※この作品はR-18です。

Angel Beats! ゆりルート   作:音有五角

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ストーリーはここで最終話です。この後はR18シーンの短編と、ちょっとしたオマケを更新予定なので、もう少しだけ連載は続きます。


エピローグ

 教室で自習をしていた。

 俺は将来、大学へ進学するために勉強をしている。良い企業に入って、安定した人生を送るためだ。

 なにか特別やりたいことがある、というわけではない。

 だけど、なにが起きるかわからないこのご時世だ。人生設計はしっかりしておきたい。だから、まずは良い大学へ入る。それが一旦の目標だ。

「桜木 春斗さん」

 フルネームで呼ばれた。

 聞きなれない、女の子の声だ。

 美しい声だけれど、どこか無機質。そんな声。

 俺はふと顔を上げた。長い黄色の髪をした、美しい女の子だった。だけど、ウチの学園の制服を着ていない。なんだっけか。クラスSSS――よくわからないけど、たしかそんな感じの人達の制服だ。

 でも最近、この制服の人をあまり見かけなくなった気がする。

「えっと、遊佐さん?」

 彼女の名前を口にする。

 知らないけど、知っていたのだ。何故? 別に深い意味はない。そういうものだからだ。

「こちらを」

「……本?」

「はい。受け取ってもらえますか」

 遊佐が差し出したのは、一冊の小説であった。夏目漱石の「こころ」。

 授業でやったことのある本だ。今更こんなのを読むなんて。一体、そんなことになんの意味があるというのだろう?

「その本を、屋上で読んでもらえますか」

「なんで?」

「そうすることに意味があるからです」

「んー」

 意味が分からない。

 が、しばらく考えると、あることを思いついた。

「もしかして……」

「なんでしょう」

「俺に気があるのか?」

「記憶がないとはいえ。あまりそういうことを言うと、後でゆりっぺさんが怖いですよ?」

「ゆりっぺさん? 記憶がない?」

「ですが、ずっと交際相手を作らなかったのは、とても喜ばれると思います」

「……なんの話だ?」

 この子、俺のなにを知っているというのだ。

 ……まあ、彼女を作らなかったのは事実だけど。仲の良いクラスメイトとか、良い雰囲気になった子はいたけど、どうしてもそういう気にならなかったのだ。

「こちらの話です」

「はあ。なんか不思議な子だな、君」

 もう一度本のタイトルに目を落とす。

 ――漱石の「こころ」なんて、地味で退屈じゃない。

「え?」

 はっとして、顔を上げる。

 そこにはもう、遊佐の姿はなかった。

「……なんだ、今の?」

 聞いたことのない、女の子の声だった。

 だけど、何故だろうか。その声を聞くと、安心するような……でも、どこか落ち着かなくなってしまうような。そんな、不思議な感覚。

「屋上、行ってみるか」

 俺は妙な胸騒ぎを覚えながら、夏目漱石の「こころ」を片手に席を立った。

 と、本の間からなにか一枚の紙が落ちた。しおりだと思ったが、違う。

「……写真?」

 そこには、トロフィーを持った俺が映っていた。

 周りには……知らない生徒達が並んでいる。

 だけど、何故だろう。

 この写真は絶対に捨ててはいけないのだと、思ってしまった。

 

 

 そう。あなたは、あたし達を卒業に導いてくれる、そんな存在だった。

 桜木 春斗。春を連想させる名前。

 とても、とても大切な人。

 あたしの大好きな人。

 彼はまだ、この学園にNPCと存在する。

 けれど……長い、長い戦いの末、辿り着いた。

 戦線のみんなは卒業していった。

 それはとても清々しいものであった。

 記憶の無かった新人、音無くんが掲げた新たな思想により、戦線は変わったのだ。

 ……そして。真実にも辿り着いた。

 ANGEL PLAYERのことも。

 奏ちゃんの正体も。

 春斗くんの境遇もわかった。

 彼をNPCに変えた影の正体も判明した。

 戦線の、卒業式の日。あたしはみんなに「少し一人にしてくれるかしら?」と言って、奏ちゃんが作ってくれた卒業証書を手に屋上へ向かった。

 ……考えるべきことはある。

 この学園の役割。

 大切な、戦線のみんな。

 あたしは真実に辿り着いた。故に……誘惑もある。

 永遠の楽園。

 はっきり言おう。やろうと思えば、出来る。高松くんのこともあり、春斗くんが正気に戻る可能性が十分にあることも判明した。ANGEL PLAYERのデータは残っている。長い年月さえあれば、この世界を好きに書き換えられる。その方法によって、春斗くんを人に戻すことも可能だろう。

 そうして、春斗くんとここで永遠に暮らすことだって、出来る。

 そうね。そうしたら、この世界に迷い込んできた魂を……卒業に導いてやったりして、そうやって善意的な活動をして過ごすのも、いいことでしょうね。かつての奏ちゃんのように。

 永遠に、幾度の魂をそうやって、導いていくのだ。

 そう。

 ――まるで、この世界の神になったかのように。

 けど、とあたしは思う。

 それは果たして、人としての幸せなのか?

 永遠の楽園を気づき。数多の魂を救済へ導く。

 美しい。素晴らしいことだ。けれど、それは……あたしの望む幸せの形じゃない。

 あたしは、神になりたいんじゃない。

 あの子達の笑顔、とか。

 戦線のみんなの幸せ、とか。

 ……春斗くんとの愛、とか。

 そういう、ものの一部でいいのだ。

 だって、春斗くんと出会えたのも……春斗くんを、こんなにも好きになれたのも。それはあたしが「人」であったから。

 だから、今となっては少し不安だ。

 あの男が言っていた話がわかる。

 ANGEL PLAYERを作った人間の迷いがわかる。

 そういった意味では、心配だ。……最後に音無くんと奏ちゃんは二人になるのだろうけど、同じ道を歩まないかどうか……。

 ……でも、もしそうなったら、それは二人が決めたこと。

 そうなったら、止めることは出来ない。そんな権利は、あたしにはない。

 仲間として、警告ぐらいはするかもしれないけれど。

 説得はするかもしれないけれど。

 でも、二人で決めたことならば、仕方ない。

 ……まあ、そうならないことを祈るけどね。

 さて。本題は、あたし達のこと。

 春斗くんとあたし。

 春斗くんは最後に、永遠の楽園を少しでも望んでしまった。故に、影に取り込まれた。あるいはかつてのあたし達同様、本当に神への復讐に燃えてしまったのか。まあ、どちらでも同じことね。元々イレギュラーだった彼には……罰、というものだったのだろう。

 屋上の扉を開ける。

驚いた。彼はNPCが着る制服のまま、本を読んでいた。まさかこんな、あたし達がかつて何度も顔を合わせてきたこの場所にいるなんて。癖は変わっていないのだろうか。だけど、記憶はまだ戻っていないのを知っている。

 あたしが近寄ると、彼は顔を上げた。

「……君は?」

 あたしは向き合わないといけない。

 春斗くんのこと。

 愛している人と、いつまでもこの世界にいたいと願ってしまう、人の弱さに。

 ええ、そうよ。

 でも、もうあたしはとっくに決めている。

 この問題の全部をひっくるめて、告げる。

 あたしが――仲村 ゆりが出した、その答えを。

「――唐突だけど」

 風が吹いた。

 髪を手で押さえて、彼に言う。

 それは長い、長い戦いの末に出した答え。

「あたしと一緒に、卒業してくれないかしら?」

 永遠の楽園はいらない。

 ただ、最後の一歩は、あなたと共に踏み出したい。

 




 
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