※この作品はR-18です。

Angel Beats! ゆりルート   作:音有五角

35 / 110
R18短編「ユイルート」

 駐車場にて、アコースティックギターで弾き語りしている女の子がいる。ユイという名の女子生徒で、この学園の人気バンド、ガルデモのファンでコピー曲を披露していた。何人かのファンが出来ていて、ユイが引き語りを始めると人だかりが出来る。

 この日の路上ライブを終え、NPCが解散した後。俺はユイの元へと訪れた。

「おや。先輩ですか」

「よう」

「すっかりあたしのファンですね。でもあたし、ファンは大切にしますよ? 特別にリクエストには答えてあげます」

 正直に言うと、あまり曲の方に興味はなかった。音楽には詳しくない。

 どちらかというと、ユイという女子生徒自体に興味があった。何故かと聞かれると、理由はない。なんとなく、だ。

「弾き語りしている時さ。あぐらかくスタイルだろ」

「? そうですけど」

「この間パンツ見えないかなって、ちょっとのぞき込もうとした」

「この変質者があああああああ!」

 ユイが大声を上げて、俺目掛けてハイキックを放つ。

 が、俺はその足を受け止めて、芝生めがけてぶん投げた。

「ぐほう⁉」

 ユイが奇天烈な悲鳴を上げる。

 目をグルグル回し、その場に倒れ込んだ。

「せ、先輩、強いんでしたっけ……即幹部入したって、聞きました」

「まあな。元軍人だ」

「ぐぬぬぬ。セクハラされて、蹴りの一つも入れられないなんて……!」

 だが、ユイは立ち上がり、ふふんと不敵な笑みを浮かべた。

「はっ! でも、頭洗って待っておけよな! ユイにゃんは日々強くなっている! 覚えておけええええ!」

 そう捨て台詞を残して、ギターを回収し去っていった。

 どうでもいいが、洗う場所が違うんじゃなかろうか。

 

 

 ガルデモフライヤーが張られた掲示板をぼんやりと眺めていると、背後から殺意を感じた。

「死ねやあああああああああ!」

 ユイの声だ。

 俺はハイキックを回避し、ユイの腕を後ろへ回し、関節技を決めた。

「いだだだだだだ、いだいいだい! 腕千切れますから⁉」

「俺を蹴ろうなんざ、十年早い」

 ぱっ、と放してやる。ユイははあ、とため息をついた。

「先輩、お強いですね……噂通りです」

「それはどうも」

「あの。体の鍛え方とかも、知っていたりするんですか?」

「そりゃ、鍛錬法は心得ている。なんだよ、強くなりたいのか? もしかして、実行班志望なのか?」

 俺の問いかけに、ユイはいえいえ、と首を横に振った。

「そういうわけじゃないですけど。体は鍛えたいと思っているんです!」

 そう言ってユイはシュッシュッ、とその場でシャドーボクシングをした。

 しかし実際は、シュッシュッ、というキレの良さはない。いかにも弱そうなそのパンチは、へこへこ、という感じだ。

「その細腕と小柄な体躯で鍛えたい、ねえ」

「先輩、バカにしています?」

「アホだなあって」

「お前にだけは言われたくないわああああああああ!」

 ハイキックを放つユイ。

 当然、返り討ちにして関節技を決めてやった。

「ギブギブギブ! これ痛いですううううううううううううう!」

「お前は学習しろ」

 再び手を放してやる。ゆいがジト目を向けながら、話を続けた。

「とにかく。あたしを鍛えてほしいんです」

「別にいいけど。なんのためだ?」

「ホームランを打つためです」

「は?」

「ホームラン。それもフェンス越えで! 野球ですよ」

「いや、知っているけど……野球好きなのか?」

「いえ。そういうわけじゃないですけど。でも、打ちたいんです。ホームラン」

「意味わからねえ……それに俺、野球はあんまり知らないぞ。ピッチャーはやったことあるが……」

「野球は詳しい人に教わるのでいいです。まだそんな人、見つかってないですけど」

「戦線メンバーはあれだけいるし、一人くらいいなかったのか?」

「あたし下っ端ですし、まだ戦線入ったばかりですし。聞く機会があまりないんですよ」

「そんなものか」

「詳しい人がいたら、その人に教わるつもりです」

「ふうん」

 面白くなくなって、俺は淡泊な相槌をうった。

 するとユイがニヤニヤと、意地の悪い笑みを浮かべる。

「先輩。もしかして、嫉妬ですか?」

「え?」

「あたし以外の先輩に頼ろうとして、可愛い後輩とられるー! みたいな感じです」

「まあ、そうだな」

 軽く返してやると、ユイは目を丸くした。

「そうですか」

 ユイは少しだけ笑みを浮かべて、背中を向けた。

「いつもの場所で、待っていますから。暇な時に、手伝ってくださいね♪」

 

 

 定例会議が終わった後。幹部の連中へ野球に詳しい奴がいないかと聞いてまわると、日向が「あー。俺、一応経験者だぜ?」と返事した。

「え⁉ 似合わないな……」

「失礼なやつだな、どういう意味だよそれ⁉」

「坊主じゃねえし」

「やっている時は坊主でしたから! 今はちげーから丸くしてないだけですから!」

「日向の丁寧語ツッコミ来たー!」

「そんなのどうでもいいから! で、なんで野球経験者を探しているんだ?」

「知り合いの女の子でさ。球技祭に使われる、野球場あるだろ? あそこでフェンス越えのホームランを打ちたいって。教えてやってくれないか?」

 瞬間。日向の表情が険しくなった。心なしか、流れる空気が悪くなる。

 なにかマズイことを言ったのか。思わず、俺は背筋が凍った。

「……桜木。そんなの、時間の無駄だ」

「え?」

「女の子がフェンス越えのホームランなんて、無謀だ。というか、男子でも難しい。その女の子の実力は?」

「……ただの素人だ。体力も、いかにも女の子って感じで」

「じゃあ、なおさら不可能だ。そんなことより、桜木。お前には幹部としての役割がある」

「それは……」

「生前を買われて、ゆりっぺにメンバーを鍛えるよう言われただろう? 実際、お前は特殊な戦い方の椎名っちを除けば、幹部内最強の戦闘技能を持っている。戦線の戦力拡大に繋がる、重要な役割だ。人へ教えるのも上手だ。もちろん、普段なにをするかは自由だけどよ……本来の仕事を忘れるのは、幹部としての自覚が足りない。だろ、ゆりっぺ?」

 ほかのメンバーはもう解散しているが、上座にはゆりが残っている。

「そうね。まあ彼、復讐心があるわけじゃないから。浮ついたことを言い出すのも、無理はないけどね」

「……そんなに、俺は悪いことを言ったのか? 変なのか?」

 そう言うと、日向がいやいや、と手を振った。

「悪い。そういうわけじゃねえんだ。攻めているわけでもない。ただ、なんつーか……」

 言いづらそうな日向の代わりに、ゆりが言葉を継いだ。

「ここにいる隊員はね。本気で神へ復讐したいの。長い月日をかけて体を鍛え、天使と戦ってきた。そこへホームランを打ちたがっている女の子を手伝ってほしい、だなんて話題は、浮ついているようにしか見えないのよ」

 ほとんど、子供に言い聞かせるような言い方であった。

 何故こんなことになる……。言いたいことはわかるが。クソ。こいつらなんかに、相談しなければよかったんだ。

 俺はため息をつく。

「……わかった。もう、この話は出さない」

「ええ。あなたは、あなたに与えられた役割を果たしなさい。学園生活を謳歌したいのなら、戦線を抜けて。ここは青春ごっこをする場所じゃないの。いいわね?」

「ああ。役割を全うするよ」

 ……そう。復讐心が希薄な俺はどこか、戦線で浮いていた。

 ゆりの勢いに負けて入隊し、幹部にされて。

 どこかついていけず、本心が出せずにいた。鬱屈としていた。

(ああ。だから、俺はユイに惹かれたのか……)

 あいつの前だと、自分が自分でいられる。

 幹部としての桜木 春斗でなくても許される。

 俺は、ユイに会いたくなった。

 

 

 日向の無謀という予測は当たっていた。

 ユイの体力は下の下であった。腕立て伏せも腹筋も、十回もこなせない。

「全身がいたいですぅ……」

「たく。こんなことじゃ、何年かかるかわからないぞ」

「ううう」

「……ふと思ったんだが。ホームラン以外にも、なにかやりたいこととか、あるのか?」

 問いかけると、ユイはこくりと首を縦に振った。

「ありますよ」

「ユイは好奇心旺盛だな。音楽だって、やりたいことなんだろ?」

「はい。せっかく体を動かせるので、色々やらないともったいないです」

「そっか。一番やりたいというか、叶えたいことはなんなんだ?」

「……」

 ユイは神妙な表情で黙り込む。

 この世界へやって来るのは、凄惨な生前を送って来た悲しき魂達だ。故に、生前のことは聞かないことが、暗黙の了解になっている。ここから先は、踏み込んではいけないのかもしれない。

「悪い。話したくないよな」

「いえ。先輩なら、いいですよ」

「無理しなくていいぞ」

「結婚」

「え?」

「あたし、結婚したいんです。不可能ですけど」

 ユイは自重するような笑みを浮かべた。

「生前は体を動かせなくて。そのせいで、一人じゃなんにも出来ない、お母さんに介護してもらうだけのお荷物だったんです。そんな女の子なんて、誰も貰ってくれるわけ、ないじゃないですか」

「……」

 そんなことない、と言おうとしたが、やめた。なんだか無責任な気がしたのだ。だけど、これで一つわかったことがある。

「ユイが戦線に入ったのは、そういうことなのか」

「……ゆりっぺ先輩みたいに、恨んでいるってわけじゃないですけど。神様ってひどいなって、それくらいは思っています。だってあたしの幸せ、全部奪っていったんですから」

 戦線でどこか孤立して、居場所のない俺は、無意識にユイを拠り所としていた。だから俺は、ユイに恋をしている。好きになっている。

 結婚なんて俺がしてやる、と言ってやりたかった。だけど俺は生前のユイとは会えなかった。生前のユイを知っているわけではない。それに生前の俺は、人殺しをするような奴だった。

 だから、プロポーズはする勇気は出なかった。だけど体は無意識に動き出して、気がついたらユイを抱きしめていた。

「先輩?」

「俺さ。戦線やこの世界でどこか、自分の居場所がないような気がして。だけど、ユイと一緒にいる時は、本当の自分でいられるんだ。だから……俺は、ユイのことが好きなんだ」

「……っ」

「ごめん、こんな時にこんなことを言って。ホームランも結婚も、ユイの願いをまだ叶えてやれてないのに……」

「い、いいですよ、別に」

 ユイは顔を赤くしながら、腕を回してくれた。

「先輩はいつも優しくて、あたしのところへ来てくれます。あたしも、先輩の側にいると、とても安心するんですよ」

 そうして。駐車場で俺達は、長い間抱き合っていた。

 

 

 付き合い始めた俺達は、少しずつその仲を深めていった。一緒に行動することが増えて、イチャイチャしたり、キスをしたり。

 そうして、数か月が経過した。

 必然的に「その先」を意識し合うようにもなった。なんとなく、そのことがお互いに伝わっていた。

 俺は使われなくなった保健室の鍵を奪って、ユイを誘った。ユイは顔を赤くしてこくりと頷き、時間で落ち合うこととなった。

 夜の七時。空きの保健室の前でユイと合流し、鍵を開ける。中は大きなベッドが二つあり、教員用のデスクや、収納がそのまま置かれていた。

「保健室でこういうことするなんて……なんか、ドキドキしますね」

 空き保健室へ入りながら、ユイがそんなことを言った。俺は鍵をがちゃり、と閉める。

「人もいないですから、声もたくさん出せますね」

 ユイがそんなことを言うから、思わずドキっとした。ユイが抱きついてくる。俺はユイを抱きしめながら、キスをした。深い、舌を絡め合うようなキスだ。

「んちゅ、ん♡ はあ……♡ 先輩、あたしの夢、覚えていますか?」

「結婚のことか」

「はい。この世界じゃ、結婚は出来ないですけど……あたし、考えたんです。それでも、大好きな先輩の、家族になれる方法を。それにこの方法なら、あたしの夢が叶うなって」

「なんだ?」

「はい! そ、その……えっと、ですね。あれですよ、あれ!」

「ユイ?」

「な……中出し、してください。先輩の赤ちゃん、生みたいんです……そうすれば、先輩はあたしの子供の、お父さんですから」

 あまりに強烈な願いに、俺は目がくらんだ。

「ユイ、俺、そんなこと言われたら……!」

「あ……♡」

 俺はユイの唇を再び奪った。そうしながら、ユイの服を乱暴に脱がす。白い下着を纏ったユイを、ベッドに押し倒した。するとユイは潤んだ瞳で俺を見上げ、か細い声を上げた。

「先輩、ちゃんとやさしくしてくださいよ……♡」

「あ……ご、ごめん」

 ユイの上に覆いかぶさりながら、謝る。ユイは笑みを浮かべた。

「あたしが魅力的なので、仕方ありませんが。それと、先輩も脱いでください……♡」

「ああ」

 俺が脱ぐと、ユイも下着を脱いだ。一糸纏わぬユイの姿。小柄で細い体躯に、控えめで愛らしい膨らみ。マンコも小さくて愛らしく、そそられた俺はペニスをギンギンに硬く大きくさせた。

「先輩の、すごいですね……」

 ユイがおっかなびっくりで、ペニスを口に含んだ。温かな唾液と舌の感触がからみつく。とろけるような快楽だった。ユイはちゅぱちゅぱ、とペニスを吸い込む。その度に手とは比べ物にならない快楽が、性器から広がった。ユイは時折裏を舐め回したり、強く吸ったりしてペニスを愛撫した。

「ユイ……」

「先輩。これ、ちゃんと出来ています……?」

「ああ。最初はぎこちなかったけど、今は……気持ち良い」

「嬉しいです。んちゅ♡ くちゅ♡」

 唾液の音が淫靡に鳴る。そうしてフェラチオを終え、ベッドの上で俺達は抱き合った。ユイにキスをして、股の間へ手を伸ばす。マンコへ中指を入れる。ぬるり、とした感触が指を迎え入れた。

「っ♡」

 指を入れたり引いたりして、ユイの中を愛撫する。愛液が溢れてくるのを感じた。ユイの吐息が荒くなり、俺の体にしがみついて喘ぎだした。

「ん♡ あ♡ あん♡ 先輩、ああん♡」

「ユイって、オナニーとかするのか?」

「せ、先輩のことを考えながら――って、なにを言わすんじゃああああ!」

 ユイが我に返って、顔を赤くしてポカポカ叩いてくる。俺は苦笑いを浮かべて、慌てて両手でそれを止める。

「悪い、悪い。冗談だ」

「エッチしている時にそんなこと聞くなんて、先輩、アホですね」

「オナニー見せてくれないか?」

「おーまーえーはーアーホーかー!」

 ユイが再び殴りかかって来るが、全てさばいた。

「本当にオナニーしているなら、見てみたいんだ」

「……なんでそんなの見たいんですか」

「いいから、いいから」

「はあ。わかりましたよ」

 ユイがベッドの上で横になり、俺へ見せるように股を開いた。そしてそのマンコへ向けて、己の右手を伸ばし、中指を入れる。

(先輩に……見られている。いつも先輩のことを考えながら、しているけど……今は目の前にいて、おちんちんだって、すぐそこにある……。あ、あれ。なんであたし今、体が熱くなったんだろ。見られるの、喜んでいる……?)

 ユイは羞恥で顔を赤く染めながら、指を動かす。クチュクチュ、といういやらしい音が鳴る。ユイは左手でおっぱいを揉んでいた。気持ちいのか、ベッドの上で体をくねらせたりする。

「はあ、はあ……♡ 先輩……♡」

 だけどすぐに、ユイは起き上がって俺に抱きついて来た。

「もう、ダメです……♡ 入れてください、オナニーは、好きな時に見せますので……♡」

「ユイ……」

 俺は抱きつかれたまま、対面座位でユイのマンコの中へ入れた。ずぶり、と温かくいやらしい感触がペニスをぴっちりと包み込む。

「っ、あああああああああ♡」

 ユイが叫ぶように喘いだ。

「大丈夫か?」

「は、はい♡ あ、ん♡」

 ユイは自分から腰を動かし始めた。積極的だ。ぬめぬめしたマンコが、俺のペニスを三百六十度包み込み上下する。俺はユイをぎゅっと抱き寄せた。柔らかい感触を感じながら、腰をかくかくと振る。パンパンパン! と、激しい音が鳴った。

「ああ♡ あん♡ 先輩、激しい……♡♡♡」

「ちょっと抑えた方がいいか……?」

「このままで、いいです♡ もっと奥、突いてほしいです♡ 先輩の、すごく気持ち良い♡♡♡」

 対面座位を堪能して、そのままベッドの上へ倒す。ユイの頭を枕の上に乗せて、正常位で入れる。そのまま奥を突き上げ、何度もピストン運動した。ぐしょぐしょのマンコは大泣きで、俺のペニスを嬉し気に迎え入れてくれる。

「あああ♡ 先輩、先輩♡」

「ユイ……!」

「一人でするのと、比べ物にならないです♡ 先輩の、すごく気持ちいいです♡」

 ユイがシーツをぎゅっと握りしめ、目をとろんととろかせた。もっとおねだりするように、俺の顔をじっと見つめる。

 だけど、あまりにも気持ち良すぎた。もっと堪能したかったけど、もう射精感が高まっていく。

「ゆ、ユイ……出る」

「あん♡♡♡ 中出しで……♡」

「で、でも、ユイとのセックスが、終わっちゃう……」

「この後、何度だって出来ますから♡ だから、中出ししてください……♡ 今夜、あたしの中で何度も、たくさん射精して、先輩の子供を孕ませてください♡」

「ユイ!」

 俺は腰を激しく振った。ユイの喘ぎが最高潮に上がる。

「んああああ♡ すごい、すごいです、先輩♡ あたし、壊れちゃいます♡」

「もう出る……俺の、俺のユイだから! 子供、孕んでくれ!」

「はい! 好きなだけ出してください、先輩♡」

「ああああああ」

「ん、あああああ♡」

 パンパンパン! という音と共に、ユイの中でペニスが激しく射精した。ユイは精液を求めるように両足で俺の腰をホールドし、奥へ注ぎ込むように少しでもペニスを奥へと押し込んだ。射精が終わる。ユイの中へ大量に精液が入っていった。しばらく、見つめ合う。俺達の呼吸音だけが聞こえた。俺のペニスはまだ、硬い。

「先輩、次、あたしが上になりますね……♡」

「ああ」

 その日の夜。使われなくなった保健室の中は、嬌声といやらしい音が、ずっと鳴り響いていた。

 

 

 正直に言うと。死後の世界で子供なんて出来ないだろうと思っていた。実際、前例はないようなのだ。この世界には赤ん坊はいない。セックスという行為は出来ても、死者の世界に生ある者は誕生しないのだ。

 だけど――ユイはどういうわけか、本当に妊娠した。

 お腹は膨らんでいったので、すぐにバレた。戦線メンバーの幹部にも、その噂は届いた。また浮ついているとか注意されるかと思ったが、そんなことはなかった。ただ、ゆりを筆頭に驚いていた。

「信じられないわね……無事に産めるといいのだけど。助産師なんて、この世界にはいないわよ」

「ゆりっぺの出番だな」

 藤巻のボケに、ゆりは蹴りを入れた。

「あたしがいつ、子持ちになったあああああああああ!」

「良い蹴りだぜ……いてえ」

 ゆりはなにか出来ることがあれば、サポートするとさえ言ってくれた。幹部も赤ちゃんがこの世界に現れるかもしれないということに、どこか感動すら覚えているようでもあった。戦線メンバーは復讐と忌々しい過去に苦しめられ、苛まれているが、その根っこは心優しい者達であることを知った。

 だけど、ここは死後の世界。

 話はそう上手くいかなかった。ユイは妊娠七か月から先に、進めなかった。お腹はそこから少しでも膨らまない。七か月目を維持するだけ。

 やはり――この世界に、生ある者は生まれない。

 つまり。

 ユイの夢は……叶わない。

 

 

 いつもの駐車場。夜の七時。ベンチの上で俺達は座り、ユイは俺へ寄りかかりながらお腹を撫でた。

「先輩、ありがとうございます」

「ん?」

「あたしの夢は、叶いました」

「これで、叶ったって言えるのか……?」

「言えますよ。充分です。先輩はこの子のお父さんですし、あたしはこの子のお母さんです。家族ですよ」

「……そうだな」

「ただ、ここが死後の世界だったって。それだけです」

 俺は初めて、この世界の神へ怒りを感じていた。

 結婚したい、子供が欲しいだなんて、ごく普通のありふれた願いだ。女の子がよく夢見るものだ。それなのに、そんな平凡な夢さえも、幸せさえも、神は奪っていった。

 ユイの願いは、誰も不幸にしていないというのに……。

「先輩。大好きですよ」

 ユイは笑顔でそう言って、お腹の子へ聞かせるように、歌を唄い出した。

 昨日。校長室へ呼び出され、ゆりに言われたことを思い出す。

 ――ユイはきっと、もう満ち足りているわ。最後の一押しを、あなたがすれば、きっと……。

 わかっていた。残された時間はもう、少ない。

 ユイは消える。お腹の子供と共に。

 だからその時に、始まるのだ。

 神への復讐が。何故、ユイの願いは叶わなかったのかと。

 俺はユイの膨らんだお腹を撫でた。中でもう一つの鼓動を、感じた気がした。涙は流さない。流すのは、ユイが消えた後だと、そう決めたから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。