ビーストがカルデアへと召喚される。
そんな前代未聞の事態が過ぎ去り、少しばかり時が経った。
最初は英霊達に警戒されていたドラコ―も、マスターが必死に彼女を庇ったことや、彼女自身が明るく積極的に英霊達へ声掛けをしていったことで、今となってはすっかりカルデアへ溶け込んでいる。
はずなのだが……
「今日もレイシフトご苦労様であったなマスター!無理せぬ為にも、しっかりと休むがよい!」
「うん、ありがとうね。ネロ・ブライド……しっかり休むよ」
レイシフトを終え、中央管制室にて言葉を交わすマスター藤丸立香と白き花嫁衣裳に身を包んだ姿のネロ・ブライド。
いつも他の英霊にやっているように、同行してくれたネロ・ブライドへ感謝の言葉を伝える立香であったが、その光景を鋭い眼光で遠くから見つめる人物が一人居た。
「じーっ……」
中央管制室からカルデアの廊下へと続く道の角で二人を観察する、ビースト・ドラコ―。
普段は大人びた表情を崩さない彼女であるが、二人……正確に言えばネロ・ブライドを見る彼女の表情は、子供が玩具を買ってもらえなかった時のようないじけた顔をしている。
その理由は。
「余も……着てみたいぞ……!あのような服を……」
羨ましい、とにかく羨ましい。
カルデアで何度かネロ・ブライドを見かけた時から、ドラコ―はキラキラとした瞳で彼女の服を観察していた。
決して顔には出さなかったものの、やはりこうして目の前でじっくりと見ると、余計に花嫁衣裳に身を包みたくなる。
問題は……その服をどこから調達するのかだが。
「はぁ……惨めになってきたな。獣ともあろうものが情けない話だ……」
いくらネロ・ブライドを見ていても、純白のウエディングドレスは手に入らない。
かと言って、あの服を手に入れる当てもないとなると、諦めるしかないのだろう。
「仕方、ないか……」
ドラコ―は大きな溜息をつくと、立香達から視線を外し、カルデアの廊下の方へ踵を返した。
これ以上粘っていてもどうしようもない、そう判断してのことだったが、ドラコ―は名残惜しそうにネロ・ブライドの方を数回振り返る。
――どうせ、獣の余にあの衣裳は似合わぬな……
無理矢理自身の中で割り切り、足早にその場を後にしたドラコ―。
その顔はいつまでも暗く、浮かない表情をしていた。
**
「花嫁か……」
肩を落とし、自室へ戻るべくカルデアの廊下をふらふらと歩くドラコ―は、ふと立香の顔を思い浮かべた。
「(マスター、余は花嫁になれぬのか……?そなたの傍には、居れぬのか?)」
カルデアの敵とも呼ぶ存在のビーストが、敵であるはずの立香と結ばれたい……こんなことを口に出せば、きっとカルデア中から非難される。
それが分かっているからこそ、ドラコ―は立香との関係を前進させることができずにいた。
「どうすればよい?余は……どうすれば……」
恋煩いを起こしたかのように胸の高鳴りが収まらない。
立香のことを想えば想う程、顔が赤くなっていき、足がふらついてしまう。
そんな状態のまま、ドラコ―は廊下を……
「そこの君、大丈夫かい?」
突然、後ろから掛けられた明るい声、その声に反応してドラコ―は歩んでいた足を止める。
――ロクスタでも、ティアマトでもないな……
声の主を探りつつ、ゆっくりと後ろを向くと、そこには自分の見知らぬピンク髪の少女が立っていた。
「初めましてかな?僕はハベトロット!全ての花嫁の味方さ!」
**
「よし!ようやく書き終わった……!」
まとめたばかりのレポートを机の隅へ退け、椅子の背もたれに身を預けるカルデアのマスターこと藤丸立香。
彼が自室にてまとめていたのは、ドラコ―との出会い……つまり先の特異点での出来事だ。
いつもなら一時間以内にレポートを書き上げる立香も、ドラコ―への思い入れが強いせいか、気付けば数時間に渡って筆を走らせていた。
「提出は……後日でいいか」
レポートを書き上げた自分を褒めつつ、持っていたペンを机に置くと、ふと立香はドラコ―のことが頭に思い浮かんだ。
「(あ、そういえば……最近ドラコ―、部屋に来ないな……)」
カルデアに召喚された初日から立香の傍に寄り添い、就寝時以外は常にこの部屋に居たドラコ―だが、ここ数日は全く部屋に来ていない。
姿自体は見かけてはいるものの、それでも数日間会えないのは寂しいものだ。
「(何か、事情でもあるのかな?)」
あれ程までに自分へ好意を見せてくれた彼女が、何も言わずに部屋に来なくなる……ということは、おそらく他の英霊と交流を深めているのだろう。
そうであれば、ドラコ―がハベトロットと一緒に廊下を歩いていたことも説明がつく。
「でも、よかった……みんなドラコ―を受け入れてくれて」
当初は立香の意向を無視し、武力を持ってしてドラコ―をカルデアから追い出そうとする動きもあったものの、何やかんやで彼女を共に戦う仲間として迎えてくれたカルデアの英霊達。
命の危険が伴うレイシフトがある際は、必ずと言っていい程にドラコ―は頼りになる存在だ。
もちろん、戦闘時以外の時でも……
「(本当にいざという時は、よろしく頼むよ。僕のドラコ―)」
この場に居ない彼女の顔を頭に思い浮かべ、立香は穏やかに笑った。
**
「ささっ、とりあえず部屋に入って!話はそれからだ」
「あ、ああ……」
廊下でばったりと会って数分もしないうちに、ドラコ―はハベトロットに自室へと案内された。
体調が優れないこともあって、断るつもりでいたドラコ―だったが、瞳を輝かせるハベトロットに手を引かれ、結果的には彼女の部屋の前まで来てしまっている。
――まぁ、仲を深める程度ならよかろう……
半ば強引に気持ちを切り替え、ハベトロットの後に続いてドラコ―も部屋へと入って行く。
「あっ、部屋を散らかしたままにしてたんだわ!ごめん、すぐ片付けるから!」
部屋へ入るや否や、大慌てでベッドや机に放り投げられていた服を、部屋の奥にあるクローゼットへ仕舞っていくハベトロット。
ドラコ―はそんな様子をぼんやりと見つめていると、無意識のうちに彼女が片付けている服へ目線をやっていた。
レースを使った透明感のある純白のドレス、手触りの良い上質なシルクを使用した同じく純白のドレス。
それらはいわゆる“ウエディングドレス”と呼ばれるものであり、ドラコ―が求めていた花嫁衣裳そのものだ。
「(余も、あの服を……いつかは……)」
立香と結ばれ、花嫁衣裳を身に纏う未来。
そんな未来が来るかどうかは分からないが、どうしても妄想を膨らましてしまう。
決して叶わぬ夢と分かっていても、だ。
「ふぅ……!ようやく綺麗になったー!それじゃ、早速話をしよう!」
片付けた勢いのままハベトロットが部屋の真ん中にあった椅子へ座ると、ドラコ―もそれに倣って対面の椅子へと腰を下ろし、自ら口火を切った。
「話の前に自己紹介をしておこう。余はドラコ―、クラス・ビーストのサーヴァントだ」
「うん、よろしくね!ドラコ―!……実を言うと、僕は君にずっと目を付けてたんだよ!」
「よ、余をか?」
「もちろんさ!君みたいな“お嫁さん力”の高い英霊は珍しいからね……!」
言葉の意味が分からず、困惑した表情を浮かべるドラコ―。
すると、不意にハベトロットはドラコ―の顔をじっと見つめる。
「やっぱり、僕の勘は正しかったんだわ!君は良い物を持ってる、花嫁になれる素質をね!」
「素質……?余に……か?」
「そうだとも!君の好きな
「――な……っ!?」
想い人をズバリ言い当てられ、表情を驚かせるドラコーだったが、ハベトロットは楽しそうな笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「あれだけ普段マスターに引っ付いてるんだもん……!君も花嫁になりたいと思ってるでしょ?」
「そ、それは……その、思わないわけでは……ない……」
「ということは、なりたいってことだよね!?大丈夫!君なら絶対に、マスターを虜にする花嫁になれるよ!」
「ぅ……う、む……」
自分の手を固く握り、満面の笑みで手をシェイクさせるハベトロットのテンションに付いていけず、顔だけでなく耳までを真っ赤にして、思わず顔を覆うドラコー。
――な、なぜ……こんな辱めを受けておるのだ……?
自身の想っている人物を当てられるだけでも恥ずかしいというのに、普段から立香へボディタッチをしていることがバレていた事実。
無意識に立香へやっていたことだが、改めて振り返ると恥ずかしくなる。
「(まったく、この者は……どこまで余のことを知っておるのだ……)」
そんな疑問を浮かべていると、いつの間にかハベトロットはクローゼットへと向かい、一着のウエディングドレスを取り出していた。
先程収めたドレスより一層華やかな、白が輝いて見える花嫁衣裳を。
「ハベトロット……その衣裳は何だ?」
「ん?これかい?これは、君の花嫁衣裳だよ……!」
「……!?余の、衣裳……?」
「うん!僕が作った、君を花嫁にする衣裳さ!」
そう言って力強く微笑むハベトロットに対し、未だに信じられない様子で目を見開かせ、呆然と椅子に座るドラコ―。
――余も、着れるのか……?あの衣裳を……!
カルデアの廊下で会った際に“花嫁の味方”を自称していたハベトロットだが、その言葉の意味がようやく分かった。
「(まさか、余の他愛無い夢を叶えてくれる者が居るとはな……)」
一度は諦めかけた花嫁衣裳を着るという夢。
叶うことはないと諦めていた小さな願い事が、今……現実の物になろうとしている。
「よしっ!それじゃ、早速試着といこう!準備はいいかい?ドラコ―!」
「ふっ……ああ!もちろんだ!」
暗く淀んだ表情を一変させ、ハベトロットの言葉に笑顔で応えるドラコ―。
その顔はどこまでも清々しく、明るく希望に満ちた表情で溢れていた。
**
「(余は、マスターの花嫁になれるだろうか?)」
鏡に映る、華やかなで可憐なドレスを纏った自分の姿。
念願であった白き花嫁衣裳を纏ったこともあり、しばらくドラコ―はうっとりとした表情で鏡の中の自身を見つめていたが、ふと……その表情を不安げなものに変えた。
「(いくらそなたを愛していても、カルデアが……人理がそれを許さぬだろうな。ビーストと結ばれることを……)」
ネガティブな気持ちになってしまうために極力考えないようにしていたが、やはり自分がマスターの花嫁となるのは無理だろう。
それは、たとえ立香がドラコ―の告白を受け入れてくれたとしてもだ。
「(余のワガママのために、マスターを人理の敵にするわけにはいかぬからな。余は、身を引くとしよう……)」
ビーストである自分以外にも、カルデアには美しい女性が大勢居る。
立香を慕い、彼を心の底から想っている者が少なからず居るのだから、わざわざ獣である自分を選ぶ必要は無い。
仮に他の女性と結ばれたとしても、立香が笑顔で居ればいい……ドラコーは寂しく笑いつつ、改めて鏡に映る自分を見つめた。
「どう!?上手くできてるでしょ!制作に結構手間かけたんだぜー!」
「うむ、よくできておる……素晴らしい腕だな、ハベトロット」
隣に立つハベトロットに心情を悟られぬよう、出来る限りの愛想笑いを浮かべて見せたドラコ―だが、その顔はやはり浮かないままだ。
――この衣裳も、二度と着ることはないのだろうな……
わざわざハベトロットに仕立ててもらった服ではあるが、花嫁への未練を断ち切るには、目にも映さない方が良いに決まっている。
「(ふっ、しっかりと……堪能しておかねば)」
ドラコーは心の中で決意を固め、しばらく鏡の前で自身の姿を存分に眺めつつ、ハベトロットと言葉を交わした。
「なぁ、ハベトロットよ。そなたは、他にも花嫁衣裳を作っておるのか?」
「うん、もちろん!僕は花嫁を目指す女性の味方だからね!昨日も、一日中衣裳を作ってたんだ!」
「なるほど……流石は花嫁の味方だな」
ハベトロットの英霊としての姿勢に感心し、ドラコーは大きく顔を頷かせると、穏やかにハベトロットへ笑い掛けた。
「本当に、今日は良い日になった……礼を言わせてくれ、ハベトロット」
「礼なんていいよ、僕はただ使命を果たしただけさ。君という花嫁を送り出す使命をね!」
「……っ!そうか……」
輝くような瞳でこちらに笑い掛けるハベトロットを見る限り、彼女は本気で自分が花嫁になれると信じてくれているのだろう。
獣である自分を。
「……余は、花嫁になれるか?」
「君なら、絶対になれる……!マスターの一番の花嫁に……」
「余が、人類悪だとしても……?」
「関係ないさ、君が人類悪かどうかなんて。肝心なのは、君自身が花嫁になりたいかどうかだ」
唇を震わせ、不安げな様子を隠せない様子で言葉を紡ぐドラコーだったが、ハベトロットはどこまでも笑顔で応じる。
嫌な顔は一つもせず、ただ穏やかにドラコ―の話を聞き、それに対して答えを返し続けた。
「余が、マスターと結ばれれば……きっと迷惑を掛けるに決まっておる。だから、花嫁にはなれぬ」
「マスターは君のことを迷惑になんて思わないさ、たとえビーストであろうとも、マスターは君を受け入れてくれる!今だって、君の事を誰よりも信用しているはずだよ!」
「……」
「大切な人の為には命を投げ出すマスターのことだし、きっと君の為になら人理だって敵に回す。彼は、良くも悪くもそういう人だ」
振り返ってみれば、リリムハーロットでの立香の行動は、完全に人理を敵に回す行為だ。
本来打ち倒すべきビーストと成り行きとはいえ契約を結び、その後に令呪を用いてビーストを助けた挙句、カルデアに召喚できる程の縁を作ってしまっている。
つまり、立香は最初から人理を敵に回す覚悟で、人類悪であるドラコ―を助けていたのだ。
「(そう、だったな……そなたは、そういう男だ)」
ビーストのクラスのままカルデアに召喚されたこともあり、警戒するサーヴァントが多く居た中、立香は必死に自分を庇ってくれた。
それは、彼が最大限の信頼を寄せているからこその行動だったのだろう。
「(――やっぱり、余は諦められぬな……マスターを)」
一瞬だけ彼の顔を思い浮かべると、ドラコ―は表情を晴れやかなものへと変え、ハベトロットに再度質問を投げた。
「ハベトロット、もう一度聞くが……余は花嫁になれるか?」
「もちろん!君が花嫁になりたいなら、僕はいくらでも手伝うとも!花嫁の味方としてね!」
ハベトロットの力強い笑みを目にし、立香への想いを確かなものにしたドラコー。
迷いを振り切り、自分の気持ちへ素直になろうと決意を固めたドラコーの顔は、清々しいまでに明るく、自信に満ち溢れていた。
「(余は、マスターが大好きだ。そなたが愛おしくて、夜も眠れぬ……だから、ずっと一緒に居たい)」
自分が人類悪であろうと、立香に対する想いや情熱は止められない。
彼に惚れ込んでしまった以上は、最期まで添い遂げる……願わくば、花嫁として。
「(そなたは、余を受け入れてくれるか……?マスター?)」
[newpage]
「よし、今日のレイシフトは終わりだな」
中央管制室からカルデアの廊下を通り、いつも通り自室へと戻って行く立香。
少し前まではドラコ―と共に自室へ戻っていたが、ここ最近は一人で行動をしている。
「来なくなっちゃったな……ドラコ―」
会えなくて辛いとまではいかないが、それでもあれ程自分に好意を示してくれた彼女が突然部屋に来なくなったのは寂しい。
ビーストでありながらも、自分の身を案じてくれたドラコ―……立香は彼女が数日前に掛けてくれた言葉をずっと覚えている。
『余はどこまでもそなたの味方であるからな……愛しておるぞ』
頼もしく、可愛らしい笑顔を見せつつ掛けてくれた心に響く言の葉。
それは上辺だけの言葉ではなく、本気で立香を愛し、最後まで傍に居る決意を語った一言だからこそ、立香の心の奥にまで染み渡っていたのだ。
「(やっぱり、僕は……君を嫌いになれないよ……)」
今でもドラコ―のことを信用していない英霊は少数ながら居る。
カルデアの面々も、表では信用しているフリをしているだけで、彼女を好かない者は居るだろう。
しかし、それでも立香はドラコ―を信用し、彼女がカルデアに来た初日から自室へ招いた。
たとえ誰から何を言われようとも、自分だけはドラコ―に背中を預ける……それが彼女の覚悟に報いることになると信じて。
「(ビーストかどうかなんて関係ない。僕を想ってくれるなら、君は大切なサーヴァントだ)」
この場には居ないドラコ―へ想いを馳せつつ、歩みを進めていると、いつの間にやら自室の前へ立っていた。
「やることもないし……寝ようかな?」
報告書を書く事もなく、部屋で特に暇を潰すものがあるわけでもない。
なら、明日に備えて睡眠を取る方がいいだろう。
そう思い立った立香は自室のロックを解除すべく、扉の横のタッチパネルへ手を伸ばし――
「あれ?部屋の扉が開いてるぞ……」
普段なら“Lock”と表示され、立香が生体認証をしなければ表示の切り替わらないはずのタッチパネルが、はっきりと“Open”の文字を映していた。
――誰か、居るのかな……?
万が一のことも考え、警戒しながら扉を開けた先に居たのは……一人の獣であった。
「……」
純白のウエディングドレスを身に纏い、瞳を閉じたまま部屋の中央で佇む獣。
両手に百合の造花などが刺さったブーケを持ち、神妙な表情を浮かべていた獣の姿を目にし、一瞬身体を硬直させてしまうが、すぐに
若干強張っていた表情を解し、立香は安心した様子でホッと息を吐く。
「ただいま、ドラコ―」
穏やかに笑いつつ彼女へ声を掛けると、ドラコ―はそれまで閉じていた瞼を持ち上げ、しばらく紅色の瞳で立香を真っすぐに見つめた後……柔和な笑みを見せた。
「おかえりだ、マスター。待っておったぞ」
「僕も、君が部屋に来るのを待ってた。渡してたカードキーを使って部屋に入ったんでしょ?」
「ああ、そうだ。この部屋で、一足先にそなたの帰りを待っておこうと思ってな……嫌だったか?」
「そんなことはないよ、むしろ嬉しいぐらいさ」
マントの付いた赤黒い鎧を身に着け、どこまでも凛々しく、威圧するような雰囲気すら出していた普段のドラコ―の姿。
もちろん自分に対しては可愛らしい笑顔や仕草を見せてくれていたが、それでも戦闘時に垣間見える魔王の如き乱暴な力の振るい方は、立香でも思わず顔を引き攣らせる程に恐ろしいものであった。
しかし、今の彼女からは恐ろしさなど感じず、むしろ可愛らしいとすら思える。
「(綺麗、だな……)」
思わず彼女の姿に魅入ってしまうと、ドラコ―は浮かべていた笑みをうっとりとしたものへと変え、立香の元へ歩み寄った。
「どうだ?余の花嫁衣裳姿は?中々に良いであろう?」
「う、うん。でも、そんな服を着てどうしたの?すっごく立派なドレスみたいだけど……」
ドラマや映画、そのような媒体で出てくるような汚れのない真っ白なウエディングドレス。
コスプレやままごとで使う紛い物のドレスではなく、一人の女性を花嫁と昇華させる本物の衣裳は、かなり手が込んだ物となっている。
彼女がこんな立派な花嫁衣裳を着ているということは、きっとそれなりの理由があるのだろう。
未だに戸惑いを隠せず、浮ついた様子の立香に対し、ドラコ―はゆっくりと口を開いた。
「ふっ、どうしたも何もない、この服を着ている理由はただ一つ。――そなたと、結ばれたいからだ……」
「……!僕、と……?」
「ああ、そなたと……だ」
頬を紅色に染め、恥ずかし気に立香を見つめるドラコ―。
彼女の表情を見る限り、冷やかしで言っているわけではなさそうだ。
「だめ……?」
「い、いや!ダメ、じゃない……!ダメ、じゃないけど……」
「じゃあ……よいのか?マスター」
熱っぽい息を吐き、ドラコ―は立香へ答えを迫る。
すると、立香は数秒間、何やら真剣な表情で考え込み、ふと……天井を仰いだ。
「あの時は、ありがとうね」
「え?」
「いや、リリムハーロットでお世話になったのに、お礼を言えてなかったからさ……今、言っておこうと思ったんだ。ドラコー……もし、あの時君が助けてくれなかったら、僕はここに居ない。だから、ありがとう」
照れ臭そうに笑いながらも、感謝の言葉を口にした立香。
屈託の無い晴れやか笑みをもって告げられた言葉に、ドラコ―が一瞬呆気に取られていると、次の瞬間――自身の唇に、立香の口が重なっていた。
「……っ!!」
突然の出来事に思わず目を見開かせるドラコ―だったが、即座に立香の接吻を受け入れると、そのまま瞳を閉じる。
「(ああ……幸せだ)」
乱暴な口付けではなく、優しく丁寧な立香の口付け。
手を添えるような軽い接吻ではあったものの、それでも好いた者との接吻は永遠と感じる程に長く、思考を真っ白にして立香の唇を堪能する。
数秒、数十秒、何時間か経ったかもしれない……幸福感が全身に行き渡り、身体が弛緩してきたところで、立香は唇をそっと離した。
そして。
「ドラコ―、僕と最後まで一緒に居てくれる?」
「もちろんだ、マスター。前に言ったであろう……?余は、そなたの為になら人理さえ滅ぼすと」
「ふっ、そうだったね……僕も、君の為になら全てを投げ出すことを約束するよ。僕だけの“ドラコー”」
にっこりと笑みを浮かべ、自分なりの言葉を伝えた立香。
それに対し、ドラコーも笑顔を弾けさせるのだった。
「これからも、よろしく頼むぞ。余だけのマスター……いや、旦那様!」
**
人類最後のマスターと、人類悪であるビーストが互いに恋をし、それを実らせる。
下手をすれば人理を敵に回しかねない行為ではあるが、マスターである藤丸立香は「いざとなれば人理を敵に回す」そんな覚悟を決め、獣・ドラコーを受け入れた。
それは、獣としての彼女ではなく、女性としての彼女に惚れ込んだからだ――
**
「なぁ、マスター……余とそなたは、本当に夫婦という関係なのだな?」
「ああ、そうだよ。君は立派な僕の花嫁だ」
少しばかり不安そうな表情で言葉を投げたドラコーに、穏やかな笑顔を持って返事をする立香だが、その内心は驚きと興奮に包まれていた。
――これが、ドラコー……
元々、女性経験、恋愛経験共に0と言っていい程にしておらず、成人年齢にすら達していない立香。
そんな立香にとって、ドラコーは初めて恋をした女性だ。
「(こんな女性が、僕を好きでいてくれたのか……)」
きっと日本の街中を出歩けば、100人中100人は振り向くであろう金髪の美しき女性、ドラコー。
立香は改めて彼女の淡麗な容姿に見惚れ、彼女をぼーっと見つめていると、不意に……ドラコーは持っていたブーケを近くの机へ置いた。
「さて、晴れて夫婦となったのだ……早速、共に初夜を過ごそうではないか」
そう言って立香へ微笑むドラコーは、今までにないぐらいに頬を赤く染めており、吐息も少しばかり荒い。
彼女の言う“初夜”というのは、紛れもなく男女のまぐわいを指す言葉だろう。
「(ドラコーと、僕が……性交を……!?)」
急なことで頭の中が整理できず、恥じらいから顔だけでなく耳まで赤くする立香。
ドラコーはそんな初心な彼を後目に、立香の目の前へしゃがみ込んだ。
「ふふっ……安心するが良い。全て余がリードする……そなたは、ただ身を任せておれ」
「ぅ……うん……」
妙に力強い彼女の言葉に、こくりと頷くと、おもむろにドラコーは立香のズボンへ手を掛け、股間部のジッパーをゆっくり開けた。
そこから姿を出したパンツを下へと下げると、ドラコーの目の前に立香の逸物が晒される。
「大きい、大きいな……そなたの男性器……まるで、槍のようだな」
「ぅ……」
「余に興奮して勃起もしておるようだし、これは念入りに奉仕してやらねば……」
一般的な男性よりも少し大きく、十分な硬度もある彼の男性器。
ドラコーはうっとりと目の前にそそり立つ肉棒を見つめ、思わず息を呑んだ。
「(顔は可愛らしいというのに、ココは中々に逞しいではないか……!)」
表情を驚かせつつも、彼の男性器を数回程ゆっくり上下させ、その手触りを確かめる。
そして、ドラコーが一瞬動きを止めたかと思うと、次の瞬間――立香の男性器を咥え込んでいた。
「ん……っ!じゅる、れりゅ……じゅるるる!」
「ど、どらこ……っ!?くっ……!」
「んちゅ、れりゅ……れる、きもひいか?」
性的な快感の耐性がない立香の肉棒を、早々に容赦なく責め立て、快楽に染めていくドラコー。
裏筋、亀頭、尿道を積極的に責める彼女に対し、立香は奉仕を一方的に受けるしかなく、歯を食いしばって快感に耐え続けた。
「んっ、じゅるるる……!ろうら?よのテクニックは……?」
「……っ!」
「ふふっ、こたえれぬか?なら、よい」
立香の様子に満足し、ドラコーは引き続き男性器を根元まで咥え、丁寧にしゃぶっていく。
「(ビクビクと身体を震わせて……必死に堪えておるのだな、マスターよ)」
リリムハーロット、カルデアでのレイシフトではいつも凛々しい顔をし、的確な指示を飛ばす人類最後にして最高のマスター。
戦う時も、悩みを相談する時も爽やかな表情を崩さない彼が、ここまで快楽に弱いとは想像すらしなかった。
「(愛らしいな、余の旦那様。獣を完璧に手懐けたというのに、性の事では立場が逆になってしまっているではないか……)」
陰茎をしゃぶらずとも、手で上下にカリ首を擦ってやるだけで、身体どころか陰茎全体を震わせる立香の姿。
奉仕を始めてから数分も経っていないが、亀頭の先は徐々に膨らんできており、陰茎も最大限に勃起してきている。
「ん、ちゅ……れる、れりゅ……!」
「ど、ドラコー……っ!ぼく……そろそろ……!」
「ふふ……よいろ?らしてもいいぞ!」
予想通り射精寸前に追い込まれた立香に笑みを返すと、ドラコーは今まで以上に亀頭を責め、彼を射精へと導いていく。
ただしゃぶるだけでなく、舌を使って執拗に亀頭へ刺激を与え、根本を手でシコシコと擦る。
ラストスパートを掛けるかのような怒涛の快感に耐えられるわけもなく、立香はそれまで入れていた腰の力を緩めた。
「んん……っ!?っ……!」
亀頭が一瞬膨らんだ途端、ドラコーの口内に溢れ出した白濁汁。
少しでも気を抜けば溢してしまいそうな勢いで噴出する精液であったが、ドラコーは一滴残らず舌の上で受け止め、嬉しそうに笑う。
そして……数分間にも渡る射精が止まると、咥えていた肉棒から口を離し、立香へと搾り取った子種を見せつけた。
「あー……こんらに、らしたんだぞ?」
「……!」
「まっらく、いくらなんでも……んくっ。出し過ぎではないか?」
目の前で精液を嚥下しつつ、淫らに微笑む自分の花嫁となった女性。
以前部屋で言葉を交わした際は、ドラコーに性欲など一切抱かなかったが、今は彼女をはっきり“女性”として性の対象にしている。
具体的に言うならば、今すぐにでも犯したい……そう思う程に、立香は彼女への想いを強くしていった。
「よし、とりあえず前戯は済んだであろう。次は……ふっ、言う必要もないか」
射精したばかりで、元気の無くなっていたはずの肉棒をすぐに勃起させ、荒い息を吐く立香。
今にも襲い掛かりそうな彼の様子を見て、ドラコーは舌なめずりし、自身のドレスの裾を持ち上げた。
「さぁ、まだまだ愛し合おうぞ。余の旦那様よ……夫として、しっかり気持ちよくしてくれねば困るからな……?」
…………
……
…
あれから、僕とドラコーは熱く交わり合った。
最初はベッド、次は机の上、その次は壁に手を付いて……等々、何時間かも分からない間、場所を変えつつ性交を続けた。
交わりを続けている中で次第に汗ばんでくると、互いに服を脱ぎ、いつの間にかベッドの上で“夫婦の営み”をしていたのだ。
「あ……っ!あ……っ!ちょっと、激しいぞ……っ!マスター!」
「仕方、ないで……しょ!加減ができないんだから……!」
マスター礼装を全て脱ぎ去り、ベッドの上で横になった僕の腹筋部分に跨り、喘ぐ僕の花嫁。
着ていたウエディングドレスは全て脱ぎ去り、手に嵌めた白いウエディンググローブだけを身に着けた状態で、長髪の金色の髪を振り乱し、セックスへと没頭している。
「んっ!あ……ぅ……っ!まだ、そなたの槍……ガチガチだな」
「当たり前だよ……!あと、数時間は付き合ってもらうからね!ドラコー!」
「あ、いっく……っ!んぁ……っ!も、もちろん……!マスターの花嫁として、しっかり付き合うとも……」
何とか表情を取り繕っている彼女だが、その顔は度重なる快感を経て緩み切っており、そろそろ限界が近いようだ。
「(まぁ、そういう僕も……そろそろ体力が限界なんだけどね……)」
勃起自体はできるものの、先程から何度か瞳が閉じかけており、身体も少しばかり怠い。
本来、休憩を入れるべきタイミングなのだろうが、今はとにかく彼女と交わりたい……そんな気分だ。
「(僕だけのドラコー……絶対に失わせないよ、君の温もりを)」
再度、彼女と添い遂げる覚悟を胸に誓い、僕はドラコーとの交わりへ集中するのだった。