全く違う歴史。王国の目覚しい発展を書き記したものだった。
奴隷などおらず、麻薬も流行していない。帝国や法国よりも大きな軍事力を誇っており、貿易の中継地点をになっているため、世界的にも重要度の高い国である。
そう言った内容が書いてあった。
ザナックは3階へと駆け上がり、バルコニーから王国を見下ろした。そこにあったのは自分の知っている王国ではなかった。いや、王国の面影はある。だが、賑わいと広さが段違いだった。
馬車が盛んに通り、世界各地から来たであろう人々が道を歩いている。
目の前の状況が飲み込めずにいると、後ろから声が聞こえた。
ラナー「お兄様、少しお茶でもしませんか?」
ザナック「えっ?あ、あぁ、構わないぞ」
侍女がテーブルと椅子を持ってきて、お茶が準備された。
2人は席につくと、ラナーが話し始めた。
ラナー「お兄様、先程から顔色が優れませんが、どうかされたのですか?」
ザナック「え?いや、問題ない。大丈夫だ」
ラナーは一瞬不満そうな顔を見せた後、自然に笑ってザナックに言った
ラナー「本当に大丈夫ですか…?何かあったら、なんでも言ってくださいね。私に出来ることなら何でもします!」
ザナックは下に視線を落とした。
ザナック(魔導国との戦争は…?どうなったんだ…?火柱が立ってからのことが思い出せない。いや、そもそも、あれは現実だったのか?)
ラナー「そう言えばお兄様!このクッキー、私が焼いたんです!どうですか?お口に…あいますか?」
ザナック「なぁ、ラナー。1発の魔法で何万と人を殺せる魔法詠唱師をどう思う?」
ラナーは顔を真っ青にして答えた。
ラナー「こ、殺す?!こ、怖いことを仰らないでください!」
ザナック「あぁ!いや、すまない。怖がらせるつもりはなかったんだ。えーっと、クッキーだったな。すごく美味しいぞ。上のジャムがとてもいい。塩気にちょうど合っている」
ラナー「そうですか!良かったです!まだまだあるので、帰りに少し差し上げますね!」
ザナック(ラナーも魔導王のことを知らない。あれは…現実だったのか?だが俺は確実に!…いや、あれがもし全て夢だったとしたら?と言うか、そっちの方が理にかなっている。1発の魔法で何万と人を殺し、無数の難度100超えのアンデッドを操るなど、考えられない)
そんなことを考えていると、下から声が聞こえてきた。
国民A「あ!ザナック殿下とラナー様だ!」
国民B「おはようございまーす!良いお天気ですね!お加減はいかがですかー?」
それを皮切りに周辺の国民がラナーとザナックに手を降り始めた
ラナーは大きく手を振り国民に答える
ラナー「おはようございます!お兄様とお茶が出来て、とても良い気分です!皆様!良い一日をー!」
ラナーに合わせて手を軽く振っていると国民達も満足そうに仕事に戻っていった。
ザナック(あぁ、そうか。そうだったのか。今までのことは全て夢だった。悪い夢を見てたんだ…随分、長い夢を見ていた…あぁ、良かった。本当に…良かった)
ラナー「お、お兄様!?どうされたのですか?どこか痛いのですか?」
ザナックは泣いていた。目の下が赤くなり、溢れ出した涙は大粒の雨となってテーブルに落ちていた。
ザナックは雑に涙を拭うと、笑顔でこう言った。
ザナック「いいや、大丈夫だよ」
ザナックの目は、まだ少し赤かった。
んー!なんか、いい感じ終わっちゃいそうなんですけど、どうします?全然続き書けるんですけど、需要があるのかどうか…10日も待たせてしまって、みんな離れてしまっているのではと心配になっているハーブマンでございます。
まだまだ書いて欲しいよ!って方が居たら感想をください!
普通にまだまだネタはあるんで書けます!