どれくらい飛び回ってただろうか。
とっくに感覚も薄れてきた頃、廃墟の影から飛び出した奇行種の突撃を避けきれなくて右腕を噛みちぎられた。
そして噛みちぎられた勢いそのまま廃墟に突っ込んだ。
「ああっ!!オットー分隊長が殺られた!」
「もうダメだ!逃げよう!」
「おい……なんだよこれ。なんなんだよ!!」
「はなっ!離せぇぇぇ!!!」
「あ"ぁあァァ!!!」
喧しいんだよお前ら。
ちょっとは静かに出来ないのか?
ったく…寄せ集めはこれだから……
「(ははっ…コレは死ぬなぁ)」
血を流しすぎて
もう足の1本、動かす気力も残ってない。
何年も前に最後の同期が戦死して、足りなくなった上官の穴埋めで昇進。
年々減る一方の入団希望者と巨人の領域に出る事さえも怯えて出来ない兵団長。
そのせいで机上の空論の作戦を受け取って、それを叶えるべく部隊を率いて奔走する事何度目か、遂に調査兵団の総戦力が200人をきった。
そして下された今回の総力戦。
生き残った調査兵団員全てと駐屯兵団の約半数を動員しての事実上の『最後の攻勢』、これがついさっき崩壊した。
団長が食われ、駐屯兵が食われ、調査兵も───
思えば随分と質が落ちたものだ。
笑えよ
死にたくなくて足掻き続けた結果がこれだ。
なにも自由が欲しかった訳じゃない、巨人を皆殺しにしたかったかと聞かれてもそこまで執着してもいない。
ただ皆と居るのが楽しかっただけだ。
記憶に残るトロスト区攻防戦前の104期の顔ぶれ。
胸ポケットに入っている『似顔絵』の顔ぶれ。
殆どの仲間が死んでいくなか、誰かが言ったんだ「絵で俺達が生きてた証を残そう」って。少なくとも誰かが最後まで生き残っていれば忘れ去られることも無い、と。
あの頃から俺たちは、死ぬことよりも忘れられる事の方が怖くなっていた。
『人間誰しも劇的に死ねるって訳じゃないみたいだぜ』
『駆逐してやる…この世から、一匹残らず!!』
『肉ぅぅぅぅ!!』
『流石私の嫁、結婚してくれクリスタ』
『もしくはコイツを奴らのケツにぶち込む』
『それで、超絶美女の巨人は居たかね』
『うひょー!!こっちだよォ!!』
『やめてください分隊長!あなたホントに死にますよ!?』
『チッ…掃除もマトモに出来ねえのかよ』
『俺は…このまま地下室に行きたい』
嗚呼…覚えてるとも。
忘れるものか、なんど思い返して泣いたことか。
「帰りたい…」
「(……どこに?)」
思わずこぼれた言葉に自問していた。
兵舎に思い入れも大切な物もない、それどころか壁内に未練すらないと言うのに。
ここでようやく周りが静かになっていた事に気付いた。
生き残りは敗走したか、食われたか。
なんにせよ俺の死地もこの場所だ。
【旧トロスト区】
放棄されて永く、もはや上層部も奪還を諦めたはずの場所。
かつて、多くの同期が死んでいった場所。
そしてジャンや俺の生まれ故郷。
「(やっと帰れるよ…母さん)」
涙が落ちる。
皆は待っててくれてるかな。
母に聞かせるだけじゃ話しきれない土産話がたくさんあるんだから────
――――――
「(どっかで見た天井だ…)」
医務室とは違う、薄暗くて滞留してるような重い空気。
今となっては懐かしい訓練兵団の懲罰房だ。
いや、おかしいだろ。
俺は間違いなく死んだんだから。
巨人に腕を食われて、頭ぶつけて、腹に穴開いて…
「なんでここにいるんだ?俺は」
何より無くしたはずの右腕があった。
いよいよわけがわからない。
ここで俺は頭のキャパが超えた。
死んだ俺の記憶も、今の俺の状況も、夢とは思えないからこそ結論を諦めてしまった。
とりあえず流れを見ながら合わせていけばいいさ。と