僕が神宮寺神奈さんと出会ったのは、彼と同じ苺プロに所属しているアイドル、アイさんが僕のいる劇団にワークショップに来て2週間が経ち、突然彼女が来なくなった次の日だった。
活動休止のニュースが大々的に発表され、彼女の仕事ともに僕の仕事はなくなってしまった。
新聞やネットニュースで、その見出しを見ても、中身はどれもこれも理由は不明で、ただの体調不良なのか、引退はあるのかと様々な憶測が飛び交っていた。
それは僕の劇団も同じで、何か聞いていないのかと、よく聞かれた。
僕は何も聞いていないと答えていた時だった。
「ここが劇団ララライか。テンション上がるな〜」
そう言って急にやってきたのが神宮寺神奈。今や日本の誰もが知る有名人だ。
「なっ、神宮寺」
「おっ、上原じゃねぇか。お前ここの所属だったのか」
明らかにテンションの低かった神宮寺さんだったが、知り合いを見つけて、少し元気になったようだ。
「お前、なんだいきなり来て。もしかして、アイさんのことか?」
売れっ子俳優の神宮寺神奈がここに来る理由といえば、同じ所属事務所であるアイに関することだろうと誰もが思った。
本来なら社長やマネージャーあたりが顔を出して謝るのが筋だろうが、あちらも突然のアイさんの活動休止で大変なのだろう。
だから看板役者に代わりに謝罪をさせようとしている。
「なんだ話が早いじゃねぇか。うちのアイは来てねぇのか?」
「は? 何言ってるんだお前……」
しかし、神宮寺神奈の口から出たのは、そんな予想とは別の言葉だった。
「やっぱり来てねぇか」
「あぁ、そうだよ。連絡もなしに来なくなって、そしたら活動休止ってどういうことだよ!」
「知らねぇよ。なんかあったんだろ、なんか」
アイさんの所在を知りたがっていた割には、かなり淡白な反応だった。
「何かって何だよ!」
「お、落ち着いてください」
声を荒らげている上原さんを落ち着かせようと前に出ると、神宮寺さんが肩を竦めた。
「おいおい、中坊くらいのガキに宥められて恥ずかしくねぇの?」
「っ……」
神宮寺さんの言葉に上原さんが顔を赤くする。それは何か恥じることがあったという証拠だ。
「やめてください神宮寺さん、聞いての通り、アイさんはここにいませんから」
神宮寺さんに帰ってもらおうとそう言うと、彼は品定めするようにじっと僕の顔を凝視した。
「……お前、アイの知り合いか?」
「えぇ、まあ。アイさんの演技指導をしていましたから……」
あの神宮寺神奈にこんなことを言うのは身の程知らずかもしれないが、僕も演技の基礎は学んでいる。
「へー、名前は?」
「カミキヒカルです」
そう言うと、神宮寺さんは「ほう……」と顎に手を当て、僕の顔を見た。
「上原」
そして、しばらく考えた後、彼は上原さんを呼んだ。
「なんだよ」
「こいつ、ちょっと借りていいか?」
「……は?」
いきなり何を言い出したのかと思ったら、神宮寺さんは僕の前に来て手を差し出した。
「アイにどんな指導したのか聞かせてくれよ。嫌ならお前の話でもいい」
「えっ」
どういうことかと、上原さんに視線を向けると、彼は何か迷っているような顔をしていた。
「そいつはうちの劇団員だ、変なことはするなよ」
「しねぇよ」
少しして顔を上げた上原さんは、神宮寺さんにそう言って、踵を返した。どうやらこれから僕はこの人と2人きりになるらしい。
「悪ぃな怖い思いしたか? 大丈夫か?」
「えっ」
2人きりになってアイと使っていた練習部屋に向かう途中、神宮寺さんが振り返って僕にそう言った。
「さっき、ちょっと睨んでたからよ。大丈夫か?」
「えっと」
神宮寺さんは僕を心配しているようだ。彼からしたらまだ年端もいかない子供。普通はこういう態度、なのだろうか。
「大丈夫です」
だからそう答えたのだが、彼はまだ心配そうな顔をしていた。
「ならいいが……」
そして、練習部屋に着くと適当に座るように促され、僕は椅子に座る。
「で、アイにどんなこと教えてた?」
「えっと……アイさんは演技指導を受けたことがないって話だったので、だから基礎からです」
それから僕は、神宮寺さんにアイさんへの指導を説明した。彼はそれを黙って聞きながら、たまに頷いたりしていた。
「……とまぁ、こんな感じです」
「なるほどなぁ」
そして説明を終えると、神宮寺さんは大きく頷いていた。
「いや、後輩がアイドル活動以外にも仕事の幅を広げるって話を聞いた矢先に活動を休止したもんだからよ、ここでなんかあったのかと勘ぐったんだが……」
オレの勘違いだったみたいだ、と神宮寺さんは笑った。
「お前はちゃんとアイを見ててくれたみたいだな」
嬉しそうに、彼はそう言った。
嘘偽りのないその顔を見て僕は思った。
あぁ、アイさんはこの人に愛されているんだなって。
「カミキ、いやヒカルって呼んでいいか?」
「えっ、別に、いいですけど」
いきなり名前呼びをされて少し動揺する。
しかし、神宮寺さんは特に気にした様子もなく話を続けた。
劇団のこととか、僕のこととか。
アイさんについての話は終わったはずなのに、やたらと僕のことを聞いてくる。どうしてか分からないけど、役者の人は他人の話を聞いて、そのエピソードを演技に落とし込もうとすると聞いたことがある。
だから、その一環かと、話せる範囲で話していくと、どうしてか僕の心の中がスーッと軽くなっていく気がした。
上原さんやアイさん、姫川さんも知らないような話もした。だから、時間があっという間に過ぎていった。
「おっと」
そして僕が時計を見ると、結構いい時間になっていた。
もうこんな時間かと驚くと同時に、なんだか名残惜しく感じていた。
「お忙しいのに時間を取らせてすいません」
「気にすんなって。大河も要所の撮影は終わってっから」
そう笑う神宮寺さんは本当に気にしてなさそうだった。
「それじゃあオレは帰るが、何か困ったことあったらいつでも頼れよ」
「えっ……いいんですか?」
「あぁ、アイに演技指導してくれた礼だ」
そう言って彼は僕の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「……ありがとうございます!」
僕はその手を振り払いながらお礼を言った。神宮寺さんの手が大きくて少し痛かったから。
「あの」
手を振り払って、目の前にいるカンナさんを見上げる。困ったことがあれば頼っていい。その言葉を額面通りに受け取っていいなら、僕は今、彼に聞きたいことがあった。
「どうした、何か悩み事か?」
「っ」
見透かされているような目で、ビクッと肩が跳ねる。けど、僕の目線に合わせて膝を曲げてくれるカンナさんに、意を決して聞いてみた。
「あ、あの……姫川愛梨さんって知ってますか?」
「あぁ、ここの所属だろ。確か朝ドラにも出てた」
妊娠して子供を産んで、テレビへの出演は減っていても、愛梨さんの知名度は高く、すぐに答えが帰ってきた。
「共演は少なかったが……そいつがどうかしたか?」
「実は、僕……」
初対面で打ち明けていいものだろうかという不安と、悩みを聞いてほしいという甘えの気持ちがない混ぜになり、上手く言葉が出てこなかった。
「別に言いづらいなら言わなくてもいいぞ」
「……いえ、話します」
この人はちゃんと話を聞こうとしてくれる。そんな人だから打ち明ける気になったんだ。そう自分を納得させてから、僕は口を開いた。
「僕……愛梨さんに性被害を受けているんです」
顔を逸らして、なんとかそう口にした。
「……性被害っつうとアレか。無理矢理逆レイプとかそんな感じか」
「……はい」
昔も今もこの手のことはどこかしらで起きていて、愛梨さんも昔は番組やスポンサーのえらい人とかにこういうことをさせられていたみたいだ。
だから、自分もしていいんだと、こういうのには順番があるんだと、あの人は僕にそう言った。
「姫川がねぇ……」
言うと、神宮寺さんも驚きはしていなかった。僕の容姿を見て、誰かしら手を出す人はいるだろうと考えたのかもしれないし、この業界なら普通だから驚かなかったのかもしれない。
「んで、ヒカルはどうして欲しいんだ?」
「それはもちろん……やめて欲しいです」
でも、僕がそう口にしたら愛梨さんはヒステリックに叫び出して、僕に対する扱いをより酷いものにするだろう。
今でも人目がないところでは僕の生肌に触れ、僕のものを触ってくる。
だから、僕はこのことを誰にも相談できなかった。
「口で言ってもダメだろうなぁ……」
「はい」
困ったように頭を搔く神宮寺さんに、僕は頷いて返す。
「すみません、初対面でこんな……」
「いや、気にすんなよ。オレから聞いたし。つか、これ誰にも言ってねぇの?」
「……はい」
そう言えば、カンナさんに言ったのが初めてだ。
「……ならオレがどうにかするしかないわな」
「えっ!?」
その言葉を聞いて驚く。しかし神宮寺さんは平然として言葉を続けた。
「何か不都合でもあんのか?」
そんな提案をされるとは思わなかったから驚いただけだが、特に不都合はない。だから僕は首を横に振った。
「いえ、その……」
「なんだよ」
「そんな簡単に解決できる問題なのかなって」
「まぁ、解決できるかはわからねぇけどよ。でも、ヒカルだってこのままでいいとは思ってねぇだろ?」
「それは……」
確かにそうだ。愛梨さんが僕にしたことは許されることではないし、僕はそれを許してはいない。
「じゃ、また姫川にホテルとか呼ばれたらオレにも連絡くれや」
「えっ」
なんで、と理由を聞くと神宮寺さんはなんでもないように言う。
「決まってんだろ。オレが姫川をめちゃくちゃに犯して満足させてオレの方に偏愛向けさせんだよ」
「けど、それじゃあ……」
今度は神宮寺さんが性被害を受けるんじゃないかと心配する僕に、神宮寺さんは暗い顔をした。
「あぁ……人妻、それも知り合いの嫁を抱くのは初めてでオレも不安だが……オレもプロだ。なんとかするさ」
……何のプロ?
とは聞けずに、神宮寺さんが帰る姿を僕は困惑で見送るしか無かった。
姫川愛梨との濡場って誰得なんだろうかと思ったのでそんなにガッツリは書かないかもしれない。
これならヒカルくんに女装させておセッセする方がいい気もするが、それをするとヒカルくんが誰も信じられなくなっちゃう〜!?
いや、快楽堕ちさせればええのでは? ボブは訝しんだ