私、こと夏油傑は両性である。両性と言うには微妙かもしれない。
小さい時に双子だったのが、卵がくっついて一人になった。
そんなわけで、お尻の中にちょこんと子宮が接続されているし、生理だってあるし、肋骨に守られた部分には小さな脳がある。
どっちの脳がどっちかはわからない。
体の支配権は姉の方が上。それでも、姉は体をいつも夏油に譲ってくれている。
姉は内弁慶だが、呪霊が怖くてどうしようもないのだ。
そして、姉はよく猿を名乗る。私は前世で猿だったんだ、なんて。
そんな姉の私物はとても少ない。
せいぜい、私がプレゼントしたイケメンアイドルのDVDくらいだ。
誕生日やクリスマスなんかにそれをプレゼントして、問答無用で体の支配権を放棄して寝てしまう。
そうすると姉は、必死に声を出さないようにしつつ、口を枕で抑えて絶叫するほど喜んで見ているのだ。なお、悟や硝子にもメロメロだったりする。顔はいいからな。あの二人。後、イラストなんかもよく描いている。結構上手い。
双子で体が一緒だから以心伝心ではあるが、それでも言葉は言ったり書いたりしないと通じない。姉は本心を吐露してくれない。私は、姉に友達がいない事は危惧していた。
私は、呪専で心から信頼できる友達ができた。姉さんにも、友達を作って欲しい。
そう思って、私は姉の大反対を押し切って、説得して、硝子に話す事にした。
クリスマスに、私は硝子を呼び出した。
「硝子。ちょっと相談というか、お願い事があるんだけど」
「何?」
「内緒で友達になって欲しい人がいるんだ。一ヶ月だけでいいから。合う合わないもあるだろうし、一ヶ月だけチャンスをあげて欲しいんだ」
そして、硝子は肩の力を抜いた。
「そいつ、男? 私の知ってる奴?」
「えっと、女性なんだけど、なんて言っていいか。これ、見てくれないか」
渡したのは、レントゲン写真。
「何これ。あれ、肺、変じゃない?」
硝子は医学を既に少しだけ学んでいるし、胸に脳みそがあればそりゃわかるよね。
「私のレントゲン写真。この、胸のとこ。脳みそなんだよね。 赤ちゃんの時に卵子がくっついちゃって、私、一人に見えるけど、実は二人なんだよ」
たっぷり10秒は沈黙して、硝子は声を上げた。
「は?」
唖然とした表情に、思わず笑ってしまう。
「実質二重人格なのかな? 私の姉、ずっと私に体を譲ってくれていて、でもひとりぼっちで、だから、1週間に一度くらいでいいから、硝子におしゃべりしてあげて欲しいんだよ」
お願い、と手を合わせる。いつも冷静でクールな硝子は狼狽えた。
「ちょっと待て。混乱してる。は? えっ お前だけ健康診断別だったのって」
「掛かり付けのお医者さんの方が安心だからね」
「それ、五条には」
「姉さんはかなりの内弁慶で……いたっ やっぱりいいよ、私は。こんな事言われても硝子さんだって困るだけだし、弟の友達とお情けで友達してもらうって惨めだし」
私の腕を抓って、姉さんは硬い声で言う。だけどさ。放って置けないじゃないか。
「あー。名前なんていうの?」
「夏油姉でいいよ。名前なんて必要ない また姉さんはそういう事いう。ねぇさん、本当かどうかわからないけど、前世で猿だったんだって。たまに猿って名乗ってる」
「小猿ちゃんね。小猿ちゃんの前世ってどんな感じ? 何してたの? 趣味は?」
硝子は自然にフォローしてくれる。さっぱりしていて、こういう時頼り甲斐があるよね。
「とにかくイケメンが好きだよね。鏡や悟見て涎垂らしてる 垂らしてない!」
「顔いいもんな、クズ達。いやでも自分の顔だろ?」
「私の体なんて脳と子宮だけだよ、多分。この小さい脳の方が私だと思うんだよね。それに大人の記憶があるからさ、生まれた時から見てても呪霊は怖くて駄目だし、弟は顔がいい」
姉さんはほんと呪霊が苦手なんだよね。呪霊を見るとすぐ引っ込むし。
「夏油、そんななりして、ふたなりなの? 見たい。保健室行く?」
今からでも行きそうな雰囲気の硝子。こういうところ、硝子もしっかりイカれてる。
「残念。入り口は直腸の中にあるみたいでね。外からは見えなくて助かってる。生理はあるけど」
「あるんだ。直腸検査する?」
「しない」
しないよ!
「でも体の支配権を譲るのって嫌じゃないの? 体は小猿ちゃんも動かせるんでしょ?」
姉さんは、ゆるく首を振る。ゆったりとした動きに、なんというか慈愛を感じる。
「私は人生二回目。傑は一回目。私は大失敗してる。弟は成功するかもしれない。死ぬの怖いし、弟ならこんな世界でも逞しく生きるだろう死ね。って任せたら、こーんな危ない学校に進学しやがったのよね、弟。尚更出られないっていうの。 姉さんも反対しなかったじゃないか。悟を見てウキウキしてたくせに。って大失敗ってなんだよ、犯罪者にでもなった?」
ふっと姉さんは笑う。バカにしたみたいな笑み。今の笑う要素あった?
「信者を猿っていうスペシャル顔のいいイケメン教祖様に貢いだり教祖様モデルにした漫画描いてたりしてるうちに若くして過労死。栄養失調かな? 貢ぐのに忙しくてちゃんと食べてなかったしね。まあ失敗ってほどでもないか。むしろ大往生? いや何やってるんだよ!? 初耳だし!」
「マジウケるwww それで猿なんだね。小猿ちゃん、オタクってやつ? 夏油、預金額は確認しとけよ」
「弟の金を奪うほど人間終わってないわい その理屈だと、姉さん一文なしだけど」
うっと呻いて、姉さんは一言。
「働いたら負けだと思ってる」
なんだよそれ!
「まあそんなわけで、光の者の弟の人生を邪魔しちゃダメだって思うわけよ」
「小猿ちゃん、面白いじゃん。いいよ、友達になろう。3人目のクラスメイトだね」
「硝子さん。いいの?」
「硝子でいいよ。ただし! 一緒に訓練とか勉強とかもしようね。まともに立ってられないほど体の操作下手っぴってなんだよ。人格入れ替わったらすぐわかる」
「そうなんだよ。運動神経全然ないんだよ、体は問題ないはずなんだから、硝子、鍛えてやって うるさいわ」
「後、夜蛾先生にも言っといた方が良くない? 生理あるんでしょ」
「硝子、報告するの、一緒に来てくれる?」
「いいよ」
良かった。硝子なら受け入れてくれるって信じてた。
夜蛾は頭を抑えて言った。
「概要はわかった。よく勇気を出して言ってくれた。俺の所で止めておくが、緊急時にはカルテを請求するぞ」
「わかりました」
「小猿と言ったか。早速テストをするぞ」
「げっ がんばれ姉さん。私は手伝わないから」
「それと、部屋は悟の隣で大丈夫か? 半分は女の子なんだろう?」
「大丈夫です。常に弟と同居しているようなものなので。外見は完全に弟ですし、何か起こるはずもないですよ。それより、悟には言わないでくださいね。姉さんが悟の顔にメロメロとか、なんか嫌だし」
「そうか。本当に隣で大丈夫か」
「大丈夫です。それに硝子の隣だと、今度は私がやばくなるじゃないですか」
「それもそうだな」
「否定してください、先生」
「どっちなんだ」
その後、地下室で硝子にめちゃくちゃ扱かれた。
それから、私は硝子とも急速に仲が良くなっていった。
悟と私、姉と硝子。それぞれ親友になれたら楽しいと思う。
一月後、姉さんと硝子はすっかり濃い話をするようになっていた。
「私らってお年頃だろ。エッチの時どうしてんの?」
「聞いてくれよ、硝子! どうしたらいいの!? かなり辛いんだよ!」
「私に聞くな。え、我慢してんのか。体に悪くね?」
「でもさ。でもさ……!」
「なんか間違いあったら困るだろ。我慢すると暴発するぞ」
「正直弟の性事情に興味あります」
「私も興味ある」
「痛覚は一緒だろ、バカァっ」
本当に、他人事だと思って!