朝、寝起きの重い体を引きずるようにベッドから這い出して制服に身を包む。
改めて体に触れる装置の感覚に慣れないものを感じながら、まだ
今日からやる朝練は104期の誰がやるものとは違う、回避運動に絞った内容で、模型の周りをあらゆる動きで飛び回るだけでうなじへの斬撃も、長距離のアンカー移動もしない、ただ逃げ回る為の訓練。
少なくとも
例えば頭のおかしいどっかのアッカーマンの人とかね。
普通の兵士は命を囮に苦戦してようやく一体シバけるかどうか、とてもじゃないがやる気で倒せる相手じゃない。
だからこそ、だからこそ俺は戦い方を変えてやってきた。
が、残念ながら今の俺にはなんの権限も無いから仕方ない。せめて他の誰かが死ななくて済むように囮役としての体の感覚を取り戻さなきゃいけない。
アンカーを木に撃ち込んで宙を舞う。
「懐かしい…動かない相手がこんなにありがたい物なんてな」
当たり前だが巨人は動く。
そんな当たり前も考えてなかった頃の俺はうなじのスポンジを切り飛ばしてよくはしゃいでいたっけ?
そりゃ巨人の恐ろしさを知るシャーディス教官に怒鳴られるよな。そんなこと知らん俺らは不貞腐れて愚痴ってたけど。
模型の目の前を減速して飛ぶ。
「ほら、こっち来いよ」
奇行種以外はこれで釣れる。
そしてコイツらの次の行動は──
水平に打っていたアンカーを外して、もう片方のアンカーを地面に撃ち込んで急降下で逃げる。
「お前死んだぞ」
横切っていた俺の位置を巨人の手が捉える時にはもう逃げ切っている。
この一連の流れで大体の巨人は死ぬ。
仲間が殺してくれる。
また別の模型に飛んで脳内イメージで戦い続ける。
「平和だなぁ」
誰に言うでもない、ただの自己完結の独り言。
いや、実感したかったんだろうな。死なない立体機動を。
周りを気にしないで飛べるこの感覚を
――――――――
「オットーは何をしてるんでしょうねえ?」
「俺が知るかよ、元々変わったトコのある奴だったろ」
「えー。ジャンも知らないんですか?」
朝、朝礼も近い時間になっても姿を見せなかったオットーを探しに来てみれば1人で木々を飛び回っているのを見つけた。
マルコがもしかしたら、と言ってたから来てみたがホントに朝練してるなんてな。
アイツあんなに真面目だったか?と疑問が湧いてくる。
「あっ!……あれ切りませんねぇ」
「体勢悪かったのか?」
「おっ!行き──…ませんねぇ」
「何してんだよあのバカ」
やっぱり遊んでるだけの気がしてきやがった。
スポンジを切るでもなく模型の周りをただ飛び回る。
ふと近くの木の根元を見ると何本かのガス管が茂みに放り込まれていた。
こりゃ相当遊んでるわ。
だってお前、立体機動に逆さ飛びとか空中回転なんて…いやすげぇけど要らねえだろ。
「おおいオットー!!てめぇ降りてこい!朝礼だぞッ」
「んっ!」
「ちょッ!!待てよ!サシャ避けろ!」
「ひゃあぁぁぁ!!!」
返事と同時にグイッと遠心力で弧を書くように低空を飛んで勢いそのまま着地を決めやがった。
俺の知ってるオットーはこんな動き出来るわけがねえ!
「お前…どんだけ遊びゃあそんな動けるようになるんだよ」
「頭おかしいですよ!!」
確かに頭がおかしくなってやがる。
これがバレたら今度こそ開拓地送りだってのに!
「ほら行くぞ、何とか誤魔化してやるから」
「そうですね、今回だけは私も口裏合わせてあげます!」
「え…うんあんがと…?」
ったく、しょーがねえヤツだよお前は!