※この作品はR-18です。

「リンちゃんはやってくれたよ?」   作:アキラゼミ

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「……わーお」

「お待たせミカっ!待った?」

 

「ううん、今来たところだよっ!」

 

 ミカ、どこかで待ち合わせると、いっつも私より早いんだよね。前回は私の方が早かったけどあれは偶然に等しいというか、なんというか。

 待ち合わせで待たされた方が言う定番のセリフの

「今来たところ」をミカに言われるなんてなぁ……。あ、私のフリのせいか。

 

 ◆

 

 まずは前回と同じく、手を繋いで軽く学園の中を散歩しながら行き先を決める。ディナーに行くのは決まっていても、それまでの過程は未定だった。

 会ってから行き先を決めるのは、いつもと同じ。風の吹くまま気の向くままに行動するのも、決して悪くないからね。

 

「どこ行こうか?」

 

「うーん……遊園地とか、どうかな?ショッピングは前にも行ったしさっ!」

 

「遊園地か────」

 

 最後に遊園地に行ったのはいつだったかな。多分だけど、スズミと行ったのが最後かな。あの時は、スズミが私を呼んだ理由が理由なだけに夕方、夜の遊園地だった。……今日は、昼間からの遊園地だ。

 

「……先生、他の女のこと考えてるでしょ?」

 

「うぇっ!?な、なんっ……どうして!?」

 

「何となく?先生が微笑で遠い目をしてるときって大体そうだよな〜って!」

 

「……」

 

「そんな焦った顔しなくても……怒ってないよ?」

 

「ほ、本当に?」

 

 ミカって数多い女の子の中でもトップクラスに、本気で、絶対に怒らせちゃダメな部類に入るよね。怒ったミカも可愛い────のは間違いないけど、申し訳ないが怖さの方が上回らなくもない。

 

「だってさー、先生が他の女のことを見ていたり、考えてたりしてもさ?デートしたり手を繋いだり、それ以外の何をしたって、初めての彼女の私の方がどこからどう考えても『特別』じゃんね☆」

 

「ミカ……」

 

「それとも先生の中には私以外に『特別』な子でも居るのかな?」

 

「!」

 

 じーっと真っ直ぐに目の中を覗き込むようにして目を合わせてくる。一瞬、ヤギ目の自称超人の姿が脳裏を過ぎる。しかしミカは、ふふっと軽く笑うと揶揄うような声で言う。

 

「冗談だよ先生!先生、私のこと考えてるときだけ特別な表情(かお)してるんだもん。それだけで私、先生の中で『特別』なんだって分かっちゃうからさ♪」

 

「……どんな顔してるの?私……」

 

「あははっ、言うワケないじゃん!ヒミツだよ☆」

 

「ええええ……」

 

(口の緩みがどうやっても抑えきれてないあの顔、ホント可愛いっ♡ 絶対に教えたりしないからね、先生……いつまでもバレバレな先生でいてね……♪)

 

 ニマニマと口元を緩ませながら、挑発するような目線で見上げてくる。あまりに可愛くて、繋ぐ手に自然と力が込められる。

 すると、ぱっと目を見開いたミカが、半ば焦ったような顔で、縋り付くように聞いてくる。

 

「……あれっ!?ちょっと待って、先生…………。確認なんだけどさ、わ、私達、付き合ってる……よね?」

 

"もちろん!"

 

"付き合ってるよ"

 

"そうですよ、お姫様"

 

「……わーお。そっか……夢じゃなかったんだね」

 

「夢だと思ってたの?」

 

「うん……。だって、だってさ……?もしそうなら、夢の中みたいに幸せだから……」

 

「これからもっと幸せにしてあげられるよう、私も頑張るよ。だから……よろしくね、ミカ」

 

「まさか……ホントに先生と付き合えるだなんて……思わなかった。でも……うんっ。よろしくねっ♪」

 

 眼福だ。眼福眼福、眼福だ。いやでも、やっぱり照れながら笑うミカは可愛い。写真に撮って額縁に写真立てや額縁に入れて、私の部屋とかに飾りたいくらいには大好きだし、可愛い。

 いつまでもこうしてミカと歩いていたいなぁ、とホワホワした浮き足立つような気持ちのまま学園の中を歩いていると、一般生徒らが、こちらを見ては顔を逸らして、あちらこちらに、まさに蜘蛛の子を散らすように広がるのが目に入る。

 

「……?どうしたんだろ?」

 

「先生、この前、私を庇って威嚇射撃したでしょ?あれからずっと先生は危険人物になったんだって、魔女に感化されたんだって、トリニティの一部で、すんごい話題になっててさ」

 

「………………」

 

「温厚で有名だったしね。なのにその先生が生徒に向かって威嚇射撃したとなればそんな噂も立つよ。でも……私と付き合ってるって皆に知られたら、多分それ以上の酷い噂が出回るから、秘密にしないと。それに……先生がそんな風に悪く言われるの、私は、耐えられないよ」

 

 前に、ミカが言っていたっけ。水着をズタボロにされたときなんかは「ミカは反抗できない腑抜けになったと思った」から虐められたとか。

 私が温厚だからと、バカにするような態度を取るような生徒もそれなりに多かったし、まぁ今更だ。放課後スイーツ部とかの、私と関わりを持つ一部の生徒達が私を分かってくれていれば、それでいい。

 そもそも万人から理解を得るって事の方が無理に等しい気がするしね。

 

「大丈夫だよ。私に関する酷い噂は今に始まった事じゃないからさ。勘違いから広まって、ろくに外出できないくらいにまで追い込まれた事もあるから」

 

「そ……そうなの?先生も苦労してるねぇ……」

 

「色んな子と関わる上では仕方ない事だよ」

 

「色んな子、ねぇ……」

 

「……あ」

 

「もうっ、気にしてないってばっ!先生が他の女と何しようとどうでもいいよ!……私から離れなければそれでいいからね☆」

 

「っ!それはもちろん!」

 

「あはは、心当たりありまくりな顔してるじゃん☆バレバレなところも好きだよ先生♡」

 

 これは、隠し事なんかできそうにないなぁ。既に誰かとセックスしてるっていうところまでバレてる気がする。言うべきか、言わざるべきか……。

 

「……言わなくていいよ?」

 

「!?」

 

「私に全部打ち明けようか悩んでる顔してるよ?」

 

「……心でも読めるの?」

 

「読心術の使い手なんかじゃないよ。先生って顔に出やすいからさ?何か『彼女』に言いにくいことがあって、それで悩んでるんだなってことくらいは、私にも分かるよ。でも、秘密くらい誰にでもあると思うから……無理はしないでね。私は先生に秘密とか作らないけど」

 

「ぐはっ」

 

 最後の一言が、抜けない剣のように心にグサリと突き刺さり、デート開始早々、スリップダメージを受け始めてしまう。

 しかしミカが頭を撫でてくれたので、ほんわかと癒され、ダメージも無かったことになった。

 その後、遊園地まで向かい、遊園地内のちょっとお高いお店で昼食を摂り、アトラクションを制覇。しかし、夕方の景色を見たいからと、暗くなりつつある中、再び観覧車に。

 

「……あのー、ミカ……さん?」

 

「んー?なぁに?」

 

「観覧車って、対面で座るものじゃ……」

 

「そんなの誰が決めたの?こうやって、先生の上に座るのもアリだよ☆」

 

「……色々、我慢……できない……」

 

「ふーん……じゃあ…………シちゃう?一周するまで、まだまだ時間はあるよ……♡」

 

「うぇっ!?」

 

 私の膝の上に座っていたミカは、よいしょっ、と足から降りると、今度は向き合った状態で私の上に乗っかってきた。私の目の前にミカが──、ミカの顔が私の目の前にっ……。

 

「……ちゅっ♡」

 

「!!」

 

 キスを予告するミカの声が聞こえた後、ぷにっと優しい感触が唇から脳を貫く。あまりに柔らかくてゼリーとキスしたのではないかと錯覚するほどだ。プルプルと震えるような感触も堪らない。

 

「……ふふっ……また、キスしちゃったね☆」

 

 ディナーの後に渡そうと思ったけど──ダメだ。もう、我慢できそうにない。

 前まで、ミカのお出かけに付き合うと夜になる事ばかりだったから、うっかり手を出してしまわないように、敢えて避けてた。ミカがまだ私と居たいと思ってくれているって、気付いていたのに。

 でも、そんな事をしていた私の事でも、ミカは、好きでいてくれている。……ダメだ我慢できない。

 

「……2つ、大事な話があるんだけど、いいかな」

 

「うん?……うんっ、いいよ?」

 

「まず……私の、ダメな所を聞いてもらいたいんだ。懺悔というか……その…………うん……懺悔だね……」

 

「先生のダメなとこかぁ。色んな女の子にデレデレしてるところ、とか?」

 

「それもあるけど、そうじゃなくって。──とある生徒……生徒なのか?──と、とにかく、ある生徒とその……関係を持ってる……というか……」

 

「『関係』……って……アレな方、だよね?エッチな意味……だよね?」

 

「……うん……」

 

「え〜?彼女がいるのに浮気してたんだ?なかなかヤリ手だねぇ」

 

「ッ……」

 

 今にも「お可愛いこと……」とか言いそうな顔で、クスクスと笑う。その笑顔がグッサリと、抜けない聖剣のように心に刺さる。

 

「えー、誰だろう?他校の子はよく知らないけど、シャーレで見掛けた限りだと────ん〜、先生の好きそうな子かぁ。あ、セミナーのノアちゃん?」

 

「いや……」

 

「えー?ナギちゃんやセイアちゃんかな?」

 

「ちが……」

 

「だよねー。あの2人、私への隠し事とか下手そうだもん。んー、正義実現委員会の糸目の子?」

 

「イチカじゃなくて、元連邦生徒会の──」

 

「あー!ニュースで見たよ!調停室の!?」

 

「アユムじゃないよ。まず話を聞……」

 

「うん知ってる。元防衛室長のピンクでしょ?」

 

「!?」

 

「気付いてないとでも思ったの〜?」

 

「……ナ、ナンデ……」

 

 足の上に座るミカは、サワサワと、私の太ももを慈しむように撫でながら、いつも以上の優しい声で囁くように言う。

 

「だってさ?シャーレに護送中って話だったのに、途中で襲撃されたら、シャーレ出動案件じゃんね?先生が動かないはずないよ」

 

「!!」

 

「なのに先生は防衛室長捜索の為に動かないし〜、寧ろ外出頻度は減る一方でさ。出歩いたとしても、サンクトゥムタワーにだけって聞いてるよ?」

 

「……」

 

「というか弾劾裁判の時もさ、私の聴聞会のときと違う出張り方をしたって聞いてるしさ?わざわざ、先生が口出ししてシャーレに引き取る?えぇ?って心底困惑したんだよー?」

 

 確かに。今の私だったらミカを引き取るだろう。まぁミカの場合は学園生活を望んでいたんだから、ミカの意思を尊重して引取りはしなかったか。でも口出しはしてたかもしれない。……自信は無いが。

 

「しかもシャーレとして捜索してないっぽいから、ナギちゃんとセイアちゃんも察してたみたいだよ?

『防衛室長?を、無事にシャーレに連れてくる為に民衆の目を逸らさせる演技』って。セイアちゃんはともかく、ナギちゃんにバレるのはまずくなーい?大丈夫?」

 

 抜かった。そうか、シャーレに移送してくる予定だったんだから、それが台無しになったんなら私が捜索して、ヘルメット団(らしき団体とされているヘルメット団)を倒したりしないと、それはそれで逆に不自然なのか。

 ヴァルキューレも上手く誘導できたからすっかり油断していた。そうだったか、これに関しては私が動かなくちゃいけなかったのか……。

 

「多分、色々『利用』する為にシャーレに呼んだんだろうなーって思ってたけどさ?まさかのエッチが目的かぁ……」

 

「……うん……」

 

「好きなの?」

 

「好き、ではないね。カヤにも言ってるけどそれは違うよ。可愛いとか愛でたいとか思う生徒はそりゃいっぱい居るけど、ミカへの想いは違うっていうか特別っていうか、その……」

 

「…………」

 

「……ごめん、言い訳にしか聞こえないよね」

 

「……そーだね。でも、先生の顔を見ていれば、嘘はついてないってのは分かるよ。元々変態だもんね、先生って♪」

 

「え」

 

「セイアちゃんのおっぱい見れないかって、わざと横に立ったりしてるの丸分かりだよ?」

 

「!?」

 

「幼児体型だから手を出してないだけで私みたいな普通の体型だったら既に襲ってそうな顔してたし。鼻の下伸ばす……どころじゃないもんね、アレは」

 

「待ってどんな顔してたの私」

 

「先生って、自分で思ってる以上に顔に出てるよ?まっ、私くらい先生の事を想ってれば分かるかな?フツーの子には分かんないよ☆」

 

 ミカの考えていることが分からない。なんなら、私を責めてくれた方が気が楽だ。チクチクと、針でツンツンつつかれているようなこの感覚。まずい、普通にキツイ。

 

「……私より早く先生とエッチした子が居るのは……うん、やっぱり、やだなぁ」

 

「……」

 

「でも先生の『特別』なのって私だけじゃない?」

 

「うん、それはもちろん」

 

「じゃ……うん。許すよ。だってほら、エッチの為に引き取ったんでしょ?あとシャーレの仕事をさせる為とか、かな?」

 

「う……まさに……そうです……」

 

「あはっ!それじゃ、先生がこうやって外に遊びに来られてるのも、あのピンク頭のお陰なところあるじゃん!」

 

「…………」

 

「先生と居られる時間、私、大好きなんだ。だから健康に無理のない範囲で、無理をしてでも私と会う時間を作ってくれるのは嬉しいよ。方法はともかくだけどさ」

 

「……完全に間違った、よね……」

 

「それはそう。だけど、汚い手を使ってでも私との時間を確保してくれるのは……嬉しいって、思っちゃダメ……かな……?」

 

 眉毛を下げて私の顔を見上げる。ふい、と思わず目を逸らすと、ミカは私の足からスタッと降りて、先程の表情が嘘のように明るい笑顔を作る。

 

「あーもう、やめやめ!せっかくのデートなのに、辛気臭くなっちゃったじゃん!」

 

「……」

 

「それで?もう1つの話ってなぁに?」

 

「……また今度話すよ」

 

「あーもー、ダメダメ!せっかくなんだしさ!ね?ぜーんぶ言いたいこと言って、楽になろ?」

 

「ら……」

 

「ら?」

 

「……ラーメン屋、行きませんか……?また今度……。良いお店、知ってるからさ……?」

 

「……何それ。誤魔化してるつもり?」

 

「ッ!!」

 

「言ったでしょ?私に誤魔化しは通じないよ☆」

 

「……」

 

「他の女と関係を持った──って告白したあとだと言えない話題って、割と限られてくるけど。まあ、今ならなんでもいいよ?私、先生のことなら何でも許すし☆」

 

 ここでプロポーズしたらフラれるんだろうなぁ。というか流れが意味不明過ぎて。キヴォトス人でもここまで「流れ」をガン無視して何かするって事はあんまり無いよ。……無い、よね?

 

「言いたくないの?言えないの?」

 

「……どっちも」

 

「ふーん?可愛い彼女がこんなに聞いてるのに?」

 

 言うしかない。私は腹を決めた。フラれるのも、覚悟した。

 

「ミカ。私と……結婚して」

 

「……へぁっ!?」

 

 懐から小さな箱を取り出して、パカッと真珠貝のように開いて、中身を見せる。彼女と合流する前にお店で受け取ってきた、婚約指輪だ。

 

「え、うっ……うそっ……ほ、ほんとに……!?」

 

「私は本気だよ。ミカはまだ学生だけど3年生だ。来年には……もしミカさえ良ければ、同棲とか……。シャーレになると思うけど……」

 

「同棲っ!?せ、先生っ……そこまで私を……」

 

「でもカヤと関係を持ってるのも事実だから、もし嫌だったら断ってくれていいし、フッてもいいよ」

 

「ううん、嫌なんて、そんな事ない!ビックリしただけなの。今日のデートもさ、いつものお出かけの延長かもって思ってた。だからこそトリニティで、付き合ってるって言ってくれたの嬉しかったし!」

 

「……」

 

「今だって何だかんだ正直に話してくれたしさっ!そういうとこが好きなんだよ?」

 

「……」

 

「ね……先生。指輪……つけてくれない……かな?」

 

「っ!ミカ……そ、それっ、て……」

 

「うん……結婚しよっ、先生っ♡」

 

 私は彼女の左手を取り、震える手で薬指に指輪を通す。私の左手薬指の方にはミカがつけてくれた。そして、2人で観覧車の中で夕焼けに煌めかせて、言葉も交わさず、目に涙を浮かべたまま、観覧車が一周を終えるまでずっと、ずっと抱き合っていた。

 

 ◆

 

 夜。遊園地を出た私達は、予約したレストランに移動しながら、あるものを買いにコンビニに寄る。ディナーの後はちょっとだけ羽目を外そう、と話がまとまったからだ。

 すると今まさに私達が寄ろうとしたコンビニからゲヘナ学園の風紀委員長、ヒナが出てきた。

 

「……あ、せんせ……い…………ッ!?」

 

 ミカと私が手を繋いでいるのを見たヒナは表情を凍りつかせる。ミカはゲヘナが嫌いだから、ヒナと会うのはまずいと一瞬思ったが、どうやら、彼女の表情を見るに、今は大丈夫そうだ。

 

「やぁ、ヒナ。仕事帰り?」

 

「え……あ…………う、ん……そう……」

 

「そうなんだ、こんな時間までお疲れ様!」

 

「……あの……先生?」

 

「うん?」

 

「その……せ、生徒と手を繋ぐのは、どうかと……、思うのだけど……。人の目もあるし……」

 

「あー……でも、疚しいことでもないしね」

 

「疚しいことでもない?……生徒と先生が手を繋いでいるのに?」

 

「────前にヒナが当番に来た時に言ったよね。

『見られても関係ない』って。それは、こういう事なんだよ」

 

「……ッ!」

 

「無理矢理でさえなきゃ、合意だったら、周囲からどう見られ、どう思われても、2人には関係ない。ミカも前はヒナみたいな考えだったんだけど、今は私と同じくそう思ってくれてるんだ。……ねっ?」

 

「うんうん、先生の言う通りっ☆」

 

 ガシャッ……とヒナは銃を取り落とす。慌てて私が駆け寄り拾おうとするが、ヒナは、まるで戦闘中のような素早さで拾い上げると、私達に背を向ける。

 

「……おやすみ、先生」

 

「あ……うん……おやすみ。────明日の当番ってヒナだったよね。よろしくね」

 

「ッ!……うん…………じゃ……また…………明日…………」

 

 駆け出したヒナは、一瞬で夜の街並みに消えた。元から暗めの服だからかもしれないが、あまりにも速くて、やっぱり風紀委員会最強は伊達じゃないと感心してしまった。

 

「……先生も鬼畜だねぇ。私が言うのもなんだけど、いい性格してるよ」

 

「何で!?」

 

「あの状況で『明日の当番、よろしくね』なーんて言われちゃったらさ、いざ明日になっても、休むに休めないじゃんね」

 

「え、えぇ……?どういう事?」

 

「ふふーんだ。まだまだ乙女心が分かってないね☆まぁ、明日になれば分かるんじゃないかな!」

 

「なんか怖いな……明日、何があるの……」

 

 心の中に、何やら黒いものが燻る。エデン条約のときにはヒナを泣かせてしまった事もあるし、一応発言には気を付けていたつもりなんだけど……。

 

「……じゃ、今のうちに、先生の心が軽くなる言葉、言ってあげよっか」

 

「?」

 

「『ゲヘナの子と仲良くしても文句言わないよ』。うーん、これじゃまだ足りないかな?先生ってば、私のこと好き過ぎるもんね?不安にさせないように変に頑張っちゃう気がするから……うーん……」

 

「えぇと……ミカ?何を……」

 

「『ゲヘナの子とイチャイチャしても赦すよ』だ!うん、これだ!ねっ、先生☆」

 

「えぇ……?さっきから何の話をしてるの?」

 

「だーかーらー。明日はあの子が当番なんでしょ?多分イチャつく事になるよ?」

 

「ええ……?ヒナだよ?そんな展開になるかな……?あんな真面目っ子なのに……」

 

「なるなる、絶対なるよっ!セイアちゃんみたいな予知夢とは違うけどさ!女の勘ってヤツかな?」

 

 公園でヒナを寝かせたアレもミカ基準ではイチャイチャに入るのかな。あれ、でも確かあのとき私、ヒナ吸いしたっけ。……ヒナ吸いでもイチャイチャにカウントされたりするのかな。

 

「……何しても怒らない?」

 

「うーん、そうかもねぇ。……あ、そーだ!今日ね、実は外泊届、出してきたんだ♡」

 

「え」

 

「どーしようね?先生、私を放置して帰るの?」

 

 そんなの聞いてない!外泊するだなんてそんなの聞いてたらもっとしっかり準備してきたのに。このコンビニで「準備」を済ませようだなんて浅はかな考え、しなかったのに……。

 

「……帰れ、ない、ね……1人で外泊なんてそんなの私は許せない、かな……?危ないし……色々と……」

 

「あはっ、やっぱり先生は嫉妬心強めだ〜♡」

 

「ごめん……面倒臭いし最低な男だよ私は…………ミカという彼女が居るのに自分は他の女の子とも普通に会話やスキンシップするし……それ以上も……」

 

「先生の心を独占できていれば、私は満足かな☆」

 

「……ミカ……」

 

「でもぉ……今はだけもうちょっと、先生のこと……私に独占させてほしいなっ……♡」

 

「!」

 

「先生もシャーレじゃなくて外泊でいいでしょ?」

 

 ◆

 

 その後、ミカの問いに即答した私は、コンビニである準備を整え、比較的トリニティに遠めの、少し派手めのホテルに入った。

 

「わ〜お……浴室がガラス張りでスケスケだ〜♡」

 

「ひぇ……」

 

 私達は今、ラブホテルに居る。けれども、ここで注意したいのは「比較的安いから」来ただけであり間違っても「エッチする為」に来たのではない。

 コンビニに寄ったのだって早めに寝られるように安い缶チューハイとその他のあれやこれやを買っただけだし。……いや、念の為の備えはしているけれど。

 

「今回は前回と違って、堂々としたお泊まりだね、先生っ♡」

 

「!……そうだね」

 

 寮監に見つかりそうになって死ぬほど焦ったな。ミカは「先生に嫌われたくない」とか言うし、私もあの場は理性を働かせるのに精一杯だった……。

 

「にしても……」

 

 朝帰りなんて、レイサとのパトロール以来かな。でも、幾らなんでもホテルに泊まるのは、色々と、まずい気がしてならない。ミカはまだ学生。そして私は「先生」だし。

 

「────先生、また他の女のこと考えてる〜」

 

「っ!」

 

「あははっ、ビックリする先生カワイイ♡」

 

「か、可愛いだなんてそんな……」

 

「そんな先生にはお仕置き♡────私のことしか考えられなくしてあげるからね♡」

 

「……ミカ!?」

 

「ホテルに来たんだし……ねっ?……せ・ん・せ♡」

 

「えっちょっ待って」

 

「だ〜め。ずっ…………と、我慢してたんだから♡」

 

「ひゃあっ!?」

 

 ミカに抱き上げられた私は、彼女の腕の拘束から逃れる事も叶わず、ベッドに押し倒された。やはりミカのパワーはキヴォトスでも随一なだけあって、成人男性である私でも、赤子と大人のように容易く力で捻じ伏せられてしまった。

 

「ね、先生……?婚約記念のエッチ、しよ……?」

 

「────ッ!!」

 

「さっき、お酒と一緒にゴム買ってたもんね♡♡」

 

「こっこれはその!念の為にであってエッチの為に買ったんじゃなくって……!」

 

「言い訳は聞きませーん♡」

 

「ん゙っ!?」

 

 私の両腕を押さえつけたまま、歯がぶつかるかと思うような勢いでキスしてくる。途端に、ふわりと彼女の髪の匂い、体臭が雪崩のように迫ってくる。

 舌こそ挿入してもされてもいないが、ミカは唇を触れ合わせたままでモニュモニュと動かしていて、唇の柔らかな感触が、常に与え続けられている。

 しかもそんなキスをしながらもミカは私の片手の拘束を解くと股間に手を伸ばし、ズボンの上から、スリスリと、手で膨らみを撫で始めた。

 

「ぷはっ……♡」

 

「み……ミカぁ……っ」

 

「ホントは期待してたんでしょ〜?素直に言って?言ってくれたら……朝までエッチしてもいいよ♡」

 

「……キス、したい……」

 

「いいよ〜?もう、彼女超えてフィアンセだもん♡キスくらい、いつでも、いくらでもしてあげる♡」

 

 今度は強くは押し付けず、プニッと、タッチするような、柔らかさをただひたすら感じさせるキス。すると、ミカの方から、ちゅるりと舌を出して私の唇を舐め始めた。

 くすぐったいが、ミカの体臭や髪の匂いの他に、甘い唾液の匂いが追加された。

 頭がミカ一色になっていき、僅かに残されていたはずの私の理性が、火のついた蝋燭のように、時間経過と共に蕩け落ちていくのを感じる。

 気付けば私は、自ら唇の力を緩め、唇に隠された暗闇から触手のような舌を外に出し、唾液に濡れた彼女の柔らかな舌と、力強くタッチしていた。

 

「っ!…………♡♡」

 

「ん……んぅ…………」

 

「ぷは♡……先生キス上手いね?元々濡れてたのに、もっと濡れちゃったじゃん♡」

 

「ッ……ミカ……」

 

「ん?ここまできて、お預け〜……は、ナシだよ?」

 

「分かってる」

 

「……へっ?」

 

「ミカとセックスがしたい」

 

「はひっ!?」

 

 足を使ってミカをホールドして引き寄せ、可能な限り身体を起こし今度は私からミカにキス。首にも軽く吸い付いて、チュパッとわざとらしいくらいに音を立てて、濃いめのキスマークを残してやった。

 

「明日も授業があるなら首に絆創膏つけないとね」

 

「わーお……。先生ってば、私に押し倒されてるっていうのに……ダ・イ・タ・ン♡」

 

「ここまできて、また今度〜……は、ナシだよ?」

 

「うん……いいよ先生……備え付けのゴムも、買ってきたのも、ぜ〜んぶ無くなるまで……。ううん、全部無くなっても、いっぱいエッチしよっ♡」

 

「望むところ……っ」

 

「今日はもう、その女とエッチできないくらいに、綺麗に搾ってあげるからね……せ・ん・せ……♡♡」

 

 それから私達はシャワーを浴びる時間も惜しみ、朝になるまでの間、ずっと、ずっと────全裸でベッドで踊り続けた。

 朝になる頃には、キングサイズのベッドは濡れていないところが無いくらいにシミだらけ、もしくは小さな水溜まりだらけになっていた。

 ホテルを出る頃には呂律が回らないくらいに舌も疲れ果て、手や足に力が入らず、それはもう大変な事になっていた。

 仕方ないのでタクシーを呼び、ミカをトリニティまで送り届けてから、始業時間ギリギリになって、ようやくシャーレに戻ったのであった。




ハーレムの方は2章とかではなく別作品として書くことにしました。こちらはあくまでカヤメインで。ただし更新頻度はほんの少しだけ落ちます。
カヤ虐の次回投稿は7月5日水曜日です。

コチラ、初回は2話同時投稿です。
せっかくの日曜です、あと2話読んでから寝てね。
https://syosetu.org/novel/319579/
追記(2023/07/02 00:24:18)
日付設定が誤っており、失礼致しました。
この後0:30に投稿されます。


正直、ミカ絆ストーリーの中の先生はあんまり好きじゃないんです。1話、2話のラスト酷いでしょ。素っ気ないってレベルじゃないでしょコレ。それはちょっと世間は許してくれゃせんよ(例の画像)
そんなんだもの、先生を部屋に連れ込みますわよ。

だから本作では、あの時の素っ気なさを「これ以上ミカと居ると好きが爆発してしまうと感じてたからわざと距離を取ろうとした」って事にしました。
じゃないとミカ好き(というか私)が救われない。
キリエ歌ってくれ。

もしも、うちの先生がミカ絆ストーリー4話のあの現場に居合わせたらどうなるんでしょうね。
水着を切った事に対してではなくミカを悲しませた事についてキレそう。で、その後「私もじゃん」と自責の念に駆られ病ーむ病む病む病む〜。
ミカが好き過ぎるあまり、「考えるより先に身体が動く」というミカの特徴が感染(うつ)ってきてます。

ミカ、良いですよね。天気のお話からナチュラルに散歩デートに誘ってくるの好き。「当番」について何か期待してたっぽい所とか可愛すぎる。
「うーん……」の顔が可愛すぎて辛い。
プラナに挿入したら「接続確認」「挿入確認」とか言ってほしいところあります。
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