ちなみにこの辺り、原作設定とオリジナルがごちゃごちゃになっています。原作通りの設定はこんな感じ。
・ダンジョンに武器がある=過去に戦いがあった(コメンタリー出典)
・立華が「ある生徒」によってANGEL PLAYERを託された(1st beat出典)
・無限ループで戦いが繰り返されている??? 脚本家様の没プロット(アナザーエピローグ出典)
・ANGEL PLAYERの創造者はNPC化(TVアニメ版出典)
ゲーム版が進めば、もう少し世界の真相とか、謎の少年の過去が明かされたかもしれませんね。
一応確認で、オリジナルはこんな感じ。
・ANGEL PLAYER創造者に岡田緑(オリキャラ)という親友がいた。
・立華以外にも、ANGEL PLAYERを託した人物がいた。
・謎の少年の正体は、愛する者を再現するための愛玩具だった。(リメイク版ではもうちょっと後で明かされる)
この話はリメイク版ということで、真相は同じですが……オリ主の桜木 春斗の生前と性格が本編とやや異なるので、心情と動機に変化があります。
では、本文をどうぞ。
夢を見た。
だからこれは、本当の出来事じゃないのかもしれない。
俺が罪の意識から逃れたいがために見た、幻覚なのかもしれない。
だとしても。その光景は現実に起きたことだったと、俺は思いたい。
季節は、春だろうか。快晴で、休日の都会だった。人込みが多くて。その中で、空と見知らぬ少女が歩いていた。
二人はとても幸せそうで。きっと、恋人同士ってやつで。
紛い物じゃないのだとしたら。これが本物なのだとしたら。
空は、生まれ変わった先で報われたのだと思いたい。
……もちろん、わかっている。転生したら、桜木 空は桜木 空ではない。彼の人生を歩めるのは、彼だけなんだ。生まれ変わったら、それは別の「誰か」だ。
だけど。そうだとしても、空の魂は救われたんだって。
そういう風に、思えるから。前向きになれるから。
何故かって? だって、勇気を出して、この世界から来世へ一歩踏み出したのは、空……いや。この学園の、生徒達なのだから。
その思いだけは、消えていないから。
★
また、夢を見る。
いつか見た夢と、同じだ。
ゆり達が卒業式をしている――なにか、この光景には意味があるのか。
この夢には、意味があるのか。
何故、何度もこの夢を見るんだ。
この光景に、どうして俺はいないんだ。
手を伸ばす。前へ向けて駆ける。それでも光景は変わらない。むしろ、ゆり達から遠ざかるばかり。
瞬間。黒い影が、俺の全身を包み込んだ。
息苦しさ。呼吸さえ怪しくなった。
「――ようやく、ここへ辿り着きましたね」
声がした。透き通るような、少年の声だった。
苦しみから解放されえる。辺りは、どこか不気味な光景であった。無数のモニターがならび、床には無数の黒いコードが血管のように張り巡らされている。
「……ここは? 誰だ、あなたは」
「一つ目の質問に答えましょう。ここは第二コンピューター室です」
「は?」
「もう一つ目の質問には、その答えを明確に示す言葉が、僕の中にはありません。説明したところで、今のあなたには理解できないでしょう。何故なら、ここは本来、自分の力で辿り着いた者によって、導かれる場所なのですから」
「???」
「ですが、これだけは言えます。あなたはここへ、導かれるべくして導かれた。夢という形で、ね」
「っ⁉」
俺は息を飲んだ。
夢。夢、とこの男は言った。
「お前……俺が、今夢を見ていることがわかるのか!」
「ええ。何故なら、ANGEL PLAYERがあなたをここへ導いたからです」
「ANGEL PLAYER……?」
「この世界のマテリアルへ直接関与出来るソフトウェアの名前です」
バカな。この男は、なにを言っているんだ。
「万物を創造出来るっていうのか? こんなコンピューターソフトが? ふざけんな。そんなの、神の力じゃねえか」
「神に近づける力、と評するのが適切でしょう。現に、これを作ったのは神ではありません。人です。故に、ソフトウェアの名前はANGEL PLAYERなのです。神に至る力にはなりえない」
「全く意味が――」
はっとする。エネミー。NPCに見える何者かが、戦線を襲っている。
「ようやく、少しは事態を把握出来たようですね」
「待てよ。つまり……戦線を襲っているのは、人間ってことか?」
「ええ。岡田 緑。この世界が分岐した原因、すなわち「イレギュラー」です」
「……は?」
「そして、あなた。桜木 春斗。分岐した世界を修正するために呼ばれた存在。すなわち「カウンター」です」
★
謎の少年は落ち着いた声音で、淡々と喋る。機械の無機質に、まるで作業をこなしているかのようだった。
「順を追って説明しましょうか。まず、ANGEL PLAYERの正体です」
辺りの場面が変わる。ギルド――に見えるが、違う。整備されていない地下通路。
「かつて戦線が「ダンジョン」と呼んでいた場所です。ご存じですか?」
「……話だけは」
戦線の鍛錬に付き合っていた時に、創立時の話を聞いたのだ。
ダンジョン。つまり、地下はゆり、日向、大山、チャー、野田、椎名の初期組がいた時点ですでにあったらしい。また、ダンジョンには剣や斧といった武器が置いてあった。これは余談だが、野田が今持っているハルバートはそのダンジョンで拾ったものなのだ。
で。どちらかというと、武器が置いてあった、という事実が重要だ。
武器が必要な奴が、そこにいた。武器はたくさんあったから、そういう人間が複数いたことになる。つまり、なにかの戦いがあったのだ。ゆり達が戦うよりも前に、何者かがこの世界で戦っていたのだ。
「今は「ギルド」になっていますね」
「何故、ギルドじゃなくてダンジョンを俺に見せた」
「ANGEL PLAYERの創造者が、この世代だからです」
「……世代? ゆり達の前に戦っていたかもしれない魂達ってことか」
「その通りです。カウンター。この世界は、何度も繰り返しているのですよ。神に抗う戦いがね」
息を飲む。ゆりと同じように考える奴は、やはりいるのか。
「無限ループのように、幾度となく繰り返された。けれど、戦いはいつか終わるもの。そうしてこの学園は永遠に存在し続けているのです」
「……途方もないな」
「ええ。そして全ての魂が、納得するというわけにはいかない。永遠に、抗うことを選ぶ魂が存在しました。それがANGEL PLAYERの創造者。「彼」は絶対的な「理性」と、絶対的な……そう。「愛」を持つ男です」
気がついたら、元の場面に戻っていた。そしてご丁寧にも、モニターに♡が浮かんでいる。
なんだよこれ。シリアスな話じゃねえのか。
「おい。いきなりふざけ始めるなって。俺はどうすればいいんだ」
「ふざけてなどいません。愛。人間のもちえる感情です。が、それはこの世界の存在とは矛盾する感情になります。何故だか、わかりますか」
……俺は、ゆりに告白した。キスをした。
その思いを受け入れてもらえた時、感じたこともない幸福を感じた。
そして――その幸せが、永遠に続けばいいと願った。
だけど。それは……。
「この世界の存在理由と、相反する……」
「そうです。愛は、この世界で芽生えてはいけないのです。そうなれば、この世界は永遠の楽園となってしまう。本来の役割見失うことになります」
「……知るかよ。ダメなことなのか、それは」
頭ではわかっている。正しいことじゃない。だけど……つい、そんなことを口走った。
謎の少年は肩をすくめる。
「少なくとも、「彼」はそう思いました」
「ANGEL PLAYERの創造者ってやつか。だから絶対的な「理性」と言ったのか」
「ええ。ですが、絶対的な「愛」もありました」
……それは、つまり。
「恋をしたのか」
「ええ。ですが、彼女はそれで満足してしまった。二人は世界のルールによって引き裂かれたのです。「彼」は苦しみました。何故、愛する者と引き裂かれなければいけないのか、と。何故、愛する者と共にいたいという願いは叶わないのか、と」
「……それで?」
「待ち続けました。彼女ともう一度巡り合うために」
……他人事じゃねえ話だな。でも、当事者ではない。だから今は、はっきりと言える。
「再会はほぼ不可能だ。何百年とかけても会えるかわからない。仮に会えたとしても、もうそいつは生まれ変わっている。望んだ形で出会える可能性すら薄い」
「その通りです。ですが、可能性はゼロじゃない。故に、彼は待ち続けました。何百年とかけてもね」
「……狂うだろ、そんなの」
「ええ。彼は苦しみのあまり、狂いました。耐えられなくなりました。ですが、途方もない時間だけはあった。彼はその永遠とも思える時間を使い、この世界を解読して、やがて一つのソフトウェアを作りました。それがこの世のマテリアルに直接干渉する「ANGEL PLAYER」です」
話が壮絶すぎる。だけど……なるほど。これで「エネミー」の正体わかる。神の味方ではなかった――って、待てよ。
「おい。あいつら、立華と同じ力を使うんだが……もしかして」
「ええ。立華 かなでもまた、ANGEL PLAYERの使い手です」
「……ああ見えてプログラマーかよ。じゃなくて。じゃああいつは、人間なのか」
ANGEL PLAYERなんてチート能力を操るだけの、人間。あいつは天使なんかじゃない。
「ええ。ですがその話、誰にも話してはいけませんよ? 因果が曲がるので」
「因果?」
「話が逸れてしまいますね。戻しましょう。「彼」の話へ」
「……狂って、ANGEL PLAYERを作ったってところまでだな」
「ええ。何故、こんな神に近い力を求めたのか。それは絶対の「愛」と「理性」の二つをもってして生まれた、願いを叶えるためです」
「……それは」
「彼は、彼女に会いたいと願った。だが、同時に。苦しんだからこそ、長く彼女と戦ったからこそ、理性は願った。この世界に長く留まるのは、愛が芽生えるのは、あってはならないことだと。この世界は、卒業すべき場所なのだということを。それが正しいことなのだと」
「じゃあ、彼は卒業出来たのか?」
「いいえ。自身をNPCへ変えて、この世界へとどまっています。耐えられなかったのですよ、待ち続ける苦しみに」
「……そうか。けど、なるほど」
苦しみから逃れるための手段、といえば悲しい。だけど、絶対的な「理性」と「愛」の両方を叶える一つの答えでもある。NPCとしてこの世界へ留まれば、ルールに反していない。だけど同時に、この世界に留まり、彼女を待ち続けることにもなる。
「さて。本題はここからです」
「あ? 本題じゃなかったのか」
「ええ。違いますよ? この話は本来、仲村 ゆりが辿り着くべき話ですからね。もっとも、彼女はANGEL PLAYERのルーツは知りえなかったですが。もうその頃には、そんなものに興味はなかったですからね」
「……なんでだよ? むしろ食いつきそうだが」
「今からする話を聞けば、意味がわかりますよ」
モニターの♡が消える。映し出されたのは――あの夢だった。ゆり達が卒業する、あの光景。
「っ!?」
「あなたが見た夢ではありませんか?」
「あ、ああ……なあ、これは一体なんだ?」
「正規の未来です」
「あ? 未来? ……というか、正規?」
「この世界の未来もまた、マテリアルの一つです。未来とはすなわち、可能性ですからね」
「……ゆり達が卒業出来るっていうのか。立華とも和解して」
「信じられませんか?」
「そうであってほしいけど……いきなり未来なんて、言われても」
「信じるか信じないかは、お任せします。ですが、少なくとも。この未来に辿り着きたい……あなたはそう思ったのではありませんか?」
息を飲む。そんなの……当たり前だろ。
「出来ることなら」
「出来ますよ。ですが……今のままでは、不可能です」
「なに?」
謎の少年の話が続く。画面は移り変わり、あの「少年」が戦線メンバーと過ごしている映像に切り替わった。
「音無 結弦。戦線は、彼の登場により、大きく思想を変えます。この世界は卒業すべき場所なのだと。記憶を抱えながら抗い、戦い続けることは、苦しむことなのだと」
「……やっぱり、鍵を握っているのか。そいつは」
「ええ。そんな彼の活躍により、仲村 ゆり率いる戦線、そして生徒会長立華 かなではこの世界から無事、卒業します」
夢で見た時から、何故か惹きこまれたが……そういうことだったのか。
「ですが、このままですと音無 結弦がこの世界へ来る前に、この死後の世界は永遠の楽園に書き換えられてしまいます」
「は?」
「それが先ほど言ったイレギュラー。即ち、岡田 緑です」
「イレギュラー……正規の未来……分岐」
断片的な単語が、ここで繋がって来る。
「パラレルワールド。聞いたことはあるのではないでしょうか」
「まあ、な」
「この世界もまた、複数分かれた「可能性」の一つです。わかりやすく「ルート」とでも評しましょうか」
エロゲーかよ。まあ、いいけどさ。わかりやすいから。
「音無 結弦の登場によりみなが卒業する。それが「正規ルート」です」
「本来はその可能性が、その結末が正解ってことか」
「ええ。もっとも、音無 結弦も複数の可能性をお持ちだったようですがね。いやはや、不思議なものです。世界を、人を観測すると複数の可能性がある」
「???」
「まあ、これはあなたには関係のない話です。重要なのは、この世界です」
「違う可能性に行きつくのか」
「ええ。分岐した原因、つまり招かれざる役者は二人。あなたと、岡田 緑です」
……そんな気はしていた。
なんでだろうな。あの卒業式のゆりは、どこか……俺の知っているゆりじゃなかった。
つまり、別の世界。パラレルワールドのゆり。
俺と恋しない、出会わないゆりだ。だからあの夢に、俺はいないし、なにも干渉が出来ない。傍観者でしかない。
「ANGEL PLAYERの創造者……「彼」は狂っていたが故に、二人の人間へそのソフトウェアを託しました。正しく力を使うと願って。正しく世界を導くと、そう願って」
ここまで来たら、その二人が誰かわかる。
「それが岡田 緑と、立華か」
「ええ。岡田 緑は「彼」の親友でした。立華 かなでは……接点があまりなかったようですが、副会長で世界のルールを守り、長くいたことから、信頼して託したようですね」
「余計なことをしやがって……」
結果、岡田 緑はイレギュラーになり、立華は天使と勘違いされて攻撃されている。
まあ、立華の場合は、その「正規ルート」のために必要なことだから、正しいが……。問題は、もう一人の方か。
「ANGEL PLAYERは強力であるがゆえに、あなたが指摘した通り、神にもなりえるような可能性を秘めています。故に、因果が歪み、この「ルート」が生まれた」
「正規ルートを歪める、岡田 緑の願いは……真逆の願いってことか」
「ええ。この世界の神になり、この世界を永遠の楽園にすること。それが、岡田 緑の望みです」
……ふざけている。
じゃあ、俺の本当の役目は……この世界から、消えられない理由は。
「俺のことを、カウンターと言ったな。招かれざる役者と」
「ええ」
「つまり、こういうことだろ。俺と岡田 緑が消えれば、ゆり達はハッピーエンドへ導かれる。これは、そういうルートなんだろう?」
謎の少年はこくり、と頷いた。
「そうです。岡田 緑はANGEL PLAYERの力を使い、創造者の「愛」の願いを叶えようとしている。ですが、そこに「理性」はない。この世界を間違った方向へ書き換えようとしている」
すでにANGEL PLAYERはとんでもない所業を成し遂げている。
創造者をNPCへと変え、立華を天使と錯覚させるほどの力を与え。そしてエネミーを生んだ。
この世界を永遠の楽園にすることは、決して不可能ではないだろう。
……いや、一歩間違えれば。
神へ至ることだって、出来るかもしれない。
「……俺の役目は、岡田 緑を消すことか」
「そうです。創造者は様々なプログラムを走らせました。この世界を間違った方向へ導く存在が現れた時、対となるカウンターが招かれるように、と。それがあなたです、桜木 春斗」
「たく、とんでもねえ役目を押しつけやがって」
「戦ってくれますか。この世界のために、曲がった因果を修正するために」
正直言うと。永遠の楽園というものに、魅力を感じていた。
ゆりと、永遠に愛し合える。ずっと一緒にいられる。
そもそも、あいつは凄惨な生前を送ったんだ。それくらいの幸福があったっていい。
俺だって、報われたい。幸せになりたい。
大体……「正規ルート」だろ。あのゆりは俺の好きなゆりとは違う。あの笑顔は……俺が恋したあいつじゃない。
なら、答えは一つ。
「俺は……」
この世界を永遠の楽園にする。ゆりと、共にある。
……なんて。言うわけないだろ。
あんなすがすがしい顔されたら。ゆりが、一人の普通な女の子らしい表情を浮かべているのとか、見てしまったら。
音無 結弦。彼に、未来を託すしかないだろう。
この物語を、ハッピーエンドへ導いてくれるのだから。
だから……招かれざる役者の俺は、紛い物と共に退場しよう。
この世界を、華やかな舞台へと戻すために。
「戦う。ゆりを、みんなを春へ導く」
この力は、ずっと誰かを殺めるために使われてきた。
ずっと、ずっと、ただの「暴力」として振るわれた。
正義のためとか、そういうのがなかった。
だから……罪を背負った。自分が嫌いなんだ。
だけど――今回は、違う。最後だけは、変われるチャンスなんだ。
みんなを卒業へ。春へと導くために戦う。
正しいことのために、この力を使うことが出来る。
そんなことは初めてだ。
なら……迷わない。
「その言葉を待っていました。共に戦いましょう、カウンター」
「ああ。よろしくな」
これは、始まりへ至る物語だ。
紛い物の俺が、本物の役者であるゆり達を春へと導く。
イレギュラーな空白を埋める、偽りの舞台なのである。