※この作品はR-18です。

「リンちゃんはやってくれたよ?」   作:アキラゼミ

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「勘弁してよ……」

「〜♪」

 

「さて、どうしたもんかな……」

 

 まずは状況を整理しようか。

 強めに罵倒したり色々イジッた結果、朝起きたらカヤが精神的幼女になってしまった。推定だが今のカヤは小学生程度だろう。身体は高校生レベルで、精神だけ小学生。

 見た目は大人、頭脳は子供。どこかの探偵の逆?うん、何言ってんだ私は。

 

「イテテ……夢じゃないのか……」

 

「っ!せんせぇ、ほっぺ痛いの……?」

 

「あぁいや、大丈夫だよ」

 

「でも赤くなってる……。痛いの痛いの飛んでけー!してあげるっ!痛いの痛いのー、とんでけ〜!!」

 

 頬を引っ張って夢でない事を確認するが、カヤは私が自分でつねった場面を見ていなかったらしく、私の赤くなった頬を見て、慌てて椅子を降りて私の元に駆け寄ってくる。

 私の頬を優しくさすり、満面の笑みでそんな事をしてくれた。罪悪感がスゴイったらありゃしない。

 

「どぉ?どぉ?せんせっ!痛くない?」

 

「うん、もう痛くないよ。ありがとうね」

 

「えへへっ……よかったぁ♪」

 

「さ……カヤは朝ご飯、食べてね」

 

「うんっ!」

 

 ヤッバイ。本当にヤバイ。あと30分もしない内に今日の当番の子が来て通常業務に入るっていうのにまともに仕事ができる気がしない。

 カヤに仕事を押し付けられないっていうのはもうどうでもいい。そんなのは私が頑張ればいいだけの話なんだ。どうせカヤに押し付けてた私の仕事は、全体の3分の1程度。そのくらいなら頑張ればすぐ終わらせられるだろう。……このカヤを放置して?

 

「ねぇ、せんせーは朝ご飯食べないの?」

 

「あ、あぁ、私はもう食べたからね」

 

「そーなんだ!カヤ起きる前に食べたの?」

 

「うん。ゆっくり寝かせてあげようと思って」

 

「そっか!ありがとーね!でも、一緒に食べた方がカヤ嬉しい!」

 

「あはは、それじゃあ明日は一緒に食べようね」

 

「うんっ!!えへへへ、せんせーと朝ご飯だぁ♪」

 

 本当は、まだ食べていない。朝ご飯はパン派だ。仕事しながらモサモサ食べる、それが私の朝ご飯の流儀────だなんてアホなことを考えている場合じゃないよ、どうするんだ本当に。

 今日の当番の子は誰だったか。カレンダーを捲り確認するが────そうか今日はアリスか。

 

「……アリス!?」

 

「!?どっどうしたのせんせ!?」

 

「ごめんカヤ、ほんとなんでもない!気にしないで食べてて!」

 

「?」

 

 好奇心旺盛なアリス?気になったらトコトン追求してくる、あのアリス?マジで?本当に?じゃあ、私はアリスに怪しまれないような「いつも通り」を完璧に演じなくてはならないのか?

 

「……あ、アリスでもなかった。ヤバイ、日付感覚がトンでるな……」

 

 どうやら私は1ヶ月後の予定を見ていたらしい。焦り過ぎたな。今日の当番の子は────ノノミの次の日だから、アルちゃんか。

 

「────アルちゃんなら、イケるか」

 

 ドジというか、トラブルメーカー気質なところがあるにはあるがアル本人はマトモだ。ゲヘナ学園の生徒の中では上澄み中の上澄みと言えるくらいにはマトモだと私は思っている。問題があるとすれば、見栄っ張りな性格が災いして色々と残念なところ。いや、彼女が目指す「アウトロー」関連じゃなきゃ普通に良い子なんだけれど。

 

「ってヤバイ、真面目なアルならもう来るぞ!?」

 

 スーツの上着を着ようとするが、どうやら手元に無いらしい。急いでいるのにどうしてこんな……。

 モモトークも地味に通知が鳴り始めているしもう業務時間目前だしカヤはまだ食べてるし私もお腹が空いてきちゃったしああああああああああああ!!

 

「せんせーの着るヤツ、ベッドにあるよー。さっき置いてってた」

 

「ありがとカヤ!」

 

 どうして置いていった事に気付かなかったんだ。カヤを起こして、幼児退行を起こしている事に強くショックを受け過ぎて置いてきちゃったのかな。

 

「うわ、ホントにベッドに置いてきてる……。シワになったらどうするんだよ私……」

 

「その時は私がピッチリ直しますのでご心配なく」

 

「そりゃ助か……え?」

 

「アイロンがけの腕については、ご安心ください。私は、メイドの中のメイドですので」

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!??」

 

 スーツの下にはトキが居た。身体はベッドの中、スーツを顔に被せて隠していたので気付けなかったらしい。まだ掛け布団もきっちり直していないから不自然な膨らみにも見えなかった。……それより!

 

「どうしてトキがベッドに、じゃなくてシャーレに居るの!!というかここ、寝室!!」

 

「これも任務の一環。一先ず潜入成功。経過良好。極めてイイ感じです。VV(ヴィーヴィー)」

 

「任務!?潜入!?一体何を言っ────」

 

「先生!?どーしたのっ!?」

 

「があああああああああっっ!!」

 

 今、この瞬間だけは、生徒達より素早く動けたと思う。ミサイルのようにベッドを飛び出した私は、カヤがこちらに続く扉を開ける前にノブを手で固定して、カヤの侵入を阻止した。

 

「せんせ!?どうしたのっ!?」

 

「何でもないよ!向こうで待ってて!」

 

 ドンドンとカヤが扉を叩く衝撃が伝わってくる。ガチャガチャとノブも動かしているようだが、今の私には「火事場の馬鹿力」のバフが掛かっている。カヤにだって負けるもんか。

 

「せんせ、扉が開かないよ!何があったのっ!?」

 

「いいから!あっちで待ってて!」

 

「でも……」

 

「大丈夫だから!先生は大丈夫!何も無いから!」

 

「……ほんと?」

 

「本当!大丈夫だから!」

 

「うん……わかった。待ってるね……?」

 

 どこか寂しそうな、泣きそうな声だった。罵倒し泣かせた時なんかよりも、数倍の罪悪感がズシリと心に乗っかってくる。カヤの足音が去り、気配等が無くなったと感じた私は改めてベッドに居るトキの方へと向き直るが、トキは、私の目の前に居た。

 

「ヒッ」

 

「先生、今のは誰でしょうか?」

 

「え、あ、あが……えっ、と……今日の当番の子!」

 

「当番……?既に、バニースーツの私を含めて何度もシャーレの当番になっていますが、こんなにも早く先生の仕事場に来た経験は一度も無いのですが」

 

「い、いつもは定刻通りにって言ってるもの……」

 

「ならば今日は何故です?」

 

「……仕事が溜まってる、から?早めに始めようと、思って……みたいな……感じです……」

 

「………………」

 

 トキは私と目を逸らし、そして目を瞑ると口元に指を当てて考え込む。数秒の間そうして考え込んだ結果、トキは口元を緩めて、応えてくれた。

 

「成程。そういう事でしたか」

 

「え?」

 

「最近────主にカヤ代行の頃ですが、その頃は連日サンクトゥムタワーに通っていたのに、今は、パタリと行かなくなっている、と聞いていました」

 

「!!」

 

「先生の仕事が溜まっていたからなのですね」

 

「そ、そう!そうなの!代行がリンちゃんに戻ってそれに伴う仕事がドカッと舞い込んでね……!」

 

「先生が最近シャーレ周辺でしか行動しないのも、仕事があるせいで遠出できないから。遠出する暇がそもそも無いから、ということでしょうか?」

 

「そう!」

 

「しかし今の声は、カヤ代行の声では?」

 

「そ────ええっ!?」

 

 やっぱりマズイ。トキは天然なところはあるが、どうやらもう、誤魔化しようもない段階に来ているらしい。ここにネルやその他C&Cの全員が来たら私のカヤがシャーレに居るのがバレるのは、もはや時間の問題なのでは……。

 答えに悩んでいると、ピロンピロンと連続して、スマホの通知が鳴る。1人だけモモトークの通知の数字がポコポコ増えていく。

 

「……アル!?」

 

 アルの通知だけが5、9、13……とリアルタイムで増えてくる。トキの前で悪いが、内容だけでも一応確認しようとアルとのトーク画面を開く。

 

 

 

おはよう先生!

今日は一日よろしくね!

 

今日は良い具合に晴れてるわね!

仕事が終わったらお散歩でもどう?

良いお散歩日和だと思うの!

 

先生?

 

まだ寝てるのかしら……?

 

もう着くわよ

 

執務室が開いてないけれど

まさかまだ寝ているの?

 

先生?

 

先生、留守にしてたり?

まさか朝帰りだなんて……!?

 

先生に限ってそれはないわよね!

 

急病とかじゃないでしょうね!?

 

パソコンをイジッてるような音は

部屋の外まで聞こえてくるけれど……

 

先生、起きてるの?寝てるの?

 

鍵の開け忘れ?

ノックしてみてもいい?

 

ノックしてるけど聞こえない?

 

そんなに仕事に夢中になってるの?

 

あ、スマホの電源が切れてるだけ?

それなら納得ね!

 

……本当にそうなの?

 

先生……?

 

 

 

「ヤッッッッッッッバ……もう来てるの……!?」

 

「先生、既にお仕事の時間です」

 

「分かってる!」

 

「忙しいのであれば私も手伝いますが」

 

「〜〜〜〜〜ッ……ちょっと待っててトキ!戻るまで絶対に部屋から出ないでね!絶対だよ!?」

 

「承知致しました」

 

 トキを寝室で待たせて私は慌てて飛び出す。いやメイドをベッドで待たせるって、絵面がヤバイな。

 慌てて執務室の方に行くと、そこでは私のPCを起動させてカシャカシャとキーボードを打ち込む、カヤの姿があった。

 

「私の大切なお仕事道具に何してるの!!」

 

「あっ、せんせぇ!カヤね、お仕事してたんだよ!先生のお手伝い、お手伝い〜♪」

 

「今はそれどころじゃ……!」

 

「先生?居るの!?大丈夫なのっ!?」

 

「!!」

 

 執務室の扉がドンドンと叩かれている。その扉の向こうからはアルの声がする。私を心配してくれているであろう声色だ。こんな事になっていて対応が遅れてしまっているなんて、本当に申し訳ない。

 

「さっきからねー、ドンドンうるさいんだよねー。でもカヤね、閉まってるって事は(・・・・・・・・・)開けちゃダメ(・・・・・・)って分かってるから、放置してるの!偉いでしょっ!」

 

「う、うん、偉い、偉いよ……っ!」

 

「えへへ〜♡」

 

 さてどうする。そう遠くない部屋にトキが居て、扉1枚を隔てた向こう側には、アルが居る。カヤを隠すにはアルが居る扉から廊下に出てから、廊下の途中にあるエレベーターでシャーレの地下室にまで行かなくては。

 ここは高層階なのだ、ただでさえ地下に行くのに時間が掛かるというのに、扉の目の前には、当番のアルが居るだなんて……。

 

「もうダメだ……おしまいだぁ……」

 

「先生?どうしたの?」

 

「……カヤ……色々バレる前にギュッてして……」

 

「ギュ?……うんっ♡」

 

 椅子から降りたカヤは、特に疑問を示す事もなくギュッと抱き締めてくれた。私も彼女の背中に手を回して、抱き締め返す。ついでに首元に吸い付いて少し薄くなったキスマークを上書きしてやった。

 

「んっ……先生……?どうしたの?」

 

「……ハグはいいね。気持ちが落ち着くよ」

 

「そうなの?落ち着くの?じゃあね、カヤ、もっとギュッてしてあげるねっ♪」

 

 あーイイ匂いだ。私と同じシャンプーを使ってるはずなのに、どうして、女の子というだけでこんなイイ匂いがするのか。おかしいだろう、絶対に。

 

「……ありがとうね、カヤ、落ち着いたよ。ちょっと待ってて。……私の仕事の続き、やっていてくれると助かるよ」

 

「ぜーんぶ、カヤがやるよ!『超人』だもん!」

 

 カヤがPC業務を始めた。私はスーツの懐から、シッテムの箱を取り出し、パスワードを入力。

 

"……我々は望む、七つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。"

 

 さて、ここからはもうアロナ、プラナに頼ろう。もう私だけでは対処できない段階にまで来ている。このままでは絶対にまずい。そう分かっているのに案は浮かばないんだから、全く困ったものだ……。

 

『先生、おかえりなさい。お待ちしておりました!今日のお仕事は何から行いますか?』

 

「助けて2人共、絶体絶命の大ピンチなんだ!」

 

『ピンチっ!?朝からですかぁっ!?』

 

『……状況を把握。不知火カヤの身柄を隠すべき所、その手段が潰えた模様。どうしますか……先輩』

 

『遂にこの日が来てしまったんですね……先生!』

 

「何か思い付いた!?」

 

『もう、ぜーんぶ、ぶっちゃけましょうっ!』

 

「ええっ!?」

 

 この自称高性能AI(アロナァ)……!幼女な見た目の通り頭の中も幼いんじゃないのかな!?今のカヤの方がまだ賢いと思ってしまった、アロナは命の恩人なのに!

 

「……プラナはどう思う?」

 

『……一部肯定。伝えるべきだと、思います。全員にではなくとも。伝えるしかない場面だと予測。既に先生は回帰不能点(ポイント・オブ・ノー・リターン)を超えています』

 

「そんな……」

 

『本日の当番は陸八魔アルの予定。当初の予定から変わりありませんか?』

 

「う、うん……」

 

『アルさんなら大丈夫ですね!社長なだけあって、信頼関係を築く為にも、かなり口は堅いですから!秘密の事でも全て明かせる貴重な人です!……あっ、他の皆さんが口が軽いって、そんな事を言いたいんじゃないですからね!』

 

『肯定。便利屋68社長・陸八魔アルならば元代行、不知火カヤの事情を話しても業務上の支障は皆無と推測。業務の進度を鑑み、早急に対応する事を強く勧めます』

 

「プラナがそう言うなら……」

 

『先生っ!?元は私の案なんですけど!』

 

「そ、そうだね……ありがとう……助かるよ」

 

『にへへへ〜♪』

 

『……嫉妬。先生、先輩だけ(・・・・)は不平等です』

 

『そうですよっ!プラナちゃんのことも、ちゃんとナデナデしないと!アロナお姉ちゃんが怒ります!先生の頭に、チャーシューメーン!やりますよ!』

 

 可愛い────が今はそれどころじゃないんだ、後で対応するから……。

 心の中の私はドタバタジタバタ足踏みしているがアロナもプラナも私の生徒だ、無下にはできない。プラナの事を抱き締めながら頭をナデナデすると、ビクリと身体を震わせたきり、動きを停止した。

 

『理解不能。先生によりナデナデ以上の事をされてしまいました。これ以上は処理が遅れてしまうのでやめてください』

 

「あ、ごめん……」

 

『せぇ〜ん〜せぇ〜いぃ〜っ!?プラナちゃんだけズルいです!アロナにも同じことをしてください!してくれないならこっちからギューってしますよ!ギュー!』

 

 ノータイムでくっつきに来てるじゃないか、ってツッコンでいいかな?あまりくっつくなら、夢オチじゃなくて本当に黒ビキニ着せるぞ。マイクロのを着せるぞ。プラナも同罪だから、プラナは白だな。あっマズイ、朝勃ちが復活する────。

 

「分かった、後でゆっくり来るよ。アロナのことも今よりナデナデする。そろそろ私は、アルの対応をしないと……ねっ?」

 

『あ゚っ』

 

「え」

 

 次の瞬間には私の意識はシッテムの箱ではなく、リアル世界に戻ってきていた。ドンドンドンドンとアルのノックの音が耳に突き刺さる。見てみると、シッテムの箱は見事、処理落ちしていたのである。再起動が必要らしい。

 

「何だよもぉ〜……撫でて処理落ちって……」

 

 こりゃ、アロナ、プラナとは「それ以上」の事はできそうにないな、と小さく溜め息をつき執務室の扉の前まで移動する。

 

「先生?ずっとうるさいの襲撃犯じゃないよね?」

 

「大丈夫。ちょっと待っててね」

 

「わかったよぉ」

 

 扉の前に立ち、深呼吸をして心の準備を整える。信じるんだ。アルは秘密を守ってくれる、アルなら大事にならずに済むんだと。

 

「────アル。おはよう」

 

「その声、先生?大丈夫?中で何かあったの?」

 

「何も無いよ。ただどうしても、見せにくい状態になってしまっていてね」

 

「執務室が書類で汚いのはいつもの事でしょう?」

 

 サラッと猛毒を吐くのやめてもらえませんかね。今のはフツーに致死量だよアルちゃん。扉越しでも普通にダメージ貫通するよ。何にも防げてないよ、この扉。ポンコツか?

 

「今日は、書類じゃなくてさ。そっちじゃない方で見せにくいんだけど、アルは、見る覚悟、ある?」

 

「そりゃあ、先生とも短くない付き合いですもの。覚悟くらい、とうにできてるわ」

 

「じゃあ……開けるけど、近くに人は?」

 

「へ?誰も居ないわよ?」

 

「便利屋の子達を呼んだりは?」

 

「そうするべきなら、そうするわよ?」

 

「いや、いいよ。……じゃあ、開けるね」

 

 ゆっくり、しかし確実に、扉は開かれる。アルが部屋に足を踏み入れるタイミングを見計らい咄嗟に彼女の手を掴み、引きずり込むような勢いでアルを部屋に連れ込む。もちろん、扉を急いで閉じるのも忘れない。私程度の力じゃ壊れないからね、本気でバタンと閉じさせてもらった。

 

「ひゃあっ!?どっ、どうしたの先生!?」

 

「もし通行人が来たらまずいから。強引だったけどごめんね」

 

「そ、それはまぁ、いいんだけれど……///」

 

「アル。今から言うこと、誰にも口外しないって、約束できる?」

 

「え……?」

 

「アルちゃんは社長だからね、信頼関係の大切さはキヴォトスの誰よりも分かってると私は思ってる。違う?」

 

「そっ、そうね!私は便利屋68の社長ですもの!!社長としての心構えくらいは、それはもう、当然のように備えているわっ!社員、そして顧客との信頼関係の構築も、その中の1つよ!」

 

 胸を反らして、いつものドヤ顔で言葉を続ける。本当にアルちゃんは可愛い。ムツキとのアル談義の会話のネタがまた1つ、2つは増えちゃったよ。

 

「良かった。じゃ……カヤ、ちょっとおいで!」

 

「うんっ!」

 

「……え?ええええええっっ!??」

 

 パソコンの陰から現れて、とてとてと可愛らしい歩調で現れたのは、元・連邦生徒会長代行、不知火カヤ。まさかの人物の登場にアルは扉に背中を強打する勢いであとずさりして、硬直してしまった。

 

「か、カヤ代行っ!?なんっ、どうしてシャーレ(ここ)に居るのよッ!?」

 

「匿ってるんだ」

 

「か、カヤ代行の護送車が襲撃されたってニュース見たんだけど!?現場では何も見つからなかった、なんて言われてたはずじゃ……!」

 

「咄嗟に脱出してたみたいだよ」

 

「ええっ!?でもそんな形跡も無かったって映像を解析した人が言っていたらしいけれど……」

 

「それについてはよく分からないけれど。実はね、カヤは、その襲撃のショックで、突発性の記憶喪失みたいな状態になってしまっていてね」

 

「!?」

 

「ここだけの話、精神年齢が、小学生くらいまでに落ちちゃってるんだ」

 

「ええっ!?」

 

「?」

 

 カヤは、可愛らしく首を傾げている。自分の精神年齢がロリ化しているなんて夢にも思っていないんだろう。カヤの中では「何らかの戦いで負け頭部にダメージを負い、そのショックで記憶をほんの一部失っている」だけなんだから。

 

「……せんせぇ?どしたの?」

 

 するりとごく自然に、何気なく腕を組んでくる。それを目ざとく見つけたアルはカッと目を見開き、口も開きかけている。……ここだ!

 

「────しかもッ!……私に懐いてるの……!」

 

「なななな、なっ、何ですってーーーー!!??」

 

 相変わらずおもしれー女。アルちゃんの反応って面白いから、つい、こっちもふざけたくなるよね。なんというか、「おもしれー女」なんかでは表現のしようがないというか、足りないというか。

 

「うぅ……せんせぇ、この人怖い……」

 

「ありゃ。アルの声でびっくりしちゃったみたい」

 

「えっ!?ご、ごめんなさいカヤ代行、じゃなくてカヤちゃんっ!」

 

「んぅ……あんまりびっくりさせないでね……?」

 

「そっ、そうね!気を付けるわ!!」

 

 カヤの中では、今のキヴォトスのトップは未だに連邦生徒会長なんだろうな、なんて思ったりした。連邦生徒会長代行(・・)ではないから、今アルが漏らしてしまった「カヤ代行」にあまり疑問は無いらしい。せいぜいが「ダイコウって何?」くらいだろう。

 

「……お姉さん、先生の恋人?」

 

「ええっ!?そ、そんな関係じゃないわッ、ただの便利屋と依頼主、お得意様って関係よ!」

 

「そーなんだ!よかったぁ、仲良しに見えたから、カヤ、焦ったよぉ」

 

「え……?」

 

「カヤね、カヤねぇ?おっきくなったらね、先生のお嫁さんになるのっ♪……ね、先生♡」

 

「「え???」」

 

 待ってくれ、これ以上話をややこしくするのは、それだけはやめてくれ。アルも推しなんだよ私は。推しの前でそんな話はアウトだ。普通に。待って。

 

「先生?そんな話をしてるの?記憶喪失の人に?」

 

「待っ……待ってアル!そんな話はしてない!」

 

「でもでもぉ〜、一緒に寝て一緒に起きるのって、お嫁さんと旦那さんだけなんだよ?」

 

ピュアっピュアかよコイツ!!

 

「一緒に寝てるの!?!?」

 

「語弊がある!ちょっと語弊があるよアル!アル、頼むから勘違いはしないで!?」

 

「そ、そうよね、子供の言うことですもの……」

 

「うぅ〜……カヤ、子供じゃないもん…………!」

 

「「え?」」

 

「子供じゃないもん!うわあああぁん!うわーん!先生とツノアリ悪魔がイジめるー!びえええん!」

 

「ツノアリ悪魔って私!?」

 

「確かにアルちゃんは悪魔だけどそういう言い方はダメでしょ!アルちゃんに謝りなさいっ!」

 

「やぁぁあだぁあああ!!子供じゃないもん!カヤ子供じゃないもん!超人だもん!カヤ、ちょーじんなんだもん!」

 

(ちょ、鳥人!?何を言ってるのカヤ代行は!?)

 

「アル、多分アルが思ってるの違う!超(・)越した人(・)の超人ね!凄い人ってこと!」

 

「あ、あぁそうなのね!カヤちゃんは超人よっ!!この陸八魔アルが認めるんだからっ!」

 

「……お姉さん、凄い人なの?先生みたいな?」

 

「えっ?せ、先生みたいな凄さかは、私も、よくは分からないけど……えぇと……」

 

「そうだね、アルも凄い人だよ」

 

「先生ッ!?」

 

「そーなんだ!お姉さんも凄い人なんだ!じゃあ、そんな人が言うんだからカヤは間違いなく『超人』なんだねっ……!」

 

 涙を拭うと、パッと明るい笑顔を見せてくれた。

 こうして感情と表情の切り替えが早いのは本当に子供らしいなぁ、と感じる。

 

「……カヤ、お仕事の続き、戻ってくれるかい?私も少しだけアルとお喋りしたらすぐに仕事に戻るよ」

 

「うんっ、分かった!」

 

 カヤはパタパタと仕事に戻って行った。仕事の事覚えてるのかな。覚えてなさそうだ。多分、適当に文字を入力してるだけっぽい気がするんだよね。

 しかしそれも後で全て訂正しよう。もしもこれで今日の仕事がろくに終わらなかったら、そのときは絶対に許さないぞ陸八魔アル。もう私は徹夜なんかしたくないんだ。

 

「……それで?どうしてこんな事になってるのよ?」

 

「掻い摘んで話すとするなら、まぁ、なんというかカヤは襲撃を受けたでしょ?」

 

「そう、みたいね。ヘルメット団だったかしら?」

 

「────っぽいね。ギリギリ脱出したらしいけどその時のショックか何かで記憶を失ってしまって、精神的に、幼児退行してしまったんだよ。それでも何とか這(ほ)う這うの体(てい)でどうにかこっちに到着した。だから匿ってるんだ」

 

 カヤと話を合わせる為にもこういうストーリーでアルにも話しておかなくては。あー、本当なら私の肉便器にする為に囲い込んでるって言いたいけど、アルちゃんに嫌われるくらいなら死んだ方がいいしそうもいかないよね。

 

「私のモモトークに返信しなかったのは?ノックにすぐ答えなかったのは、どうして?」

 

「私が寝坊してて……その点についてはごめんね」

 

「そう……それなら良かったわ」

 

「え?」

 

「だって、もしも先生に何かあったらと思うと……。もう少しで扉を吹っ飛ばすところだったのよ?」

 

 そう言ってアルはワインレッド・アドマイアーをチラつかせる。銃火器についての知識は浅いから、スナイパーライフルでこの扉を撃ち抜けるのか?と思わなくもないがアルならできそうだ。できそうと私に思わせるだけの、スゴ味がある。

 

「……あ、そうだわ。カヤ代行に気を取られていたんだけど、先生にお客さんが居るのよ」

 

「え?」

 

「シャーレのコンビニに居るんじゃないかしらね?その人、『エンジェル24で先生を待ってます』って言ってたわ」

 

「お客さんって……どんな人?」

 

「えぇと、背が高くて、何かの仮装をしていたわ。季節外れのハロウィンかしらねっ!」

 

「ハロウィンの仮装?何ヶ月先なんだ……」

 

「ふふっ、よっぽど気が早い人なのかもね。まぁ、たまに季節外れのお正月衣装を着る事もあるから、私はあまり他人の事は言えないのだけど……」

 

「因みにその人は何の仮装をしてたの?」

 

「それがイマイチ分からないのよねー。『ゾンビになった先生』の仮装とか?」

 

「いや待って何その恐ろしい仮装は。私死ぬの?」

 

「だってその人もスーツ着てたんだもの。黒いヤツだけどね。顔も妙にヒビ割れてたし……ゾンビの仮装じゃなかったら何なのかしら、アレは……」

 

「!?」

 

「あと、あの仮装の中身は多分ロボットか何かだと思うわよ。ヘイロー無かったしね。シャーレに何か依頼があるのかもしれないわ」

 

 ────まさか……まさか「黒服」か……!?

 年賀状をわざわざ自分の足でシャーレまで届けに来るようなアイツだったら有り得ない話じゃない。というかアイツなら間違いなくシャーレまで来る。一度でも来た事があるんだから二度目だって来る。そもそもこれまで年賀状の時にしか来なかったのが不自然なまであるだろう。

 

「……どうしよう……」

 

「カヤ代行の面倒は私が見ているから、先生、そのお客さんのところに行ってあげて」

 

「っ……で、でも……」

 

「大丈夫よ。先生が戻るまでは、お客さんが来ても入れないから。カヤ代行のこと、見られたらマズイでしょう?どこから情報が漏れるか分からないし」

 

 それもそうなんだけど、トキも来てるんだよね。トキに事情説明してる時間は────ゲマトリアの連中はいつもとんでもない事をしてくれるしあまり待たせると良くない気がするんだけど……。

 

「────話は聞かせてもらいました」

 

「うわぁっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

 天井から私達のすぐ隣にトキが飛び降りてきた。メイドじゃなくて、バニーでもなくて、忍者なの?あまりに平然としてるけど、寝室で待っててねってしっかり言っておいたはずなんだけどな……。

 

「カヤ代行を匿っていたという件については、把握致しました。これにて、潜入任務もおしまいです」

 

「「え?」」

 

「先生。私が護衛につきます。その『お客さん』のところに、急行しましょう」

 

「!」

 

「な、何かよく分からないけど、護衛もつくのなら先生も安心よね!ほら先生、お客さんは待たせてはダメよ?ビジネスの基本よ、基本っ!」

 

「う、うん、分かった!カヤのことは任せたよ!」

 

 アルにカヤを任せて、私はトキと共に仕事部屋を飛び出した。エンジェル24に居るという黒服らしき人物、今もまだ居るなら────ソラが危ないかもしれない!

 

 ◆

 

「おや、先生。待ち侘びましたよ」

 

 フツーに雑誌立ち読みしてるううううううう!?

 

「……先生。この方が『お客さん』……ですか?」

 

「う……うん。え、と……トキ、護衛は大丈夫だよ」

 

「!?……先生がそう仰るなら」

 

 トキがエンジェル24を出て入口前に待機するまで見届けると、雑誌をご丁寧に元の位置に戻すなり、黒服から口を開いた。

 

「────こうして直接相見えるのは、ほんの少しお久しぶり……でしょうか」

 

「……だね。怪我は大丈夫なんだ?」

 

「ええ、どうにか。マエストロたちも元気ですよ。ゴルコンダは、フランシスなどとたまに入れ替わる程度で済んでいます」

 

「そっか……なら良かったよ」

 

「おやおや……。これまで敵対してきた我々(ゲマトリア)の無事を知り『良かった』と?」

 

「『ゲマトリアは解散しました』、でしょ?」

 

「『この度、同じメンバー、同じ組織の名で再出発しました』と言ったら、先生はどんな反応をするのでしょうね。クックックッ──私がシャーレに足を運んだ理由を先生に考えて頂いた場合、どのような結論を出されるのか?それは実に興味深いですが、敢えて包み隠さず答えをお伝えさせて頂きました」

 

 うーんこの……。目的も複雑でよく分からないし、明確に敵対してきてるのって、ゲマトリアの中でもベアトリーチェだけだったんだよなぁ……。

 どんな反応ってそりゃ「あ、そうなんだ」以外に何かあるか?私が怒るとでも思ってるのかな……。

 

「────別に、どんな反応もしないよ」

 

「!……それは、どういう意味で?」

 

「確かに黒服、あんたはホシノを利用しようとした過去があるけど。でも、私達を助けてくれたのも、事実でしょ」

 

「……先生を倒すなら私の手で、というライバル節を効かせたかっただけ……かもしれませんよ?」

 

「かもね。でも私は、できるだけ、事実からは目を逸らしたくはないんだ」

 

「!」

 

「あんたらゲマトリアが良い奴とまでは言わない。思いたくもないけどね。だけど、助けてくれたし、応援と取れるような声も掛けてくれたよね。それは事実だ。少なくとも、私はそう認識しているよ」

 

「……」

 

「だから、そうだな────『再集結しました』と言われたらなんて答えるか、か。『それはいいけど私達に敵対はすんなよコノヤロー』……かな?」

 

「………………」

 

 黙り込んでしまった。相変わらず、黒服はどこを見ているのか分からないし、表情変化もしないから感情は声からしか読み取れないけれど……。でもまぁ黒服はゲマトリアの中でもマトモ寄りだろうから、もう敵対したくないんだよな……あ、下向いた。

 

「クックックッ……」

 

「……く、黒服?」

 

「クククッ……クックックックックックッ……」

 

「壊れちゃった……?」

 

「クックックックックックッ……いやはや、予想外の解答だったものですから……嬉しくなりましてね」

 

 だろうね。めっちゃくちゃ笑ってるしね。声だけじゃなく身体全体で「笑ってる」よね。表情変化は無いけど態度がこれもう「悦んでる」んだよな。

 

「言っとくけどゲマトリアに入るつもりは無いよ」

 

「それは残念。いやしかしですね、先生。先生の、先程のあの言葉は……クックックッ……心底、嬉しいお言葉でしたよ……ククク……」

 

 そんなになのか?私、余計な事とか言ってない?知らない内に契約を了承するような、そんな言葉を口走ってない、よね?……まさかね。

 そんな風に、黒服のあまりの喜びようから自分の言動を振り返っていると、黒服は勢い良く両の腕を広げ、天井を仰ぐ。

 

「嗚呼、今日は何と素晴らしい日なのでしょうっ!先生が、シャーレの先生がッ……我々の存在を認め、活動を許容する言葉を発するだなんて!」

 

「ちょっ、ここ、コンビニ!うるさい!」

 

「先生、誓いましょう。私は先生に敵対しません!今後一切、先生の生徒に手出しなどしないと、約束しましょう……!」

 

「……ほんと?でも、探求とか神秘とか何とか……」

 

「ええ、確かに。しかしですね、答えは1つでも、そこへ通じる道とは、決して1つではないのです。そう、それはまるで数式のように。そして、証明のように。解法が違えど答えに辿り着ける。それが、学問の面白さです。私の探求もまた、それに適用が可能かもしれません。……そうは思いませんか?」

 

 て、テンションたっか……こんなキャラだっけ?

 

"難しい事は分からないけど……"

 

"私とゲマトリアが敵対しなくて済むのなら"

 

"共存したっていいんじゃないかな?"

 

「嗚呼……嗚呼ッ…………ああぁぁっ……」

 

 カタカタと震えたかと思うと、土下座するように床に膝をつき、手を付いて、床を見つめ慟哭する。ソラちゃんがレジの方から、こちらを怪しむように見ているのがわかった。

 

「く、黒服、とりあえず立って!怪しまれてるよ!あんた見た目の時点で怪しいんだから行動くらいは自重してよね!?」

 

「はい……」

 

「さっきなんて、アルちゃんから『先生のゾンビの仮装』なんて言われてたんだからね?」

 

「か、仮装ですか?それも、先生がゾンビになった姿の仮装?一体どういう流れでそんな発想に……」

 

「ヒビ割れがゾンビ、スーツ姿が私っぽいってさ。まぁ確かにゾンビなら肌はヒビ割れたりボロボロになってるよね。スーツは、私と違って黒だけどさ」

 

「クックックッ……私が先生の仮装だなんて、そんな烏滸がましい真似をすると思われるとは心外です。しかしその発想……ククッ…………私は好きですね」

 

「あぁそう……」

 

 マジでなんなんだ黒服……。総力戦の予告に来たんじゃないの?てっきりそうだと思ってたんだけど。そろそろビナーあたりドカンと来るんじゃないかと身構えていたんだけれど、杞憂……なのか?

 

「……ふぅ。少し疲れました」

 

「そりゃ1人で騒いでるもんな」

 

「ではそろそろ帰ります」

 

「え!?」

 

「我々も暇ではないのですよ……クックックッ」

 

 さっさと帰ってゲマトリアの連中に何か報告するつもりだろお前。肩がスゴく笑ってるぞ。ここまで態度に出るヤツも珍しいなオイ。

 

「待ちな、黒服」

 

「おやおや。先生から私に何か用事が?珍しい事もありますね。明日はレッドウィンターが夏日になるかもしれま……」

 

「コンビニ来ておいて何も買わずに出て行くのは、マナー違反だ。安くても1つだけでも、何かしらは買って行きなよ」

 

「!」

 

「黒服も大人だし、財布くらい持ち歩くでしょ?」

 

「そ……う、ですね。ええ。しかし何を買えば……」

 

 いや普通に帰れよ。普通に引き留められてるよ、コイツ。相変わらず何考えてるか分からないけど、思ってたよりも人間味があるんだね……。

 

「この栄養ドリンクなんかいいんじゃない?」

 

「『初級栄養ドリンク』……?」

 

「私は中級と初級の両方だけどね」

 

「上級は無いのですか?」

 

「ここには無いみたいだね」

 

「ふむ、そうですか」

 

 小さく頷いたかと思うと、グワシッと何本も手に取り、足取りも軽やかに、レジの方へと向かった。お前、そんなに栄養ドリンク飲むの?

 

「では、可愛らしい店員さん。こちらの『中級栄養ドリンク』を4本、頂けますか?」

 

「は、はははっ、はいぃっ!」

 

 あー、「4本」か。成程。ゲマトリア再結成したみたいだし、宴会でもするのかな。いや待て、栄養ドリンクで宴会って何だ……??

 

「ごめんソラちゃん、あと中級と初級1本追加で。これは私のね」

 

「はぅっ、は、はいっ!」

 

「先生……まさか財布を置いてきたのですか?それで私に奢ってもらおうと……クックックッ、もちろん、私は構いませんよ。親愛なる先生ですからね」

 

「勘違いしないでもらいたいね。今回は、私からの奢りだよ。ゲマトリア再結成記念にね」

 

「……ッ!?」

 

「てか4本は多くない?ゴルコンダやフランシスは絵画でしょ。まさか絵画にぶっかけるの?というか飲めるの?」

 

「あ、あぁ……。内訳としましてはデカルコマニーと私が1本、マエストロが2本です」

 

「はっ!頭が2つだからか!」

 

「ええ、ええ!まさにそうです!クックックッ……。1本を2つの頭で分けるのは物悲しいですからね」

 

 お会計を終え、2人でエンジェル24を出る。全くどういう状況なんだか私自身よく分かっていない。黒服と私が並んでコンビニを出るって、何だ。

 

「このまま帰るの?」

 

「ええ。ゲマトリア再結成の連絡はしましたから」

 

「その為だけに、わざわざシャーレまで来たなんて言わないよね?ゲマトリアの本部?のあそこから、結構な距離があると思うけど……?」

 

「……もしも、そうだとしたら?」

 

「あんた律儀だね……」

 

「いえいえ。これもまた大人としての義務ですよ。私なりの、ですがね」

 

 色々やらかしてくれても黒服を憎めないのって、こういう所があるからなんだろうなぁ。出会い方が違っていれば、純粋に友達になれた気がするよ。

 

「────先生。ゲマトリアは、先生の活動を支援致します」

 

「そんなCMみたいなセリフやめて!?」

 

「クククッ……紛れもなく本心ですよ。ゲマトリアの真意、そしてこれからの我々の活動について先生にお伝えするという意味では、『CMみたい』という先生の感想もまた1つの真実かもしれません」

 

「……」

 

「先生は本当にお人好しです。我々でさえ、先生が何を考えているのか分からない程にね。少し前まで敵対関係にあった我々の再結成を知り、無事を知り

『良かった』と仰るんですから、我々の方も先生を応援したくなるのは自然な事ですよ。腹の底には、敵意があると……考えたりしないのですか?」

 

「だったらいちいちシャーレに来るのかな。しかもコンビニで立ち読みして私を待つって、そっちこそ何を考えてるのか分からないよ。こんな立ち話とかしてないで、さっさと殺せばいいでしょ。私なんか銃弾1つが致命傷になりかねないんだから。それは黒服も知ってるんでしょ?」

 

「ええ、そうですね。よく……知っていますとも」

 

「なのに何もしないでお喋りだけ。敵意は無いって態度で示してるようなものでしょ」

 

「……クックックッ……クックックックックックッ。ええ、まさにそうですね。では最後にもう1つだけ、先生にお伝えして……この場は解散致しましょう」

 

「?」

 

「近々、砂の大地にて。彼が動き出します。もう、何度も相対していますものね。先生も、大体分かるでしょう?」

 

「……ホントはその予告に来たんじゃないの?」

 

「いえいえ。そんなつもりはありませんでしたよ。本当でしたら、明日また来る予定でした」

 

 黒服(コイツ)やっぱ暇人だろ。ゲマトリア本部とシャーレ本部を2日連続で行き来するだなんて、暇人以外の何ものでもないよ。

 今日はゲマトリア再結成の連絡で、明日はビナー出現の予告の為だけに。2日連続で来るか、普通。

 というか今だけは勘弁して欲しいところだ。まだカヤの様子が安定しないんだし、私がシャーレから遠く離れるのはあまり好ましくない。

 

「黒服……。申し訳ないけど、もう少しアイツの出現までの期間、伸ばせないかな」

 

「難しいでしょうねぇ……」

 

大人のカードを見せる

 

"これでも?"

 

「クックック……。もう一度。もう一度だけですよ。改めて忠告しましょうか、先生」

 

「なに?」

 

「『そのカードを乱用すれば──あなたは私たちと同じ結末を迎える事になりますよ』。以前も、こうお伝えしたでしょう?」

 

「……」

 

「それを分かった上で、理解した上で。それでも、あなたは『大人のカード』を使い、ビナーの出現を事前に食い止めますか?食い止められたとしても、かなりの代償を支払う事になると思いますが」

 

"使うよ"

 

"迷いなく、ね"

 

"使う選択肢しか私にはない"

 

「そう、ですか。そこまでして守りたいものが今の先生にはあると。普段ならば生徒を駆り出し、随時対処するのに?」

 

「そうだね。今はそんな時間も惜しいんだ。ミカの力を借りればすぐ終わるけど……。急いでいるときに移動するのに、アビドスは遠いよ」

 

 ふぅむ、と考え込む黒服。数秒地面を見て黙った彼は、やがて顔を上げ、相変わらずのニヤニヤ顔、しかしどこか控えめに、首を傾げながら言う。

 

「……ビナーではない者にしましょうか?」

 

「……もし仮に来るんならビナーでいいよ。比較的、楽な方だしね……あンのクソエビが……寿司柄に塗ってやろうか」

 

「先生??」

 

「いやこっちの話。てか本当にやめてくれないか、今はさ……せめて10日後……」

 

「……5日後。そこまでが限界ですかね。それまでは私の力で抑えていてあげましょう」

 

「勘弁してよ……」

 

「先生が出現を遅らせようと考える理由は、よーく分かりますよ」

 

「!」

 

「しかしね、先生。……少し、らしくないのではと、私は思うのですよ」

 

「らしくない(・・・・・)?」

 

「ええ。もう少し、生徒達の事を、信じてあげては如何です?今更、生徒への弩級の秘密を作っても、どうしようもない段階まできているでしょうに」

 

 ────「秘密」?生徒への秘密?私にそんなのあるかな。いやまさかね。いや、待て。心当たりが1つしかないんだけど。……え?

 

「黒服……あんたまさか……」

 

「言ったでしょう先生。『ゲマトリアは、あなたのことをずっと見ていますよ』────と」

 

「ッ……」

 

「では、本日はこれで失礼します。栄養ドリンク、ご馳走様でした。ゲマトリア一同、大切に飲ませて頂きますよ。どうか、次お会いする時まで、息災でありますように。先生のご健康、ご活躍を、心より祈っております。……さぁ、帰りますよ、────」

 

「……黒服?」

 

 見えない何か、虚空か何かに、明るく弾んだ声で話し掛けた黒服は、最後の私の呼び掛けには何にも答えず、鼻歌交じりにシャーレを去っていった。




今回のお話は、何回かUnwelcome Schoolが脳内で再生されていると嬉しいです。
うちの先生とゲマトリアの男衆は割と仲良しです。
黒服=ユウカ説、与太話ですが、面白いですよね。ユウカも推しの一人ですが毎回クスッとなります。
あとゴルコンダはたまに出てくる設定でいきます。やっぱデカルコマニーの相方はゴルコンダでしょ。
\そういうこったぁ!!/

アルちゃん出たし黒服も出たのでそろそろカヤとのイチャイチャ、書きたい所ですが、話の都合により次の次になりそうかもしれないですね。

よろしければ回答をお願い致します。参考にさせて頂きます。また、数字についてはおおよその目安であり、今後書く話の文字数を限定するものではありません。

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