アインズは玉座についていた。
しかし、そこはナザリックにある紫の怪しくも人を魅了する輝きを発する玉座では無い。
赤や白、金を基調としたまさに玉座らしい玉座
アインズがその玉体を降ろしているのは、本来ならランポッサ三世が座っているはず玉座だった。
───
ランポッサ「ラナーよ。クライムを行かせてよかったのか?もし、敵の進行が想像より早かった場合、お前を守る者はいない。不安では無いか?」
ランポッサは心配そうな目をラナーに向ける。
ランポッサは王である前に人なのだ。いくら王として気丈に振舞おうと、自国が崩壊しようとしている時に、娘を守る護衛をつけてやれていないのは、親としては不安で仕方がない。
ラナー「良いのです。クライムにはあの王家に伝わる品々を隠す重要な任務を私が与えたのです。それに、私とて一国の姫。不安だからと、怯えていては王家の恥となってしまいます」
ランポッサは目を見開く。
ランポッサは勘違いをしていたのだ。今まで、ラナーは正義感の強い、頭のキレる優秀な子だと思っていた。
だが、違った。この子は優秀などと言う器には収まらない。
自国の為を思い、人の為を思い思案を巡らせ、行動する。
そして、王家としての誇りを幼いながらも持ち、こんな状況でも保つことの出来る。
正に「王家」と言うべき存在
ランポッサ(こんなにも、大きくなっていたのだな、ラナー。全く…つくづく、嫌になるな。貴族や国のことを考えるあまり、娘の成長にも気づかないとは。そして、国のことを考えていてもこの始末。親としても、王としても、失格だな)
ランポッサは目を細め、ラナーを見つめる
ランポッサ「そうか。偉いな、ラナーは」
ラナーはランポッサの、喜と憂いが混じった笑顔に、満面の笑みで返す
ラナー「何をおっしゃるのですか。私なんてまだまだですよ!行きましょう!お父様、最後は王家の人間らしく、玉座にて待ちましょう!」
ラナーは元気よく手を引く。その姿はただの年相応の娘にしか見えない。しかし、ランポッサは考えていた。
気丈に振舞っているが、怖くないわけが無い。敵が攻めてきているのだ。不安と恐怖を押し殺し、気丈に振舞っている。
ランポッサは娘の成長を喜びつつも、悲しく思っていた。
この優しい子を、普通に育ててあげられなかったこと。
普通の娘なら不安で震えていただろう。怖くて泣いていただろう。しかし、ラナーはそんな様子を一切見せない。
王家の人間だからだ。
ランポッサ(もし、普通の家で育っていたら。この子はどんな顔をしていたのだろうか。感情を押し殺すことなく、普通に普通の娘として育っていたのなら、この子の人生は今よりももっと笑顔に溢れたものになっていたのでは無いのだろうか)
後悔
この子を普通に育てられなかった自分に腹が立つ。
もっと子供に目を向けていたら、もっと楽しいことをさせてあげられていたら、そんな後悔が頭を巡る。
しかし、時間は戻らない。
どうしようもない後悔がランポッサの心を支配した。
ラナー「お父…さま?」
ランポッサは涙を流していた。
床にポタポタと音を立て、涙が零れる。
ラナー「どうされたのですか?どこか、痛いのですか?」
ラナーが心配そうな目でランポッサを、親を見つめ、顔に手を添える。
この子はこんな状況でも、優しさを絶やさない。
ランポッサ(あぁ、こんなにも優しい子が…なぜ、私は…)
言葉にならない後悔が、次から次に溢れ出る。
普通に育っていたら、もっと目を向けていたら、自分が過ちにもう少し早く気づいていたら
そんな考えが頭を駆け巡る。
ランポッサは顔を拭き、ラナーの肩に手を置く。
ランポッサ「ラナーよ。お前は逃げなさい」
逃げた先に何があるかは分からない。しかし、この優しい子を死なせるわけにはいかない。
ランポッサはそう考えたのだ。
ラナーは大きく目を見開く。
ランポッサ「お前一人なら、だれにも気付かれずに逃げることが出来るかもしれない。私はもう逃げられない。そして、
逃げる気もない。王としての役目を果たさねばならんのだ。だがラナー、お前は違う」
ラナーは俯き肩を震わせる
ランポッサ「お前まで、一緒に行く必要は無い。
今まで、お前には辛い思いをさせた。感情を押し殺す術を身につける程に、辛い思いをさせてしまった。
だから、これからは、自由に生きなさい。
良いか?今からお前は今から裏門から出て、貴族の領地へ逃げるのだ。恐らく、レイヴン侯の領地なら───」
ラナー「嫌です!」
ラナーから今まで聞いたこともないような、大きな声を聞き、ランポッサはたじろぐ
ランポッサ「ラナー…」
ラナー「なぜ!そのようなことを言うのですか!私は王家の人間として、責務を果たすのです!敵が来るその時まで、王家の人間として!…お父様の娘として………最後まで一緒にいたい!」
顔を上げたラナーは泣いていた。必死に下唇を噛み、肩を震わせ、大粒の涙を零し、泣いていたのだ。
ランポッサ(あぁ、そうか。この子は…全く私は、どうしようもない親だな)
最後の最後に親としての責務さえ、放棄しようとした。
逃げた先に何があるのか?
答えは何も無い。
レイヴン侯の領地に逃げたとて、いつかは存在がバレる。
他国に行ったとしても、身分を明かすことすらも出来ないこの子が、まともな仕事ができるはずがない。
出来たとして、娼婦の真似事ぐらいなものだ。
領地に居ても見つかり、孤独に死ぬ。
他国に逃げようとしたとて、簡単に死ぬ事は出来ずに、生き地獄。
そんな環境に自分の娘を送ろうとしたのだ。
そんな所に行かせるくらいなら。
最後まで、一緒にいてやる。
それが親の責務なのではないか。
そう思ったのだ。
ランポッサ「…すまないな、ラナー。私が間違っていた」
ラナー「な、なら」
ランポッサは安心させるように笑みを浮かべる
ランポッサ「あぁ、最後まで一緒に居よう。ラナー」
ラナーは涙を流していた。しかし、先程までと違うのだ。
下唇を噛んだ、食いしばるような表情ではなく。
嬉しげに笑い、親を見て安心している1人の娘の表情だった。
2人は抱擁を交わした後、手を繋いで玉座へと向かった。
その後ろ姿は、まさに親子のようであったと言う。
すみません。3ヶ月もお待たせしてしまって…
新生活が始まって余裕がなかった!…なんて言い訳はしません。ちょっとモチベが下がってしまって、サボっていただけです。
今後もこんな感じで期間が空くことがあるとは思いますが、見守っていただけると嬉しいです。