内容はタイトル通り、ゆりルートの大幅なリメイクです。投稿してからああいう内容にすれば良かったなー、っていうのを形にした作品です。読み返すと気になる箇所が色々あったりするので。
そんな感じで作り手のエゴのような内容なので、不評だったら即削除します。
リメイク版 第一章「死後の世界」
人間の皮を被った、紛い物。
それが俺、桜木 春斗だ。
ロクな生前じゃなかった。
映画の主人公のように、裏社会で暗躍する人間で。
たくさんの人間を、殺してきた。
時には、正義のために。時には、制裁のために。時には、大いなる「何か」を成すために。
だけど……それは、俺の意思じゃなかった。
大人達にいいように洗脳されて、教育されて。
ただの都合の良い、人を殺すための道具だったんだ。
この手は血に汚れ。
最後は、任務にしくじって死んだ。
紛い物。ああ、俺は、人間ですらない、空虚な人間なんだ……。
そんな無念にまみれた、この汚れた魂は。
――死後の学園で、生徒会副会長として青春を謳歌したのであった!
……えっと。
どうして、こうなった?
★
順を追って説明しよう。
死んだあと、俺はとある世界で目覚めた。それが死後の世界、死後の学園――天上学園、と呼ばれる特殊な場所であった。
そこで白銀の美少女こと、みんな大好き(天上学園のみんなって意味な?)立華 かなでに出会った。
「なにしているの? 授業が始まるわよ」
「授業?」
「ええ。こっちに来て」
立華に連れられるがまま、教室へと導かれた。
どこまでも不気味な世界だった。見てくれは綺麗なマンモス学園だが、今日来たばかりの俺の席がきちんと用意され、生徒と教師は俺を認知している。
ええー、なんだここ? どういうことだ? つーか、白銀の女の子可愛いよなあ、なんてぼーっとしていると、若い男の教師に注意された。
「こらー、桜木! 立華が天使のように可愛らしいからといって、ジロジロ見るなよー」
「あ、はい。すんません」
なんて寒い会話が繰り広げられて(だって全員初対面だぞ?)クラスメイト達は笑った。
授業後。俺は立華を追いかけた。
「なあ、おい」
「なに?」
「説明してくれないか。なんなんだ、この世界は」
「ここは死後の世界よ」
「……まあ、それはそうだろうが。聞きたいことが山ほどある。というか正直、混乱している」
「無理もないわ。この世界に来た人は、みんな最初はそうなのよ」
「立華に見とれるのもか」
「それはあなたが初めてだわ」
「そうか。なんか、悪いな」
「どうして謝るの?」
「いや、なんとなく」
よくわからない会話をかわしつつ、俺は立華を質問攻めした。
★
この世界の生徒と教師は、作り物なのだという。
いわば死後の世界にだけ存在する、NPCのようなものだ。
実際、彼らをNPCと呼んでいる奴らがいるらしい。
そう……俺以外の、生前がある人間だ。
この世界にはたくさんの、迷える若き魂がやってきているのだ。みな一様に凄惨な生前を送っており、強い未練を残している。
ここは、そんな悲しい魂を救う、慈悲深い学園なのだという。
学園生活を頑張れば、晴れやかな気持ちで卒業――つまり、来世は踏み出せるのだという。
なんか、美しいような、胡散臭いような、微妙な世界だな
「にしても、本当に死んだ身とは思えないな……」
大食堂で美味しい肉うどんを食べながら、俺は呟く。腹も減るし、ここは生前の世界をよく再現している。
……人殺しの道具だった俺は、生前、学校なんてものに通わせてもらえなかった。
せっかくの機会だ。学園生活、うんと堪能してやろう。そして、来世へ一歩踏み出すんだ。
そうして、毎日勉強して。空々しい生徒と教師(まあ、生徒の中には本物の人間も混じっていたりするが)と過ごして、学園行事もこなして。
活躍が認められた俺は、立華率いる生徒会の副会長になって。
めでたく「五年」の月日が流れた。
★
「――って、いつになったら卒業出来るんじゃああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
「あら、桜木くん。どうしたのかしら、いきなり大声を上げて」
場所は生徒会室。俺は断固として抗議の声を上げる。
「立華! 話があまりにも違う!」
「なにが?」
「俺、成仏出来ねえじゃねえか! 普通に学園生活満喫しているだけじゃねえか!」
「大丈夫よ。時間はあるわ」
「時間しかねえんだよ⁉ もう五年だぞ、五年! 高校を留年しすぎ! 現実だったら出費がすごすぎて親が血の涙を流すっての! 「23歳、学生です」「あ……(察し)」みたいな感じになっちゃうから!!!」
「この世界に親はいないでしょう?」
「知っているっての! 例え話だよ、この天然が!」
「あなたがボケたからツッコミを入れたのよ?」
「ボケてねえええええええええ!」
「なんでやねん」
「漫才下手くそかよ!? てか、そもそも俺達は漫才をしていない!」
「そう。ところで、お願いがあるのだけれど。この書類作業を手伝って」
ぼん、と大量の書類が机の上に置かれる。俺はプルプルと体を震わせた。立華は首を傾げる。
「桜木くん?」
「……られるか」
「???」
「やってられるかああああああああああああ!!!!!」
俺は書類をぶん投げて、生徒会室を出て行った。
「……手伝ってほしいのに」
立華が後ろでしょんぼりしていたが、知ったことか。
★
大食堂ではカリスマバンド「Girls Dead Monster」のゲリラライブが行われていた。通称「ガルデモ」と呼ばれるこのガールズバンドは、演奏と歌の技術が高いのはもちろん、四人とも綺麗どころの女の子ということもあり、とても人気を集めている。
この世界のNPCはミーハーな奴らである。やれやれ。
「――♪ いいさここらでちょっと 甘い物 食べていこう」
「FOOOOOOOOOOOO♪ ガルデモ最高!!!!!! はあい、はあい、ううううううううううううううううううう、はあい!!!!」
あ、合いの手入れて盛り上がっているのは、俺です。どうも、桜木 春斗です。
いやだって、ガルデモはかっこいいし、可愛いしな? 全員推せるだろ?
それに……この天上学園、娯楽が少なくてな。どうにもミーハーになっちまう。
ライブが最高峰の盛り上がると、大食堂に大型扇風機による暴風が荒れ狂う。食券が雪のように、外にまで舞い上がった。幻想的な風景だ。
「……」
ふと、脳裏に立華の姿が浮かび、窓から外の様子を見た。
そこに広がるのは――非日常。透き通るような異能の刃を、腕から生やした立華は茫然と立ち尽くしていた。そんな彼女から逃げるように、銃を武装した生徒たちが大食堂へ向けて走り出す。
「よし、オペレーション成功! 食券回収だ!」
「っしゃあ! さすがに五年も経てば、成功率もちったぁ上がるな!」
「うむ。俺達も強くなったものだ」
「そうだね! ゆりっぺも喜ぶよ!」
「Come on,let's dance!」
「ふん。めでたい奴らだ。この程度ではまだ、あいつの願望は達成されない……」
「浅はかなり」
「ひいぃ⁉」
「あなたはいつになったら、椎名さん恐怖症が治るのですか……」
武装した生徒達は賑やかで、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら食券を回収している。
死んだ世界戦線――神への復讐、その最前線に立つ部隊。
彼らは学園生活に参加しないアウトローで、この世界で反逆活動を行っている。制服もオリジナルのものを着こんでいる。その活動は、いわゆるレジスタンスだ。学生かと思いきや、武装はかなり本格的。ナイフからアサルトライフルまで、多種多様だ。この世界で一体、どこからそんなものを手に入れているのか。人員の募集などはかなり大々的に行われており、この世界の人間を、つまりは生前のある魂を積極的に集めている。リーダーである女の子はスタイルの良い美人ということもあって、ちょっとした有名人だ。
そして……立華 かなで。
生徒会長である彼女は、彼らと戦っている。異能の刃を使う、人間離れした圧倒的な武力でもって。
「何者なんだ、彼女は……いや。この世界は、一体なんなんだ」
俺は……もう、戦いたくなんて、ない。
暴力は、もうこりごりだ。あんなもの、憎しみの連鎖しか生まない。人を殺すのは、傷つけるあの感触は……もう、味わいたくない。
五年経っても……人を殺した時の、血の温もりが。残虐さが。悲鳴が。脳裏を、掌から、消えてくれない。
だけど……どうしても、気になってしまう。この世界で戦う彼らが。立華の目的と正体が。この世界の、真実が。
「ん?」
立華、戦線メンバーが撤収したその時。
一人。戦線のリーダーである、リボンのカチューシャが特徴的な女の子が、外へ駆けだしたのだ。
それはイレギュラーなことであった。というのも、これは死んだ世界戦線の作戦は――彼らはトルネードと呼んでいるらしい――食券を回収し、飯を食べるものなのだ。だから、この戦線のリーダーである少女……仲村 ゆりがここで外へ出るのは、妙な動きである。
なんだろうか。
あの少女、美人であるが……生前の勘が、彼女は危ういと警告する。あの手のオーラを放つ人間は、なにかとんでもないことを成そうとしている。
だから近づかないように、戦線なんてものには関わらないようにしていたのだが……この時の俺は、卒業出来ない苛立ちと、正体不明な立華への不気味さがぬぐえないことから、つい後を追うという選択をとってしまった。
★
「待ちなさい、エネミー!」
森の奥。仲村 ゆりが妙なことを叫びながら、銃音を放つ。夜で視界が悪いから、いまいちどうなっているかわからない。
「なんだ……?」
木の陰に隠れる。妙な光景が目の前に広がっていた。そこには立華と同じ、異能の刃を生やすNPCが仲村 ゆりと対峙していたのだ。
「――目標を確認。神の反逆者への粛清を開始します」
「粛清? あなた達は、一体……? 天使の仲間? それとも……」
NPCは問いかけに答えず、無表情で仲村 ゆりに襲い掛かる。
「……! 早い!」
仲村 ゆりは銃を捨て、ナイフを構える。良い動きでナイフを振るうも、いかんせん動きが明らかに素人。大振りなそれは呆気なく弾かれ、ナイフは宙を舞う。隠れる俺の横に、ナイフが突き刺さった。ゆりは最後の抵抗で肉弾戦を挑むも、NPC蹴り飛ばされ、呆気なく地面を転がりまわった。
「がはっ……! くっ、こんなところで……!」
見ていられなかった。俺はナイフを引き抜く。
戦うのか。この手で。血に汚れた、この手で。
脳裏に横切る、残虐な光景。フラッシュバック。手のひらに汗が滲む。
「はあ、はあ……!? なんだ、これ……」
トラウマってやつか。息が、ひどく、乱れる。
この五年間でわかった。作り物の、紛い物な死後の世界でもわかった。この学園生活で俺の人生は、あまりにも異常だったと強く実感したのだ。十代にして、人を殺す機械に、あまりに染まりきっていたのだ。
十代の男女は、恋愛したり、スポーツをしたり、将来の夢を見たりして、毎日を過ごすのだ。笑顔で、最高に弾けてな。
だから……嫌だ。戻りたくない。だけど。
目の前で、あの仲村 ゆりが傷つくのを見るのは――どうしてか、見たくなかったから。どういうわけか……守りたいって、強く思ったから。
だから、駆ける。
五年のブランクはある。それでも……いける! 動ける!
「させるかあああああああ!」
俺は二人の間に入り込み、NPCの異能の刃をナイフで受け止め、弾く。NPCは顔を少ししかめて、距離をとる。俺はナイフを構える。当時の感覚が蘇る。ピリピリと焼けつくような緊張感。これが命のやり取り……ああでも、俺は死んでいるんだった……。ちなみにこの死後の世界で死んでも、時間が経てば蘇ることが出来る。死ぬ痛みは味わうが。
「誰……⁉ NPC?」
「生徒会副会長、桜木 春斗だ! ここの生徒なら把握しとけっての」
「桜木 春斗……?」
「思い出したか」
「ええ。さっぱり知らないわ」
「知らねえのかよ!」
「だって、興味ないもの。神への手がかり以外はね」
「なんだよ、それ⁉ まあいい、さっき言っていた、エネミーってのはなんだ。あのNPCは何者なんだ?」
「そんなの、こっちが聞きたいわよ。というかあなた、もしかして……人間なの? でも、副会長をやって消えないなんてこと、ありえるのかしら……???」
混乱とした会話を繰り広げている間にも、NPCが襲い掛かってくる。俺はナイフでそれをさばきながら、叫ぶ。
「くそが! 話はあとだ、仲村ゆり! この場は逃げろ!」
「え、援護するわよ!」
銃を構える仲村 ゆりを怒鳴りつける。
「俺の背中を撃ち抜いて終わりだ! いいから逃げろ!」
「うっさいわね! 人を足手まといみたいにいわないでちょうだい!」
「なんだよ、お前⁉ 弱いくせいに頑固だな!」
「あたしは戦線のリーダーよ!」
「強がりなやつめ! 余計なことはするなよ!」
キィン、キィン! と壮絶な白兵戦を繰り広げる。立華と比べるとかなり弱いが、このNPC。中々に手強い……!
仲村 ゆりは銃を構えながら、呟く。
「良い動き……まるで、椎名さんのよう。けれど、タイプが違う……人間離れしたフィジカルというよりは、無駄のないプロフェッショナルな技術……」
ブツブツなにか言っているが、お前なにも役に立ってないからな。むしろ的が後ろにいてヒヤヒヤする。
「もらった!」
俺は隙を突いて、NPCの胸にナイフを突き立てる。NPCは苦悶の表情を浮かべた。
「ダメージ、規定数を超過。スリープモードへ移行します」
無機質にそう言い放ち、「0」と「1」の黒い数字を放ちながら消えていった。
なんなんだ、こいつは一体……。
疲れた俺は、その場でぺたりと座り込んだ。さすがに、体力は落ちているな。あの時ほどの強さは、今の俺にはない。
「やった、の……?」
「ああ。なんとかな。疲れた……」
「すごいわね、あなた。その強さ、気に入ったわ」
「なに?」
なにやら上から目線でなにか言われた気がするが、仲村 ゆりの相貌はどこかキラキラと輝いていた。ふふふ、と少しあくどい笑みを浮かべている。
「あたしは仲村 ゆり。戦線のリーダーをやっているわ。仲間からはゆり、ゆりっぺって呼ばれているわ」
「ああ。知っているよ、あれだけ大体的に勧誘していればな」
「あら、そう? なら、話は早いわね」
ゆりは座り込む俺を覗き込みながら、手を伸ばしてきた。月明かりを背景にしたその彼女の姿は、ひどく愛らしくて、きれいで――惹き込まれた。
どうしようもなく。彼女に、見惚れたのだ。柄にもなく。
「――死んだ世界戦線に入隊してくれないかしら。桜木 春斗くん?」
死後の世界で、たくさんの魂を見送る、立華かなで。
死後の世界で、卒業に抗い神へ反逆する、仲村 ゆり。
そしてゆりの思想に賛同する、戦線のメンバー。
この時の俺は、なにも知らなかった。
最初に言っておこう。この物語は紛い物だ。偽りの舞台。イレギュラーな空白を埋めるもの。そう。彼女達を始まりへと導く――春に至るまでの、物語なのだから。
★
第二校舎の屋上。爽やかな風を感じながら、キーコーヒーを手にグラウンドを睥睨する。部活動に励む生徒達。平和で、良い光景だ。
「――ふっ、このコーヒー。最上の、香りだ」
「こんにちは、桜木くん♪」
「ぶほっ⁉ ごほ、ごほ!」
「あら、なにむせているのよ?」
「またお前かよ。懲りないな……」
同じくキーコーヒーを片手に、ゆりが現れた。風に揺れる髪を抑えながら、こちらへ来る。ぐっ、いちいち絵になるな。可愛い。つーか、なんでこいつといると、俺は落ち着かなくなる。苦手なのか?
「あなたの口から「YES」と出るまで、何度だって現れるわよ」
「勧誘ねえ……俺はもう、戦いたくなんてないんだよ」
ゆりからの勧誘は、断り続けていた。神への復讐にも、興味はない。大体、ゆりの思想は危うすぎる。俺の勘は当たっていたのだ。どんな生前を送ったのかは知らないが、そんなことするべきじゃない。
……なんて、わかったようなことを言ったらダメか。こいつにはこいつなりの曲げられない信念があるのだろう。
「それとも、あなたの好きなガルデモメンバーに勧誘してもらった方がいいかしら」
「好きって、別にそんなじゃ……」
推していることが何故か恥ずかしくなり、そう言い繕うも、ゆりは言い放つ。
「この間ノリノリで「FOOOOOOOOOOOO♪ ガルデモ最高!!!!!! はあい、はあい、ううううううううううううううううううう、はあい!!!!」って合いの手入れていたじゃない。ファンの鏡ね」
「ぎゃああああああああ! なんか改めて言われると恥ずかしい!」
「んー、でもあの子達、色仕掛け出来るほど、妖艶さとは無縁なのよね……どうしたものか」
「待て。何故、色仕掛けの方向で話を進める」
「ハニートラップって奴よ。男が引っ掛かる定番の罠でしょう?」
「いやいや、ガルデモの気持ちを考えろよ! うら若き女子高生に色仕掛けなんてさせるな!」
「アンタ、あの四人の中で誰がタイプなのよ?」
「話聞いてねえな! あと、推しを恋愛感情と結びつけるな。そういうのとは違うっての」
「あら、そうなの?」
「あの四人は、なんだろうな。俺にとって神様みたいなものだからな」
「へえー。神様」
「そうだ、神様だ」
「ようするに、崇拝しているってことかしら?」
「そう。だから、女の子としての好きっていうのとは、また違うんだよ」
「ちなみに。ガルデモは昨日のライブを最後に、活動休止するわよ」
悲報。神は死んだ。
「何故⁉ いきなりすぎるだろ!」
「色々あったのよ」
「マジかよ⁉ 衝撃的だよ! ずっと五年間活動してきたのに、ここにきてグループ内のもつれとか、そういうのがあるのか!」
「違うわよ。ガルデモは仲良しよ……多分」
「多分⁉」
「ほら。あたしがエネミーって言ったNPC、いたでしょう」
ゲリラライブを囮に、食券を巻き上げるオペレーション「トルネード」の夜を思い出す。
「ああ」
「あいつら、戦線メンバーを狙うのよ」
「狙う?」
「殺すのよ。あの異能の刃で。何人ものメンバーが、もう犠牲になっているわ」
「そんな……⁉」
「幸い、ガルデモはまだ被害に遭っていない。けれど、目立ったことをすれば狙われる可能性が高くなる。苦渋の決断よ」
「なるほど。それは仕方ないな」
ガルデモメンバーが串刺しになるなんて、想像もしたくない。
「許せないわ。くっ、散っていったあいつらの仇をとるためにも……!」
「そいつら、どうせピンピンしているんじゃないか?」
「え? そうですけど、なにか?」
死後の世界で、死ぬとか命がけとかは、ブラックジョークとなる。さあ、笑え。
「にしても。エネミー、か」
「RPGとかソシャゲに出て来る敵をイメージしたのだけれど」
「まあ、わかりやすいんじゃないか? NPCとエネミー。はっ、笑えねえ」
なんて皮肉ネーミングだよ、どっちも。ゆりのセンスは基本、神への反逆心が伺える。
「で。協力してくれないかしら?」
「なにを」
「そうね。とりあえずは、エネミーについて調べたいわ」
「また、あいつらを追うってことか」
「ええ、そうよ。あなたは良い用心棒になる」
「けど俺は、もう戦いは……」
「エネミーによる事件が解決すれば、ガルデモは活動再開が出来るわ」
「ゆり。俺はなにをすればいい?」
秒で揺らいでしまった。迂闊。こいつ、口上手いな。
「あたしと共に調査に協力してちょうだい。万が一奴らに襲われたら、悔しいけれど、今のあたしじゃ太刀打ち出来ない」
「妙なことを言うな」
「なにがよ?」
「いや、な。お前らの戦い見ていると、一人だけすげえ強い奴いるだろう。女の子」
「椎名さんのことね」
「名前は知らねえけど、あの子。はっきり言って、最強だぞ。正直、俺より強い。用心棒としてはあの子が最高なんじゃないか」
謙遜とかではなく、それは事実であった。彼女は人間とは思えないほどの動きをする。
「そうね。けれど椎名さんには、欠点があるのよ。いえ、椎名さんというよりは……我が戦線の、欠点ともいえるわね」
「なに……? それは、一体?」
「アホなのよ」
俺は思わずずっこけた。
「なんだよそれ!?」
「こういう頭を使う任務には向かないってこと。対してあなたは、副会長になれるくらいには、頭が良いみたいだし。文武両道で適任じゃない?」
「それはどうも」
「それに、アンタにはもう一つ頼みたいことがあるの」
「なんだよ?」
ゆりはキーコーヒーを開けながら、真っ直ぐに告げる。
「あたしを鍛えてほしいわ」
★
「おっらあああああああ! 今度こそおおおお!」
「そーれぃ」
「うわああああああ!?」
場所は柔道場。模擬ナイフを片手に襲いかかってきたゆりを投げ飛ばす。畳の上をゆりがごろごろ転がりまわる。
「くっ……! まさか、一発も攻撃通らないなんて……!」
ゆりに頼まれ、俺は鍛錬の指導に付いていた。ゆりの動きは運動神経が良いものの、完全に素人。かつて命のやりをしていた俺に敵うはずがない。
そして訓練となれば、優しくすることは出来ない。強くなる、ということは厳しく難しいものだから、容赦もしない。
が、時刻は六時過ぎ。さすがのゆりも二時間以上投げ飛ばされたり、模擬ナイフで体を痛めつけられ続ければ、文句の一つも出た。
「というかアンタ、本当に容赦ないわね⁉ 普通、女の子をこんな容赦なくボコボコにする? 体に傷がつくわよ!」
「都合の良い時だけ、女の子であることを持ち出すな。強くなるのは、それだけ甘い話じゃないってことだ」
「ぐっ……」
「嫌なら、やめた方がいいんじゃないか」
「……いえ。やめないわよ、続けるわ。それに傷なんて、この世界じゃ一日経てば治るのだから」
ゆりは根気強かった。いや、むしろ少し根気強すぎると言ってもいいくらいだ。鬼気迫るものがある。正直、厳しくして諦めさせるつもりだったのだが。
「なんでそこまでして強くなりたい?」
「戦線のためよ。白兵戦で、天使を足止めするくらいには、最低限なりたいものね」
「あの立華とか……かなり厳しいぞ」
「わかっている。そしていずれは……」
「いずれは?」
「神をワンパンする」
「お前はなにになるつもりだ⁉」
ゆりは模擬ナイフをぐっと握り、前へ勢いよく踏み出す。が、苛烈な訓練がそうさせたのか、その疲労はかなりのものとなった。ゆりはその場で足をもつれさせ、ふらふらとバランスを崩す。
俺はすぐさま駆け寄り、ゆりを両手で抱き止めた。ふわり、と何故か甘い香りがする。そしてこうして受け止めると、ゆりの体つきが女の子らしく、柔らかで華奢であることがわかる。よくこれで、あれだけ動けるものである。
「あ……」
「大丈夫か?」
「え、ええ。ごめんなさい」
ゆりは慌てて離れて、柔道場の時計を見た。
「もうこんな時間ね。お礼がしたいわ、食券をおごってあげるわよ」
「トルネードで巻き上げたやつか」
「あら、よく知っているわね」
あれで食券巻き上げられたことがあるからなあ。よく知っているよ。まあ副会長権限で、予算は多めに貰っているから良いんだけど。
★
大食堂でゆりはえび天を、俺は親子丼を食べていた。
「んー。やっぱり正式なメンバーになって、みんなを指導してもらいたいのだけど。アンタ、教え方も上手だし」
「俺みたいな生前のやつは、中々いないのか」
「そうね。椎名さんの技術はあまりに専門的だから、参考にならないのよね。人に教えるっていうことが、出来るタイプでもないし」
「まあ、あれは誰にも真似出来ないだろうな……」
生前相まみえることがあったら、椎名のような敵は逃げるに限る。あんなの敵うはずがないのだ。
会話をそこそこに、俺達は夕食を食べ終える。大食堂のメニューのクオリティは相変わらず高い。
「さて。桜木くん、明日も頼んだわよ」
「ああ。わかった」
それにしても、流されるがままゆりの鍛錬に付き合うことになったな。まあ別に、嫌ではないのだが……。上手く使われている感が、否めない。それに何故だか、それにまんざらじゃない気がする俺もいるのだから、不思議なものである。
★
ゆりとの鍛錬は連日続いた。上達スピードは著しいもので、その成長は凄まじいものであった。ありえない勢いだと評してもいい。
「今度こそ!」
振り上げられた模擬ナイフと模擬ナイフを合わせながら、俺達は模擬戦を繰り広げる。元から身体能力が高く、センスのあるゆりは早くも強くなっていた。並の男であれば秒殺出来るくらい、白兵戦の能力が高まっただろう。
……まあそれでも、俺にはまだ及ばないわけなのだが。
「ぐふう!?」
俺に投げ飛ばされ、ゆりはすごい声を上げる。それでも心が折れない彼女は、すぐ立ち上がり果敢に攻めて来る。
瞬間、ゆりはハイキックを放った。思わず、俺は息を飲む。制服のままであったから、スカートの中にある、魅惑的な布が見えたのである。白であった。可愛い。あと太ももめっちゃきれいだ。太ももフェチの気持ちがわからないでもない。このムチっとした魅惑のエリアに、興奮せざるをえない――。
「もらったあああああああ!」
「ぐほう!?」
見惚れた俺は隙だらけだったようで、ゆりの一突きをもろに食らってしまう。ゆりは嬉しそうにガッツポーズをとった。
「よし、まずは一本! さすがはあたしね」
いや、パンチラのせいだったのだが……。
とはもちろん言えず、俺は大人しくその場でしばらくうずくまっていたのであった。
★
ゆりは上機嫌そうな様子で、大食堂でうどんをすすっていた。まあ、訓練のモチベーションを上げるために一本とらせるのも重要か……って、なんで俺がゆりのモチベーションを気にしなきゃならないんだって話なのだが。
そもそも、これは神(ガルデモ様)を取り戻すための戦い。鍛錬はオマケにすぎないのだ。なんかメインになりつつあるのは、気にしないようにしている。
「一つ。聞きたいことがあるのだけれど」
「なんだ?」
「生徒会副会長として。この世界で、なにか最近おかしなことってなかったかしら?」
ふうむ、とそばを掴む箸の動きを止める。
「いや。とくには」
「そう」
「何故、そんなことを聞いた?」
「襲われているのが、戦線メンバーだけなのかということを、たしかめたかったのよ。以前、この世界にも通り魔が発生した。男の子を対象としたね。その時、天使はこの事件を認知していたの。だから、NPCにも被害が出ていたら、あなた達が気づくだろうって」
「通り魔、ねえ。そんなことがあったのか」
「あたしも一回目の時は、まだこの世界にいなかったから知らなかったけれど。そういう物騒なこともあったのよ」
「なあ、NPCって殺したらどうなるんだ?」
「あたし達と同じよ。死なない。時間が経てば蘇る……らしいわ。まあ、実際に見たわけじゃないから、断言は出来ないけれど」
まあでも、この世界の仕組み的には、それで正解なのだろう。にしてもそば美味い。
「――よ、お二人さん! 同席いいか?」
「やあ、ゆりっぺ! 偶然だね!」
どこかノリが軽そうな男子生徒と、印象の薄い男子生徒がトレイを持ってやってきた。
「あら、あなた達。いいわよ」
ゆりがそう言うと、二人の生徒が同席した。俺から見て対面にノリが軽そうな男子生徒が座り、隣に印象の薄い男子生徒が座った。
まあ、何度か見たことはある。戦線の制服を着て、トルネードで銃を撃っているメンバーだ。おそらく主力なのだろう。ノリが軽そうな男子生徒に関しては、服越しでも体が鍛え上げられていることが伺えた。
「紹介するわね。こっちのちゃらんぽらんが日向くん、特徴がなさそうなのが大山くんよ」
「ああ、よろしく――って、紹介の仕方がひどすぎませんかねえ⁉」
「あはは、よろしくね、桜木くん。副会長さんですごく強いんだよね、すごいや」
俺は首を傾げる。
「俺のことを知っているのか」
これには日向が答えた。
「まあな。むしろ、今や有名人と言ってもいいくらいだ!」
「でも、ゆりは俺のことを知らなかったぞ?」
「おう。俺達も最近までは知らなかった」
いや、お前らもかよ。どんだけ生徒会に興味ないんだ。立華にしか目がいかないのか。
「それなのに、有名人?」
「ああ、そうさ。なにせ毎日のようにゆりっぺと二人きりで会っている。飯も一緒に食べているんだぜ? 意外や意外、あのゆりっぺにも春が来たんじゃねーかって、戦線の間じゃもっぱら噂なんだぜ?」
なんて恥ずかしい噂なんだ!
ゆりは顔を引き攣らせた。
「お前ら……なに好き勝手言っているのよ」
「え? 違うのか?」
日向が言うと、ゆりは大声を上げた。
「あたしがそんなに浮つくはずがないだろおおおおおお!!! 神への復讐心で頭はいっぱいなんだああああああああ!」
「えー? んだよ、つまんねーな」
日向が本当につまらなそうに言うが、大山は「あはは。まあ、だよねー」と声を上げた。
ゆりはふん、と鼻を鳴らす。
「ああ、それと。他人事のように身構えているけど、近い内に、アンタ達にも地獄を見てもらうからね♪ うふふ♡」
「うわあ。ゆりっぺ、目だけ笑っている……日向くん、僕、すごく嫌な予感がするよ」
「んだよ、なに企んでんだよ」
「戦線は創立五周年。まだ、戦力不足が否めない。特に、個人の能力がね。桜木くんは生前、白兵戦や銃撃戦を経験しているから、彼の技術を盗むのよ。つまり、戦線式地獄の大特訓を実施予定よ♪」
日向が顔をさあああっ、と青ざめる。
「またあれやんのかよ! クソ! おい、桜木! いいか、よく聞け! こいつはな、ひでー奴なんだぞ!」
「なによ! 桜木くんに変なこと吹き込もうとしないでよ!」
「この世界に来たばかりの時な、こいつ、俺のことを屋上から突き飛ばしたんだぞ!」
「必要なことだったのよ! 仕方ないじゃない!」
「ふざけんなよ! いっそ自分から飛び降りろよ!」
「嫌よ! 痛いじゃない!」
「俺だっていてーよ! ものすごくな!」
「男の子なんだから我慢なさい!」
「男の子なら屋上から飛び降りていいなんて、どんな発想だよ!」
ぎゃーぎゃー騒ぎ立てる二人に、俺は苦笑いを浮かべた。大山がフォローするように、俺へ声をかける。
「あはは、なんだかごめんね。うるさいかな」
「ああ、いや。なんだろう、すごく不思議だ」
「不思議?」
「こうしていると、普通の高校生に見えるからな」
大食堂でぎゃあぎゃあ騒ぐなんて、まさに十代の男女そのもの。
そこだけを見れば――凄惨な生前に苦しみ、理不尽な人生を強いた神への復讐を燃えているとは、思えなかった。
★
お腹も膨れ、俺達四人は大食堂を出た。気が緩みかける瞬間だが、ガランガラン! という重厚な金属音が辺りに響いた。
「……なんだ?」
俺が音の方を振り向く。三人の視線も向いていた。
「行きましょう……嫌な予感がするわ。三人とも、武器を構えて」
いや、俺は持っていないが――そう言おうとした瞬間、ゆりから拳銃と折り畳み式のナイフを渡された。
「持って」
「……わかった」
「頼りにしているわよ」
クソ。あんまり持ちたくないが、仕方ない。あとゆりに頼られるの、すごく、こう、むずがゆくなる。何故だ。
俺達三人は慎重に進む。瞬間――戦線の制服を着た男子生徒が、大量の血を流して絶命しているのが見えた。その側には大型の武器、ハルバートが転がっている。
「野田君!? ううっ、ひどいよ!」
大山が心配そうに駆け寄る。日向ははあ、とため息をついた。
「また、野田かよ……これで二回目だぜ」
野田は血に濡れた手で「おれはつよい」とダイイングメッセージを残していた。
「あとその説得力ねー天丼ネタはいいですから。あなたやられ役ですから」
日向がなにやらツッコミを入れているが、よくわからない。あとこいつ、ツッコミ入れる時、丁寧語になるのが癖なのだろうか。
「あの金属音は、ハルバートを落とした音。だとするなら、犯人はまだ近くにいるはず。追うわよ! 二手に分かれて!」
ゆりが叫ぶと、日向が「了解! 大山、行くぜ!」と言って、大山「うん! ゆりっぺ、桜木くん、気をつけてね!」と二人は駆け出していった。
「行くわよ」
「ああ」
夜の道をゆり共に駆ける。だけど、エネミーは逃げ足が速かった。痕跡も見つけられず、俺達は犯人を捕まえることが出来なかった。
ゆりは銃を構えながら、重いため息をつく。
「……粛清」
エネミーが口にしていたことを、呟く。
「神は、あたし達の存在を許さないというの……?」
複雑な、けれど強い感情をもって口にする。
俺は考え込みながら、ずっと思っていたことを言った。
「なあ。本当にこれ、神の仕業なのか?」
「他に誰がいるっていうのよ」
「神ってのは、わからんが、全知全能だろ」
「さあ? 実際、どうなのかしらね」
「だとしてもよ。これだけの世界を作れる存在だぞ。大いなる力を持つ者のわりに、お前らの抹消の仕方が遠回しすぎる」
死なない世界で、エネミーなんてものを作って、殺させる。いたぶる。だけど、考えようによっては現状、それだけで話が止まっているのだ。粛清、なんていう大層な言葉を使っているわりには、随分と地味すぎる気がした。
「……まあ、あたしも違和感は覚えていたのだけれどね」
ゆりが肩をすくめた。
「というのは?」
「神の味方というわりには、天使と共闘することがないのよ。エネミーがやるのは、あくまでも戦線メンバーの暗殺だけ。けど、妙じゃない? 味方同士なら、共闘すればいいじゃない。
それに、天使はこんなにも好戦的ではない。あの子はあくまでも、学園の秩序を守ろうとする存在。対して、今回のイレギュラーはあまりにも残虐性が高い。完全に、あたし達への攻撃が目的となっているわ」
「つまり、立華と思想もアプローチが違うってことか」
「そういうこと。両者は味方同士ではないのかもしれないわ」
「だけど、神じゃねえとすると、一体だれがこんなこと出来るんだって話になるのか……」
ゆりは「そこなのよね」と言って、ため息をついた。
「一体、この世界になにが起きているのかしら……」
その問いかけに答える者は、いなかった。
★
そこは複数のPCモニターに囲まれている、地下室であった。地面にはところせましと、導線が血管のように張り巡らされている。
モニターには常に複雑な数式が表示され、絶えずデータ処理が行われていた。ソフトウェアの名前は――ANGEL PLAYER。この世界に直接関与し、マテリアルを想像する特殊なプログラミング言語だ。
エネミーの視界を映すモニターも存在しており、その一つをじっと見つめる少年がいた。
「くくく。やはりこれだけの施設があれば、最強だ」
やや痛々しい――というか、端的に言えば中二病な雰囲気を醸し出すその少年。白銀の短髪に、白い肌。すらりとした長身。左目には伊達の眼帯を巻いていた。
モニターには一人の少年――桜木 春斗が映る。
少年はにやりと笑みを浮かべ、大仰に手を広げた。
「カウンターか。だが、僕の敵ではない」
立ち上がり、彼は近くにあったキーボードを打ち込んだ。刹那――彼の側に黒い「0」と「1」の数字が沸き上がり、集結する。黒い闇は瞬く間に、この世界のNPC、男子生徒の姿となった。だが、その正体は――エネミーだ。
少年はポケットから写真を取り出す。真ん中に映るのは少年で、左と右には男子生徒と女子生徒が映っている。三人はとても親し気で、肩を組み、笑顔を浮かべていた。
「……あと少しだ。あと少しで、この世界を永遠の楽園に出来る。君の望んだ世界に出来る。あの子とも、君は再会出来る。そうでなくてはならない」
少年は写真を仕舞い、力強く宣言した。
「ANGEL PLAYERの力で。僕は、神になる」