多分マイナーなので、ざっくりあらすじを説明すると、転生した立華 かなでが音無(とは名言されていないがほぼ確定)を探すたびに全国旅するお話。
詳しくはGSチャンネルにてご検索を。
……転生編の括りですが、もちろんパラレルワールドです。
後編を出すかもしれないし、出さないかもしれない(適当)
カラカラ、とキャリーケースを引きながら、のどかな田舎道を歩く。長い銀髪をふわりと揺らし、トコトコと歩き回る立華 かなでは、一度立ち止まってスマートフォンを取り出した。地図アプリで道順を確認しながら、数分ほど歩く。
ここまで色々な都道府県を歩き回ってきて、だいぶ旅慣れてきたため、道に迷うこともない。そして旅慣れたせいか、とる食事といえば、現地に根付くローカルな店を好むようにもなってきた。これであたしも旅上手かしら、と浮かれ気分になりながら歩みを進めると、目的の店が見えてきた。
「ここだわ」
一鍋入魂、と彫られた木の看板がなければ、飲食店だということすら気づけないくらい、民家のような店構えであった。風情のある、木目の分厚い屋根。近くに森や山々があり、まさにローカルなお店という雰囲気がある。
が、ここは知る人ぞ知るジビエの名店。中でも兵庫県の郷土料理「ぼたん鍋」が人気のメニューであり、それを目的として店に来たのだが――。
「……閉まっているわ」
定休日、という看板を見てかなでは肩を落とした。突発的な休みとかではなく、シンプルにお休みの日なのだ。
この旅上手、なんと爪が甘い。
お腹を空かせ、あまり口にすることのない、ジビエ料理に期待をしたのだが、どうやら今回は縁が無さそうだ。
かなでは残念に思いながら、踵を返そうとした。その時であった。
「じいちゃんの店に、なにか用なのか?」
バイクから降りた少年の声に呼び止められ、かなでは顔を上げた。
黒髪の、少し体格の良い男だ。年の頃はかなでと同じ十七、八くらいか。鋭い眼光はやや威圧感があるものの、声や雰囲気にはそれを和らげる穏やかさがあった。
「ええ。でも、定休日だったの。リサーチ不足だったわ……」
「そりゃうっかりだったな。にしても、その、すごい荷物だな……中学生くらいだよな? 一人旅、なのか? つーか、家出?」
ものすごく失礼な問いかけに、かなでは少しむっ、と頬を膨らませながら答えた。
「あなたと同じくらいよ。ゆりと同じ間違いをするんだから……」
「ゆり?」
「こっちの話よ」
「あ、ああ。それは失礼したな。なあ、お詫びといったら変だが、料理食べていかないか? 俺、じいちゃんの弟子なんだよ」
「おじいさん、お店の店主なの?」
「そうだよ。俺にとっては祖父であり、狩猟とジビエ料理の師匠なんだ」
ここで出される肉は、店主が実際に狩猟で狩った動物が使われている。
「すごいわね。銃とか、扱えるの?」
「まだまだ修行中だけどな。それに学生だし、年齢的に狩猟免許はとれないんだ」
「ふーん……でも、悪いわ。お店は閉まっているのよね? あたしのためだけに開けるなんて」
「ああ、いや。店は開けねえよ。そもそも、俺はただの弟子だから。元々ここに用があってな。お客さんを一人、俺が招待することになっているんだ。そのついでに、君にも料理を振舞おうって話。ああ、ロハでいいからな?」
「え、いいの?」
「おう、遠慮するな。むしろ俺としては、人に食べてもらう良い機会だから、こっちからお願いしたいくらいだ」
「そういうことなら、いただくわ」
「決まりだな。よし、入ってくれ」
少年は人懐っこい笑みを浮かべて、入口の引き戸へと向かう。
「君、名前は?」
「立華 かなで。あなたは?」
「桜木 春斗。よろしくな」
店の中は広々とした、味のある木製のインテリアであしらわれた風情のあるレイアウトであった。木の椅子に座り、かなではしばらくの間、料理を待つ。
「お待たせ。ぼたん鍋だ」
やがて運ばれた鍋料理に、かなでは目を輝かせた。濃厚な味噌の良い香りが、食欲をそそる。土鍋に入れられたたっぷりの野菜。その他にもきのこ、ニンジン、こんにゃくと具だくさんだ。そして主役のイノシシ肉がぐつぐつと煮えられている。取り皿には混ぜられた生卵が入っている。
「いただきます」
かなでは箸でイノシシ肉を取り出し、取り皿で卵と絡める。肉を口の中に入れると、油の甘味と卵のまろやかさが混ざり合った。
「美味しいわ。修行中とは思えない味……」
「それは良かった」
「油は濃厚だけど、しつこくないのね。臭みもないわ」
「やっぱ、人から美味いって言われるのは嬉しいもんだな。これが、自分でとったイノシシだったら、なお良かったんだけどな」
「桜木くんは、卒業したら猟師になりたいの?」
「ああ。あと、ジビエ料理の腕を磨いて、じいちゃんみたいな店を作る。それが夢だ」
「素敵ね。夢があるのはいいことだわ」
そう言いながら、かなではパクパクとぼたん鍋を食べていく。対面に桜木が座り、疑問を口にした。
「旅はよくするのか? どんなところへ行った?」
「横浜に、福岡に、香川に、山梨に、大阪に、沖縄に――」
「大人しそうな見た目に反して、かなりアグレッシブだな⁉ なんで、そこまでして一人旅を? ましてや、今回は兵庫にさ」
「目的は場所じゃないの。人を探しているわ」
「……なんつーか、似たような話を聞いたな」
「???」
頭を抱える桜木に、かなでは首を傾げた。
「そうなの?」
「いや、まあ。まさかとは思ったけどな……偶然ってのは、案外起きるもんだな」
「なにを言っているの?」
「聞いていた容姿の特徴も同じだしな……ああ。俺が招待する客が一人いるって言っただろ? 多分、そいつと君は知り合いだ」
「あたしと知り合い?」
瞬間、ガラガラ、と引き戸が開けられた。
「あら、良い匂い。もう作って――」
かなでは突然やってきた客――横浜で出会ったゆりと目が合った。
「えええ⁉ かなでじゃない、どうしてこんなところに!」
「それはあたしのセリフでもあるわ……」
騒ぐ二人に、桜木は肩をすくめたのであった。
「――なるほどねえ。それで、春斗くんがかなでに料理を振舞った、と」
「とても美味しかったわ」
かなでは食べ終え、ゆりはご満悦そうに新たに用意されたぼたん鍋をつついている。
「また腕を上げたようね。かなでのお墨付きも貰えて、良かったじゃない」
「そうだな」
「最近どうなの? 調子は」
「早く成人したいところだな。銃の練習は出来ても、猟には出られないし」
かなでは水を飲みながら、ふと疑問を口にした。
「二人はどういう関係なの? もしかして恋人?」
「そうよ。将来のあたしの旦那さんなんだから」
「まさかの許嫁⁉ ゆりにそんな人がいたのね……」
ゆりがふふふ、と嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ええ、そうよ。弟に妹、春斗くんと世話のかかる人が回りに多くて、忙しいわ」
「おい、なんでお前に世話を焼かれなきゃならない」
桜木がやや不満げな声を上げる。
「そりゃそうじゃない。今はそうじゃなくても、将来的にはそうなるでしょう? 毎年死亡者が出る危険な仕事をやるって言っているんだから、このあたしがサポートしてあげないと」
さらっと言うゆりに、かなでは少し驚いたように顔を上げた。
「死亡者……?」
「事故とか、誤射でね。銃を持っていようが、獣はとても危険なのよ。反撃された獣に殺されたとか、命は無事でも顔の原型が無くなったとか、腕が無くなったとか。そういう悲惨な事故が常につきまとう仕事なのよ」
「ゆりはいいの? 好きな人が、そんな危険なことをするの」
ゆりはんー、と考えこんだ後、口を開いた。
「もちろん、心配よ。けどね、こうして本気でやりたいって言っていることは、応援してあげたくなるじゃない?」
「……そうね」
「だから応援するって、サポートするって決めたの」
そう言って笑みを浮かべるゆりに、本当に彼のことが好きなんだと、どこか温かな気持ちになれた。かなでの脳裏に、一瞬だけ夢の中で会うあの少年の陰がちらつく。
「それに、物は考え方よ。順応性を高めるの」
「順応性?」
「そう。普通のサラリーマンだって、業種によっては死亡事故が起きるような仕事に就くでしょう? 仕事に事故がつきものなんて、そう珍しい話じゃないわ」
危険度でいえば、命のやり取りが前提とした猟師の方が、大抵の仕事よりは上の気がするも――それを口に出すのは、野暮というものだろう。