「へぇー中学生と」
「そうなんすよ! 父親誰なんだろうとか思ってたらまさかの中坊っすよ!? ありえなく無いすか!?」
明日が休みというということもあって後輩と帰りに居酒屋に入った俺は、現役ヲタクの後輩の愚痴に付き合っていた。
「しかもそいつ黒幕だったんすよ!? こんなことあります!?」
「まぁあるんじゃねぇの」
大学を卒業してから就職して、アニメとか漫画を見る暇がなくなり、そのままヲタク文化からフェードアウトした俺は後輩の話す漫画の話はさっぱりだった。
同じ作者の書いた作品は知ってはいるが【推しの子】という作品についての知識はゲッターくらいしかない。一切出てこないらしいが。
「要するに主人公の旦那が主人公より年下の中学生で、しかもそいつは主人公を殺すように仕向けた黒幕だったってことか?」
「いや主人公では無いんすよ」
「なに、もしかして主人公はその母親の子供ってパターン?」
「なんで分かるんすか」
そういうもんだろとグラスに残ったレモンサワーを飲み干すと、タッチパネルで追加を頼む。
「竿役で黒幕が中学生なら、主人公の母親ってその時はいくつだったの?」
「高校生っすね」
「犯罪じゃねぇか」
漫画だから気にしちゃ負けだけどアウトだよそれは。女子高生と男子中学生が子作りしちゃうのはダメでしょと気にしいの俺の下に新しいレモンサワーがやってくる。
「まぁ俺も知った時結構ショックで読むのやめようか迷ったんすけど」
こいつに作画担当してる方の作者の作品見せたら死ぬんじゃねぇかなと思いつつ相槌を返し……そんなこんなで後輩の愚痴は40分くらい続いた。
聞いた感想としては、地下アイドルから人気アイドルになったものの、本当の【愛】というものが分からずに色々模索していく姿は健気ではある。そんなところだ。
「どうです? 見る気になりました!?」
「そこまでネタバレされたらもう見ないかな」
「えぇ〜!? そんなぁ〜!」
息子か娘が主人公というのは分かったが黒幕の正体がわかった状態で見ても面白みに欠ける。
愛知らずのアイちゃんはSNSであがってたゲッターに切り替わる前の子なんだろう。
余裕があれば見てやるか、そう思ってた矢先に俺は酔っ払い運転していた乗用車に撥ねられて死んだ。26歳だった。まだまだこれからという時に訪れた死は急すぎて、そう知った今でも飲み込めないわけだが。
この状況下でどういう訳か俺は転生して第2の人生が始まるらしい。神と名乗る不審者曰く、好きに生きろとのことで不自由のない暮らしができるように取り計らってくれたようだ。
それなら死ぬ前の世界に返してくれないかと思ったが、楽に生きられるならそれに超したことはないと受け入れることにした。
そして、新たな命を手に入れてから21年目のある日、俺は転生した世界で1人のオンナと出会った。
名前は星野アイ。後輩の話通りなら、男子中学生とセックスして子供を作って、産んでからしばらくした後に厄介ファンに殺されることになる女だ。
地下アイドルでほかのメンバーよりも輝きの強いという後輩の説明は的を射ていて、社長の付き添いで来たが俺は「へぇ」と前のめりにそのライブを見ていた。
「どうだいカンナ。うちの新人たちは」
そう問いかけてくる社長に言葉を返すのも忘れるくらいに俺はライブに夢中だった。
このライブを生で見たこともあるのだろうが、俺は後輩の気持ちがようやく理解できた。確かにあの女が得体の知れない男、それも中学生に犯されて子供まで作ったとなったら失望、あるいは絶望するかもしれない。
「なるほどな」
「おっ? 俺のスカウトしたアイドルはナンバーワン俳優の目に適ったか?」
変装用にと渡されたサングラスを取って俺は笑った。
「ああ、最高の女だ」
決めたぜ、カミキセカイだか佐藤光だかみたいな名前してるらしい中学生に先を越される前に俺が星野アイとヤってやる。ほかの男やファンが黙ってない? んな事知るか。この世界はな俺が不自由しないように出来てんだよ。
#
そう決めてからの俺の行動は早かった。同じ事務所ということでアイの所属しているB小町への接触は容易だった。全員との連絡先を手に入れ、次にすることといえばもちろん食事だ。
「カンナさん、今日もありがとうございます」
「いいってことよ。ようやく期待できる後輩が出来たんだからな」
「でもなんか悪いですよ。奢ってもらっちゃって」
B小町の奴らは遠慮しいなのが多い。けれど、アイだけは違った。
「いいじゃん、せっかくの奢りなんだからいっぱい食べようよ!」
ガツガツむしゃむしゃと目の前に置かれた料理を食っていく姿はB小町の真ん中でファンを魅了するアイとはかけ離れていたが、嘘偽りのない姿は好印象だった。
ファンや大衆の前ではできない姿を見る。それがアイを観察する俺の楽しみ方の1つだった。
B小町との食事を終えて、日が経って間もない頃に俺はアイと人目を避けて会うことにした。その理由はもちろん、アイの現状の確認だった。
最近の活躍ぶりについて話しつつ、男と会っていないかとか体調に変化はないかと言ったことをさりげなく聞いていく。
男は俺と社長くらいで、共演者やスタッフとの会食もないらしい。体調の方はいいくらいで昨日もいい便が出たそうだ。
「へぇ、孤児ね」
「うん。お母さん迎えに来なくて、そっから施設で過ごして、社長にスカウトされたの」
その後どういう流れでそうなったか確かでは無いが、身の上話になった。
何度か断ったんだけど、結局説得されちゃってと語るアイに初めて見た時の「なるほどな」という言葉が浮かんできた。
愛したいし愛されたい。けれど本物の愛が分からないというジレンマを抱えているからこその歪さ。それがアイをアイドルたらしめる原動力になっているのかもしれない。
「愛ってのは人それぞれでな」
「えっ、急に何」
驚く彼女に「まぁ聞けよ」と俺は続ける。
「異性の綺麗な手首しか愛せないやつもいれば、自分しか愛せない、自分を愛せないのに他人が愛せるかとか色々言ってたりするやつもいるんだが、俺にも1つあってな」
少々引きながらも聞いてくれているアイに俺は言う。
「俺は愛を知る前に好きかどうか知ろうと思ってある線引きをしてるんだ」
「なに?」
「セックスできるかできないかだ」
「……えっ?」
またも唐突に何をと言わんばかりのアイに俺はさらに続ける。
「好きでもない、愛してもない相手と身体を重ねても気持ち悪いだけだ。気持ち悪いとか嫌だと思わずに気持ちいい、もっとしたいと思えば好き以上愛してる以下くらいだってことになる」
「そうなの?」
愛というものに悩んでいるアイにとって俺の持論は多少興味を惹くものだったのか食いついてきた。
「どうする?」
「えっ」
言葉の真意を掴みきれないアイに俺はニヤリと笑って言った。
「俺とセックスしてみるか?」
アイの返事は「お願いします」だった。
主人公(竿役)
神宮寺 神奈(じんぐうじ かんな)▶︎転生者いちごプロの売れっ子俳優。身長高い! 顔いい! 不自由のない生活という転生特典で不自由なく暮らしてる。アイに一目惚れして、変な中坊に取られる前に先に取りに行った行動力の化身。