「リンちゃんはやってくれたよ?」 作:アキラゼミ
「……はい?『外に出てみよう』?き……急に、何を言っているんですか?」
「シャーレに来てからというもの、ずっと軟禁状態だからさ。暇……ではないと思うけど退屈でしょ」
「あなたから仕事を押し付けられているので暇ではありませんが、死ぬほど退屈ですね、ええ。動画のサイトなんか見ていても飽きますし」
「実は昨日ね、リンちゃんから連絡をもらってさ。レッドウィンターの工務部のデモがやっと終わってレッドウィンター領に帰って行ったんだって。もうD.U.には居ないって。それと────」
カヤ批判派も、カヤが世間的に行方不明になったことで、活動を停止している。なんなら死んでいる扱いまでされているくらいだから、もうカヤ批判派そのものが消えつつあるのは間違いないんだ。
「……そういうワケで、一応明日は予定空けてあるんだけど、もし良かったらどうかな?」
「先生は私などではなく聖園ミカと出掛けてくればいいではありませんか」
「ミカはナギサとセイアとお茶会だってさ。まぁ、権利こそ剥奪されても、肩書きはティーパーティーだからね」
「……」
今にも私の喉に噛みついてきそうな程の、獰猛な気配を感じる。カヤになら負けないと思うけれど、彼女もキヴォトス人だしなぁ。
「水着でも買ってさ、海にでも行かない?」
「っ!……海…………あぁ分かりました。海で、水着の私とエッチしようっていう魂胆ですね?もう二度と野外はごめんですよ」
「あははっ。カヤが望むならそれでもいいけどさ。私も少しは休暇が欲しい所だから、今回はエッチは無し!ただただ、純粋に遊びに行こう!」
「……イマイチ信じられませんね……」
そりゃそうだよねー。この前の、カヤの目を見てオナニーするのはちょっとやり過ぎたかな。あの後3日は幼カヤのままだったもんね。普通なら1日で再度人格交代するのに、あの時は3日間甘やかしてやっとだったもんなぁ……。
「……ま、考えておいてよ。明日の朝までは待ってるからね。朝はいつも通り起きるし。おやすみ〜」
「え?あ、あの……?」
「うん?」
「寝る前のエッチは……?」
「えぇ?そんなにエッチしたいの〜?」
「ちちちち違いますよ!これまで欠かさずセックスしてきたクセに、今日だけはアッサリ寝るのかって聞いてるんです!」
「うん。もしカヤが1人で出掛けるなら、私も何か予定を組みたいし。それを考える為にも今日は早く寝ておきたかったんだ。それに、折角カヤも1人で出掛けるのなら、余計な疲れは無い状態で行きたいでしょ。少なくとも私ならそう考えるからさ」
「っ……それは……それだけは、同意しますが……」
「じゃ、おやすみ。夜更かししないで早く寝なね」
「……夜更かしばかりしているあなたには言われたくありません」
「それについては耳が痛いな」
(本当に気持ち悪い。優しく接されて堕ちるとでも思ってるんですか?あなたはいつまでもそうやってテキトーな女を侍らせてテキトーに過ごしていればいいんですよ。そしていつかあっさり私に消されてください。先生が生徒を纏めた後で先生を消せば、混乱は凄まじいものとなり──混乱に乗じて、私がシャーレを根本から乗っ取ってやりますよ)
◆
「それはそれとして、先生には今だけ肉ディルドになってもらいますが……んおぉっ♡ うっ……くっ……本ッ当に、ふざけた話ですねっ!あなたの、せい、ですよ……!あなたのせいで……何回かイカないと、気持ちよく、寝れない、身体にィっ!ッ……なった、じゃないですかぁっ……お゙っ♡ イグゥッ♡♡」
「すー……」
「くっ♡ なんでっ私が♡ せんせーを♡ こう、逆レイプっ♡……シテるんですか……んっ♡ はぁ、はぁ……んぐっ♡ あと1回、1回、だけぇっ♡♡」
◆
「ふわぁ〜……おはよぉカヤ……早起きだね」
「おはようございます先生。今日は私が朝食を用意してみましたよ。さぁさぁ、どうぞご賞味あれ♪」
トーストに目玉焼き、ソーセージにスクランブルエッグに……シリアル?なんでシリアルがあるんだ。朝食にシリアルとは、どこの文化だろう。というかどこにあったんだこんなの。外出していないのならネットショッピングかな。私は買わないし。
「これ……このシリアルは食後のデザートかな?」
「はい?普通にトーストと共に主食ですが?」
「???」
私、寝ぼけてるのかな。カヤが言っていることがイマイチ理解できないんだけど──まぁ、いいか。せっかく用意してくれたんだ、美味しく食べよう。
「いただきまーす」
「はいはい、さっさと食べてくださいね。今日は、とりあえずショッピングに行きましょう。海には、また後日って事でどうです?」
「っ!」
「……なんですか、その反応。朝までは待ってる、と先生が言ったんですよ?これが私の返答ですよ」
「そ……そうだね!ショッピングに行こうか!」
驚いた。てっきり、カヤなら1人で出掛けるものだと思ってたけど。まぁ、誰とも会う予定や出張の予定も組んでないからいいんだけど、それにしてもびっくりしたな。
◆
「トリニティの制服って色々パターンあるよねぇ」
「ありますね。私のコレもその1つですが」
カヤの制服は良くも悪くも普通だ。例えるなら、ヒフミの制服の造形や色合いが近いだろう。髪型をポニーテールにして、連邦生徒会以外の制服を着たなら、マスクなんかしなくとも十分に変装になる。
これはここ最近気付いた事だが、どういうワケかキヴォトスの子達はヘイローでお互いを見分けたりしないようだから、カヤについてもヘイローなどは気にしなくても大丈夫なはずだ。
「……グラサンでもかける?」
「は?」
「糸目キャラを貫くにせよ、お目目ぱっちり開くにせよ、バレそうかもなって今更ながらに思ってさ。大丈夫だと思う?」
「ええ、超人ですから」
「そっかぁ」
そして私達はシャーレを出発し、水着を買う為にかつてミカとも訪れたショッピングモールに来た。
前回は学校指定のスク水を買ったんだったっけ。でもカヤはもうシャーレに籍を置いていて、学籍は無いから、学校指定の水着なんか買う必要もなく、寧ろオシャレする理由しかない。
「ん〜っ、どんな水着にしようか迷いますね♪」
「無難のレベル高くないですか!?」
「あれ、そう?」
シッテムの箱のメンテナンスが長引く度アロナに黒ビキニ要求してるから、その辺の線引きとかよく分からないな。因みにアロナは黒が、プラナは白が似合うと思ってる。
カヤは何が似合うだろう。スレンダーな体型に、ピンクのロングヘアー。うむ、分からん。
スク水とは、誰にでも似合う魔法の水着だ。最終手段は、スク水系の水着でも勧めてみるかな。
「……!カヤ、あれはどうかな?」
「?あれって……えっ?あの紐、なんですか?欠陥品でしょうか?イヤですねぇ、そんなモノを売り場に出すなんて」
「マイクロビキニね」
「紐ですよね!?」
「立派な紐、じゃないやビキニだよ」
「紐って言った!今、紐って言った!やっぱアレ、紐じゃないですか!嫌ですよあんなの着ませんよ!バカなんですか!?」
「カヤのアレとか小さいんだから、ちゃんと隠れるでしょ」
「キッモ!?何言ってんですかこの人は!?局部が隠れればいいとか思ってません!?」
「思ってるよ?」
「じゃあ、あなたがああいうヤツ着てくださいよ!玉と棒だけ隠れるようなヤツですよ!そうでないと私はあんなの着ませんから!!」
「持ってるよ?」
「……え?」
「前に、ハナコとプールに行ったことがあってね。その時にプレゼントしてもらったんだ。折角だからあの時は着たけど、そういえばあれ以来、あの水着着てないな」
「……ホントに持ってるんですか?」
「持ってるよ〜。あの後、確かハナコに写真送ってもらったはず…………あーこれだ、これ」
「!!!!???」
ハナコとの
「へ、変態です……2人共……」
「この時のハナコ、写真撮影の瞬間だけ裸になったモノだから慌てて撮り直したよね。早脱ぎが本当に早すぎて……もはや人力じゃないわ、あの速度」
「これで平然としてるのは異常ですよ……」
「いやいや、これくらいは普通だよ。だってこれ、アダルトショップじゃなくて普通の水着屋にあるんだもの。つまり普通って事だよ」
「……私がおかしいんですか?こんなのを着て平然と過ごすなんて無理なんですが……」
「……でもさ?全裸の方が恥ずかしくない?」
「それはそうですが、見るのあなただけでしょ!?海水浴場に行けば、何人に見られるか分かったもんじゃないですよ!」
「うーん。それもそうだよね」
「やっと分かってくれま……」
「じゃあこれは?」
「結局、ビキニなのは変わらないじゃないですか!フリフリのレースがついてるなんてこんなの……」
「これは本当に普通の水着だよ。ほら、大人気商品なんて書いてあるじゃない」
「ええぇぇ〜……ハレンチ過ぎです、皆さん……」
顔を赤らめながらも、何色かのフリフリビキニを手に取って、服の上から、当ててみたりしている。赤も悪くはないが、カヤにはあんまり似合わない。いや、白と黒などが、誰にでも似合いすぎるのかもしれない。
「……先生は何色がお好きなんです?」
「私は黒かなぁ」
「黒は日光で暑くなるので論外です」
「そっかぁ……」
「ピンクとかどうでしょう!合ってませんか?」
「いいんじゃない?でも髪色と同化しない?」
「む……それは確かに。ではライトグリーンは?」
「……まぁ、任せるよ。好きなの選んで」
「あからさまに嫌な顔した!!あからさまに嫌な顔しましたよね!?言いたい事あるなら言いなさい!ゴチャゴチャ考えていたって伝わりませんよ!?」
「してないよ!?普通に目を逸らしただけだよ!」
「なんで目を逸らすんですか!?見なさい!そして選びなさい!!この超人に似合う水着を見繕うのが先生の今日の仕事です!」
「有給申請するね」
「却下です!!」
「有給は認めなくちゃいけないよ」
「時季変更権を行使します!」
「運営に著しい影響を出さないから時季変更権とか使えないよ」
「出ます!すんごい影響が出ますよっ!私の水着が選べないんですから!」
「自分で選びなって……」
「先生と行くんですから先生が選びなさい!」
「なんという暴論……おっ?」
「ん?」
やいのやいのと言い合っていると、店の前をある2人が通り掛かる。それは、私やカヤ、いや、特にカヤはよく見覚えのある2人────連邦生徒会の室長を務める、ハイネとモモカであった。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!??せっ、せせせっ先生っどうしましょう!?わたっ、私っ……」
「挨拶してくれば?」
「じょおおおだんじゃないですよ!!ハイネは私の弾劾を言い出したんですよ!?敵意剥き出しでっ!どの面下げて挨拶しろと!?モモカもそうですよ、私に逆らってばっかりで!」
「冗談。試着室に隠れて」
「!」
「ほら早く。私がいいって言うまで出てこないで」
「っ……置いてかないでくださいよ……?」
「分かってるよ。置いて行ったりしないから、安心してよ。私以外の誰がカヤの面倒を見れるの?」
「そッ……その言い方はウザイですが、今だけは感謝しておきますよっ!」
カヤのその言い方の方が────と思いながら、彼女を試着室に送り出した。すると直後、モモカがこちらに気付き、手を振りながら寄ってきた。
「あ、先生じゃ〜ん。やっほ〜」
「ホントじゃん。シャーレの先生がどうして……?」
「や、やぁモモカ、ハイネ!今日はいい天気だね!2人こそどうしたの?」
「ちょいと時間を貰ったから、買い物にね。今度、ハイネとスモモとプール行くんだけどね、水着とか持ってなくてさー。スモモはオシャレさんだから、持ってるっぽいんだけど、私は持ってなくてね」
「だから僕が見繕ってあげるって連れてきたんだ!どうせだったら、似合ってる水着で水泳を楽しんでもらいたいからね!」
「そ、そっか!奇遇だね、私も水着を買いに……」
「……?でもここ、女子の水着コーナーだよ?」
「ゲッ」
「ほらハイネ、あれだよ。先生ってばエッチだから女の子に水着をプレゼントして回るんだよ」
「あっそっかぁ……先生って変態なんだ?そういえば全裸で野原を駆け回った前科があるんだったっけ」
「弁明できない……」
「あれっ、後ろの試着室、誰か入ってない?先生の連れ?」
「プレゼント買いに来たなら違くない?」
「それもそっか。じゃーね先生。前みたいに頻繁に先輩達に会いに行ってあげてね。先輩達にとっては数少ない癒しの時間だったっぽいから」
「そ……そうだね、もう少し仕事が片付いたら!」
手をヒラヒラと振って、店内を見始めた。さて、とりあえず話は終わったがカヤはまだ出られそうにないようだ。シャーレでの缶詰状態から開放されたなどと思ったら、今度は試着室に缶詰になるとは。
「──話は聞いてたね、カヤ?」
「ええ、どうやらまだ出られそうにないみたいで。ま、こちらも試着が捗っていいですけどね」
「そりゃ結構。良いのは見付かった?」
「……悔しいですが、先生の仰る黒がマシかと」
「どうせなら全色試してみたらどう?人気シリーズだけあって、色も豊富みたいだしさ?」
「そうですね。ではピンク、緑系、黒以外のヤツを取ってくれませんか?色は先生が決めてください」
「ある限り全部渡す?」
「狭いんでやめてください」
「アッハイ」
ピンクとライトグリーンだけ受け取り、それらを元通りに引っ掛けながら、他の色をカーテン越しに手を突っ込んで渡す。オレンジ、青、紺、白など。
そもそも水着って試着してもいいんだっけ、とは思ったが今更か。
◆
そうして約1時間が経ったあたりで、モモカ達に動きがあった。試着をしたいそうだが、どうも他の試着室も埋まってしまっているようで、あちこちをウロウロしている。
「あれ、先生、まだ居たの?女の子なんて先生から物を貰ったらそれだけで嬉しいんだしさー、適当にちゃちゃっと買っちゃいなよ〜」
「先生、拘りが強いんじゃないのかな?僕はいいと思うよ!」
「前に雑誌で『女は行き先で買う物を決めて、男は行く前に買う物を決めるから、いざ買い物に行くと女は長時間滞在する事になる』みたいな記事読んだ気がするんだけどなー」
「そんなの当てにならないよー、人によるんだよ」
「そうだね、私もそう思う」
「っぱ雑誌ってアテにならないわー。ていうか先生さっきから同じようなとこ見てない?そんなにここ見応えある?」
「確かに。1時間くらいここに居ない?大人気商品らしいけど、それだけで1時間も潰す?」
「……。年頃の女の子に贈るにはキワどいかな……とか悩んだりしてるんだよねぇ」
尤もらしい言い訳になっただろうか。だからって1時間も同じところに居るか?という疑問は湧くがそれについては仕方ないな。元々無理のある言い訳なんだし、追求されるのもやむなし。
「そんなのフツーじゃない?」
「だね、それくらい普通だよ。前に見せてもらったハイネの水着よりも露出少ないもんね」
「あはっ確かに。まぁ僕のはオシャレさより機能性重視だからね!」
「んー。そろそろ戻らなきゃだし、もう、試着とかしないでこれに決めちゃおっかな。ねェ先生?この黒マイクロ、私に似合ってるかなぁ?」
「僕は似合うと思うんだけどね。先生から見たら、どうかな?」
「私も似合うと思うよ。やっぱり黒はいいよね」
「そういうもんかぁ。じゃこれにしよっと。よーし帰るよハイネ、仕事やんなきゃ」
「いつもやってなくない?」
「人知れず仕事するのが私なのさ〜」
「ふーん……」
やがてハイネとモモカは会計を終え、連邦生徒会本部に帰って行った。2人の背中を見送ってから、カヤはやっと試着室を出てきた。
「1時間以上の試着、お疲れ様」
「暇なので後半は寝てましたよ……」
「色は決めた?」
「ええ、黒にしますよ」
「!」
「勘違いしないでください。先生の好きな色だからではありませんからね。水から上がった後も身体を冷やすことなく、温かな太陽光によって保温できるだろうと、そこまで見越しての黒ですから」
「じゃあお会計しようか」
「話聞いてます?」
「あ、私が払うから心配しないでね」
「聞いてませんね?」
「いつ海行こうか?次のお休みの日にする?」
「……気が向いたらで、お願いします……」
「了解、そうしよっか」
しかしその日以降、カヤは「気が向かないので」などと誘いを軽々と回避していくので、結局海には行かず……シャーレ敷地内で小さいビニールプールを出して、そこで2人で遊んだりして過ごした。