ディアー(時間がかかってもダメだし…そろそろ狩るか)
ディアー「飛行(フライ)」
ディアーが空へと飛び上がる
ディアー「自由(フリーダム)、魔法詠唱者の祝福(ブレスオブマジックキャスター)、上位全能力強化(グレーターフルポテンシャル)、魔法増幅(マジックブースト)、幻の衣(マントオブファントム)───」
空へと飛び上がるとディアーはおもむろに自身にバフをかけ始める
アガネイア「次元移動・縮地」
アガネイアがディアーの目の前から消える。
ディアー「ッ!…どこに行っ───」
刹那、ディアーは後ろから気配を感じとった。
初見殺しが多すぎる。この距離を縮めてくる初見のスキルなんて、いくらユグドラシルでPVPをしてきたディアーでも分からない。そのため、避けるのが遅れてしまったのだ。
アガネイア「消えよ…裂衝斬撃!」
ディアーは攻撃をもろに受け、真っ二つになった。
ディアー「いつの間に…後ろへ…」
ディアーの体はゆっくりと地に落ちる
アガネイアも地に降り、ディアーの死体を見て言った。
アガネイア「私が世界を守るのだ」
そう言った瞬間だった。突然、何も無い空間から斬撃が飛んでくる。
アガネイア「なっ!」
アガネイアは避けはしたものの、体制を大きく崩し、よろしけてしまう。
そして、よろけて足を着いた先にアガネイアは違和感を感じた。
…痛みだ。大した痛みでは無い。だが、確実にダメージがある。
「狩人の技巧・トラバサミ」
空間から声が聞こえる。モヤとなってだんだんの声の主が姿を現した。
ディアー「誰だってそうだ。勝ちを確信した瞬間が1番油断するよな」
そこには、狩人が罠にかかった獲物を見る時のような笑みを浮かべた鹿の頭の化け物がいた。
そしてその手には90cmほどの大きさ以外は普通の戦斧が握られていた。その戦斧をディアーが持ち上げ、アガネイアに振り下ろそうとする。
アガネイアは疑問と困惑に満ちた表情をした。鎧なので分かりにくいが、明らかに疑問を持っている。
当然だ。魔法詠唱者が斧を持っているのだ。どう考えたっておかしい。それに、ただの斧では無い。生半可な戦士では持ち上げることすら出来ないような、巨大な戦斧。それを見て動揺しているのだ。
ディアー「安心しろよ。デカイだけの普通の斧だよ」
そう言い放ったディアーの表情は、口が引き裂けんばかりに笑っていた。
ディアー「…真っ二つだ」
アガネイアに斧が振り下ろされる。その瞬間、ディアーの目の前に手榴弾が投げ込まれた。
ディアー「は?」
ディアーは驚きで一瞬止まってしまった。それが失敗だった。爆弾が爆発する。
辺りは光に包まれた。手榴弾では無かった。閃光弾だ。
ディアーはその事に気づき急いで斧を振り下ろす。驚いて止まった時間は僅か2~3秒だった。が、手応えがない。
アガネイアが逃げた?ありえない。トラバサミの拘束時間は10秒。その間、自力で抜け出すにはレンジャーや軽戦士(フェンサー)のスキルでも使わない限りは逃げることは出来ない。
それ以外の脱出方法となると、ダメージを受けるか、第三者からの妨害…どれを使って逃げたのか、それは火を見るより明らかだった。
ディアーは目を必死に開けて、周囲を見渡す。目の前には誰もおらず、ディアーの斧によって真っ二つに叩き割られた大地が広がるのみ。
空を見ると、森の方角へアガネイアを連れて、空へと飛んで行く赤い鎧。
ディアー「…やってくれたな。赤蛙がぁ!!」
森の中から空を飛ぶ2人に黒い影が飛び上がる。
「逃がさない…落ちて」
飛び上がった影は2人に切りかかる。が、その攻撃はアガネイアの周りに浮遊する武器によって防がれてしまった。
「ん…ダメか…」
影は防がれた衝撃でそのまま自由落下する。
ちょうどその時、ウォスクが到着した。
ウォスク「追います!!」
そう言うとウォスクは屈んで、足に力を溜める。
ディアー「いや、もういい。そろそろ時間だ。深追いする必要も無い」
ディアーは手でウォスクを制止させる。
ディアー(そろそろ舞台が始まる時間だ。役者1人が舞台から抜けるだけで、舞台は台無しになる。役者が遅れるなんてことはあってはならないのだ。)
森の中から1人の女の子が出てきた。目元の赤い、銀髪の女の子。俊足の道化師隊の隊員・レンだ。
ちなみに、今はピエロのようなお面はつけていない。と言うか、ピエロのお面は今回の仕事に限り、俊足隊にのみ絶対つけてくるように言ったもので、仕事が終わった彼女はもうつける必要は無い。
レン「ごめん…逃がしちゃった…私、期待されてたのに…応えられなかった。なんて謝っていいか分からない…」
先程の黒い影はレンだったのだ。
正直、ディアーは戦いに集中しすぎて、戦いの直前にレンと応援に来るか来ないかの問答をしていたのを忘れていた。
ディアー「あー、うん。えーっと」
ウォスク「いや、今回は全て私の責任だ!私の隙をついて奴は…クソっ!」
ウォスクは跪き、悔しそうに拳を地面に叩きつける。
そんなウォスクをディアーは睨め付けて言った。
ディアー「ウォスク…お前、さては遊んだな?」
ウォスクは分かりやすく、肩をビクッ!と震わせる。
ディアー「隙をついてー、なんて、そんなわけあるか。お前レベルなら普通にやってたら隙なんて見せないはずだ。遊んで気が緩んだな?」
ウォスク「えーっと、そのぉ、ディアー様に対して随分無礼な物言いをしていたので…腹が立ってしまって…それでつい…」
ウォスクは気まずそうに人差し指を合わせ手遊びをしている。
ディアーは目に手を当てて上を向き、少し呆れてしまう。
ディアー「はぁ、まぁいいよ。次から気をつけな」
レンがディアーの裾を掴む。
レン「私は…どう謝ったら…」
レンがディアーを見上げ、薄く涙を浮かべて許しを乞うような表情をディアーに見せる。
ディアー「うっ…いや、大丈夫だ。レン、お前はよくやった。レンの対空性能は高くないのに、よく食らいついて見せてくれた。偉いぞ」
涙を浮かべたレンに少し言葉が詰まってしまう。
レン「嫌いにならないで…」
ディアー「ならない!ならない!大丈夫だ!」
レンは縋るような顔を見せる。
レン「ホントに…?」
ディアー「ほんとほんと!」
レン「じゃあ、…して」
ディアー「ん?なんて?」
声が一部小さくて、少し聞こえなかった。ディアーが聞き返す
レン「私と、子作───」
ディアー「それはダメ」