「なるほど、確かにそなたは本当に余……ソドムズビーストのようだ」
驚きのあまり顔を呆けさせたまま固まる立香とは対照的に、ドラコーは特段驚いた様子を見せることなくソドムズビーストへと近付いていく。
「そなた、何の目的でマスターの部屋に侵入した?まさかマスターを殺そうとしていたのではあるまいな?」
「ふっ、もしマスターを殺すことが目的ならとっくに殺している。
ぶっきらぼうな態度でドラコーの質問に答えると、不意にソドムズビーストは立香の方へと歩み寄る。
「なぁ、マスター……いや、立香よ?
「そ、それは……」
「遠慮はするな、本当は気持ち良かったのだろう?
わざとらしく耳元で吐息を吹きかけつつ、魅惑的かつ妖艶な微笑を浮かべながら立香へと言い寄るソドムズビースト。
数々の女性英霊との交流や、ドラコーとの性体験があるおかげでギリギリ理性を保ててはいるものの、一歩間違えれば彼女の色香にやられ、思わず豊満な胸に手を伸ばしてしまいそうになる。
それ程までに、立香の瞳には彼女が魅力的に映っていた。
「貴様が望むなら、どんな要求でも
そう言ってソドムズビーストは腕を立香の肩へと回し、自身の胸を押し付けながら誘惑の言葉を囁く。
幸いにも立香がその言葉に屈することはなかったが、少々その表情は赤みを帯びていた。
「ほら、申してみよ。今なら、さっきの続きをしてやるぞ?」
立香の胸や頬を撫で回すように触り、過度なスキンシップで彼へと迫るソドムズビーストだったが、当然それをドラコーが黙って見ているわけもなかった。
「や、止めぬか!余のマスターを、堂々と誘惑するでない!」
「貴様だけのマスターではない。立香は、
「そういう意味ではない!マスターは、余と結婚しておるのだ!余から大切な旦那様を寝取ろうとするな!」
左手の中指に嵌めた銀の指輪を見せつけつつ、ドラコーは怒り心頭の様子でソドムズビーストへと詰め寄っていく。
「大体、そなたはマスターと契約をしておらぬだろう?サーヴァントでもない者が、旦那様に近付くでない」
「随分な言い様だな、余よ?そんなに、
「ふん、好きになるわけなかろう。マスターをいきなり誘惑しようとした奴など」
ドラコーの言い草が少しばかり癪に障ったのか、ソドムズビーストは余裕げに浮かべていた笑みを引き締め、彼女へと鋭い視線を向ける。
それに応じるかのように、ドラコーは敵意を宿した瞳をソドムズビーストへと向けるのだった。
「決めたぞ、
「ほう?やれるものならやってみよ。まぁ、そなたが余の旦那様を振り向かせることができるとは思えぬがな?」
「そうやって余裕ぶっているといい。貴様が慢心している間に、大事な旦那様とやらは
嫌らしく狡猾な笑みを浮かべながら立香の頬を指でなぞるように撫で、ソドムズビーストは捕食者のような目つきで彼の顔をまじまじと見つめる。
「(こ、この状況、どうすればいいんだ……?)」
ドラコーとソドムズビースト、お互いに本気になればストームボーダーが崩壊しかねない力を持つ二人に挟まれ、冷や汗をだらだらと流してしまう立香。
一旦状況を整理するためにも今すぐこの場から逃走を図りたかったが、重苦しい空気と二人から湧き出る殺気に当てられ、身体が思うように動かない。
「今すぐマスターから離れろ、
「戦う気なら来るがよい、返り討ちにしてカルデアから退去させてやろう。そうすれば、晴れて立香は
ソドムズビーストの挑発に乗せられ、徐々にフラストレーションを溜めていったドラコーは、遂に紅の大剣を両手で構えると、その切っ先をソドムズビーストへと向ける。
しかし、ソドムズビーストは全く動じることはなく、浮かべていた不敵な笑みを崩すことなかった。
「(ううっ、何で喧嘩が始まってるんだ……?)」
訳が分からぬまま始まったドラコー達のいざこざを立香が止めようにも、二人の間に流れる険悪なムードに圧されて言葉を発することすらできない状況ではただ傍観するしかない。
「(……仕方ない、ここは令呪を使うしかないか)」
立香は右手で赤く輝く令呪を流し見ると、大きく溜息をついた。
非常時でもないというのに貴重な令呪を使用するのは本来避けるべきだが、獣同士の喧嘩でカルデアが崩壊させられるよりはマシだ。
そう考え、ドラコーの動きを令呪で止めようとした……その時――
突然、部屋の扉からノック音が鳴り響いた。
『おーい、マスター君!少し話があるんだけど、ちょっといいかな?』
外から聞こえてきた声の主は、間違いなく――
「ダヴィンチちゃん!」
**
「なるほど、大体状況は理解できたよ」
ひとまずダヴィンチを部屋の中へと引き入れ、諸々の状況を彼女へと説明した立香。
先程まで大剣を構えていたドラコーも、ダヴィンチが来たことで少し冷静になったのか、ソドムズビーストを睨み付けるだけに留めている。
しかし、余程立香を気に入っているのか、ソドムズビーストは相変わらず立香の身体へと密着し、自身の乳房を彼の背中へと押し付けていた。
立香はそんな彼女と一緒にベッドへと腰掛けると、ダヴィンチへ話を切り出した。
「それで、ダヴィンチちゃん。一体この“ドラコー”は、何者なの?」
「うーん、そうだね……君も本人から聞かされてるかもしれないが、そこに居る彼女は正真正銘ビーストⅥ/Sだよ」
「そっか……でも、だとしたらどうやってストームボーダーへ?」
過去、敵にカルデアへ侵入されたことは何度かあった。
だが、マスターの部屋にビーストが侵入し、数日間にも渡って潜伏を許したことは今までに例がない。
もしもそんなことがあれば、とっくにカルデア陣営は敵に壊滅させられている。
「はっきり言ってビーストⅥ/S、改めソドムズビーストがここに来た経緯は正直全く見当が付かない。だけど、少なくとも外部から侵入したわけじゃなさそう……だよね?ソドムズビースト?」
そう言ってダヴィンチが回答を求めると、ソドムズビーストは軽く顔を頷かせた。
「ああそうだ。
「つまり、マスター君に危害を及ぼす気はないってことでいいかい?」
「無論だ、確かに
一切の敵意なく言葉を紡ぎ、ソドムズビーストは目を細めて立香の腕を抱き締める。
ダヴィンチは、すっかり立香へと懐いた彼女の様子を苦笑いをしながら見つめると、気を取り直すようにして立香へ視線を戻した。
「あはは……とりあえずソドムズビーストに害はなさそうだから、当分の間はマスター君の傍に居てもらおうかな。ドラコーも、それでいいかい?」
「……うむ」
ソドムズビーストへの怒りと嫉妬で、顔と目つきを般若のような恐ろしい形相に変えていたドラコーだったが、ダヴィンチの提案にはすんなりと顔を縦に振った。
とはいえ、やはり夫を奪おうとする敵とみなしているのか、ドラコーは依然として射殺すような目つきでソドムズビーストに視線を送り続ける。
そんな彼女や、どこ吹く風で立香へ甘えているソドムズビーストの様子を見て、ダヴィンチと立香は大きな溜息をつくのであった――
「大変なことになりそうだね、マスター君」
「うん、多分……これから地獄が待ってるよ」
**
「ねぇ、機嫌直してよドラコー」
敵意はないと判断されたものの、念の為身体検査を受けることになったソドムズビーストは、ダヴィンチと共に立香の部屋を後にした。
ずっと自身へ過激なボディタッチを仕掛けていた彼女が居なくなったこともあって、立香はグッと肩の力を抜き、おもむろに部屋の隅に居たドラコーの方へ視線を向けたのだが……
「……」
「ドラコー、僕が悪かった。彼女を振り解いて、君の傍に行けばよかった……ごめん」
いつまでも膨れっ面を崩さないドラコーの機嫌を取ろうと、かれこれ数分以上は言葉を掛け続けているものの、ドラコーは口を噤み、言葉を紡ごうとしない。
「ドラコー、ごめんよ。ごめん、悪かった」
掛ける言葉が見つからず、気付けば同じ言葉を繰り返すだけ。
それがドラコーの神経を逆撫でしていることも知らぬまま、一生懸命に彼女の機嫌を取ろうとする。
それでも、結局彼女の機嫌を取り戻すことはできず、立香は恨めしい声をドラコーからぶつけられるのであった。
「……さっき、別の世界の余に見惚れておっただろう」
「っ!い、いや?そんなことはないよ?」
「嘘、絶対嘘だ、正直に申せ。奴に、少しでも興奮したのだな?」
「してないよ、本当だ。僕は君以外の女性に興奮なんて……」
絶対に言うわけにはいかない。
ドラコーが傷付くことを恐れ、立香は胸の内に本音をしまい込もうとした。
しかし。
「じー」
立香の言葉を信じていないのか、ジト目で彼の瞳を覗き込むドラコー。
あえて何も喋らず、ただ無言で視線を向けるドラコーの圧に耐えるべく、立香は必死に表情を取り繕った。
だが、若干引き攣ったような笑いを作ってしまったせいで、彼女に不信感を抱かせてしまう。
「ほんとだな?嘘をついていたら、余は怒るぞ」
「ぅ……」
「正直に思ったことを言えばよい。それでそなたを嫌いになったりはせぬ」
何とか話題を逸らそうと必死に思考を巡らせる立香だったが、ドラコーの真摯な瞳に射貫かれた途端、浮かべていた作り笑いを止め、しんみりとした顔へと変える。
すると……立香は小さく溜息をつき、顔を俯かせながら本音を吐露するのであった。
「正直、君より彼女――ソドムズビーストの方ばっかり見てた。だから、彼女に過度なスキンシップをされた時、ちょっとだけ……興奮、したかも」
「……」
「で、でも、僕は君を捨てたりはしない。もちろん、これから彼女と話す機会は多くなると思うけど、あくまでも君を優先するよ」
気付けば顔を上げ、ドラコーの瞳を見つめて言葉を紡いでいた立香。
最初は怪訝そうにしていたドラコーも、素直で実直な彼の言葉を聞いた途端、その顔をうっすらと紅に染めた。
すると。
「マスター!」
「えっ……!?」
立香の胸に、ドラコーが飛び込んできていた――
「ど、ドラコー!?」
「ふふっ、安心したぞマスター。やはりそなたは、余が一番なのだな」
「あ、当たり前さ、君が一番に決まってる」
「うむ、それでこそ余が見込んだ旦那様だ。簡単には他の女には靡かぬな……」
ドラコーにしては珍しく艶やかな表情を見せて、立香へと微笑むと、耳元である提案を呟いた。
「旦那様よ、そなたが英雄色を好む男とは思わぬが、もし
「え?」
「見惚れてしまったのであろう?あの姿の
「ぅ……でも、流石に堂々と浮気?はできないよ」
「気にしなくても良い、余はどこまでもそなたの妻だからな。多少の不貞は許そう、ただし――」
そこまで言いかけたドラコーは、唐突にベッドへ立香を押し倒し、彼の顔の横へと両手を付ける。
荒い吐息を吐きつつ、口から覗く鋭い歯をペロリと舐めると、次の瞬間――淫らな顔で立香へ笑い掛けるのであった。
「奴の倍、余を愛すのだぞ?旦那様♡」