元ネタ「シーズン2」及び本編のネタバレ含みます。
最終回バージョンのゆりっぺが出てくるというのと、音無とオリ主が初めて会う話になります。
原作の「シーズン2」だとゆりが戦線寄りの性格になっていますが、事件が解決して、桜木が現れてから最終回バージョンに戻ったって感じです。
ゆりメインの話はこれで終わり……のはずです。
でもゆりっぺ大好きっ子なので、まだまだ物語は続くかもです。
今後の更新はR18短編になります。エンジェルビーツの他ヒロインになる……はず。
最初に映ったのは、晴れ渡った夜空であった。見覚えのある空で、馴染みのある空気感がある。固い地面から体を起こすなり、美しい少女の声が聞こえた。
「気がついたのね」
振り返ると、そこには屋上の柵を飛び越えた先に佇む、白銀の美少女がいた。
しばらく茫然としたが、やがて記憶と意識が明瞭になっていく。
「……会長か。久しぶり」
ひどく懐かしいような気がした。
……だが、おかしい。冷静になると、なにもかもがおかしい。
何故、俺がまたこの世界に来ているのだ。
記憶を取り戻した後、ずっと寄り添ってくれたゆりと共に、去ったはずなのだが……。
「手伝ってくれるかしら」
「唐突だな。手伝う? なにを?」
「あれを」
「あれ?」
会長はあまり口数の多い性格ではないのだろう。
俺は言われるがままに、会長が見つめる先を見る。
まさか……影か?
それとも、また天界の使徒のような奴らが、暴れまわっているのか。
だからANGEL PLAYERが、抑止力として再び俺をこの世界に呼んだ……?
「――って、なんだありゃあああああああああああああ⁉」
思わず、叫んだ。
巨大な犬のぬいぐるみのような、ファンシーなデザインのロボットが、まるで怪獣のように暴れまわっているのだ。そしてそんな怪獣に向って発砲する、少年少女。
そしてなんの因果か、その少年少女達は見覚えのある奴らばかりで……。
「ゆり! みんな! それに……あの人は」
胸が高鳴った。
オレンジ色の髪の少年。
ゆりから名前は教わっていた。音無 結弦。期待した通り、ゆりやみんなを卒業へ導くような、そんな存在だったらしい。
彼は俺を知らないだろうが……まさかこんな形で、会えるとは。
「力。貸してくれるかしら。結弦やみんなが、ピンチだから」
俺の身にはまだ、ANGEL PLAYERの力が宿っていた。
会長ほどは使いこなせないが……戦力にはなるだろう。
「ああ。そうみたいだな……結弦?」
「先に行っているわ」
「え? ま、待ってくれ!」
白い翼を羽ばたかせ、飛び降りる会長。
俺もそれに続いて柵を飛び越え、屋上を飛び降りた。
「……たく。まさか、紛い物の俺がお祭りに参加だとはな。ご招待、ありがとさん」
ANGEL PLAYERも、粋なことをするものだ。
それとも、他の奴が俺を呼んだのか……。
あるいは、神が呼んだのか。
まあ、なんでもいいか。
会長と俺が介入したことにより、なんとかロボットの動きは止めた。なにがどうなっているのか、このロボットは椎名が製造した物ならしい。なんで戦線の連中と対立しているのかは不明だが……。
「かなで! お前も来てたのか! ……けど、彼は?」
音無が会長との再会を喜ぶ一方、俺を見て首を傾げていた。
……とりあえず。この人には、礼を言わないとな。なんていったって、俺からすればあなたは救世主なんだから。
「音無 結弦。はじめまして、だな」
「はじめまして……? それなのに、何故、俺の名前を知っているんだ?」
「ああ。俺は――」
「きゃああああああああ♡ 春斗くんじゃない、来てたのね!」
黄色い声に思いっきり遮られると同時、ゆりが俺の胸元へ飛び込んできた。なんとか受け止める。
「いてえ⁉ 勢いよく飛び込むなっての、あぶねえ! つーか、だ、抱きつくな! 公衆の面前なんだが⁉」
「なによ、せっかく会えたんだから、いいじゃない!」
「いや、すごく恥ずかしいんだが……もうちょっと、世間体っていうのをだな」
「この声、この匂い、この感触! 春斗くん、春斗くんだわ……♡」
俺の言うことを無視して、ベタベタくっついてくるゆり。
そう。こいつ、神への復讐、そして戦線のリーダーという立場から解放されたせいか、戦いの後は性格が変わり、普通の女の子になったのだ。尖っていたきつい性格は丸くなり、年相応の女の子らしさが目立つようになった。まあ、重たい肩の荷が降りたってことなんだろうけど……。
まさか、公衆の面前で抱きついて来るほどだとは、思わなかったな……。これじゃあただのバカップルなんだが。
「ええええ⁉ あのゆりが男にデレデレって、なにが起きているんだ! 日向、あれ、誰か知っているか?」
音無が困惑の所作を見せる。
俺はNPC化していたし、謎が多かったから、音無には存在すら明かしていなかったのだろう。
彼の質問に、日向が答えた。
「ああ、音無が来る随分前の隊員だからな。知らねーのも、無理はないか。桜木 春斗って言うんだ。元軍人だったから、すげー奴だった」
「へえ。俺が知らない隊員だ……そうだよな。戦線は長い月日を、ずっと戦ってきたんだもんな。知らない奴だって、たくさんいる。ところで、あれって……つまり、そういうことだよな?」
「桜木は、ゆりっぺと付き合っていたんだぜ」
「マジで⁉ あのゆりが⁉ ……驚いた。ゆりに、そういう人がいたんだな」
「ああ。ただ……色々あったんだよ。途中で消えちまった」
「そっか……それは、大変だったな」
なんとかゆりを引き剥がす。「なによもう、照れちゃって」とゆりは唇を尖らせる。マジで普通の女の子だよな、こいつ。戦線時代はこんな立ち振る舞い、絶対にありえない。「あたしはリーダーよ。そんなちゃらんぽらんなことしている暇があったら、訓練しろ訓練」とか言いそうだったのにな。
「春斗くん。あとで二人になりましょう」
すれ違いざま、耳元で囁かれた。
「……ああ。後でな」
ゆりの頭をぽんぽん、と優しく撫でた。ゆりは上機嫌そうな笑みを浮かべる。ああ、そうだったな。俺はこのために、戦ったんだ。ゆりがこんなに幸せそうなら、満足だ。こいつを守るためだったら、世界だって敵に回せる。
「よう。久しぶりじゃねーか、桜木」
日向が手を上げる。
「ああ。久しぶり」
「なにも言わねーで消えるなんて、水臭いじゃねーか。たく、一言ぐらいなにか言っておけよな」
「ごめん。本当は、そうしたかったんだ。ただ……」
「わかっているよ。ゆりっぺとは、納得のいく最後だったんだろ?」
「ああ。それは……大丈夫だ。あいつも俺も、納得している」
「なら、言うことはねーよ。ただ、なんだ……」
「日向?」
「お前は、俺達の仲間だからな。言っただろ。俺はお前を信じるって。最後は変な感じになっちまったけどよ。それだけは、変わらねーからな」
日向の言葉に、俺ははっとさせられた。
ANGEL PLAYERの存在が明るみに出た今の戦線なら、俺が人であったことはわかっている。だけど、あの時はそうじゃなかった。決別というほどではないが、正体を隠していた、得体のしれない隊員だったのは間違いないだろう。
日向はそれでも、仲間だと言ってくれたのだ。そんな言葉だけで、俺はどこまでも救われたような気がした。
「……ああ。ありがとう」
「それから。約束、果たしたぜ」
「約束?」
「お前の言っていたすげー奴、現れたんだよ。音無のことなんだけどさ。ちゃんと親友になれたぜ」
「さすがだな、日向は良い奴だからな」
「だろ? そんで、せっかくこうして会えたんだ。こっからはその先の約束、果たそうじゃねーか」
「その先?」
「俺達三人で親友になるんだ。どうだ? その方が楽しいだろ」
もう時間ないっての、って思ったけど……まあ、わかっていて言っているんだよな。
そう。そんな話をしたんだ。
そして些細な会話も、日向はずっと覚えてくれていたんだ。仲間思いの彼だから。
「ああ。そうしよう。ところで、みんなは? 来ているのか?」
「おうよ。大体揃っているぜ。お、ちょうど戻ってきたな。おーい、お前ら! 桜木だ!」
ぞろぞろとかつての戦線メンバーが集まってくる。一部面識のない者もいたが、大体の面々は――って、なんか様変わりしてないか?
「桜木、久しぶりだな」
「……あ、ああ」
ナイフとフォークを手に持つ野田に、俺は目を丸くする。他の者に関しては、明らかに見た目が変わっている奴もいた。
突っ込みどころが多いものの……まあなんか、みんならしいな。騒がしくて、ドタバタとしていて。それが、死んだ世界戦線だった気がする。
「みんな、久しぶり」
だから、それだけ言って手を上げて。
かつての仲間との再会を、ひとしきり楽しんだのであった。
紛い物だったあの時は、途中で退場せざるをえなかった。そういう運命で、そういう役割だったんだ。
だけど、今度は違う。
みんなと一緒に、ここを卒業出来るのだ。
さて。あの人へ礼を言わなくてはならない。
「音無」
俺が呼ぶと、彼は振り返った。
「桜木、って言うんだな。日向やみんなに教わった。すげー奴だったみたいだな」
「あなたほどじゃないさ、救世主」
「救世主⁉ な、なんのことだよ?」
「救世主だろ。少なくとも、俺から見ればそうなんだ。短期間で戦線の思想を変えて、ゆりやみんなを長い戦いから解放したんだ。俺には……そんなこと、出来なかった」
「そんな……俺は、別に。そんなつもりじゃねーよ。大袈裟だろ」
「でも、礼は言わせてくれ。ゆりや、みんなを卒業に導いてくれて、ありがとう」
手を伸ばす。
音無に嫉妬することもあった。
何故、この役割が俺じゃないのかと思うこともあった。
だけど……今は、ちゃんと納得している。
俺には俺の役割があったし、彼には彼の役割があった。
それだけのことだったんだ。
「ああ。どういたしまして」
音無はそう応じて、握手をした。
一連の騒動は椎名によるものだったらしい。まさか椎名が俺を覚えていて、この世界にわざわざ呼んだとはな。光栄なことだが、しかしすごいことをするよな。まるで神様である。ANGEL PLAYERってのは、どこまで可能性があるのやら。
さて、そんな椎名の暴走を止めたというところで、この世界の危機は脱した。となるともうここに留まる理由はなく、イレギュラーな存在となる我らが戦線はここで再び解散ということになった。
だが、せっかく集まったのだから、その前に少し話をしようということになって……音無と会長が抜けていった。
俺がいなくなった後で構築された人間関係だが、まあ、つまりはそういうことなのだろう。
「天使と救世主か……すごい組み合わせだ」
「さ、あたし達もいきましょ。春斗くん」
「あ、ああ」
ゆりが俺の腕をとって、ぐいぐいと引っ張っていく。
だから、恥ずかしいんだが……。
みんなから離れ、二人きりになるとゆりは正面から俺に抱きついた。俺も抱きしめ返し、頭を撫でる。ふわりとした髪は柔らかく、良い香りがした。
「時間貰っといてあれなんだが……俺達、話すことあるか?」
最後の時は一緒に過ごせていたし、正直、わざわざもう言うこともないんだよな。
「生前、あたしと会った?」
「覚えてない」
「あたしも覚えてないわ。残念」
「そもそも生まれ変われたのか? 俺達」
「神のみぞ知る、ってところじゃないかしら」
「でも、この世界ではこうして会うことが出来たんだ。まあ、正確に言えば、作為的ではあったが……奇跡ってのは、起きるものなんだな」
「……あたし、夢があるの」
「夢?」
「そう。ああ、もちろん、来世での話よ。来世のあたしは、もはや別のあたしだろうけど……それでも、夢があるのよ。あの時、それを伝えていなかったから。だから、今伝えるわ」
「ああ。言ってみろ」
「春斗くんと結婚して、三人の子供を産むの。そうして、母親として家族を守るの」
「……それは、素敵な夢だな」
まさかゆりの口から、そんな人並みの幸せを望む声が出るなんてな。
本当に、もう大丈夫なんだ。
この世界は、卒業すべき場所。
次の生へ向けて、一歩を踏み出す場所。
ゆりはもう、ここの卒業生なんだ。
「でしょ?」
「すっかり普通の女の子だな」
「な、なによ⁉ 普通じゃなかったって言うわけ?」
「神をどつき回すとか言っていた奴だったぞ、お前は」
「し、仕方ないじゃない! なによ。どうせあたしについて来るんでしょ、いいじゃない。お父さんになるくらい、簡単なことでしょ!」
「そんな簡単じゃねえと思うけどな」
復讐とは、また別の方向ですごく大変なんだが……。
あと地味に、三人って指定してきたのがやばいぞ。お金とか。
でも……いいか。来世の俺が、上手くやってくれんだろ。任せたぞ。
「まあ、やってみるか。俺と一緒に、その夢を叶えよう」
「ええ! また、どこかで」
「ああ。どこかで」
俺とゆりはそう約束を交わして、唇を重ねる。
それはまるで、誓いのキスのようであった。
「うふふ。春斗くん♡ 懐かしいわ……♡ もうちょっとこうさせなさい♡」
ゆりがすりすりと俺の胸元へ頬ずりする。
甘えて来るゆりが愛おしくて、ふんわりと柔らかい頭を撫でた。
可愛らしい右耳にソフトなキスをすると、「ん♡」とゆりが甘えた声を上げた。そうしてじゃれ合っていると、ゆりの左手にエンゲージリングがはめられていることに気がついた。もう戦線のリーダーじゃないから、隠さずにつけているのだろう。
「指輪、まだ無くなってないんだな」
「ええ。ずっと肌身離さず身につけていたもの」
「そっか。ありがとな」
「これのおかげで、あなたがいつも側にいてくれるような……そんな気がしたわ」
俺は今更ながら、ゆりに大きな罪悪感を抱いた。ずっと真実を隠していたこと。そして長い間、一人きりにしていたことだ。
「ゆり。長い時間……お前のことを忘れていて、本当にごめん」
「いいわよ、そんなこと。言ったじゃない。ずっと側にいてくれた気がしたって。だから、いいのよ」
ゆりが俺の首元に腕を回し、じっとこちらを見つめてきた。
ドキリ、とした。
好きな人の、可愛い顔。俺と結婚してくれた女の子。綺麗な唇、スタイルの良い体躯、左手にはめられたエンゲージリング。
愛しさがこみあげてきて、キスをする。
だけど、今度のは……舌を入れる、深いキス。
ゆりは「ん……♡」と声を上げて体を少し震わせたが、受け入れてくれた。俺の舌を優しく、ゆりの舌で絡ませてくれる。クチュクチュ、といやらしい音が鳴る。唇を離すと、ゆりがうっとりとした目を向けてきた。
「春斗くん……?」
「ご、ごめん。俺……」
「欲しくなったの?」
「ああ。ゆりが欲しい。抱きたい」
時間がないのはわかっている。だけど、愛しさが止められない。もう一度、その体に俺という存在を刻みつけたいのだ。
大体、こんなイチャイチャしてしまったら……変な気分になるだろ。
「あたしも、春斗くんがほしい。再会した時から、ずっっっとそう思っていたのよ……」
「ゆり!」
「あ……♡」
「もう我慢出来ない!」
「うふふ。好きにしなさいよ……あ、やん♡ あ、あ、あ♡ 春斗くん……♡」
「ゆり、ゆり!」
「もっと、もっとして……♡ 足りないの、もっと春斗くんがほしい……♡ ねえ、春斗くん……♡」
「うっ! ゆ、ゆり……あ、ぐ、そこは……」
いやらしく絡み合いながら、ゆりは俺の耳元で囁いた。
「最後は、中に出しなさいよ……♡」
俺はゆりに襲いかかった。
ゆりも俺を激しく求めた。
卒業生である俺達は、決して長くいてはいけない存在だ。
それでも、今だけは……。